第53話
「よし!じゃあそれで行こう!」
話し合いを終えた俺と男指揮官は、作戦を開始していく。
まず、帰ってきて休憩していた斥候に、再び伝令を頼む。
内容としては、魔力が切れ次第、ゴーレムによる制圧の後、捕縛すること。
捕縛用の蔦はどちらにも潤沢に用意されているので、問題は無いだろう。
ただ、牢屋的なものは無いので、指令系統を別にした上で、距離を置いてうつ伏せになり、その状態でゴーレムによる監視が付く形になると思う。
ただ、魔力が回復したときに、どの様な反応を示すのかわからないので、他の戦も速いとこ終らせたい所である。
後は、斥候がもう片割れを連れて来たら、こちらも動き始めるとしよう。
「「国王様!只今帰還しました!」」
「よし!じゃあ行くぞ!」
斥候の帰還と共に、作戦が動き始める。
「ハッ!斥候…っと女の方だが、もう一仕事だけ頼む!」
「はい!」
…といっても、立案から実行まで、15分有るか無いかの作戦に、そこまで期待はして欲しくないが…
「もう一人は俺の方だ!頼んだぞ!」
「ハッ!」
今回、向かう場所はそれぞれ、男指揮官が『元アイアン王国首都』で、俺が『岩塩鉱山』となっている。
決めた理由は二つある。
1つ目は、攻め込む場所である。
アイアン王国の進行を覚えている人はいるだろうか。
あの時に、最大の障壁となったのが鉄剣だった。
ゴーレムを切り裂けるその固さは、我が国にとって最大の驚異とも言える。
そして今回攻め込まれている場所となるが…
『鉄鉱山』と、『岩塩鉱山』となっている。
この星に降り立って、2年前後しか経っていない現状、戦争してまで欲しいものというのは、その国にとっての必需品である可能性が、かなり高い。
その中で、『鉄を求める国』と、『塩を求める国』のどちらに、鉄剣が有る可能性が高いかというと…当然後者であると言えるだろう。
勿論、前者の国が既に鉄を手に入れていて、更なる鉱山を求めている可能性も無くは無いが…その状態なら、戦争に人手を割くより、鉱石採取に人手を割く方が、余程国の為になるだろう。
ここまで聞いて、おや?となった人もいるだろう。
何故、強敵の可能性が高い場所に、国王自らが行くのかと…
正直、俺も行きたいわけではないのだが、二つ目の理由が行かざるを得なくしている。
その理由が…
『兵力の殆どがゴーレムであること』
と、なっている。
どういう事かというと、我が国の権利で呼び出したゴーレム達は、基本的に呼び出した本人…つまりは国王の命令しか聞かない。
今回の様に、国民に預ける場合は、国王から「この人の命令も聞くこと」と言う命令を出すのだが…
そういう命令を出すと、ゴーレムの行動には、かなりの制限がかかる様で…
硬度と物量での、ごり押しが難しい可能性の高い方に、俺が向かうこととなった。
「国王様、敵戦力と現状の報告になります!」
先行して情報を得ていた斥候によると、敵数は約100で、遠距離武器は無し、近接の内50程が鉄剣持ちとの事。
そして現状だが、採掘型と、通常型2体が破壊され、通常型の他5体は擬態中、盾型と剣型はボロボロになりながらも、大立回りを演じているそうだ。
流石に、我が国の最古参ゴーレム達は練度が違うか。
塩が有ると言うことで、毎日、昼も夜も関係無く、中型や大型と戦い続けたゴーレム達のその練度は、剣型1体で、我が国の軍を相手に出来る程…というかこの前の訓練で、1体70で無双していた…
通常型でさえ、対30人程度なら無双していたので、内2体を倒した奴さんは、相当な練度なのだろう。
ただまあ、20名程の負傷兵も発見されているので、完封された訳では無さそうだ。
負傷兵を抜いて、敵数は約80…
此方の追加戦力は、出来立てのゴーレム36に、妖精2…
うん!無理だねこりゃ!
「ゴーレム突撃ィ!」
ハッハァ!こうなったら見掛けだけで押しきるしかねぇぜ!
ゴゴゴゴという地鳴りに、一部のルーティング王国兵が此方を向き固まる。
そうだろう、そうだろう。
一体だけでも面倒くさかった、武器無しが30に、現在進行形で大暴れしてる剣持と盾持ちが6、その後ろからは魔力弾が乱れ打ちされてるんだから!
「「「うっ…うわぁぁぁぁぁ!」」」
それを見た兵士は、我先にと逃げ出していく。
奴さんの価値観的には、絶望以外の何者でもないからね、これ。
逆に、今戦ってるゴーレムだけが特別で、他はそこまでって事を知ってる此方的には、死地に突っ込むも同然な訳だが…
恐怖は伝播し、軍は瓦解していく。
その後にやることは一つ!
追撃戦である!
………が、今回は行わない。
なんでかって?ハリボテであることがバレたら終るからだよ!
出来れば、バレてない内に和平まで済ませてしまいたいな…