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ステージ6-14 軽い休息

 ──“ギルド支部・露天風呂”。


「はあ……落ち着く……やっぱり寒さと汚れの後の温泉は格別だねぇ~」


「やれやれ……随分と落ち着いているね……まあ、確かに有り難さをより感じられるけどね。ギルド支部を作って良かった。北側ギルドの皆に感謝してもしきれないな。これは」


「…………」

「ちょっと待て」


 屍王を打ち倒し、オーロラをしばらく眺めていた俺達は一旦ギルド支部に戻り、露天風呂に入っていた。先程までの場所が場所だったので芯まで冷えた身体が温まるのは心地好い感覚だ。否、入ったまでは良かった。良かったが、どうしても気になる事が一つだけある。

 いや、俺にとってはむしろありがたいとも言える。露天風呂その物に感謝するという気持ちもあるが、別の意味でもありがたい。しかしどうにも牴牾もどかしい。何と言えば良いのか分からないが、頭の中のモヤモヤを払う術がありつつ、それを実行出来ないような。夏休みや冬休みの課題を行う気力が湧かない……は関係無いな。

 ともかく、気になる事は一つだ。


「何で本当に混浴なんだよ!」


 ──混浴だったという事。ソラヒメの冗談が現実になっていた。

 ソラヒメとセイヤは分かる。二人は姉弟だ。基本的に小学生高学年から中学生の間で一緒に入らなくなる姉弟は多いが、血縁関係者。衣食住を共にする存在なので別に不思議ではない。

 だが、そこに俺とユメというイレギュラーが加わる事で一気に形が崩れるような感覚に陥る。いや、前述したように俺は構わないが、ユメの気持ちを考えると得も言えぬ感覚に陥るんだ。

 それを聞いたソラヒメは子供っぽく返す。


「えー、だって皆で入った方が楽しいじゃーん! 今回はエビネちゃんも居ないし~」


「そう言う問題じゃない。血縁者の二人は分かる。別に不思議ではない。……けど! 俺はちょっと親しいだけの赤の他人だろ!? 楽しい楽しくない以前に、男と女の関係に問題があるんだ! 異性に、裸体を、心の底からそう思えるような、運命を共にする事を決めたような人以外に見せるという行為がだな……!」


「頭固いなぁ~。昔の人みたい。うーん、いや、むしろ昔は混浴が主流だったらしいから違うかなぁ……取り敢えず、頭固いよライト!」


「同じ事を二度言うな! いや、まあ俺も似たようなものだけど……」


 曰く、楽しいから。

 確かに皆で風呂に入ってワイワイするのは楽しい。一人で落ち着くのも良いが、何事にも楽しむ余裕は必要だ。

 だが、だからと言って混浴って。いや、確かにソラヒメもユメもタオル巻いてるし、俺とセイヤも局部にはタオルを巻いている。それでも何か……何だろうな。


「ユメだって、付き合ってもいない俺達に裸体を見せるのは嫌だよな?」


「へ? あ、その……私は……別に……」


 モジモジと言葉に詰まるユメ。っと、今のは俺の質問が悪かったな。ユメは優しい。だからはっきりと嫌とは言えないかもしれない。

 ユメの優しい性格じゃ、言葉に詰まるのも当然の質問だった。


「でもほら、ライトには何かをしようって言う気概が無いでしょ? ユメちゃんにもちゃんと断っているしさ!」


「いや、そうだけど……ユメの位置が俺の隣って。せめてソラヒメの隣に居た方が……それに、ソラヒメがそう思ってくれていても俺も男である以上、セクハラとか痴漢とかする可能性が必ず無いとは言えないんだし」


「大丈夫大丈夫! 本当にそんな事をする人はライトみたいに言わないからね!」


 笑いながら俺に向けてサムズアップをするソラヒメ。

 まあ、どうしても、辛うじて、共に露天風呂に入るまでは、陣取り次第じゃ大目に見れる。

 理想の形はユメ、ソラヒメ、セイヤ、俺の順。これなら問題が起こる心配も無く、俺も緊張しないで済む。ユメは当然として、性格が性格でも女性としての身体付きが相応であるソラヒメの隣なのも緊張するからな。

 しかし、現在の形はセイヤ、ソラヒメ、俺、ユメ。と、見事に俺が緊張する明らかにおかしな布陣が形成されていた。と言うかソラヒメの意思によってこうなった。完全に遊ばれているのが分かる。


「うーむ……」


「もう、ピュアだなぁライトは。別に私達と一緒に入りたくない訳じゃないでしょ?」


「いや、それはそうだけど……仲間として大切に想っているし……やっぱり問題なのは俺の感覚と言うか性格と言うか……」


「ふふ……こんな事されたら照れたり?」

「……っ」

「ソ、ソラヒメさん!?」


 その瞬間、ソラヒメが胸を俺の腕に押し付けてきた。それによって心拍数が上がるのを実感する。隣でユメが声を上げているが、頭が真っ白になって何も考えられなくなりそうだ。

