コンテスト、開幕!(2/2)
コンテスト会場には、すでに多くの観客がいた。
エレズはルーシーと一緒に貴賓席に案内され、他の客とは少し離れた場所から、コンテストの行方を見守ることになった。人でも探しているのか、ルーシーは辺りをキョロキョロ見回している。
「えー、では、美人コンテストの始まりですー」
席について少しして、壇上に司会者の声が響く。巨大なステージの奥にかけられていたカーテンがめくれ、中から容姿端麗な参加者たちが前に出てきた。
「おっ、三番が中々美人だな」
「いや、八番が俺の好み……うん? 男か? ……まあいいか」
どうやら十人ずつが一度に審査されるようだ。それぞれ、観客に向けて手を振ったりウインクしたりしてアピールをしている。
「さあ、お待ちかね、投票の時間ですー。一番の選手が最も美しいと思った方、拍手ー」
「もしかして、拍手の大きさで勝敗が分かれるのか?」
エレズがルーシーに尋ねると、「そうよ」という答えが返ってくる。ルーシーは、五番の選手に拍手を送っていた。
「トーナメント制なの。最後は一対一の対決になるわね」
何とも曖昧な選定基準だが、魔物族の開催するコンテストなんて、こんなものなのかもしれない。
それに、選手たちの中には、どう見てもノリで参戦したとしか思えないようなヒゲ面のおじさんなんかもいて、そこまで本格的な勝負の場ではないようなので、そんな適当な選定方法でも許されるのだろう。
「第一グループ、一番拍手が大きかったのは、三番の方でーす」
司会者の結果発表を聞いた三番の選手、見目麗しい少女――のようにしか見えない少年が、観客に向けて大きく手を振る。誰かが指笛を鳴らしてそれに応えていた。
「では、次は十一番から、二十番の方、どうぞー」
第一グループの選手たちが裏に捌けていく。それと入れ替わりで、次の選手団が入場した。
その後も、つつがなくコンテストは進行していく。異変が起こったのは、第三グループ――二十一番から、三十番の団体が登場した時だ。
壇上に花が咲いたのかと思った。
花びらが綻ぶように広がるスカートのスリットから覗く、柔らかな曲線を描く足。小粒の装飾しかついていないはずのブレスレットが大きく見えてしまうような、ほっそりとした手首。
デコルテから肩にかけて繊細なレースで覆われたデザインのドレスは、着用者の体の線を一層しなやかに見せている。
少し丸みを帯びた輪郭の顔には、遠目から見ても堂々とした笑みを浮かべており、そのなんとも言えない不敵さが、エレズの心を一瞬にして鷲掴みしてしまった。
ラティーナだった。その辺りの出店から借りてきたのだろうか。美しいドレスをまとい、自信満々で壇上に立つその姿は、輝くばかりの麗しさであった。
(優勝だ……)
もう他の試合なんてする意味がないとエレズは思った。優勝候補なんて言葉では生ぬるい。今のラティーナよりも美しい女性など、エレズは見たことがなかった。
「きゃー! 宰相様ぁー!」
「ルーシーさんっ! こっち見てぇー!」
だが、観客たちの意見は違うらしい。
ラティーナに視線が釘付けとなっていたエレズは、黄色い歓声に我に返る。ラティーナから少し離れた位置に、『二十五番』の札をつけたルーシーが立っていたのだ。
その人気たるやすさまじい。彼女が軽く微笑んだだけで、皆卒倒しそうなくらい喜んでいる。
「ルーシー……、人気なんだな」
あまりの熱狂ぶりにエレズは困惑してしまった。ルーシーは困ったように、「別にそんなこと……」と首を振った。
「さすがは私たちの可愛い宰相殿だな!」
エレズの隣から、自慢げな声がした。キュアノスが着席するところだった。
「どこに行ってたんですか!」
ルーシーのオッドアイがつり上がった。
「ちゃんと最初から観戦していないとだめでしょう! 行事に参加するのも、魔王としての務めですよ!」
「大丈夫だ。ルーシーの番には間に合った。……おっ、投票の時間だ」
キュアノスがさりげなく話題をそらした。
「二十一番の選手がよかったと思った方、拍手ー」
しん、と会場が水を打ったように静まりかえった。無反応の観客たちを前に、二十一番の選手は、何だか気まずそうだ。
その後も、一人、また一人と番号が読み上げられていく。だが、手を叩こうとする者は誰もいなかった。
何となく異常なことが起きている気がしないでもなかったが、エレズは黙って投票の様子を見守った。
ふと、もし自分の番になっても誰も拍手をしなかったら、ラティーナはどう思うだろうという想像が湧き出てくる。
(いや、ゼロ人ってことはないよな。俺はラティーナ様に票を入れるつもりだし……)
ラティーナを見た瞬間から、エレズの心は決まっていたのだ。エレズの中では、文句なしに彼女が優勝なのである。
そんなことを考えていると、ルーシーの番がやって来た。
「では、二十五ば……」
司会者の言葉は途中でかき消された。会場を割れんばかりの拍手が包んだからだ。
あまりの爆音に、エレズはビクリとなってしまった。今までが静かだったために、余計に音が大きく聞こえる。よく見てみれば、拍手していない者の方が少ないくらいであった。
「えーと……」
司会者が、拍手の音量に負けないくらいの大声を出す。
「これ以上はやる意味がありませんねー。このグループの試合だけじゃなくて、このコンテスト自体が」
トーナメント方式のはずなのに、今この瞬間にルーシーの優勝が決まってしまった。
ラティーナが、あんぐりと口を開けているのが見える。
「次からはシード枠だな」
「次って……このお祭り、不定期開催でしょう。前回なんて、三十年も前だったらしいですし……」
エレズの隣で、ルーシーとキュアノスが会話をしている。
「ルーシーに票を入れるように、皆に頼んでおいたのだ」
一際大きな拍手を送りながら、悪びれるでもなくキュアノスが言った。
「組織票じゃないか!」
エレズの叫びは大音量の拍手で上書きされ、誰も聞き留める者はいなかった。




