ステージ6-18 一時帰還
──“ギルド支部・露天風呂前”。
「成る程。良い湯だ。僕達の地元も温泉は有名だったけど、改めて分かった。温泉は良い。水龍が居たのは驚いたけどね」
「ハハ、そりゃ良かった。俺の地元でも北側の誰の地元でもないけど、改装を少し手伝ったからな。満足してくれたなら上々だ」
疲労を癒す為にギルド支部にて夜を明かす事になった現在、あれから数十分が経過しており、俺達は露天風呂を満喫して飲み物を飲みながら寛いでいた。
流石に今回は人数が人数なので混浴ではない。俺達男性陣八人とソラヒメ、ユメ、エビネ、マイ、リリィ、プロキオン、カペラの女性陣七人は別々で寛ぎ、男性陣が一足早く風呂から上がっている状況だ。
そして当然、水龍も変わらず顕在しており、シリウス達は少し驚いていた。
「にしても、女性陣は遅いな。確かに良い湯だが、そんなに長居するもんか?」
「まあ、女性には色々と気遣いがある……って、ソラ姉がよく言っていた。多分僕達男性陣にはよく分からない事でも大切な事があるんだろうね」
「ハハ、まあ寛いでいるならそれで良いさ。一日……シリウス達は二日間走り続けたんだからな」
「それは君達もだろう。ライト。寛いでいるならそれで良いという意見には賛成だけどね」
一足早く上がったのもあり、ツバキは首にタオルを掛けながら片手に飲み物を持って女性陣を気に掛ける。
ソラヒメから要らない知識を与えられたセイヤ曰く色々と気遣いがあるらしいが、確かに俺達には分からない感情かもしれないな。
だが、全員の意見をまとめるとゆっくり過ごしているならそれで良いという事。本当にその通りだな。
疑心暗鬼だった皆が一緒に寛いでいる。それに越した事はない。
「はあ~良いお湯だった♪ ライト達は先に上がっていたんだね~」
「あ、ライトさん達。待たせてしまいましたか?」
「ハハ、大丈夫だ。ユメ。俺達はその時間に雑談していたからな。ここに居るシリウス以外の氷雪街ギルドメンバーは卓球でもやっているよ」
「随分と慣れたみたいね……初日の互いに警戒していた時がもはや懐かしいわ」
「そうだね、マイ。まあ、眠らないで進んでいたから、その分触れ合う時間もあったからね。自然と親睦も深まるのかな」
「フフ、そうみたいね」
話をしている矢先、ソラヒメ達が露天風呂から上がってきた。
それについてのマイの言葉は確かにそうだな。もうすっかり慣れた。完全な信頼には達していないが、警戒心は薄れた事だろう。……思ったけど、シリウスも協力に乗り気で予想以上に順調だな。
「ああ、そうだね。警戒しているなら共に風呂にも入らなかった。無防備な状態で衣服という名の防具も脱いでいる訳だからね」
「それじゃあ、協力という形はもうほぼ確定って考えて良いのか? シリウス。協力を急かすようであれだけど」
「構わないよ。他のメンバーも賛成してくれるだろうからね。元々そのつもりになりつつあったんだ。一連のやり取りで君達が信頼に値する存在という事は分かった。今ここで協定を結ぶとしよう。ライト」
「ハハ、一連のやり取りって……別に命を救ったりとか、大層な事をした訳じゃ無いんだけどな」
「それが重要さ。“何もしなかった”という事は、今回の状況に置いても何もせず、無理強いしたり怪しいと思われる程に行動を促したり、“余計な事をしなかった”。という事。警戒されている中で耐え切ったそれが重要なんだ。言うなれば戦闘面や助け以外での“信頼”だね」
「そうか? まあ、シリウス達が良いならそれで良いんだ。何も言う事はないからな」
シリウス達が俺達を認めてくれた理由、それはこの二日間で俺達が何もしなかったから。
何もしないのに認めてくれるなんておかしな話だが、確かに怪しい行動もしなかったと取れる。怪しい奴が怪しい行動をして俺が怪しくないと言っても信じられないように、警戒されているからこそ必死にならず、臨機応変に対応する事が重要みたいだ。
まあ、無実の罪を潔く受け入れる人の方が少ないし、余程の事じゃなけりゃ多少の弁明は許しているのだろう。
いや、何か違うな。俺達が警戒されているのは別に無実の罪とかじゃない。もっと根本的な部分、シリウス達との接触だ。外部から来た存在を警戒するのは当然だからな。俺だって警戒する。だからこその“何もしない”か。
