ステージ6-10 アンデッドのボスモンスター
『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛……!』
「……っ。いきなり仕掛けてくるボスモンスターは本当に久々だな……!」
俺達が敵のステータスや、常に表記されているレベルすらをも確認する暇を与えず、そのモンスターは巨腕を用いて俺達を押し潰した。無論、それは避けたけどな……!
俺達は建物の上に登って様子を窺う。
体躯は五メートル程。形は人型。まあ、場所が場所だし、さっきまでの相手からして十中八九アンデッドのボスモンスターだろうな。見れば肉体もドロドロ。肉や目が腐り落ちている。
『ァ゛ア゛ア゛……!』
「割と素早いな……!」
建物の上に居る俺達に向けてモンスターが腕を薙ぎ払い、その建物のごと粉砕する。またレベルも何も確認出来なかったか……!
俺達はそれも避け、地面に着地。辺りには粉塵と雪が舞い上がった。
『ヴア゛ア゛……!』
「……ッ! 地味に頭も回るのな……!」
その雪と粉塵によって俺達の視界が悪い中、モンスターが腕を薙ぎ払って大地と雪ごと俺達四人を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた俺達は廃村の建物を複数破壊し、数十メートルの場所で停止する。今ので体力は五分の一くらい削られたか。牽制みたいな攻撃でLv125以上の俺達がこうなると、割とレベルが高いみたいだな。
「痛いな……けど、距離を離れた事で隙は生まれた。ステータス確認だ……!」
「は、はい!」
「オーケー!」
「ああ……!」
しかしその隙を突き、俺達は敵モンスターのレベルを確認。ステータスが映し出された。
『“屍王”──Lv250』
「Lv250の……屍王……!」
「この辺りのモンスターの三倍以上のレベルですね……!」
「ボスモンスターのレベルは平均レベルから1.6~2.5倍の法則……無くなっちゃったかもね……!」
「前に戦ったボスモンスター、魔霊幽悪の180もそんな感じだったけど、その前にLv90の悪霊や幽魔と戦ったからね……通常モンスターはともかく、ボスモンスターはどんどんインフレしていくみたいだ……!」
“屍王”。久々の王系ボスモンスターだな。
まあ、ボスモンスターが“王”や“皇帝”のような響きじゃなかったのはマウンテン・クロコダイルと魔霊幽悪くらいだったが、とにかく王系ボスモンスターだ。
そのレベルはかなりのモノ。流石にイレギュラーのような存在の竜帝よりは低いが、その半分はある。次第に竜帝に追い付いてきたな。
そして常例通り、スキルを使ったばかりなので“星の光の剣”は使えない。これさえ使えれば簡単に勝てるんだけどな。他のスキルは“SP”が減っていても必要基準を満たしていれば使えるが、特殊スキルなのでMAX状態じゃないと使えない。かなり厄介なところだ。
『ア゛ア゛ア゛!』
「……っ。風……?」
ステータスを確認し終えた瞬間、俺達に向かって暴風が通り抜けた。
風魔法か風魔術か、もしくは別の何かか……。
「うっ……この風……少し変だな……」
「そう……ですね……っ。気分が悪くなってきます……!」
「この感じ……毒……かな……!」
「毒の風……この風の正体が何なのかは分からないけど、吸い込むのは良くないね……!」
おそらく毒の風。それが放出され、俺達は風が届かぬ高い建物の上に移動する。
敵が放った風という事は分かる。なので五メートルよりも高い位置に移動したのだ。
と言ってもそんな建物は限られている。ここが洋風の村である以上時計塔か教会くらいしか高い建物が無いからな。
【スキル“ポイズンブレス”】
そして息はスキル。毒の息じゃなくてポイズンブレスか。直訳か和製英語に近いが、英名なのはアンデッドモンスターだからか? それなら名前の屍王が和名表記なのが気になるな。
それについては特に深くは考えていないんだろうけど、毒属性攻撃をしてくるのは厄介な存在だ。