 いや、平静になれ、俺。これは完全にソラヒメの揶揄からかい。遊び。悪戯でしかない。こう言う時こそ今までの辛かった戦いを思い出し、精神力を集中させて星と一体化する気概で堪え忍ぶ時だ。


「ソラ姉。実の姉のそんな姿を見るのは弟として思うところがあるよ。それと、傍から見たらただの痴女だ。揶揄からかっているのは分かるけど、あまりエスカレートしないようにね」


「はーい」

「た、助かった……」


 思考がおかしくなりそうだったが、セイヤのお陰で救われた。こう言う時にソラヒメに慣れている同じ性別の存在が居るのはかなり助かる。……って思ったけど、あまりエスカレートしないようにって……完全には止めてねえ……!


「ラ、ライトさんはやっぱりソラヒメさんみたいな明るい人が好きなんですか……?」


「え? い、いや、待て! これはその、あれだ。そう言う訳じゃなくて……」


 ソラヒメの悪絡みは終わったが、次いでユメが俺に向かって質問した。

 マズイ。俺の尊厳が……。いや、今回はソラヒメが原因だし、俺は別に……。よし、誤魔化しを兼ねて逆に質問するか。


「と言うか、何でそんな意見に……? 今のは明らかに俺がソラヒメに揶揄からかわれていただけというか何と言うか……」


「へ!? あ、私、何でこんな事……えーとですね、随分と仲が良さそうだったのでつい」


「ハハ、仲が良いも何も……俺達はいつもこんな感じだろ? ソラヒメが何かやらかして揶揄からかい、俺とユメが被害に遭ってセイヤがそれを抑制してくれる。露天風呂で混浴って事を除けばいつも通りだ。それがあるから俺が緊張しているだけでな」


「そ、そうですよね。本当に何で私こんな事聞いちゃったのでしょう♪」


「ちょっとー、それじゃまるで私がトラブルメイカーみたいな扱いじゃん!」


「……? 違うのか?」

「初耳です!」


「もう! 二人とも! セイヤも何か言ってやってよ! 姉の尊厳と信頼が失われるよ!?」


「やれやれ……。無い物の失い方を知りたいね」


「みんなヒドーイ!」


 一転攻勢。逆にソラヒメを揶揄からかい返した。

 まあ、急な混浴で驚きはしたけど、タオルの存在もあるから比較的落ち着いてきたな。緊張はするが、今みたいな雑談でもすれば多少和らぐ。

 何はともあれ、俺達四人はギルド支部の露天風呂にて寛いだ。



*****



 ──“ギルド支部・1F”。


「何やかんや、のんびり過ごす事は出来たな。慣れれば問題無いんだ。何事も」


「ふふ、そうですね。私も少し経ったら恥ずかしさがマシになりました。ライトさん達とのお風呂、楽しかったです」


「だよねー! やっぱり気持ち良いものは皆で共有しなくちゃ! 最初は恥ずかしくてもいずれ慣れるのが人間なんだよ! ほら、縄文時代より前の人類誕生直後の時代なんて服着ていなかったんだからさ!」


「その理屈は範囲が広過ぎてどうかと思うけど、落ち着けたのは同意だね。汚れも匂いもすっかり落ちたし、身体は温まった。今は悪くない気分だ」


 三十分から四十分程の時間を露天風呂で寛いだ俺達は、ギルド支部一階に新たに作られた自動販売機にて飲み物を購入し、椅子に座って落ち着いていた。

 飲み物自体はまだアイテムとして残っているが、ここが旅館だからこそなのか何となくここで買いたくなる。よく分からない感覚だけどな。


「おお、上がったか。君達」

「よっ、ラディン。朝からずっとご苦労さん」

「ああ、君達も世界の攻略ご苦労!」


 するとそこに、北側ギルドマスターのラディンがやって来た。

 ギルド支部にてずっと仕事をしていたラディン。勤勉というか何と言うか、その頑張りは素直に称賛出来るな。

 睡眠は必要としておらず、疲労もプレイヤー・モンスター問わず敵と戦う以外では募りにくい世界とは言え、何十時間も働き続けるなんて俺には考えられない。元の世界だったら過労死一直線ルートだぞこれ。


「それで、ラディンがここに来たって事は俺達の報告待ちだな?」


「ああ、そうだ。露天風呂に向かう前に言った通り……悪いとは思うがギルドメンバー専用の部屋に来てくれないか?」


「ああ、構わない。俺達もこれを飲み終えたら行く予定だったしな」


「ボスモンスターの情報はこの世界を攻略するに当たってかなり重要ですからね。今回は私達を優先してしまいましたけど、なるべく早くお伝えしたいところです」


「オーケー、すぐに行くね~」

「ああ、僕も構わないよ」


 情報共有は攻略本の無いこの世界にてかなり重要。なので否定する理由も無い。元より、実はそれについての報告をするという約束はここへ戻ってきた時既にしていたのだ。簡単な話なので軽く長し、露天風呂から上がったら報告するという名目だったのである。

