ステージ6-15 氷雪街
──“氷雪街”。
「“氷雪街”か。“氷雪の大地”から入ったからシンプルな街名になっているみたいだな。……けど、やっぱり雰囲気は中世ヨーロッパに近いな。まあ、北海道は蝦夷の頃は日本というより海外という扱いだったみたいだから関東がこんな風になっているのに比べたら分からなくもないな」
「関東が西洋風。東北が和風。北海道も西洋風みたいですね。今の時代は全てが洋風でしたけど、色々とアレンジが加えられているみたいです」
「こうなってくると関西方面がどんな感じなのかますます気になるねぇ。流れ的に京をイメージした和風なのか、それとも関東みたいに洋風が多いのか、一部だけが和風で後は洋風なのか……。沖縄は何となく洋風になってそうだけど」
「自分の住んでいる国が大きく変化するのは色々な発見があるね。それを見るのも一つの醍醐味だけど、首謀者が勝手に変えたという事を踏まえると思うところもある」
到着した街、“氷雪街”。
随分と安直な名前だが、東北地方は全てを引っくるめて北側。そう考えると珍しく名前が捻られているような気がしなくもない。まあ、北側も北側で個別の街や村名はあるんだろうけどな。
ともかく、その景観は全体的に洋風であり、別に氷に覆い尽くされているなどという事もない。
基本的にレンガ造りの建物が顕在しており、歩廊もレンガで人通りもそれなりにある。
こんなに人が居るなら何で“氷雪の大地”で誰ともすれ違わなかったのか気になるが、おそらくあちら方面には滅多に行く人が居ないんだろう。元々街があった場所もこの世界じゃ雪原や雪山になっているからな。
それはさておき、景観は本当によく見るようなモノ。初めて来た筈なのに何故か既視感があるのはこの世界の造り、中世ヨーロッパ風という括りが俺達の居たギルド付近の街と同じだからだ。
首謀者は中世ヨーロッパに一体どんな幻想を抱いているのかも気になるな。まあ、俺も南北のアメリカ州やアジア、アフリカ、オセアニアの街じゃなくてわざわざ“中世ヨーロッパ”って思っている時点で、別物であるアジアとかはともかく西洋風は取り敢えず中世ヨーロッパだろうという先入観があるみたいだけどな。
「それにしても、レンガ造りの建物が多いな。現代の建築基準法の地震規定を満たしているのか?」
「さあ、どうだろうね。けど、確かに西洋文化が取り入れられた明治~大正時代の建築は地震で滅茶苦茶な目に遭ったらしいし、今はまだ起きていないけど地震とかが起きたら現在の日本にある、融合して生まれた中世風の建物がどこまで耐えられるのかは問題点だ」
「そうだな。首謀者も天候は自由に変えられるみたいだけど、地震とかはどうか分からない。あまり考えたくない事だな」
日本にレンガ建築の建物が少ないのは、過去からの教訓があるから。
確かに見栄えの良いレンガだが、重ねて積み立てているだけのモノも多く、震動によるズレなどで崩壊する事があるからこそレンガ建築が少ないのだ。
こんな世界だからと言ってレンガ建築の多さを気にしていなかったが、自然災害にどこまで耐えられるんだろうな。
「まあいいか。いや、良くはないんだけど、俺達じゃどうする事も出来ない。安全確保の為にも首謀者を見つけ出す事は必要だな」
「そうだね。まずはこの氷雪街。ここの探索からだ。北海道ギルドは札幌にあったし、ここがそこである可能性を祈って聞き込みから始めようか」
「賛成ー! ギルド支部を抜けてから結構進んだし、ある種の休憩みたいなものだね~!」
「ふふ、そうですね。私も賛成です」
「ああ。今回ここで仲間を得られたら心強い。コミュニティが一気に広がるからな!」
俺達の目的は決まった。というより、始めから決定している。後にも先にも目的は常に首謀者についての調査だったからな。
まあ、その辺は主に調査組の人達がやってくれているんだろうけど、攻略組の俺達は協力者。つまり仲間集めだな。
望ましいのはギルドメンバーだが、マイやリリィみたいな一般プレイヤーにも力は貸して貰っている。協力者が多い事に越した事は無いからな。
何はともあれ、俺達四人は“氷雪街”の探索に向かうのだった。
*****
「……。そう言えば、マイやリリィは何しているんだろうな。最近はサイレン達よりも北側ギルドの皆と攻略しているけど、他のプレイヤーの助けになりたいと言っていた二人の安否も気になる」
「確かにそうですね。あの二人なら問題無いと思いますけど、この世界に絶対の安全はありませんし……」
探索を開始して数分。さっきその事を考えたからか、何となくマイとリリィの事が気になった。
俺達のギルドから半日掛けて到着した街、“トラベル”の街にて出会った踊り子のマイと魔術師のリリィの二人パーティ。
サポートと攻撃に特化した存在でかなり頼もしかった。あれから一週間以上経過したのもあり、そろそろ気になる頃合いなのかもしれない。
そう言えば、サイレンやスノー、フレアや他のメンバーともしばらく会っていないな。定期報告で帰る事もあるけど、基本的にすれ違い。出会う事無く今の拠点に戻っている。
「確かに気になるねぇ。マイちゃんにリリィちゃん。もしかしたら案外近くに居たりして!」
「そんな訳無い……って言いたいけど、ソラ姉がそういうフラグを立てると何かが起こるかもしれないね……何となく。ただの勘だけどね」
「ハハ……まさか──」
「──あら? アナタ達……」
いや、嘘だろ……? 聞き覚えのある声が聞こえてきたぞ!?
