私と仕事、どっちが大切なの!? と聞かれなくて本当に良かった(2/2)
馬車に乗ってからも、一度高揚した気持ちは中々収まらなかった。ソワソワするエレズに、たまりかねたようにラティーナが声をかけてくる。
「昨日エレズが故郷の話をしてくれた時に、『ルー』って人の名前も出してたわね」
ラティーナは何故か複雑そうだった。
「私、それが女の人だとは思わなかったわ」
「ルーはちょっとお転婆でしたからね」
幼なじみとの思い出を振り返りながら、エレズは目を細めた。
故郷の集落にも同じくらいの歳の子どもは何人かいたが、一番仲がよかったのがルーシーだったのだ。
性別は違ったが、妙に馬が合った。彼女もエレズと同じで、魔物族と人間族の混血児であったことも関係していたのかもしれない。
混血児は人間族よりもさらに数が少ないので、仲間意識のようなものが湧いたのだろう。
「二人で色んなことしたなあ……。懐かしい……」
エレズが故郷を捨てることになった経緯が経緯だけに、生きている同郷の者と会えるなんて全く思っていなかった。てっきり、皆あの凶暴なタロス王国の軍勢に殺されてしまったのだろうと覚悟していたのだ。
それだけに、再会できた時の感激もひとしおだった。
「ふーん……」
ラティーナは何か言いたそうだったが、すっかり幼い頃の思い出に浸りきっていたエレズは、それに気が付くことはなかった。
馬車に揺られてからしばらくして、エレズたちは祭りが行われる町に到着した。その町の中心部にある小高い丘の上の城の庭で、エレズとラティーナは下車した。
「うわ……すごいお庭」
ラティーナが正直な感想を漏らす。
丁寧に刈り込まれた園路と、その側に配置された水路。ところどころに設置された大理石の彫刻が、日の光を浴びて滑らかに光っている。
池には色とりどりの小魚が泳いでおり、水面では蓮植物が優雅に浮かんでいた。小石を敷き詰めて作られた小道はクネクネと曲がっていて、歩いているだけで庭中を探索できるようになっている。
華美な装飾はないが、細かいところにまでこだわって作られた庭園だということが一目で分かる。
さりげなく国の豊かさを示すようなそのたたずまいに、やっぱりエーテル王国は大国だとエレズは感心する。
「よくいらっしゃいました」
風の精霊、ネラの案内で庭を歩いていると、庭木の手入れをしていた男性が挨拶してきた。
「あら、ご機嫌よう」
ラティーナが返事をした。ちょっとびっくりしたような声だ。男性から離れ、声が届かなくなるくらいの距離まで来ると、こっそりエレズに耳打ちしてくる。
「今の人、混血だったわね」
エレズも同じことを考えていた。あの男性は、左目が赤で、右目が緑のオッドアイだったのだ。
人間族が魔物族の下で働くのは珍しくない光景だが、元々数が少ない混血児を、こんなところで見たことにラティーナは驚いているようだった。
だが、それで終わりではなかった。エレズたちはその後も何人かの下働きと思われる者たちとすれ違ったのだが、皆、人間族か混血児ばかりだったのだ。こうなってくると、何か意図的なものを感じてしまう。
「ラエゴブ王国の女王陛下と大臣がご到着しました」
ネラの声で我に返る。城の中に入っていた一行は、いつの間にか客間に通されていた。
「お祭りの開始時刻が近づいたら、お呼びします。それまでゆっくりなさってください」
一礼して、ネラが出て行く。使用人数名が控える室内にエレズたちは残された。この使用人たちも人間族だ。
「ちょっと早く来すぎたかしらね?」
窓の外を見ながらラティーナが言った。祭りは夕刻から行われるらしいのだが、まだ日が高かったのだ。
「正式な開始時刻にはまだ早いですが、露店などはすでに出ているかと思いますよ。見物なさってはいかがですか?」
使用人の一人、世話好きそうな女性が話しかけてくる。「そうなの?」とラティーナが言った。
「じゃあ、そうしようかしら。エレズも一緒に来るわよね?」
「いや、俺はちょっとやることが……」
エレズはやんわりとラティーナの提案を断り、使用人にあることを尋ねる。
「ルー……宰相さんはどこにいますか?」
「面会なさりたいのですね。ご案内しますわ」
すんなりと話が進んだ。事前にルーシーから何か聞かされていたのかもしれない。
驚いたのはラティーナだった。
「何? 急ぎの用事でもあるの?」
「はい、まあ……」
元々エレズは祭りを楽しむために来たのではないのだ。だが、そうと知らないラティーナは、エレズが来ないと分かると少しむくれてしまった。
「そう。じゃあ、仲良くやってきなさいよ。私、露店を見て回ってるから」
ラティーナは案内役の使用人を連れて、外に出て行った。不機嫌になってしまったのを見て、何となく悪いことをしたかなと思う。
だが、エレズはラティーナを追いかけないでルーシーのもとへ向かうことにした。これも大臣の仕事なのだから仕方がない。




