ステージ6-6 次の目的地
「たっだいまー!」
「ただいま」
「オーッスただいまー」
「ああ、お帰り。ソラヒメ、セイヤ、ツバキ」
「お帰りなさーい。ソラヒメさん、セイヤさん。ツバキさん」
「お帰りなさい。ソラヒメさんにセイヤさん、ツバキさん」
ミティアが帰ってから数十分後、ギルド支部の調査に向かっていたソラヒメ、セイヤ、ツバキの三人が帰って来た。
ここに居ないのを見ると、ラディンは相変わらずギルド支部に残っているようだ。仕事熱心だな。
「おー、三人とも~。ここに居るって事は特に出掛けたりしていなかったのかな?」
「まあな。……それにしても、ソラヒメ達も割と早い帰りだな。四十五分くらいしか経ってないぞ?」
「アハハ~。まあ既に完成はしていたからねぇ。流し見みたいに一通り見て、ラディン達や他のギルドメンバー、水龍ちゃんとお話ししたくらいかな」
「それでか。まあ、一通り見るだけでもそれなりに時間が掛かりそうだけど、流し見ならそんなもんか」
思ったよりも早い帰り。曰く、本当に軽く見ただけらしい。
となるとラディン達との雑談が多かったのかもしれないな。水龍の元にも向かったみたいだし。
「そう言うもんだねぇ。……それで、その様子……何かやる事見つかったのかな?」
「ハハ、鋭いな。ソラヒメ。そんなに表情に出ていたか?」
「というより、言動からかなぁ。少し声の張りが出ているよ。やる気が出ているみたいだね!」
声の調子からで理解したとの事。それでも十分に凄いな。
他人とよく話をするからこそ、少し話せば調子が分かるらしい。もはや特殊能力だな。多分この世界になる前からそうなんだろうし、生活の中で身に付いた力? もしくはある種の新人類かもしれない。……と、冗談めいた事が脳裏を過る。
取り敢えず話を先に進めるか。
「成る程な。まあ、やる事が見つかったというよりは元々やる予定だった事に対してのやる気が満ちたって感じだ。率直に話すと、さっきここに南西方面に向かった北側ギルド主力のミティアって人が来てな。北海道、沖縄を除いた日本全国の大半との協力が得られたから、北側を担当している俺達は早く北海道方面のギルドと合流して協力しようって魂胆だ」
「へえ。それはいいね! 賛成! 味方が増えると頼もしいもんね!」
「そうだね。僕も賛成かな。国内だけでそれなりの数のボスモンスターが居たんだ。世界中となると、苦労は増えるにしても何か手掛かりを掴める可能性はグッと高まる」
「そうか。二人とも乗り気で良かった!」
ソラヒメは乗り気で声を張り上げる。まあ、ソラヒメならこんな反応をするんだろうなって予想はしていた。
そしてセイヤも賛成してくれたらしく、まずは国内全員への活動領域拡大を急ぐという方向で話は決まった。
そうなると早いところ行動したいが、俺はチラリと時計に視線を向ける。この世界でも時計は普通に動いているらしい。この世界の広さが倍になっているのとゲームの世界になっている事で時間の波にも何かしらの変化が起きていそうではあるが、その辺も上手く調整されているのだろう。
「えーと、今は……午後四時前くらいか。北側の気候的にそろそろ日も暮れてくるな。今日はどうする?」
「そうですね……急ぎたいところですけど、夜道は視界が見えにくいですからね……。けど、夜だからこその発見もありそうですし……悩みどころです」
「私は夜でも行く方を選ぼうかなぁ? この世界じゃ睡眠も必要無いし、今日は晴れているから月明かりで道が見えない心配も無さそうだからね!」
「僕もそれで良いかな。この世界の“夜”は基本的に拠点で過ごしていたけど、生態系があるなら夜特有の生態系や世界の形もある筈。今後活動するに当たってそれを知っておくのは損じゃない」
俺とユメが悩み、ソラヒメとセイヤは夜の行動を選んだ。
確かにこの世界の夜の姿は気になる。夜の外を見るにしても、安全な拠点から周辺しか見ていないので興味深い。
「優柔不断な俺とユメに、夜の道を進む事を選択したソラヒメとセイヤ……これはもう決定で良いかもな」