そんな馬鹿な事がある筈がない。フラグ建設からの即回収……フィクションならよくある事だが、現実ではフラグなんてものは滅多に存在しない。たまに起きる事が奇跡となって印象に残るからこそフラグがフラグとして存在しているのだが……。
可能性で言っても、この国に現在何人が残っているのか分からないが、1億数千万人が約378000㎞。その倍の大きさになっている場所の、海を隔ててより行きにくい特定地域で出会う確率なんて何億分の一だよ!? あ、いや、実質何億分の二か。ともかく、そんな事あるのか!?
「久し振りね。一週間振りくらいかしら?」
「よ、よぉ……久し振り。マイ。それとリリィ」
「……。マイもしたし、アナタ達は嫌いな人達じゃないから一応挨拶したげる。久し振り……」
そんな事があった。
事実は小説より奇なりとはよく言うが、それは何百年前の小説の事。なので内容は割と現実寄り。そりゃそうだと言いたくもなるようなものだろう。
それはともかく、流石にファンタジー世界ともなると現実では起こらない。それが起こった今現在の世界。この様な事も起こりうるのか気になるところだ。
「……と言うか、何でこんな所に居るんだよ二人とも!?」
「あら、此処は私達が来てはいけない禁止区域だったかしら? それなら謝るわ。ごめんなさいね」
「ああいや、別に悪くはないんだ。来れた事自体は別に良い。……けど、本州なら分かる。“トラベル”で別れた後でも、地続きの本州なら出会う可能性はここよりは高い。俺達の速度ならたった数十キロとは言え、どうやって海を……」
「フフ、簡単な話よ。私達はアナタ達みたいにギルドメンバー専用アビリティは使えないのだけれど、自分自身のスキルがあるわ。特にリリィは氷魔術を得意としているの。つまり、海を凍らせてやって来たって訳」
「氷魔術……確かにライフとの戦闘では氷魔術を中心的に使っていたな。それでか。けど、何でこっち方面に?」
「成り行きだよ。あのまま進んでいくつかの街を抜けたの。それで、次の目的地を何処にしようか悩みながら進んでいたら海があった。大凡の位置は分かるから、そこが旧青森って事が分かって、折角だからここに向かおうかなってね」
「成る程……確かに攻略を進めていればどこに行ってもどこに居てもおかしくない。それでか……」
思わぬ再会に気が動転していたが、考えてみれば同じく攻略を目指していたマイ達なら別に変な話ではなかった。
要するに海を渡る術があるならそれを実行する事は可能って訳だからな。
本来のゲームじゃ特定の技以外道中で使えない事もあるが、あくまでこの世界は現実。魔法や魔術を実際に干渉させて影響を及ぼす事は可能だ。
「そう言う事。逆に、私達も驚いたんだからね? アナタ達がここに居るなんて思わなかったのは同じだし、見たところ私達の方が先に来ていたみたいだからね」
「ハハ……確かにそうだったな。騒ぎ立てて悪かったよ」
「別に謝る程の事じゃないけど……」
何にせよ、この再会自体は嬉しい事。久し振りに仲間の顔を見れたんだからな。無事も分かった。それについてこれ以上何も言う事はないだろう。
「それにしても本当に久し振りだねぇ! この世界じゃ睡眠を必要としないから一日が長いのなんのって! たった一週間でも凄く嬉しいな!」
「フフ、私もソラヒメやライト達に会えて嬉しいわ。お友達だもの」
「まあ、私はマイが居れば良いけど……嬉しくない事は無いかな……ちょっぴりだけね」
「ハハ……まあ、再会自体は俺も嬉しいよ。大切な仲間だからな」
ソラヒメがマイとリリィに抱き付いて話、二人はそれに返す。
と言うか、俺の気が動転した理由の半分はソラヒメにもある気がするな……建設したフラグが即座に回収されたからな。
完全に偶然の産物でソラヒメが悪いという事も全く無いが、偶然が重なる事で大袈裟に反応してしまったのはある。少し反省するか、うん。
