古巣、ゆっくりと詰んでいく(2/2)
「ちょっと、食事はまだなのかい!?」
人気のない食堂にドラティラの声が響く。
通りかかったジンが何事かと尋ねると、いつもは席について十分と経たずに出てくる朝食が、今日はその倍ほど待っても用意されないのだと言う。
「ドラティラ、厨房、いない、誰も」
ドスドスと重たい足音と共に、もう一人の四天王、ガストンがやってくる。
彼が扉を開けるのと同時に、バキッと音がした。ゴーレムのガストンは力が強すぎて、たまに城の設備を壊してしまうのだ。
「いないって、どういうことだい!?」
ドラティラが目を丸くした。ジンは毛深い額に手を当てる。
「厨房で働いてたのはゴブリンだ。……あいつら、昨日の内に、皆国から出て行っちまったんだろうよ」
食堂に来る前に、ジンは軽く城と城下の見回りをしておいたのだ。どこもかしこも、もぬけの殻だった。
だが、ドラティラたちに降りかかった試練は、この朝の一件だけにとどまらなかった。
切れた備品が補充されない、城中の明かりが消えてあちこち暗くなる、雨漏りして廊下が水浸しになる、野生動物が城に侵入してきて食料庫を漁る。
それらは、一つ一つをとってみれば、非常に小さなことかもしれない。
だが、そういったことが度重なるにつれて、日々の生活に段々と支障が生じ始め、残された王国民は、ストレスを感じるようになった。ガストンが壊した食堂の扉も、直す者が誰もいないので、そのまま放置されている。
「確かに、これはまずいね……」
ゴブリン逃亡事件から三日目。ついにドラティラが弱音を吐いた。
いつもは豪華なドレスを着こなすドラティラだが、誰も洗濯をしたり手入れをしたりする者がいなくなってしまった結果、スカートの裾の方が汚れ、フリルの部分は無残に破れている。
「働く奴ら、いる」
ガストンも同意する。彼の石でできた体も、ところどころ欠けており、ボロボロになっていた。
ここ数日ですっかりやつれてしまった同僚を見ながら、ジンはエレズを恨んだ。
(ああ、まったく……。せっかく住みやすい国だったのに、あいつが出て行ったせいで……)
行く場所のなかったエレズを拾ってから十年。せっかく魔王四天王の地位まで与えてやったというのに、何故こんなにもあっさりと国を見限ってしまえたのか。
どうせ混血児など、どこへ行っても同じような扱いなのだ。それなら少しくらい馬鹿にされたって、ここに残るべきだっただろうとジンは苛立ちを覚える。
責任転嫁しているという自覚はあったが、居心地のいい場所を奪われたジンは、どうしてもエレズを憎まずにはいられなかったのだ。
「じゃあ、どっかから新しい人員を連れてくるってことでいいな」
ジンが他の四天王に尋ねる。ドラティラもガストンも、異論を唱えようとはしなかった。
(エレズめ、見つけたらただじゃおかねえ……。後で覚えてろよ)
密かにエレズへの恨みを募らせながら、ジンは新たな働き手を確保する方法について、じっと考え込んでいた。