深く考えるとこんがらがりそうだし、信頼を得られた結果だけを受け入れれば良いか。
「お、何か纏まったみたいだねぇ。ライト。それならサイレン達にも報告しなくちゃね!」
「ああ、これで沖縄方面を除いた全ギルドとの協力を得られた。その沖縄方面もサイレン達が何とかしてくれているだろうし、本格的に首謀者に対する宣戦布告でもするか。……居場所分からないけど」
シリウス達との協力を得られる事が出来、ソラヒメが歓喜の声をあげる。
俺達の目的が達成されたのだからその反応も当然だ。俺も嬉しいしな。
「よし、そうなるとソラヒメの言うようにサイレン達とも連絡を取る必要があるな。後でギルドに戻ったら報告書を纏めて、その後に本人に報告。サイレンが居なかったら端末に連絡入れておくか」
「そうですね。話が纏まってきました。これで本格的な攻略に赴く事が出来そうです!」
「光明が見えてきたね! 首謀者から世界を取り戻そう!」
「ああ、僕達の世界は僕達で取り戻さなくちゃね」
ユメ達が俺の意見に同意する。
サイレン達への報告。報告書はギルドでまとめるとして、個人的にも教えておくつもりだ。その後でこの世界の本格的な攻略。うん、現実味を帯びてきたぞ。
それに対し、話を聞いていたシリウスが訊ねるように言葉を発した。
「それなら僕達もお邪魔して良いかな? 正式に協力する形になるなら、他のギルドマスターとも会っておく必要があるからね」
「ああ、別に構わない。けど、そうなるとまた一日くらい掛けて行く必要があるな。……いや、天候ギミックを除けば数時間で行ける……俺達の速さなら更に短縮も可能だな。それなら別に大した労力は消費しないか。問題無いな。結構早く行けるかもしれない」
「そうか。それは良かった。面識は無くても、各ギルドのギルドマスターの名前くらいは同じギルドマスターに伝わっているからね。ラディンにはここで会って少しは親しくなったし、後はサイレンや他のギルドのマスターかな」
「ハハ、案外気が合うかもな。サイレンは基本的に裏表が無い性格だし」
晴れて協力する事となり、明日辺り俺達のギルドに向かう事にした。一昨日から移動しかしていないが、考えてみたらずっと前からそうだったな。少なくともこの世界になってからは基本的に移動。たまに拠点やクエストで滞在って感じだ。今更気にする事でもないか。
「そういう人には好感が持てるね。今から会うのが楽しみだよ」
「ああ、きっと仲良くなれるさ。互いに世界を攻略しようって言う仲間なんだからな」
互いにある程度の信頼は得た。サイレン達への報告を終えたら各ギルド同士で協力し、首謀者の手掛かりを掴む為に動き出す事が出来る。
その日は終わり、その翌日、俺達は再び進むのだった。
*****
──“ギルド”。
「お帰りなさいませ。ソラヒメ様方御一行の皆様。よくお越し下さいました。ラディン様方御一行の皆さん。シリウス様方御一行の皆さん。冒険者のお二方はどう言った御用件でしょうか?」
「ここが君達のギルドの受付さんか。それに、表記はどこのギルドではなく、“ギルド”で一括りなのか」
「ああ。この方はパール=アマリリスさんだ。あともう一つの事についてだけど……確かに“ギルド”で総まとめになっているのは不思議かもしれないな」
あれから一夜を北側ギルドで明かしての今日。俺達は北側ギルドから四、五時間程移動して俺達の“ギルド”に戻ってきた。
ついでと言ってはあれだが、シリウス達以外にもラディン達やマイ達も来ている。かなりの大人数なので結構目立っているな。
「ギルドマスター二名と冒険者二名は私達のお客さんだよ。サイレン達に用があって来たの」
「かしこまりました。ソラヒメ様。それではラディン様。シリウス様。そして冒険者のお二人をお客様としてお出迎え致します」
興味を示す中、ソラヒメが概要をアマリリスさんに報告。アマリリスさんはそこからデータを変更し、シリウス達を正式な客とした。
そのやり取りを見ると、見た目が完全な人間でも“NPC”なんだなぁと実感する。まあ、この世界の“NPC”は自我を持ち始めている。この世界のプレイヤーの実力的に害は無さそうだが、職を放棄する“NPC”が出てくるかもしれないのが気になるな。今は考えても何も出来ないけど。
ともかく、アマリリスさんは俺達に向けて道を指し示した。
