精霊の国の宰相(1/2)
「ルーシー! 私たちの可愛い宰相殿ー!」
エーテル王国――魔界では珍しい、領土拡大の意向のない平和を尊ぶ国家の魔王城。
その城の中にある宰相執務室の扉がノックもなしに勢いよく開いて、元気な声と共に青年が入室してきた。
「キュアノス様!」
書類の整理をしていたルーシーは、青年の姿を認めるなり赤と青のオッドアイを見開いた。
「無許可で何日も国を開けるなんて、何を考えているんですか! 先ほど、捜索隊を組織させたばかりですよ!」
「それなら捜す手間が省けたな」
襟足の長い真っ青な髪をなびかせながら、キュアノスは左右に五つずつ置かれた事務机の間を縫ってこちらへやって来る。
書類だの書籍だのが山と積まれた机に向かっていた、ルーシーと同じ顔をした『宰相』たちは、皆怖い目つきでキュアノスを睨んでいた。
キュアノスはそんな視線をものともせずに、奥の書架の前に立っていたルーシーのところへやって来た。意外にも観察眼が鋭い彼は、いつもすぐにオリジナルを見つけてしまうのだ。
「キュアノス様、もっとエーテル王国の元首であるという自覚を持ってください」
ルーシーは頭を抱えながら、日課のようになっている小言をこぼした。
「いくらクジで決まったからといって、王であるからにはそれなりの責任が伴うのですよ」
キュアノスは、このエーテル王国の魔王だった。しかし、その国家元首らしからぬ破天荒な振る舞いに、ルーシーはいつも頭を悩ませていた。
しかもキュアノスは、今日はいつにも増してとんでもないことを言い出した。
「留守にしてすまなかったな。実は『外交』をしていたのだ」
キュアノスは嬉々として出掛けた先で起こったことを話し始めた。
「ある国の女王陛下や大臣と友だちになってきて、今度うちで行われる祭りに招待した。ついでに私もそこの国の国民になってきたぞ」
「な、なんですって……!?」
次々に飛び込んできたとんでもない情報の数々に、ルーシーは一瞬頭が真っ白になった。
「何を考えているんですか! 他国の民になったって……エーテル王国の魔王が、他国の元首に屈したということですか!? 我が国がその国の属国になりでもしない限りは、あってはならないことですよ!」
ルーシーは早口でまくし立てながら、机の上に置いてあったペンを乱暴に掴むと、壁際の地図に目をやった。
「どこです? どこの国ですか?」
「ラエゴブ王国だ」
「ラ、ラエゴブ王国……?」
聞き慣れない国名に、ルーシーは地図上を彷徨わせていた視線をキュアノスに向けた。
「何日か前にできたばかりの国だ。うちの魔王城の第一の中庭の半分くらいの広さの国家だな」
「狭い……。……人口はどれくらいですか?」
「うーん……二、三十くらいだったか。いや、もしかしたら今頃はもう少し増えて、七百ちょっとになっているかもしれないな」
「どうやったら三十が七百になるんですか……」
訳の分からない話ばかり出てきて、ルーシーは混乱した。