『ア゛ア゛ア゛……!』
「腕が伸びるのか」
俺達が移動した高台は遠方から伸びて来た腕によって破壊された。建物は音を立てて崩れ落ち、新たに雪と粉塵を舞い上げる。廃村とは言え、一挙一動でかなり散らかるな。
俺達四人はそこから飛び降り、俺とソラヒメが駆け出して屍王の元に近寄る。
「腕が伸びるのは通常攻撃……けど、俺達はまだ一度もダメージを与えられていないな……!」
「そうですね……! 動き自体は見切れますけど、次への行動が早くて反応が追い付きません……!」
「純粋な素早さとは少し違う方面が厄介だね。割と遠距離にも攻撃が届くみたいだから直撃したらマズイかも……!」
「雪や地面がクッションになったさっきの攻撃でも五分の一を削られたからね。即死もあり得る」
雪を巻き上げ、全速力で屍王に迫る。
攻撃力が高いのは見て分かる。あの巨体なので屍王自身のスピード自体は速くなさそうだが、動きが速い。範囲が広くテンポ良く仕掛けてくるので反撃がしにくいのだ。
実際、一挙一動で多くの雪が舞い上がるから視界を遮る簡易的な煙幕のようなものになっているしな。
「この距離なら……届くかもしれません! “ファイア”!」
『……!』
迫る事で近付いた屍王の肉体。そこに向けてユメが炎魔法を放つ。
魔法使いのユメと弓使いのセイヤは距離をあまり詰めていない。会話出来る程度の距離はあったが、先程の場所からほぼ動かずに仕掛ける事にしたようだ。
まず放たれたユメの炎魔法によって雪が溶け、屍王の全身が炎に包まれる。必死に抵抗するが、そこに向けてセイヤが矢を構えた。
「“火炎矢”!」
『……!』
その矢も雪を突き抜け、屍王の身体を貫いて炎上させる。それらによって動きが止まった。そこから一気に仕掛けるか。
「“炎剣”!」
「“炎拳”!」
『……ッ!』
炎を切り裂き、更なる炎で焼き尽くす。そこに拳が打ち付けられ、焼かれながら吹き飛んだ。
星の光の剣用のSPが回復するまで待った方が良いかもしれない。だが、それまで何もせずに待つというのは俺の趣味じゃない。
光剣影狩の通常攻撃が効くかも分からないのでやれる時に仕掛けた方が良いだろう。
俺達の放った四つの攻撃によって屍王の体力ゲージが減る。その量自体は少ないが、全く減らないという訳ではなくこのまま押し切れば勝てるかもしれない程のダメージは与えられた。
「思ったよりも効いたな……確かに俺達とのレベル差は、倍以上は離れていないけど」
「何とかなりそうな雰囲気はあるね。本当に駄目っぽい時は一撃で分かるけど、今回は大丈夫そう」
俺の意見とソラヒメの意見は同じようなものだった。
確かに強敵ではあるが、倒せない事もない存在。使っている武器が通常攻撃で初期装備の必殺スキル並みの破壊力になる光剣影狩、空裂爪、夢望杖、音弓だからというのもあるのだろうが、何となく絶望的な強さ。力の差。威圧感などはなかった。
Lv500の竜帝に勝った実績があったり、俺達のレベルが高いのもその要因かもな。
『ア゛ヴア゛ア゛ア゛……!』
「ま、一撃一撃が強力なのには変わらないんだけどな……!」
「同感!」
確かなダメージは与えられたが、リカバリーも早い。体力的な意味ではなく、態勢の立て直しがだ。
俺とソラヒメに向けた巨腕が薙ぐように放たれ、俺達はそれを避ける。その半径十メートル程にある建物が粉砕してまた新たな粉塵を撒き散らした。
範囲技のような通常攻撃に高い攻撃力。十分脅威的な存在ではあるな。
『ア゛ァ゛……!』
「……っと……攻撃の後は隙が出来るものだけど、もう片方の腕や自分の息を活用して後隙を突かれにくくしているな……!」
「超リーチの攻撃方法があるからこそ成せる技だね……!」
巨腕を避けた俺達に向けてフリーな方の腕を振るい、息を吐き付ける事で距離を置かせて自身の安全を確保する。
息はそのまま防御にも転じられ、ユメやセイヤの遠距離技を風と巻き上げた雪で防いだ。