「それでは彼方へどうぞ。丁度今、サイレン様を始めとして南西ギルドのギルドマスター様方。北側ギルドのギルドメンバー様方も御見えになっておりますよ」
「へえ。そりゃ好都合だな……いつもは待機組のギルドメンバーしかいないけど、今回はサイレン達や他のギルドの人達も居るのか」
「凄い偶然だね! そうなると、全部のギルドの主力が揃ったって事になるのかな? 沖縄方面と協力を得られたのかは分からないけど」
「そうかもしれませんね。少なくとも、協力を得られたと分かっているギルドの主力達は揃ったかもしれません」
「幸先は良好……上手くいき過ぎている感も否めないね。どうも勘繰ってしまう。我ながら面倒な性格だよ」
「まあ、私達も少し嫌な予感がしているわ。何となくだけどね。ここがゲームの世界である以上、何かの前触れじゃないかと思ってしまうわ」
「集まったのはあくまでもギルドメンバー同士の意思でだけど、あの首謀者の事だからそれすら操っている可能性があるからね……」
俺達。主に俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、マイとリリィは話ながらも階段を登って進む。この人数なので必然的に階段で行かなくちゃならないが、別に大した労力は要さない。
そしてその内容だが、確かに上手くいき過ぎている感は否めない。都合良く全員が集まるのも首謀者の策略の上な気になるな。まあ、それならそれに思いっきり乗っかるだけだけどな。その様に進む渡り廊下にて、俺はふと窓の外を見た。
「そう言や、あのスクリーン……まだ片付けていないのか」
それはこの世界になった初日、首謀者が演説をした巨大なスクリーン。
突然現れたそれはアップデートでも消え去らず、未だに佇み続けている。別に何が起きる訳ではないが、人が集まっているしもはや一種の名物になっているな。
「スクリーンか……ライト達が確認したかは分からないが、我らのギルド付近にもあるぞ。かなりミスマッチだが、突然現れてこの世界の事情を首謀者から知らされたからな」
「僕達のギルド付近にもあるね。そう言ったスクリーン。同じようにそこから首謀者が説明を行っていたよ」
「そうか……あれはここだけじゃなくて日本全国……いや、世界中に向けて発信された映像だったっけ。この世界では当たり前だけど、ラディン達も映像は見ていたか」
曰く、スクリーンは日本中にあるらしい。確かに世界中の人々に向けてこの世界の説明をした的な事は言っていたな。
そうなるとスクリーンの跡地? 名残? そのまんま残っているからどちらでもないか。ともかく、スクリーンは至るところに残り続けているんだろうな。
「何だか嫌な感じだね。僕達も今までは自分のギルド付近のスクリーンを特に気にしていなかったけど、さっきの君達が話していた嫌な予感……それもあってあれが見張り用の何か何じゃないかって思ってしまうよ」
「うむ……不可思議な存在だからな……」
「俺も同意見だ」
スクリーンの存在。確かに見張られている感は否めない。あの首謀者の事だ。きっと何処かで、今も観察しているのだろう。だったら俺達はそれを見つけ出してやる。
「だからこそ、今やるべき事がギルド同士の協力だな。この世界の秩序を守って元に戻すのが目的だ……!」
「フッ、ああ、そうであるな! これだけの主力が居て、ギルドメンバー専用部屋にまだ居るんだ。戦力は多いぞ!」
「そうだね。僕達も正式に協力する。君達を全員頼りにしているよ。もちろん、僕達を頼りにしてくれても構わない」
「ハハ、それは心強いな。それなら──」
《──ザ……ザザ……》
「……!?」
──その瞬間、突如としてスクリーンが目映い光を放出し、何かが聞こえてきた。
俺達の視界には砂嵐のような映像を放つスクリーンが映り込み、ノイズのような音が響く。そして──
「……っ。アイツは……!」
──そこには、あの存在……首謀者の姿が映し出されていた。
《──ごきげんよう諸君。私だ》
「首謀者……!」
今度は“誰だよ”とは誰も突っ込まない。前もそう言った指摘はなかったが、思ってはいた筈。今回は誰もそう思わない。その存在がこの世の全ての元凶である事を、全員が理解しているからだ。
やって来た本拠地にて、再び首謀者の姿を映像だけでも目の当たりにするのだった。




