ちょっとした対抗心よ!(1/2)
「おっ、女王陛下。一人か?」
ラティーナが城を出て町をぶらぶら歩いていると、たまたまキュアノスと会った。
「エレズはそっちの宰相さんに会いに行ったわ」
「なるほど。祭りは楽しんでいるか……なんて質問はしない方がいいみたいだな」
ラティーナの顔がいかにも不機嫌そうだったためか、キュアノスは皆まで言わずに肩を竦めた。
確かにキュアノスの見立て通りだ。
色々な出店が並ぶ大通り。この辺りの名産品だろうか。珍しい色の花があしらわれた髪飾りや、ふんわりと甘い香りが漂ってくるお菓子など、普段のラティーナなら目を輝かせて喜ぶものが辺りには溢れている。
だが、今のラティーナは、そんなものを見ても少しも心が晴れなかった。
「……あなたこそ、楽しくなさそうじゃない」
ラティーナの印象では、キュアノスは、こういった賑やかな催しは目一杯楽しむタイプのように感じられるのだが、今の彼は、何となくつまらなさそうに見えたのだ。
「原因は、女王陛下と同じだろう」
キュアノスが嘆息した。
「何でも大臣にルーシーを取られてしまったからな。一緒に祭りを見ようと約束していたのに、コピーを寄越してきたんだぞ。オリジナルは何でも大臣と面会中だ」
キュアノスは憤慨しているようだった。ラティーナはコピーとかオリジナルとか、何のことだろうと思った。
「……あの二人、幼なじみだったのね」
ルーシーと再会した時のエレズは、とても嬉しそうだった。
「あんなにはしゃいじゃって……。そんなに宰相さんがいいのかしら」
「ルーシーも、そんなに何でも大臣がいいんだろうか」
同じような感想を漏らした二人は苦笑した。なるほどキュアノスも、自分と同じような悩みを抱えているらしい。
「あなた、宰相さんのこと好きなの?」
「うーん……そうだな。嫌いではないかな」
少し悩みながらキュアノスが返答した。
「気に入っているのだ。楽しい人だからな」
「楽しい人……」
ラティーナの目から見たルーシーは、有能そうではあるものの、真面目かつ几帳面そうな、どこか堅物の雰囲気が漂う女性だった。
それだけにエレズと会話した途端に、まとう空気が一気に柔らかくなったのがとても印象に残っている。
「女王陛下だって、大臣のことが好きだろう? 少なくとも国民第一号に選ぶくらいには、懇意にしているのではないか?」
「わ、私は……」
ラティーナは真っ赤になって狼狽える。
「別に、好きとかそういうのじゃないわ。エ、エレズは私にとってちょっと特別なのよ」
「特別? それは好きとは違うのか?」
無邪気な口調。悪意のまるでない率直な質問に、ラティーナは言い訳を考えつかなくて黙り込む。
「そう言えば宰相殿は、何でも大臣をエーテル王国に引き抜きたいというようなことを言っていたぞ」
「えっ……?」
ラティーナは、火照っていた思考が、一瞬にして凍り付くのを感じた。
その脳裏に、今から二ヶ月前の出来事が蘇ってくる。
――ああ、劣化姫が先に目覚めてしまった。
封印が解けたラティーナが真っ先に聞いたのは、ひどく残念そうな声だった。
魔王の娘なのに、上手く力の制御もできない劣化姫。封印される前からついていたあだ名だった。
(だって、上手くできないんだもの。仕方ないじゃない……)
他の術ならいざ知らず、ラティーナはどういうわけか、竜人が得意としているはずの天候を操る魔法だけが不得手だった。
そのことを皆があざ笑うのだ。悔しくても、本当のことだから言い返せない。いつもならそう言われる度に庇ってくれる父は、まだ封印中だ。
こんなことなら、先に目覚めるんじゃなかった。
エレズと出会ったのは、ラティーナがこれからの暗い日常を予感して、どんよりとした気分になっていた時だった。
――あっ、もしかしてラティーナ様ですか? ご挨拶に窺えなくてすみません。俺はエレズ。一応四天王の末席に加えてもらっています。
偶然通りかかった城の庭の片隅にいた彼は、『動物栽培』をしている途中だったらしい。土だらけで鍬を握る様は、とても四天王の一人には見えなかった。
だが、こちらを全く厭うことのない姿勢に、ラティーナはすぐに彼に気を許すようになった。気が付けば彼のことを目で追っていて、その言動に注意を払うようになっていた。
そうしている内に、ラティーナは彼がとても優秀で、この国を裏から支えていると感じるようになったのだ。
だが、そんなふうに思っていたのはラティーナだけだった。皆エレズのことを大して力もない『農民』と呼んで馬鹿にしていた。
ラティーナは、いつだってその扱いが不公平だと思っていた。だが、その主張が他の四天王に聞き入れられることはなかった。『劣化姫』の言うことなんて、誰も真剣に耳を傾ける価値はないと感じていたのだった。
リーヴ王国にいると、エレズも自分も軽んじられてしまう。そんなところからは、出て行ってしまう方が良いのではないか。
いつしかラティーナはそう感じるようになっていた。だから、人気のない山間に、こっそり自分たちだけの国を作ろうと画策したのだ。
その計画に、エレズも賛成してくれていると思っていた。少なくともラティーナには、そう見えていた。




