第59話
「なっ!」
実はこの発言は、嘘が混じっている。
この男に残っている道は、二つ。
『消滅』か…制限を受けた上での『生』かである。
実権を握ったりしないと、ここで契約するならば…まだ未来は有る。
それを、この状態で導き出せるのか?
…というのが、これが勝負足る所以だ。
「その発言は、我等ドワーフに対する宣戦布告と受け取っても宜しいのかな?」
いや、こいつ…この感じ…誰か控え室に置いてるな!
「そんな訳無いじゃないですか?ここに居るドランというドワーフが、我が国を乗っ取ろうとしていたから、それを防ぐ為の方策ですよ!先程の問答も、ドランさんが入っていなければ、許可していたかもですが…入ってましたしねぇ…」
ドワーフが鉱山都市に入る事を仄めかす事になってしまったが…しょうがない。
乗っ取りを防ぐ王と、乗っ取りをしようとしている元王という構図さえ作ってしまえば此方のものだ!
「つまり、ドワーフだから駄目という事か?」
こいつ、わざと一部を切り取ってやがる…
「いえいえ、例え人間族だろうと、エルフ族だろうと、乗っ取りを画策していたら駄目ですよ」
「だが…自分の種族と違う種族というのは、信用出来ぬのではないか?聞いたところでは、ノーレッジ王国には人族しかいないと聞く…初めての異種族を、弾圧するのではないか?」
しめた!ドランカード王国の捕縛班に、一切の会話を禁止した効果が出た!
…というか…その情報を得てるという事は…既に首都まで偵察を済ませてるな?
「何を仰っているのか判りませんが…我が国は、人間族とホビット族の複合国家ですよ?」
「そ…そんなはずは無い!ほら、捕縛時に私だけ隔離されただろう?その時に聞いたのだ!」
ナイス男指揮官!
というか、ほらって…後ろに誰か居ることバレバレじゃねぇか!
「おや?我が国の兵には、捕縛中の説明以外には口を開かぬよう厳命していたのですよ…交渉時に私だけ情報を得ているのは不公平かと思いましてね?貴方の担当からも、一切の会話をしていないとの報告を受けているのですが…」
「それでは、ノーレッジ国王は嘘をつかれていますな…やはり、信用されていない国王に、我が国民を預けることなど出来ない!やはりリーダーは私が………」
「信用してないのはそちらの方では?先程よりチラチラと後ろを見られていますが、そこに誰がいるのです?」
「………」
絶句か…豪快という化けの皮も剥がれて、一人称も『俺』から『私』になっている時点で、かなり追い込んでいたと思うのだが、口だけは回り続けていたからな…まさかそれが止まるとは…
「誰かいるのでしたら、出てきて下さい」
………ピロリン!
『二名を越える人数となりますが、宜しいでしょうか?』
ん?いても一人と思っていたのだが、違ったのか?まあ、良いか…
「許可する。入ってきてください」
すると扉が開き…
来るわ来るわドワーフが。
一人二人の次元では無い。
この人数は…もしかして全国民!?
「ハッハッハッ!凄いですね!通常多くても三人程度だというのに、100人ですか!」
「………」
「ああ、皆さん、安心してください。元いるメンバーとの話し合いは必要でしょうが、鉱山都市への合流は出来ますよ!まあ…国家転覆を目論む人は出来ませんがね!」
「ああ、ノーレッジの旦那信用してくれ!俺たちドワーフは基本的にバカだ!そいつみてぇに頭動かせる奴は他にはいねぇ!」
初めに入ってきたドワーフの一声で、笑いが起こる。
「お、お前達…何を?」
「ドラン頭領…すまねぇ、俺達にも家族がいるんだ」
「どういう………なっ!待て!」
「ノーレッジの旦那!俺達ドランカード国民は、御上の争いには関与しねぇ!忠誠も誓う!だからどうか…ドラン頭領の首一つで許しては貰えねぇか?」
…成る程…今までの会話を聞いて、自分達が丸ごと滅ぼされる可能性に思い至ったのか…
全員滅ぼされるなら、1人を犠牲に…って事だな…
「相分かった!合流する日を楽しみにしている!」
「まっ待て!俺は了承していない!」
………ピロリン!
『双方参加者の過半数が合意しました!ドランカード王国は、ノーレッジ王国に吸収されます!双方交流が無かったため、合流用の地図を配布します!』
………うっそだろ!そんな機能有ったの!
交渉切り上げて、こいつを切る予定だったんですけど!
………ッ!
知識が入って…
『それでは、今回はここまでとなります!双方お帰り下さい!』
だから…はや……すぎ………
「………はっ!」
…帰って…来たのか…
………あっヤベッ!合流の手順話し合って無い!
ドワーフは仲間意識が非常に高い種族です。
その原因は、ドワーフの一生に起因します。
その一生の殆どを、採掘と加治に使うドワーフ族は、崩落や事故等で死亡する確率が非常に高いのです。
その際に問題になるのが孤児の存在なのですが、『全ての子は我等の子』という考えにより、それまでと変わらず…より一層大切に育てられます。
そうして育った子供達が次の子供達へ…と、脈々と受け継がれて行く形ですね。
今回出てきた「俺達にも家族がいるんだ」という発言は、『妻帯者で子供もいる』という発言ではなく、『我等の同胞は道連れにさせない』という発言になります。