だから私は探偵になれない
拙い文章ですがよろしくお願いします。楽しんで頂ければ幸いです。
高校生って意外と忙しい、らしい。恋に、友情に、勉強に。部活に青春を見出す者もいる。一生懸命なことはいいことだ。帰宅部の私にはわからないけれど、汗水流して努力して、仲間と共にてっぺんを目指す。ザ・青春。いいじゃないの、青い春。まあ部活じゃなくても、なんだっていい。いくらでも青春は見出せるのよ、若人よ。
お昼ご飯のお弁当を食べ終え、午後の授業まで時間がある。窓際の席で喉かな日差しに照らされて、はてさてどうしたものかと考えることその間5秒。図書室で借りていた本の貸し出し期限が今日までであることを思い出した。
「あっ、やば」
「凪ちゃんどしたん」
お弁当を食べ終え、一緒にまったりと日向ぼっこをしていた友人の風香に声をかけられた。鞄の中から本を取り出し、風香に見えるように掲げた。
「これ、今日までだったから返してくるわ」
「はいなー、いってらっしゃーい」
「いってきまぁーす」
脱げかけていた上履きを引っ掛け、本を片手に教室を後にする。
ぱたぱた、ぽてぽて。
図書室を目指して、ひんやりとした廊下を歩く。さっきまで日向がぽかぽかの教室にいたおかげか、一層肌寒く感じられる。ああ、寒い。冬は嫌ね。日差しが恋しい。廊下で屯する生徒たちの間を抜け、先生に怒られない程度の早歩きで進んで行く。
校舎三階の、端っこにひっそりと存在する図書室はいつ来ても人がいない。みんな存在を忘れているか、認識していないのかもしれない。高校生の読書量なんて高が知れているか。みんな青春に忙しいのだもの。
ガラガラと図書室のスライドドアを開ける。若干立て付けが悪いスライドドアは重い。これも人が来ない理由の一つでもあるのだろう。嘆かわしい。こんなことで生徒が来ない図書館も、こんなことで来なくなる生徒も。
開けたら閉めるのがエチケットだが、このドア……開けっ放しでいいか面倒くさい。
「司馬先生こんにちはー。返却お願いしますあれぇ……?」
返却の手続きをするためにカウンターに近づくも、いつもならいるはずの図書司書の司馬先生がいない。完全に独り言のでかい女の爆誕である。恥ずかしさはあるが、どうせこの空間は一人だし、と腹を括っていると図書室の奥の方からガタタンッと何かと何かがぶつかる音がした。一人ちゃうやんけぇ……。
「頼むやめてくれください私はおばけは信じていないがびっくり系ホラーがダメなんだ」
「何してんだ凪」
「ヒッ……!!!」
完全に油断していたせいで体ごとびくりと跳ね上がる。心臓をバクバクさせながら振り向くと、そこにはみんなのオカン系男子、瀬和志弦がポカンとした顔で佇んでいた。
「ゆ……油断していた私が悪いけど、いきなり声かけるのやめてよ……」
「ごめんて。てか、そんなビビるとは思わないだろ」
「完全にこの空間に一人だと思ってたんだよぉ……」
「司馬先生は?」
「わかんない。多分職員室にでも行って今月の図書館だよりでも配ってるのでは」
志弦の存在に安堵しつつも、やっぱりあの物音が気になる。
「志弦、私の後からここに入ってきたよね?てか、図書室に何か用事?」
多分絶対そうだと思うけど確認は必要である。ついでに気になっていたことも尋ねておく。
「今さっき、凪の後から入ったよ。森咲から、凪がここにいるって聞いたから」
「風香に聞いたの?私がここにいるって?なるほど目的は私ね」
この男、瀬和志弦は事あるごとに私の世話を焼きたがる。私よりもっと世話の焼ける人たちが周りにいっぱいいるだろうに。昔から手のかからない子だと言われ続けて現在進行形なのに。面白い人だこと。
「凪のためにクッキー作ってきたんだけどさ、昼休みの間に食べるかなって思って」
「食べます!」
「良いお返事」
頭を撫でられた。細いけど、しっかりとした大きな手。髪をすくように丁寧に動かされる。気持ちがいい。
美味しいものと、好きなものと、お菓子は別腹とはよく言ったものだ。志弦は大抵の料理は上手いし美味いから将来良い嫁になるだろう。そしてこの人は私の嫁ポジを狙っている、らしい。特に言われたことは無いが、この人の言動をよく観察していればまあわかる。わかってしまうんだな。この人そもそも隠す気ないし。
クッキーと言われてしまったら、口がクッキーの口になってしまった。食べたい。さっきお昼食べたばかりだけどお腹がすいた。
「クッキーは?」
「図書室で食えないし、教室に置いてきたよ」
「ひぇん……」
志弦の作ったクッキー早く食べたいし、さっさと当初の予定と新たなる問題を片付けてしまおう。カウンターの中に入って、ピッピと返却手続きを済ます。これでも一応、図書委員会なもので。司書の司馬先生がいるならお願いするが、いないなら私の仕事である。バーコードを読み取る作業はお店のレジ作業みたいでやっていて楽しく、結構好き。
