コンテスト、開幕!(1/2)
「さすが、エーテル王国の祭りはすごいな」
城下に出てもうどれくらい経ったか。エレズは、何度目かになる感嘆の声を漏らした。
町に出て少しする頃には、祭りの開始時刻になっていた。それに合わせて本格的に営業を始める店が出てきて、大通りは一気に賑やかな客引きの声に包まれる。
表面にツタの這った家々の軒先には、そこの住民と思われる人々がそれぞれ個性豊かな店を構えていた。アクセサリーや携帯できるお菓子といったお土産の定番から、何やら怪しげな呪文が載った全集まで様々だ。
店と店の間にはエーテル王国の国旗を象ったガーランドが取り付けられていて、上空からは精霊が降らしているのか、時折花びらが舞い落ちてくる。ほのかに発光するそれは、日が落ち始めた町を柔らかな灯火のように照らしていた。
町行く人々の装いも華やかだ。この地方の晴れ着らしい装束をまとった魔物族の少女たちが、ルーシーに向かって手を振っていた。
「このお祭りの原型はね、市民の間で行われたバザーなのよ」
少女たちに手を振り返しながら、ルーシーが言った。
「素人が作った商品ばかりだから、あんまり出来は期待しないで……って言いたいところだけど、意外とクオリティが高いものばかりよ。って言うのも、この辺りには元々手工業を得意とする魔物族たちが住んでいてね……」
ルーシーは宰相だけあって、国内のあらゆる事情に通じているらしい。博識な彼女の解説付きで祭りを回れて、エレズは中々有意義な時間を過ごすことができていた。
(ラエゴブ王国にも、祭りの日とか作りたいな……)
何の祭りがいいだろうと考えながら歩いていると、ある店先に並んだ竜の置物が目に入ってくる。
(ラティーナ様の生誕祭……とか?)
初代女王の誕生日だ。その日を国を挙げて祝うのは、別におかしなことではないだろう。今度ラティーナに誕生日を聞いておこうとエレズは思った。
「もうすぐコンテストが始まりますよー。皆さん見に来てねー」
エレズとルーシーが出店を回っていると、広報係ののんびりとした声が聞こえてくる。「あら、大変だわ」と城の時計塔を見たルーシーが驚いたように言った。
「エレズ、コンテスト見ていく? あんまりバザーとは関係ないんだけど、このお祭りの一大イベントなのよ」
「そうだな。ラティーナ様も出てるし」
そう言えば、ラティーナを放置してルーシーのところへ行ってしまったんだったと思い出した。外交のためだったとは言え、何だか申し訳ないことをしてしまった。
後でそのことを謝って、ラティーナと一緒に祭りを回ろうとエレズは思った。
「ラティーナ女王が? 彼女、可愛いもんね」
「えっ、可愛い?」
何故『武人コンテスト』と容姿が関係あるんだろうとエレズは不思議に思った。それだけではなく、ルーシーがさらに意外なことを言い出す。
「実は……私も出てるのよ。って言っても、コピーの方だけどね。キュアノス様が出ろ出ろってうるさいから……」
少し照れたような、困ったような表情。エレズは目を瞬かせた。
「ル、ルー、戦えるのか!?」
エレズの知っているルーシーは、お転婆なところこそあれ、ごく普通の女の子だった。戦闘とは無縁の存在である。
「たたかう……?」
いや、でも、十年前の話だしな、とエレズが動揺を押し殺していると、ルーシーが不可解そうに小首を傾げているのが目に入った。
まるで、エレズが変なことを言ったと感じているような仕草である。
「エレズ、何か勘違いしてない?」
ルーシーはきょとんとしながら言った。
「『美人コンテスト』なのに、何と戦うの? ……ああ、もしかして、『美を競う』って意味?」
「び、美人……?」
予想外の単語が飛び出てきて、エレズは声が裏返った。
「『武人コンテスト』じゃなくて、『美人コンテスト』なのか?」
「……エレズ、もしかしなくてもコンテストの話って、キュアノス様から聞いた?」
戸惑いながらも頷くと、ルーシーは「そう……」とため息を吐いた。
「ちょっと前まで、キュアノス様、勘違いしてたのよ。『美人』と『武人』を取り違えるなんて、普通、あると思う? 私がその思い違いを訂正したの、三日前だわ」
「そうなんだ……」
つまり、キュアノスは勘違いしたまま、コンテストの話をエレズとラティーナにしてしまったわけだ。
すでにラティーナも、その『コンテスト』の正体を知ってしまっただろうか。だとするならば、一番困惑しているのは、コンテストに参加すると張り切っていた本人に違いないとエレズは同情した。
「いや、でも、『美人コンテスト』でよかったと思うよ」
名前からするに、美しい者を決める催しだろう。少なくとも戦って怪我をしたりすることはなさそうだと、エレズは努めて前向きに考えることにした。
「会場はどこだ?『武人』だろうと、『美人』だろうと、見ていくよ」
「私とラティーナ女王、どっちを応援するの?」
「えっ、それは……」
「ふふっ、冗談よ」
ルーシーは悪戯っぽく笑うと、エレズを先導するように歩き出す。何と答えるのが失礼にあたらないかと考えていたエレズは、ほっとしながら後についていった。




