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ステージ6-19 世界の構造

「一体何事だ!」

「サイレン!」


 スクリーンに首謀者が映し出された瞬間、サイレンが慌てたようにギルドメンバー専用の部屋から飛び出す。

 その後ろには見た事の無い者達もおり、全員が窓の外に映し出されるスクリーンに注目していた。


「なんや一体……!」

「首謀者が現れた……?」

「何故また急に……」

「数週間振りや……」

「何が目的なの……?」


 どうやらその者達は南西ギルドの主力達と北側ギルドの残りの主力達のようだ。所々には関西弁も聞こえてくる。本当に主力達が全員集まっているんだな。

 そして当然、地上でも他の一般プレイヤー達が困惑の声をあげているのが聞こえている。


「ライトか! ラディンも久し振りだな! そちらの方々が氷雪街ギルドの者達だな! よろしく! ……と、悠長にそんな事を話している場合じゃない! あれは一体……!?」


「ああ、俺達もそれが気になっている……突然現れたからな……!」


 サイレンは俺達に軽く挨拶をし、その後で首謀者を指摘。俺達も気になっているが何故今この瞬間に現れたのかは不明。

 そんなギルドメンバー達や地上の者達の言葉に返すよう、首謀者は口を開いた。


《君達の困惑の声はよく分かっている。スクリーン越しにも声が届いているからね。自動翻訳で世界中の者達の声を聞く事が出来る。そして、君達の姿もスクリーン越しに見えているよ》


 やはりというべきか、スクリーンには何かしらが仕掛けてあって声や映像も向こうに届いているらしい。

 推測通りだな。まあ、当たっても嬉しくない推測だけど。


《さて、一先ず君達が一番気になっているだろう事……今回急遽この場を設けた理由だが、“その存在”が現れたら言おうと考えていて、ついでに世界の秘密を教えて上げようと思ったんだ。……いや、一番気になっているのは私の正体や居場所かもしれないね。だがそれは言わないでおく。みずから居場所を吐くなんてただの馬鹿……もしくはとんでもないチャレンジャーのする事だからね。ともかく、今これを聞いている君達にはこの世界の、君達の秘密を教えて上げよう》


「俺達の秘密……? それに“その存在”って……」

「何か、気になるけどロクでもない事っぽいよねぇ……」

「あの首謀者の事ですもんね……」

「同感だね……」


 また長々と前置きを語り、よく分からない事を言い出す。

 “その存在”に“俺達の秘密”。この首謀者の事だし何かはあるのだろうが、ここは大人しく奴の言葉を待つか。


《ひとえに訊ねるが、君達は、自分が“この世界”で“生きている”と実感しているかい? いや、応えなくて良い。私はただ純粋に気になっただけだからね。この世界にしたてまえ、この世界で君達がちゃんと生きているか気になったんだ》


「一体何を言っているんだコイツ……」


 生死の確認。何故かそれを執り行う首謀者。

 相変わらず何を考えているのか分からない。必ず何かは考えているのだが、その何かが分からないのは本当に厄介な存在だ。


《長々と語るのも問題だな。今自分が生きていると考えている君達、一言で言えばその……残念だけど──君達はもう(・・・・・)既に死んで(・・・・・)しまって(・・・・)いるんだ(・・・・)。御愁傷様》


「「「……!?」」」

「「「……!?」」」

「「「……!?」」」

「本当に何を……!?」


 その首謀者から出てきた言葉。それは俺達が既に死んでしまっているという事。

 何の事だ? 全員が驚愕の……というより困惑の表情を浮かべる。それに対して下方の、ギルドの下から一般プレイヤー達の声が聞こえてきた。


「一体何を言ってんだテメェ!?」

「俺達が死んでるだって? アホか!」

「いきなり何を言い出すの!?」

「何を考えているか分からねぇ存在だとは思っていたが、ここまでとはな!」

「イカれてんのか!?」


 それはまあ、ありとあらゆる罵詈雑言。今選んだ言葉は比較的優しいもの。本当はもっとヤバい言葉を掛けていたり殺人予告をしている者達も少なくない。もしもこの世界がフィクションならピー音を入れられている程のものだ。

