ちょっとした対抗心よ!(2/2)
「ひ、引き抜きの話、エレズは何て言ってたの……?」
「さあ、私も知らない。今頃、宰相殿と色々交渉中なんじゃないのか?」
青ざめるラティーナに対し、キュアノスが平然と答える。
「何でも大臣がうちに来たら面白いことになりそうだな。だが、ルーシーが取られるのは何というか……」
「だ、だめよ!」
ラティーナは思わず大声を出した。
「だめ、そんなのだめ! エレズは私の国にいないとだめなの! だって私……」
「お知らせしまーす。もうすぐコンテストが始まりますので、参加者の方は、中央広場にある会場までお越しくださーい」
街頭で大声を上げる広報係と思われる少女の声に、ラティーナは我に返った。「もうそんな時間か」とキュアノスが頷いている。
「女王陛下、コンテストに出るんだろう? 行く方がいいんじゃないか?」
「コンテスト……?」
気持ちが乱れていたラティーナは、一瞬、何のことを言われているのか分からなかった。
だがすぐに、自分は『武人コンテスト』に出場し、優勝商品を持ち帰るためにエーテル王国の祭りに参加したのだったと思い出す。
「会場まで案内してやろう。こっちだ」
キュアノスに腕を引かれるようにして、ラティーナはその場を後にする。
だがラティーナの気持ちは、コンテストの他にそれていた。
「ねえ、エレズはラエゴブ王国を出て行っちゃうのかしら……?」
こんなことをキュアノスに問いかけても無駄だと分かっていても、聞かずにはいられなかった。心ここにあらずの状態で、ラティーナはキュアノスの華奢な背中で揺れている鮮やかな色合いの髪を見つめていた。
「そうしたら私、どうしたらいいの……?」
「女王陛下も、この国に来ればいいんじゃないか?」
あっけからんとした調子で、キュアノスが返答した。ラティーナはポカンとする。
「私がエーテル王国に?」
「この国は土地も広いから、少しくらい国民が増えても大丈夫だぞ。ああ、ただ……」
キュアノスは、何か問題点を見つけたようにちょっと唸った。
「エーテル王国にはすでに魔王がいるから、女王陛下は『女王』でなくなってしまうな。……まあ、うちの宰相殿ならその辺は上手くやってくれると思うが」
「……私、あの人には頼らないわ」
キュアノスがあんまり軽々しく変な提案をしてきたものだから、ラティーナは何だか悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。その代わりに湧き出てきたのは、ルーシー――エレズの幼なじみへの対抗心だ。
「私の方がすごいんだから。エレズにもそう思わせてみせるわ」
「ルーシーだってすごいぞ!」
何故かキュアノスが張り合うような声を出した。まったく、どっちの味方なのか分かったものではない。いや、そもそも彼には敵味方の概念なんてないのかもしれない、とラティーナは思った。
二人は会場に辿り着いた。すでに多くの参加者たちが、受付の列に並んでいる。自分のライバルたちを観察している内に、ラティーナはふと奇妙なことに気が付いた。
(何だか……女の人が多いわね)
男性もいるにはいるようだったが、少女のように愛くるしい容姿をした、およそ戦いとは無縁そうな者たちばかりだ。
それに、どういうわけか参加者には混血児や人間族まで混じっている。特殊能力であるスキルが使える混血児はともかく、魔法も扱えない人間族は『武人コンテスト』では相当不利になりそうなのに、とラティーナは違和感を覚えた。
「はい、お次の参加者の方、どうぞ」
首を傾げている内に、ラティーナのエントリー作業が始まった。『二十八番』というエントリーナンバーが書かれた札と、コンテストの概要が載っている資料が手渡される。
その紙を見た途端に、ラティーナは目を剥いた。
「ちょ、ちょっとこれ……!」
受付作業をしていた係に、ラティーナは詰め寄った。
「これって、こういうコンテストなの? 私、もっと違ったものだと聞いていたんだけど……」
「棄権なさいますか?」
ラティーナが動揺しているのを見て、受付係は困惑の表情を浮かべた。
「今ならまだ間に合いますが」
「そ、そうね……」
今までの戦闘訓練の日々は何だったのかと思いながら、ラティーナは何気なく周りを見渡した。
その目が、参加者の一人のある人物を捉えた。瞬間、ラティーナの決意は固まる。
「いいえ、参加するわ」
ラティーナは『二十八番』の札を服につけた。
「優勝してやるから、見てなさい!」
気合いを入れたラティーナは、控え室に向かって颯爽と歩いて行った。