返却手続きを終えた本は、ついでに自分で書架に戻してしまう。いつもこうしてるし、司馬先生もわかっているので何も言わない。その信頼が嬉しい。
この本を返す書架と関係ありませんように、と祈りながら書架へと歩き出す。当然のように後ろから志弦がついて来る。この人ほんと私のこと好きよなぁ。
「933のた、ち、つ、て、と、ど……」
書架に並ぶ本の背表紙を確認しつつ、空いた隙間を見つける。ついでにちらりと、さらに奥の書架を盗み見る。ふーん……、なるほどね、理解した。
「さっさと帰ってクッキー食べよ」
後ろに控えていた志弦を振り返る。志弦も私が見たものが気になったのか、首を伸ばして奥の書架を覗き込む。やめい、やめいと志弦の腕を引いて歩き出したが、これだけは言いたくて、奥の書架に声をかける。
「人がいないからって、だめよ、こんなところで。もうちょっと場所考えないと。貴方達の為でもあるし、純粋に図書室を使いたい人達の為でもある」
無粋だとは思うが、致し方ないだろう。ここは健全な学舎で、ここは図書室だ。神聖な場所であって欲しい。生命力に溢れる高校生達をたくさん収納しておいて、"そういうこと"が全く無いわけがない。だからと言って、ここでして良いとは限らないて言うか私が普通にして欲しくない。ここはラブホじゃねぇ。
ぱたぱた、ぽてぽて。
図書室を出て、来た道を戻る。今度は志弦を連れて。図書室に来てから出るまでおよそ10分弱と言ったところか。ブレザーの袖を引っ張って腕時計を確認するとまあまあ良い時間だ。教室に戻って、次の授業の準備をしていたらクッキーを食べる時間はあるだろうか。とても微妙な時間だった。残念だがクッキーは次の休み時間のお楽しみかな。
「志弦、もう時間が無いみたいだから、クッキーは次の休み時間にいただくよ……」
少ししょぼんとしながら、隣を歩いていた志弦の顔を見上げると、いつもより顔の位置が近い。彼は私より10cmくらい身長が高いはずだったが。
ハッとした時にはもう遅かった。さらりと頬を撫でる、彼の少しだけ硬めの髪と、唇には柔らかい感触と、鼻腔をくすぐるクッキーの香り。もう一度、ハッとした時にはすでに彼の顔の位置はいつも通りの高さにあった。唇をぺろりと舐めると、ほんの少しだけ、甘い気がした。
「なっ…?ん……?えぇ?」
「口がクッキーの口になってたんだろ。今はそれで我慢な」
「私口に出して言ってた?」
「見てればわかるよ。凪のこと、俺がどれだけ見てるかわかるか?」
知っている。むしろ、痛いほど感じている。けれど私が聞きたいのはそんなことではない。
「志弦は、彼女でも無い人間にこう言うことを容易く行う男なの?」
恐る恐る伺うと、きょとんとした志弦の顔。あっ、その顔可愛い。
「まさか。凪にだけだよ。好きだよ、凪。俺の彼女になって」
「さっきのピンクの気にあてられた?」
「それこそ、まさかだよ。俺は、いつでも凪が好きだし、いつでも言う準備はしてた。ただ、キスをしてしまったのなら、ケジメはつけなきゃなって。ごめんね、理由が後付けになっちゃって」
「うーーん……理由になっているのか、なってないのやら」
「だめ?そんな俺は好きじゃない?」
「その聞き方はフェアじゃないよ」
答えなんて、わかっているくせに。好きに決まっているじゃないか、私のことが大好きな志弦を。私も好きだよ。これでやっと私は、君に世話を焼かせる理由が出来た。彼女なら、ほら、もう我慢しなくてもいいでしょう?
後日談、と言う名の今回のオチ。
志弦と風香曰く、隣のクラスのとあるカップルが別れる寸前までいく喧嘩していたそうだ。落ち着いて話し合うにもお互いの家は常に親がいてお互いを呼べない。ラブホに行くお金もない。いや話し合いの段階で行く場所ちゃうぞ。
と、まあ手っ取り早く落ち着いて話をする場所を探していたら、いつでも閑古鳥が鳴いている図書室を思いつき、忍び込んだら司書はおらず、誰もいない静かな図書室というシチュエーションに盛り上がって致しそうになってしまったところに、私が突撃してしまった、らしい。お互い頭も冷えて、考え直した結果別れることを取りやめたとの噂だ。青春だねぇ。
しかしまあ、過程も知らずに、あんな好き勝手言っちゃって悪かったなぁ。
だから私は、探偵にはなれない。
凪さん、素直じゃねえ……。ちょっくら捻くれた女なんですよ。ただの友人に甘えるのも何かな〜ってことで志弦に甘えられなかったんです。ただね!彼女になったらね!とことん甘えますよこの女は!
推理はしないけど察して犯人()とかやってることはわかっちゃうって感じの話を書きたかっただけでした。ミステリーになりきれないなんちゃって学園モノでした。