 その後俺達はギルド支部にてメンバー専用の部屋に行き、取り敢えずはここに残っているメンバーに説明をした。


「──って事で、屍王は完全に倒したな。結構な強敵で、その回復スキルや長距離に届く攻撃や毒と隙の無さ。それに放出してくる蟲系モンスターとか、色々と厄介な要素を備えていた」


「成る程。アンデッド特有の性能もチラホラ。それが拍車を掛けてかなりの強敵に仕上がっていたという感じか。そのレベルもる事ながら、長期的に戦い抜いた事を重々感じる」


 反応は様々。今話したラディン以外に他のギルドメンバー達もそれについて話している。

 取り敢えず報告は終わった。北側のギルドやサイレン達にはここから伝わる事だろう。なので俺達は行動に移る。


「さて、まだ向こうのギルドには着いていないからな。すっかりくつろいじゃったけど、これからまた“氷雪の大地”に向かうよ」


「そうか。我らも他の拠点に伝えておく。君達も気を付けてくれ」


 時間は丑三つ時を過ぎ、冬の気候なら後三時間程で日が昇る頃合い。夜通しでの攻略になるが、前述したように疲労は無いので余裕を持って進む事が出来る。

 ラディン達への報告を終えた俺達は、今一度海の先にある“氷雪の大地”へと向かうのだった。



*****



 ──“氷雪の大地・廃村”。


「到着っと……あまり寒く感じないな」


「露天風呂の保温効果でしょうか? この世界の露天風呂にはしばらく寒さに強くなる効力もあるみたいですね」


「それは良いね。もう少し経ったらそれも切れるんだろうけど、今のうちに進んで身体を温めちゃおう!」


「そうだね。ここはボスモンスターのステージだった廃村……まだ他のモンスターは湧いていないようだ」


 ギルド支部から“転移ワープ”を使い、俺達は先程の廃村に戻ってきていた。

 相変わらずの戦闘の余波による瓦礫の山が形成されており、荒らされた痕跡も残っている。まあ、荒らしたのは俺達と屍王だけどな。

 ともかく、俺達は一番遠くのマッピングポイントに“転移ワープ”したのでここから更に進める事だろう。軽い談笑を終え、極寒の大地に今一度一歩を踏み出した。


「相変わらず歩きにくい足場だな……」

「本来は道があったのでしょうけど、融合した事で消えてしまったみたいですね……」


 それから俺達は先を進む。当てなどないが、何となく進むだけでもいずれはどこかに到着する筈。

 一面、周囲は銀世界なので道という道もなく、ただ闇雲に進んでいるようなものだった。

 寒さはしばらく平気という事もあり、時速300㎞程で進む。全速力の半分以下だが、これでも十分行けるかもしれない。


「わあ……湖が凍ってる……!」

「俺達が今の速度で進んでも問題無い強度か。凄いな……!」


 凍り漬き、微かな光を反射してキラキラと輝く湖を進み、


『ギャア!』

「よっと!」


 たまに現れるモンスターを倒し、


「効力も消えたみたいだね」

「そうだな……」


 再び寒さに当てられた雪原を進む。

 ここまではボスモンスターなども現れず、時折姿を見せるモンスターも問題無い存在。

 更に雪山。樹氷に覆われた森。旧世界の火山噴火によって生まれた氷の湖、別名カルデラ湖。北国特有の極寒の世界を堪能し、進んでいるうちに日も昇ってきた。


「わあ……キラキラと星が降っているみたいです……」


「これは……細氷……ダイヤモンドダストか……! 生で見るのは初めてだな……」


「すごーい! 綺麗!」

「それ程に過酷な環境とも言えるけど、過酷だからこそのご褒美って言ったところかな」


 日差しに照らされたダイヤモンドダスト。昨晩のオーロラと言い、自然現象に恵まれているな。

 その様な光景を見つつ更に更に進んだ俺達は、一つの街が目に映った。


「あそこは……街だ。廃村とかじゃない、ちゃんと人が居る街だな……!」


「本当ですね! それに、結構発展しています!」


「やっと着いた~。どの辺りだろう?」


「進んできたルートからするに道南か道央かな? それの何処なのかは分からないけどね。真っ直ぐ進んだ事を考えれば、これ程発展している街。旧世界の札幌の可能性もあるね」


 見えるや否や、俺達は速度を緩めて歩む。道中色々あったが、ここに来てようやく街らしい街に着いたと考えて良いだろう。

 何はともあれ、白銀の世界が広がる極寒の地、“氷雪の大地”。そこを抜けた俺達四人はまともな街に到着するのだった。

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