聞き流すには、あまりにも大胆な言葉でした(2/2)
「正気ですか!?」
だがルーシーは、彼の言葉を受け入れることはできなかった。
「あいつらはキュアノス様が思っているような連中じゃないんです! この国が欲しいのではなく、ただ破壊したいだけなんです! あいつらをこの国に入れたら最後、自分たちの力を見せびらかすために、とんでもない暴虐の数々が起こるに違いありません!」
「宰相殿?」
「だめです! 絶対にだめ! あいつらを……タロス王国を……」
めまいのようなものを覚えて、ルーシーは床に崩れ落ちそうになった。キュアノスが飛んできて、体を支えてくれる。
「どうした、ルーシー! 気分が悪いのか!? ベッドまで運ぶから、私の肩に……」
「だめ……なんです……」
キュアノスを押しのけるようにして、ルーシーはふらつきながらも自力で立ち上がった。
「あいつら、私の故郷を滅ぼしたんです。許しちゃだめ……同じことをこの国で起こしたら……」
住んでいた家が燃やされたことも、大怪我を庇いながら必死で逃げた時の痛みも、許してくれと叫ぶ友人の声も、全部覚えている。
この平和で美しいエーテル王国を、あんな地獄に変えるわけにはいかない。この国は、ルーシーの新しい故郷なのだから。大切な居場所がまたなくなってしまうなんて、耐えられない。
「泣くな、ルーシー」
震えは指先だけではなく、全身に広がっていた。キュアノスの静かな声を聞いて、初めて頬が濡れていることに気が付く。
キュアノスのすんなりとした指が伸びてきて、顎を掬われた。柔らかな唇が、目尻に当たる感触がする。
「涙というものは、しょっぱいんだな」
何が起きたのか分からずにポカンとしていると、キュアノスが平然とそんなことを言うのが聞こえた。ルーシーの体が熱を持つ。
「な、ななな何をするんですかっ!」
「少し涙を飲んでみた」
「言わないでください! 恥ずかしい!」
ルーシーはよたよたと壁際まで後退した。
「ふざけてるんですか! この非常事態に! 私は大事な話をしてるんですよ!」
「それなら、私も今から大事な話をする」
キュアノスがやれやれと言いたげな仕草で、足を組んで机の上に座った。
「戦うのは好きではないが、私の可愛いルーシーの顔を曇らせるような奴らを放ってはおけない。エーテル王国の魔王として、開戦の許可を与えよう」
「……えっ?」
「二度とルーシーが泣かなくてすむように、完膚なきまでに叩きのめしてやれ。蛮国が一つ滅んだところで、私の心も痛むまい」
「で、では、戦うんですね!?」
キュアノスの突然の心変わりにルーシーは驚きつつも安堵した。
「ああよかった……。キュアノス様も、やっぱりこの国を守りたいんですね」
「いや、私はルーシーを……」
「では、準備を開始しましょう。エーテル王国の敵はラエゴブ王国の敵でもある。ここはエレズの力も借りた方がよさそうね……。彼は頼りになるし」
キュアノスの話は普段から無駄が多いので、ルーシーはいつも大事な情報以外は聞き流すようにしていた。すごく恥ずかしいことを言われたような気がしていたが、一旦はなかったことにさせてもらう。
「元気になってよかった。ところでルーシー、顔が赤いぞ」
キュアノスが一人でケーキにかじりつきながら呟いた台詞も、ルーシーは意図的に無視をした。