 それを聞き、首謀者は笑うような声音で言葉を続ける。


《信じられないのも分かる。しかし、君達がこの世界に置いて経験した事全て、君達が死んでいるとしたら辻褄が合うんだ》


「「「……っ」」」


 この世界での三週間と数日の経験。その全てが死んでいるならおかしくないとの事。

 何の事か分からないが、分からないからこそ罵詈雑言が一時的にみ、それを見計らったのか首謀者は今一度弾けるような声音で言葉を続けた。


《知っての通り、この世界の存在、物質、その全ては光の粒子からなっている。それが肉体に作用するからこそスキルを使う事が出来、レベルが上がる。生身の人間にスキルなどが宿る訳が無く、レベルという概念も存在しないだろう? まあ、同じ事を繰り返すとその行動が素早くなったり上手くなったりと成長はするけどね。……この世界は現実なんだ。フィクションを楽しむのは大いに結構。フィクションは立派なエンターテイメント。だけど、この世界をフィクションと一緒にしてはならない。普通に考えてただの人間が特別な力を宿せる訳がない。魔法なんてこの世には存在しないんだ。つまりそれは、君達の……動物から菌糸まで全生物の身体を私が一晩で改造したからこそ出来た所業だ!》


「一晩で改造だと……!?」

「そんな事出来る訳無いだろ!」

「だったらその方法を言ってみろ!」


 長々と語っていたが、要約すると一晩で俺達を改造したらしい。

 それについて誰一人納得出来る筈もなく、黙り込んでいた他のプレイヤー達は今一度叫ぶように怒鳴る。


《方法か。そうだね……君達は直前に流れていたほんの小さなニュースを覚えているかな? いや、覚えていない。そもそも聞いていない人も多いかもしれないね。実は、この世界が変わった日から数日前、この星を囲むよう、人工衛星が打ち上げられたんだ。その様な事、数十年前ならまだしも、今ではよくある事。だからこそ情報を流すメディアも少ない。別に教えたところで何の問題も無いから情報の流出は気にしていなかったが、今この状況に至るまでの経緯で説明をするに当たって必要事項になりうるからそれを教えておくよ》


「人工衛星だって……? まさか……」

「ライトさん、それって……」

「ああ……その日に軽く話した事だ……」


 窓からスクリーンを見、俺とユメは呟くように話す。

 星を囲うように放たれた人工衛星。確かにあまり大きなニュースにはなっていなかったが、一応テレビでも取り上げられていた。

 それについては俺達も知っている。いやむしろ俺とユメくらいしか知らないかもしれないな。


「君達は何か知っているのか?」

「ああ……というより、チラッと小耳に挟んだ程度……ユメから聞いたんだ」

「確かにその様なニュースをやっていたような、やっていなかったような……」


 ソラヒメのように聞き覚えが少しはある者も居るが、基本的に知らない情報。

 そこからどう俺達の死と、この世界の創造に繋がるのか気になる。俺達は首謀者の言葉を待つ。待たざるを得なかった。


《方法は簡単さ。人工衛星を打ち上げる。そこから不思議なビームを発射。君達が死んで、肉体が消滅。そこからもう一度不思議なビームを発射。結果、肉体が再構築されて世界も変わった。ね?》


「ね? じゃねえよ! 馬鹿か!?」

「何言ってんの!?」

「そんなよく分からない説明で納得出来る訳ないじゃない!」

「物質は!? 理由は!? どんな法則でそれが成り立っているんだよ!?」


《大丈夫! 私も同じように一度死んでいるからレベルアップやスキルの恩恵を受けられるんだ! 今の強化された身体能力、鍛え方次第で誰にも劣らない力を手に入れられる! 元の世界の退屈でつまらなく、努力のし甲斐も何も無い、すぐに衰える最低の肉体とおさらば出来た! 素晴らしいじゃないか!》


「何が大丈夫だよ!」

「結局自分の事しか考えていないじゃない!」

「世界はお前を中心に回っているんじゃねえぞ!」

「どちらにしても詳しい説明はしないつもりなの!?」


 首謀者のいい加減な説明にプレイヤー達の不平不満が更に爆発した。当然だ。俺も納得出来ないからな。

 首謀者は変わらず飄々とした声音で更に続けた。


《さて、これで疑問に対する答えはオーケーかな》


「待てよ!」

「オーケーな訳無いだろ!」


《さて、次が本題だ。話に聞いている者も何人か居るだろう。そして君達が気になっている事ランキングでも上位に来るかもしれない。さっきの私が言った“あの存在”について話そう》


 他のプレイヤー達の意見は聞かず、一方的に話す首謀者。

 本当に勝手な存在だが、勝手に世界を改変したのだから今更か。そして“あの存在”というものは確かに気になっている。プレイヤー達も仕方無く黙り込み、首謀者は口を開いた。


《簡単に言うとそれは、モンスター(・・・・・)と化す(・・・)人間だ(・・・)


「「……っ!」」

「「……っ!」」

「「……っ!」」


 その言葉に反応を示したのは俺とユメ、ソラヒメにセイヤ。そしてマイとリリィ。それが何なのか理解しているサイレンやラディン達も苦虫を噛み潰したような表情になった。

 モンスターと化した人間。その存在は俺達も知っている。事情を知らぬシリウス達や南西ギルドの者達は小首を傾げていたが、まさかそれが関係するとはな……何を隠そう、この首謀者が言っている存在の前例に俺達は会っているからだ。