本体はあまり動かないが、本当に隙の少ない攻撃を得意としているみたいだな。
「この距離でも、やれる事はある……! ──伝家の宝刀・“長剣焔”!」
『ア゛ア゛……!』
どうせスキルを使うならと、俺は必殺スキルである長剣焔を使い、少し離れた場所に居る屍王の肩を貫いた。
先程の攻撃の倍以上は効いたが、まだまだ体力はある。ボスモンスターだし当然だな。必殺と言えど、本当に必ず殺せる力を宿すスキルは少ない。
しかし多くのダメージが与えられたので上々だろう。
「それなら私も……“火弾拳”!」
『ア゛ア゛ア゛……!』
剣尖が肩に突き刺さり、動きが止まったのを見計らったソラヒメは炎の拳圧を弾丸のように飛ばして撃ち抜いた。
撃ち抜かれた屍王は更に怯み、俺達の後ろから炎魔法と矢の援護射撃が撃ち込まれる。それによって大きな火柱が立ち上ぼり、雪が溶けて剥き出しの大地が露となった。
『ア゛ァ゛!』
「相変わらずのリカバリーの早さだ……!」
燃え盛る火炎の中から腕が放たれ、俺とソラヒメがそれを躱す。
腕の軌道線上の大地は抉れ、小さな谷が形成された。
「そして相変わらずの攻撃力だね。直撃はしていない。余波だけで地面が抉れたもん……!」
『ア゛ァ゛ア゛!』
「そしてまたまた追撃が早いときた……!」
直進した腕とは別に、弧を描くように俺達の周りを片方の腕が囲み、俺とソラヒメは跳躍して躱す。そのまま腕の上を駆け上がり、屍王の眼前に迫った。
『ァ゛ァ゛ー……!』
「……っ。上も下も隙が無しか……!」
【スキル“ポイズンブレス”】
腕の上を駆け上がる中、毒の風が吹き荒れて俺達を飲み込む。
基本的に腕を用いた通常攻撃と毒の息くらいしかしてこないが、まだ序盤も序盤。体力が削られて行動パターンが変化したら別の攻撃も仕掛けてくるかもしれない。いつまでも油断は出来ないだろう。そもそもこのパターンの攻撃だけで結構苦労しているしな。
「風には風だ! “風剣”!」
「そうだね! “風拳”!」
対抗手段はない事もない。風の属性を付与したスキルを使えば毒の風を逆に掻き消す事も可能だろう。
“SP”は勿体無いが、下手に温存して不利な状況に陥ったら元も子もない。
「“炎剣”!」
「“炎拳”!」
『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛』
毒の風を掻き消した俺達は二つの炎をぶつけ、更に屍王を怯ませる。
さっきから弱点は突いているから怯みは見せるんだが、イマイチ決定打に欠ける。まあ、まだまだ序盤だし当たり前か。何れは怯まなくなる可能性もあるし、反応を見せるうちにドンドン仕掛けて行こう。ユメとセイヤからの援護射撃も常に行われているからな。
『ア゛ガァ゛ァ゛!』
「……っ。一気に蹴散らすつもりか……!」
屍王が腕を引っ込め、大地に突き刺す。そのまま持ち上げて岩盤を浮き上がらせ、俺達の身体を吹き飛ばした。
基本的に直撃はしていないが、この様に余波のダメージはそこそこある。この世界が世界だから吹っ飛びとかでもダメージは負うからな。
「あ、ライトさんにソラヒメさん。大丈夫ですか?」
「ああ、まあな。少しダメージは負ったけど……」
『ア゛ア゛!』
「「……!」」
「「……!」」
その瞬間、遠方から腕を伸ばした屍王が仕掛けてきた。話している暇も与えてくれないのか。隙の無さは今までで一、二を争えるな、これ。
「話している暇はないな……!」
「そうみたいですね……!」
「今回もそれなりの長期戦になるかもしれないね……!」
「あまり長引かせたくないけど、そう言う訳にもいかないかな……!」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ッ!!』
長期戦はほぼ確実。屍王の絶叫が鼓膜を大きく揺らす。空気も振動しているみたいだな。
俺達四人とボスモンスター屍王の戦闘。それが始まって数分、まだ打開策は見つからない。