「そうですね。不安はありますけど、私も気になっていますから。夜の世界がどうなっているのか、好奇心が刺激されます!」
「ハハ、俺もだ!」
行くか行かないかで悩んでいる俺とユメだが、既に二人が行く気なら悩む必要はない。
気になるのも事実である以上、夜の探索に行った方が良いだろう。いや、行くべきだな。
「じゃあ、今から出発するか、今夜出発するか。どちらにする?」
「青森県だった場所のマッピングポイントに行った後で北海道方面に行くなら、今から行った方が良いかな? 必要な物は既に容量無限の空間にあるからね!」
「はい。私もそれに賛成です! これから向かう場所は未探索地帯。加えて倍の広さのこの世界では、なるべく早く行動した方が良いですからね!」
「ああ、僕もソラ姉とユメの意見に賛成かな。実際、時間が掛かるのは明白だからね」
ソラヒメ、ユメ、セイヤの意見は今から出発するという事。
確かに時間は掛かる。思い立ったが吉日とは違うが、善は急げとも言う。なので今から向かい、早めに北海道方面へ入った方が良いだろう。
「それもそうだな。それじゃ、ツバキ。エビネ。今この瞬間から俺達は北側ギルドを空けるから、クエストとかは各個でやってくれ」
「ああ、構わないぜ。他の主力が居ない状況だが、前のボスモンスターとの戦いでレベルが上がった俺達ならこの辺りのモンスターも何とかなっているしな」
「ええ、そうですわね。ライトさん達が高難易度のクエストを複数達成してくれたので特に問題はありませんわ」
「そっか。それなら良かった。任せて安心だな!」
その瞬間、俺達四人は“転移”を用いて北側のギルドから移動した。一瞬にして目的地に到達し、辺りを見渡す。
雪が相変わらず多く積もっており、肌寒さも顕在。冷たい風が吹き抜け、表面の降り立て雪が少し舞った。建物の感じは、基本的に和風だった北側方面の中で何故か洋風。またもや中世風だが、ここに入ってから急に洋風になるのは北海道も和風より洋風寄りの世界になっているからかもしれないな。地味な変化を起こす事で別種の建物があっても違和感は少なくなる。首謀者的に、ゲームは快適に、スムーズに進めて欲しいのだろう。命の危険があるこの世界じゃどう足掻いても快適にはならないけどな。
時間帯からしてもそろそろ日が暮れる頃合い。少し周りが薄暗かったが、微かな光が雪に反射して割と遠くまで見渡せる事が出来ていた。
「さて、ここは元青森県辺り……方角は更に北側……東北方面に向けて進めば良いんだな。北海道は広いし、真っ直ぐ進めば辿り着くだろう」
「そんな簡単な話ではないと思いますけど……最短で約17~約20㎞程。それが倍になっているのとモンスターの出現。雪道などから考えてももう少し掛かりそうですね。それに、元々ここのマッピングポイントからは更に距離がありますし」
「そうだねぇ。けどまあ、真っ直ぐ行くに越した事は無いからね! 私達はもう新幹線より速く走れるし、雪があっても多分大丈夫!」
「その根拠のない自信が何処から湧いてくるのか気になるけど、聞いても分からないと思うから置いておこう。ソラ姉はともかく、ライトも案外勢いに任せるタイプなんだよね」
「ハハ、まあ、勢いで何とかなる事も多いし、理屈で行動を制限するのも何か俺に合わないからな!」
割と楽観的な俺とソラヒメ。ユメとセイヤは一抹の不安を抱えているが、俺達の性格は分かっていると思うので特に厳しく言及はしてこなかった。
何はともあれ、行く事自体には常に賛成してくれている。その辺は話が早くて助かるな。
「じゃ、行くか。日本最北端。北海道に!」
「はい!」
「オーケー!」
「ああ」
俺の言葉に三人が返し、俺達は歩み出す。そのまま進み、目的地へと向かうのだった。
*****
『『『ガァ!』』』
『『『ガァ!』』』
「カラス型モンスターか。前に一度見たことがあるな」
『グギャア!?』
「この様な場所ですものね。日本全国に同じタイプのモンスターが居ると思います。“サンダー”!」