「マイ達は今何をしているんだ? 俺達の少し前に来たらしいけど、今度はここを拠点にしているのか?」
「いいえ、ここに来た事自体は三時間くらい前ね。まだ夜中だったけど、睡眠が要らないから結構起きて行動している人は居たわ」
「三時間前か……俺達が露天風呂で寛いで、そこから少し経った時くらいから“氷雪街”に居たのか」
「あら、露天風呂なんてあったかしら? 通ったルートが違ったみたいね」
「ああいや、確かにルートが同じではないと思うけど、別にそう言う訳でもない。北側……ここからしたら南側だけど、北側ギルドに支部を作ってな。そこを本格的に拠点にして活動する為に旅館を作り上げたんだ」
「そうなの? へえ、良いわね。そう言えば北側ギルドの人達がアナタに会いに来ていたわね。それで北側ギルド支部の露天風呂をねぇ……」
「まあ、そんなところだな」
何となく、俺達は六人で街の中を行動していた。
別に話し合ったりした訳ではないが、自然とこうなった。と言っても行っているのは雑談くらいであり、街を軽く歩行する。
「それで、アナタ達は何か目的でもあるのかしら? 北側から更に北側の此処に来たんですもの。攻略すべき存在が居たりとか?」
「まあ、そんなところだな。攻略と言うか協力の要請だ。北側ギルドが来た理由がそれでな──」
「へえ、成る程……」
俺はここに来た経緯を説明する。
別に機密事項でもなく、マイとリリィは信頼出来る存在。なのである程度の説明をしたのだ。
それを聞いたマイは納得する。まあ、ギルド同士が協力して世界が安全になるなら否定する者はあまり居ないだろうからな。
俺の説明を全て聞き終えたマイは相槌だけを打つのを止め、言葉を発した。
「それなら此処にあるわよ。ギルド。“氷雪街ギルド”だったかしら。ここ、元々旧世界の札幌なんですって」
「マジか!? それは良い情報だ。目的地に早速着いたって事だからな!」
「フフ、子供みたいにはしゃいじゃって」
曰く、ここにもギルドがあるとの事。というか、こちら側で考えればここにしかギルドが無いというのが正しいか。
それでもここがギルドのある街というのは朗報。俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人は互いに顔を見合わせた。
「よし、これで目的地には着いた。後は協力の要請を受けてくれるかどうかだな!」
「はい! ここのギルドと協力出来れば残るは沖縄方面のギルド一つだけ……! 兆しが見えてきましたね!」
「良いね! 盛り上がって来たよ! 順調だね!」
「ああ、これで後はギルド同士の会談。本格的な世界の攻略に向けて進める」
遠い目的地かと思ったが、思ったよりも断然早く到達する事が出来たギルドのある街。俺達に希望が見えてきた。
「フフ、役に立てたみたいで良かったわ。どうせなら案内しようかしら?」
「私も別に構わないよ。ギルドメンバーじゃなくても、クエストとかを受けるにはギルドに向かう必要があるからね」
「本当か!? 是非頼む! マイ! リリィ!」
「ええ、任せなさい」
「ちょっと……手を握らないで……慣れてないから……」
「おっと、悪い!」
興奮のあまり二人の手を握ってしまったが、マイは特に気にしていない様子で、他人に慣れていないリリィが少し嫌そうな顔をした。まあ、異性に突然手を握られたらこうなるのも頷ける。今のは俺が悪かったな。
ともかく、目的地には着いた。後はギルド関連の話を進めるだけ。上手く行くかは分からないが、幸先は比較的良好だろう。
そのまま俺達は俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、マイ、リリィの六人で“氷雪街”のギルドに向かう事になった。




