ここ、どこですか?(3/4)
「それにしても、どうやったんだ?」
事情を知ったエレズは、改めて周囲に目を向けた。
「例えばこの石畳に使われてる石とか、この辺りじゃ取れないものだろ。それに、あの魔王城みたいな大きな建築物を建てる技術なんて、どこから仕入れてきたんだ?」
ゴブリンがどれだけ優秀でも、無から有を作り出すことなんてできない。リーヴ王国にいた頃に培った知識を応用するにも限度があるだろうし、不可解なことだらけだ。
エレズの質問に、ゴブリンはこう答える。
「助けた行商人隊の人間族や混血児の方々に、色々と助力してもらいました。元は大工だった方もいたみたいで、魔王城を建てるのも手伝ってもらったんです。今はもう国外にいますが、『良ければまた取引してください』との伝言も預かっていますよ」
「ちょっと待て、『助けた』ってどういうことだ?」
物資の仕入れ先の謎は解けたが、新たな疑問が生まれた。
「野生の動物か何かに襲われていたのか?」
「いいえ。タロス王国軍です」
ゴブリンが首を横に振った。
「本隊からはぐれてしまった者たちに襲われていました。エレズ様は普段から立場の弱い方々を優先的に助けるようにと仰っていたので、その指示通りに……」
「ラティーナ!」
ゴブリンの台詞に聞き逃せない言葉が含まれていたような気がして、エレズは話を中断させようとしたが、聞こえてきた大声に思わず口を閉ざしてしまった。
城内から男性が飛んでくる。それが誰かを認識した途端に、エレズは呆然となった。
「お、お父様!?」
それはラティーナも同じだったようだ。素っ頓狂な声を上げるなり、固まってしまった。
金髪碧眼の男性は、頭から角を生やしており、ラティーナとそっくりな顔をしていた。
ラティーナが『お父様』と呼ぶまでもなく、彼の姿をリーヴ王国魔王城の地下室で見たことのあったエレズは、その正体を一瞬で見破ることができた。
(ラティーナ様の父親……リーヴ王国の魔王リーヴ様。もしかして封印が……?)
「お父様、元に戻ったのね?」
ラティーナもエレズと同じことを考えていたようである。「そのとおりだ」とリーヴは頷いた。
「やっと会えたな。ここを探し当てるのに、少々時間がかかってしまった。ようやく会えて、私は嬉しいぞ」
「ああ……お父様、私も……」
驚きが収まったラティーナは、父親と再会できたことを純粋に喜んでいた。
「あのね、私、国を作ったの。……って、ここにいるってことは、そんなのもう知ってるわよね。ラエゴブ王国よ」
「ああ、愉快なゴブリンたちから話は聞いていたからな。立派になったものだ、ラティーナ。お父様は鼻が高いぞ」
「ラティーナ様は女王陛下なんですよ!」
嬉々とした調子で、ゴブリンも会話に参加してきた。
「そして、我らの主、エレズ様は、何でも大臣です! 国のナンバーツーです!」
親子の再会の喜びに水を差すのを躊躇って、こそこそとその場を退散しようとしていたエレズは、ゴブリンの手によって強制的に二人の前に押し出された。
「……ご紹介に預かりました、大臣のエレズです」
こっそりと逃げるわけにもいかなくなったエレズは、リーヴに挨拶した。リーヴは「ラティーナの部下だな」と言いながら、エレズのことを珍しそうに上から下まで見ている。
「お前のこともゴブリンたちから聞いていた。混血という話は本当だったんだな」
混血児は外見的特徴からすぐに正体が知れてしまうが、リーヴの声には、特に不快そうな響きはなかった。やっぱりラティーナ様の父親だけある、とエレズは思った。
「これからよろしく頼むぞ。今日から私もこの王国の国民の一人だ。ラティーナ女王陛下と、ラエゴブ王国に栄光あれ、だな」
そう言って、リーヴは快活に笑った。
(また国民が増えた……)
ラティーナの代わりに、自分をこの国の元首にしろなどと言わない辺りほっとしたが、リーヴにしろキュアノスにしろ、この国には他国の魔王を引き入れてしまう不思議な力でも働いているのではないだろうかとエレズは思ってしまう。
「さて、ラティーナよ。この国の中を案内してくれ。実は少し前に着いたばかりで、まだ勝手がよく分かっていないんだ」
エレズの動揺などお構いなしに、リーヴはすっかりこの国に馴染んでしまっているようだった。嬉々としてラティーナとの会話を続けている。
「そうしたいんだけど、私もあんまり詳しくないから……」
つい先ほどこの国の変貌ぶりを知ったばかりのラティーナは、申し訳なさそうに父親の依頼を断り、代わりに別の提案をした。
「案内はゴブリンにさせましょう? エレズも来るでしょう?」
「はい。留守中の案件をゴブリンたちに聞いてから……」
大臣として国内の様子は見ておきたかったが、取り急ぎの用件があるかもしれないので、帯同はしないことにした。
「そう? 分かったわ」
父親のことに気を取られているためか、エレズが同行しないと分かっても、ラティーナは特に気分を害した様子はない。エレズは、そのことに何となく寂しさを覚えてしまう。
去って行く二人を見送ったエレズは、ふと気がかりなことに思い至った。
(そう言えばリーヴ様、自分の国のことは良いのかな?)
リーヴ王国の魔王なのに、ラエゴブ王国の国民なんかになってしまって大丈夫なのだろうかと、エレズは今さらのように疑問が湧いてきた。
だが、軽いノリで『国民第二号』となったキュアノスという前例のことを思い出す。魔物族は適当だし、国籍の掛け持ちくらいは気にしないんだろうという結論に達した。
それでも、このことでリーヴ王国から苦情が来ないと良いんだけど、と気を揉みながら、エレズは新魔王城へと向かうことにした。




