聞き流すには、あまりにも大胆な言葉でした(1/2)
(こんなことって……)
エーテル王国の魔王城の宰相執務室。人気のない部屋にいたルーシーは、一枚の手紙を前にして、呼吸がどんどん浅くなるのを感じていた。
(どうしてなの……? どうしてまた、私たちが……)
「ルーシー! 料理長がケーキを焼いてくれたぞ! 一緒に食べよう!」
凍り付くような戦慄を感じていたルーシーは、部屋にキュアノスが入ってきたことに気が付かなかった。
彼が事務机を挟んで座り、頬杖をつきながらこちらを見てきたことによって、やっとその存在を認識する。
「どうしたのだ?」
ルーシーの様子がいつもと違うと分かったのか、甘い香りのするケーキの大皿を脇にのけて、キュアノスが無邪気な口調で尋ねてくる。その視線が、ルーシーが握っている手紙に移動した。
「誰からだ?」
「……エレズです」
「何でも大臣か」
差出人が分かるやいなや、キュアノスが口をとがらせた。
「私たちの可愛い宰相殿は仕事熱心だな。いや、もしかして個人的な手紙か? ずるいぞ。私もルーシーと文通がしてみたいのだ!」
駄々をこねるような口調で言って、キュアノスが近くの紙にルーシーへの手紙をしたため始めた。
いつもならその突拍子もない行動に呆れかえるところだったが、今日のルーシーは何も言わなかった。
「……ルーシー?」
さすがのキュアノスも何だか変だと感じたのか、気遣うような表情になる。
「元気がないな。……手紙に悪口でも書かれていたのか?」
「……違います」
ルーシーは消え入りそうな声で囁いて、手紙をキュアノスの方に差し出した。
「ふむ……タロス王国が……」
内容に目を通したキュアノスが小さく呟く。聞こえてきた国の名前に、ルーシーは総毛立った。
エレズが寄越してきた手紙には、とんでもないことが書いてあった。タロス王国が、このエーテル王国を狙っているというのだ。
手紙の中ではその根拠も示されており、知らせを寄越してきたのがエレズだということもあって、この情報が虚偽であると考えるわけにはいかなかった。
エーテル王国は標的にされている。あの凶悪なタロス王国に。
「戦争に……なります」
ルーシーは震える指先を握りしめながら、必死で言葉を紡いだ。今にも思考が停止しそうになる頭を、懸命に働かせようとする。
「準備を……しなければ……」
「戦うのか!?」
キュアノスが目を丸くした。
「奴らはこの国が欲しいのだろう? だったら、くれてやればいいじゃないか」
「えっ……」
「私は戦うなんて反対だ。もっと穏やかに解決できる方法を探す方がいいと思うのだが、違うか? 宰相殿?」
キュアノスは精霊だ。魔物族の中でも、とりわけ温厚と言われる種族である。そんな精霊の性から、彼は戦争を回避したいようだった。