『ガギャア!?』
「前は飛行手段が無かったから面倒臭かったけど、同じように飛行手段が無い今でもステータスの上昇でジャンプ力が上がったから倒しやすいね!」
『ギャア!?』
「僕は特に変化無いかな。的確に脳天を貫けば一撃で倒せるようになったくらいだ」
『ゲァ!?』
目的地に向けて進む道中、カラス型のモンスターが現れたが特に何事もなく処理する事が出来た。
俺達はレベルが上がっている。このカラス達は一羽一羽がLv62だったが、それでも問題無く倒せた。
前は飛行モンスターの相手は大変だったけど、今の俺とソラヒメなら跳躍力だけで十分に空でも戦えるな。何なら地形を造れば良いしな。
「さて、取り敢えずまだまだ進むか」
「はい!」
モンスターを倒した俺達は更に進む。雪で足が取られるなら“地形生成”を使って空を進むのも良いが、何かのアイテムなどがあるかもしれないと考えて雪道を進んでいるのだ。
地上から見るのと空から見るのでは見つけやすさが違うからな。
「晴れているけど、雪は多いな。気温が低いから一日晴れただけじゃ雪が溶けないのは当然だけど、この世界の雪はそもそも溶けるのか気になるな。地球の大きさが変わったとしたら環境や重力に様々な影響が出そうだけど、その辺は大丈夫なのか?」
「さあ。けど、あくまでここは首謀者が生み出したゲームシステムの世界。現実に近いところがあるけど、近いだけで半分がフィクションなのは変わらない。要するに、環境も天候も首謀者の思うままって事だね」
「本当にそうみたいだよねぇ。物理学を学んでいる人や物理学者が居たら物理法則が乱れるーっ! って困惑しそう」
「この世界の時点でもう既に乱れているような……けど、本当にそうなら首謀者を止めるのは難しそうですね。未だに天候を変える機械を生み出した人は居ませんし……それを実行した首謀者は神様にでもなったつもりなのかもしれません。まあ、厳密に言えば世界的に天候を変えるのは禁止されているのですけど」
「神は神でも悪神だけどな。ともかく、そんな色々な事を出来る存在を止める方法があるのかは分からないけど、まずは改めて会ってみなくちゃな」
地球の環境、天候。重力。存在による全ての影響。本当に大きさが倍になっているのなら何かしらの変化が及ぶ可能性もあるが、ゲームに組み込む事でその矛盾点を解消しているのかもしれない。
要するにここを“ゲームの世界”にする事で思い通りの世界を形成しているという事。会う前から面倒な存在という事が分かるな。
その後、俺達は更に先へ進んだ。
道中で出てくるモンスターは何れもLv60以上、平均レベルは少し低くて70未満だが、割と出会すので地味に疲労が溜まっていた。
しかし相手自体は大した事無い。少し疲れたという事を除いて然程苦労もなく本州最北端の海岸沿いに付いた。
「さて、ここまでは来たけど、ここから北海道へのトンネルを探すのも大変だな。倍の広さ以前に地形も大きく変わっているから地図が役に立たない。この世界に適応したマップにもそれっぽい表記は無し……」
「まあ、そう簡単には行かないね。時間ももう夜。午後十時くらいかな。約六時間経っているね」
「雪道だからって少しのんびりし過ぎたかな? お陰で色々なアイテムは見つかったけど、すっかり遅くなっちゃった」
「六時間でも十分早いと思いますよ? 倍になった一つの県を横断したのですから。なるべく近い場所に“転移”したとは言え、早い方だと思います」
前方は海だが、別に行く方法自体はある。それこそ“地形生成”で空に道を造るという事だ。
ここまでの経過時間は約六時間。すっかり夜になり、冬特有の美しい星空と明るい月が映し出される。白銀の雪が存在する周りの景色も相まり、月と星の光に照らされて反射。十分に視界が確保出来ていた。この辺は建物もないんだな。
本来なら存在するトンネルの位置も見つからないが、その辺は前述した方法があるので無問題。北側ギルドを出た俺達は進み、本州の最北端に到達。そのまま海渡りに挑戦するのだった。




