古巣、絶体絶命!(2/2)
「皆さん、ここにいたんですか! 緊急事態! 緊急事態です!」
三体の四天王が地下室から出て、談話室で今後のことについて相談していた時のことだ。顔色を変えたガーゴイルが飛び込んできた。
「どうした」
そのあまりの慌てっぷりに、ジンは嫌な予感を覚えながら尋ねた。ガーゴイルが、しどろもどろで話し出す。
「こ、こちらに侵攻してくる軍勢が!」
ガーゴイルは両手をいっぱいに広げた。
「ものすごい数です! それに、もうドミニク大渓谷も越えていて、このままだと、あと一日もしない内にこの国についてしまいます!」
ガーゴイルの報告はこうだった。
彼は空の散歩中にこちらに向かって進軍してくる軍隊を発見した。この辺りに標的になりそうな国家などリーヴ王国しかないので、ここが狙いで間違いがないと判断し、こうして急いで事の次第を連絡してきたのだった。
三体の四天王は顔を見合わせる。
「進軍、何で、誰も気が付かなかった?」
ガストンが焦りをにじませつつも、不思議そうに呟く。だが、ジンはその原因が分かっていた。
(哨戒もゴブリンの仕事だ。あいつらがいなくなって、この国は本当に無防備になってたってことだな……)
内側から崩されるだけではなく、外側からの脅威にも脅かされる。
それも、ここまで肉薄されて初めてそれと知るなんて、自分たちは一体どれだけあのゴブリンたち――ひいてはそれを指揮するエレズに頼っていたのだろうと、ジンは唇を引き結んだ。
(この国はゴブリンあってのものだった……。薄々気が付いていた。やっぱりあいつらがいなくなった時点で、この国は崩壊する運命にあったんだ……)
連日のように言うことを聞かない魔物族の対処をしている内に、ジンはこの国の限界を感じていたのだった。エレズに対する恨みが消えた訳ではなかったが、このところは彼の偉大さを痛感させられる毎日である。
こんな面倒なことに巻き込まれるなら、さっさと国を出ればよかったとジンは後悔した。だが、もう遅い。今国外逃亡などすれば、下手すると敵と鉢合わせしてしまうかもしれない。
(ってことは、戦いのどさくさに紛れて逃げる方が安全かもな……)
「で、攻めてきたのはどこの国の馬鹿どもだい?」
ジンが敵前逃亡の算段を立てている傍らで、ドラティラがガーゴイルに質問する。
「タ、タロス王国の旗印を掲げていました」
ガーゴイルが生唾を飲み込みながら言った。ジンは顔をしかめる。
(タロス王国……。東の方の大国か……)
魔物族の治める国はどこもかしこも好戦的なところが多いが、タロス王国もその例に漏れていない。
と言うよりも、恐らくこの魔界で一番戦争が好きな軍国である。まさに覇道をゆく国家だ。
「ふーん、いい度胸じゃないか」
「やってやる……」
ジンはタロス王国の名を聞いた途端にこの戦いに勝ち目などないと判断したが、ドラティラとガストンの意見は違うらしい。両者とも、迎え撃つ気満々だ。
(身の程知らずにも程があるぜ……)
これだから野蛮な魔物族は嫌なんだと、ジンは密かに軽蔑の視線を同僚に送った。