《今この世界で確認されているのは二人かな。一人は完全に消滅。もう一人は今も何処かで生きている》


「二人……か……」

「ライフ以外にそんな存在が居たんですね……」

「そのもう一人は行方不明……」

「……。あまり考えたくない話だね……」


 その存在、俺達が出会った者はライフ。ライフと言っても残機の事ではなく、その存在の名がライフである。他のプレイヤーを殺害し、多くの残機を得た存在。

 その者は俺達、先程反応を示した六人と他のプレイヤー達が協力して倒し、代償として俺達は複数の命を背負う事になった。

 どう言った理由でプレイヤーの肉体がそうなるのか。それは推測の段階でしか把握していないが、今の口振りから首謀者は答えを知っているみたいだな。


《さて、その存在自体はどうでもいいんだ。だからこそ一つ注意事項をしておこうかと思ってね。……人を殺し過ぎると自分自身がモンスターになるから気を付けてくれ。それだけが言いたかった。その為の今回の場だ。私としても、他のプレイヤーが減るのは困るからね。前にも言ったかな? まあ、長文の中の一文なんてそうそう覚えられる筈がないんだ。改めての報告とでも言っておこうか》


 推測は確信に変わったみたいだ。

 人を殺し過ぎると自分自身がモンスターになる。それが理由。

 仮に、首謀者の言っているように本当に俺達が死んでいるとしよう。それによって光の粒子と融合・結合する。その光の粒子が俺達の存在だとするなら、集まり過ぎる事で他人の意志と肉体が複雑に混ざり合い、異形へと変化。最終的には自分の意思も消滅……か。


 確かに辻褄は合う。人工衛星からのビームとしか言っていないので厳密にはどの様な方法なのかは分からないが、そんな滅茶苦茶な理論からなる現在の結果らしい。偉くてとても頭の良い学者さん達が聞いたら“有り得ない!”と切り捨てられるような現象だな。


《ああそれと、別にモンスターを倒すだけなら問題無いよ。この世界では君達が生きている限り、無限にレベルが上がり続けるからね。それに伴って肉体が適合。モンスターに侵食される事はない。他のプレイヤーの場合は急激な粒子の摂取によって異常反応を起こすだけだからね。……その理屈なら自分のレベルが上がれば他のプレイヤー達の……そうだね。存在するか定かではないが、魂に適合して大丈夫になるかもしれない。けど、それじゃ一方的にプレイヤーが減ってしまう危険性がある。だからその変の設定は私が調整して、悪いけどモンスターになって貰うよ。もしくは私が直々に始末するかな。私に会いたいなら思い切ってモンスターになるのも良いかもしれないね。種族の選択も自由なゲーム。その管理はゲームマスター……“GM”の私の仕事だからね。では、楽しい“アナザーワン・スペース・オンライン”生活を》


 それだけ告げ、スクリーンの映像がプツンと途切れる。

 怒濤の勢いでされた説明。その中にはいくつもの矛盾点が存在しているが、それを指摘される前に一方的に映像を切った。

 矛盾や不利な点は指摘されないようにしているのか、はたまた本当におかしいと思っていないのか。……後者だろうな、確実に。

 首謀者は自分のする事全てが正しいと思っている。そして自分のする事は俺達も喜んでいると思っている。自分勝手という言葉だけでは表せられない存在だが、会う術は無い。


「ライトさん……今の首謀者の話……」


「ああ。俺達が既に死んだ存在で、力と引き換えにモンスターになるかもしれないリスクを背負わされた……いや、進んで人殺しをする奴にとってはリスクではないんだろうな。……とにかく、また色々な謎を残して消えたか」


「はい……。一体どうなってしまうのでしょう……この世界……」


「丁度主力が揃っているし……それについて話すか……」


 この世界の仕様。俺達の存在。人間モンスター。今割り出された話の要点をまとめるとこんな感じか。全部が全部、ロクなものじゃない。ここまである意味予想通りだ。首謀者が現れる時はロクな事が起こらないという事についてのな。


 俺達四人と氷雪街ギルドの七人。

 そしてラディン達にサイレン達のようなギルドマスター。

 南西ギルドのメンバーに冒険者のマイとリリィ。

 役者が揃っている状態で行われた首謀者の話。全く良い話ではなかったが、役者が揃っているならそれについての話し合いも即座に行える。

 首謀者の話を聞き終えた俺達は、とにかくギルドメンバー専用部屋に入って今回の話についてまとめるのだった。

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