ステージ6-4 ギルド支部探索
──“ギルド支部”
「お、表記が変わったな。本格的にギルドの支部になったみたいだ」
「わあ……その様ですね! 何だか見て回るのが楽しそうです!」
「ハハ、子供っぽいな。ユメは。……斯く言う俺も内心ワクワクしているんだけどな!」
「ふふ。ライトさんの方こそ子供っぽいですよ。内心で隠しちゃってたりしてるところとか♪」
「それを言われちゃ敵わないな!」
“ギルド支部”と変化した“改装旅館”の内部を進む俺達は浮き足が立っていた。
実際、新しいものには興味がある。自分達の手で造り出した物を改めて見るのも好きだ。加えてここが“廃旅館”だった時の薄暗く不気味な内装も覚えているので、見違えた今のギルド支部は俺達をワクワクさせるのに十分な素材が揃っていた。
「それじゃ、改めて外から見て回るか!」
「はい!」
全てを見てしまわぬ為にも俺達は“転移”を用いてギルド支部の外に出た。
まず目に入ったのは元々の建物の基調が基調だったので全体的に和がモチーフの旅館風外装。出入口用の扉は門であり、二本の灯籠が明かりを灯して佇んでいた。来た時は灯籠などなかったが、俺達が怨念と戦い、三階の修繕を行っている間に外装担当のメンバーが付け加えたのだろう。より和の雰囲気が表れていた。
そこから砂利や松などの木々。庭園に囲まれた石畳の歩廊を抜け、門を抜けた先のエントランスには木造の道が広がる。
「和風な見た目だけど、別に土足禁止にはしていないみたいだな。まあ、観光名所じゃなくて拠点みたいなものだし、土足禁止にして本当に大変な時即座に行動出来なかったら大変か。この世界じゃ靴も装備の一つだからな」
「そうみたいですね。この世界では敵の攻撃以外では衣服や靴も汚れませんし、靴を脱ぐ必要が無いのかもしれません」
この国の習慣では家の中で外靴を履くのは品がないとされているが、どうやらこのギルド支部ではそう言うことも無いらしい。
この世界においての靴は装備としても重宝される。なので靴を脱ぐ事で増えるリスクを避けたのだろう。
実際、室内が汚れないので特に大きな問題はなかった。
「んじゃ、内部を探索するか」
「はい♪」
それから俺とユメは完成したギルド支部の中を見て回る。
元々の形は多くが残されており、クエスト掲示板などが無ければ本当に普通の旅館と変わらないものだった。というより、一般的な和風旅館にギルド掲示板などのようなゲーム世界の物が入り込んだという感じだ。
掲示板などがある場所がエントランス。そこから更に進み、ギルド支部内を観察。
室内にも関わらず観葉植物のような自然もちらほら見え、一つ一つの部屋が区切られている。その部屋も覗いてみたが、基本的に和室。たまに少し洋風な部屋もあり、案外統一性が無いんだなぁと思った。
ある部屋は食堂に温泉。書斎に図書館。その他諸々。ギルド専用にいくつかの改造も施されているが、一般部屋も合わせて普通の宿泊施設として使う事も出来そうだ。
「改めて整備したのもあって、支部の方が俺達のギルドよりも立派になったかもしれないな。この感じ」
「ふふ、そうかもしれませんねぇ。それならある程度のゴタゴタが終わってから私達のギルドもリフォームしましょうか!」
「ハハ、良いかもな。首謀者が設計した今のギルド。首謀者の手の平の上で躍り狂ってやろうかと思っていたけど、アイツの造り出した物を拠点にするのは癪だからな。アイツの創り出したこの世界は攻略するつもりではある。が、拠点くらいは自分達の手で造りたい」
「そうですね!」
今のギルドは首謀者の造り出した物。俺は性格上、破壊する予定の手の平で踊ってはやるが、良いように操られるつもりはない。だからこそせめてもの抵抗としてギルドの改装を考えていた。
それに対してはユメも賛成してくれたみたいだ。これでまた新たな目標も出来たな。
「じゃあ、残る階層見て行くか。ギルドメンバー専用部屋も確認しておきたいしな」
「はい。これからここに来る事もありそうですからね。おそらく首謀者や居るという魔王に本来のギルドは気付かれているでしょうけど、ここはまだ気付かれていない筈。今後ギルドが攻め込まれるような事があれば、支部が本拠地になりますものね」
「ああ。最悪の自体の想定ならそう言うことも起こりそうだな。ま、本格的に活動を始めたら支部の存在も初日で気付かれるんだろうけど、それまではギルドよりも安全な地になるからな」
今後の事を色々と想定した場合、ギルドメンバー専用部屋の確認は優先事項。一般プレイヤーを信用していない訳ではないが、ギルドメンバーだけの話し合いは必要だ。と言っても、一番首謀者に近い存在は俺達ギルドメンバー。それは首謀者に迫っているという意味ではなく、一番首謀者の可能性が高いのは……という意味だ。
なのでギルドメンバーだけの秘密が外部に漏れる可能性もある。しかしそれでも首謀者を一番何とか出来そうな存在もギルドメンバーなので話し合いの場は必要なのだ。
尤も、当然それだけじゃなくて普通に支部内を見て回るのが一番の目的だけどな。
「もしかしたらこっそり隠し部屋とかあったりしてな。ほら、忍者屋敷みたいに」
「忍者屋敷ですか。確かに雰囲気はありますけど……」
「ハハ、あくまでも“もしかしたら”だからな。けど実際、そう言う風な造りの城も存在している。外から見た階層と内装の階数が違う事で攻め込まれた時に迎撃しやすくなるらしいからな」
「へえ……。確かにその様な作戦は外から見た情報が重要ですね。感覚を始めとして作戦の一部に狂いが生じて一気に崩れる可能性があります……」
「そう言う事。隠し部屋があっても別に不思議じゃないって訳だ。まあ、一応マップ情報はインプットしている。そんな堂々とは映さないだろうし、探索して行けばあるかないかは分かるさ。それに、もし隠し部屋があるなら俺達に教えてくれるだろうからな。他のギルドメンバーが存在を知らないかまだ完全には信用してくれていないという事が無ければな」
「成る程……」
あくまでも雰囲気からの懸念。なので隠し部屋というものは無い可能性の方が高い。と言うかほぼ確実に無いだろう。
自分で言うのもあれだが、少し疑り深くなっているな。やっぱり一週間と数日前の出来事だとしてもライフとのやり取り
まあとにかく、今は内装を詳しく知るのが目的。一階部分は終わったし、残る階層を見終えたら拠点に戻るか。
「まあ所詮は推測だな。一先ず残りの階層を探索してまた拠点に戻るか」
「ふふ、そうですね♪」
次いで俺達は二階に向かう。そこは基本的に客室が多めであり、特殊な部屋などはなかった。そして三階も、めぼしいものはない。少し特殊だけどな。
まあ、基本的には一階部分に必要……施設? 適正な言葉が思い付かないな。俺の語彙力の問題だ。とにかく必要施設的なモノが集合している。二階は客室がメインで三階は俗に言うVIP客専用……スイートルームみたいなものか。和風旅館でスイートルームって言うのも変な話だけどな。
取り敢えず一階が基本施設。二階が拠点。三階がスイートルーム。兼、ギルドメンバー専用部屋。そう、三階にはギルドメンバー専用部屋もあったのだ。
まあ、何となく拠点と言ったらここと言う意味で専用部屋にしたのだろう。加えて、一応完全消滅はさせたが怨念に対しての懸念もあるにはあるので、万が一に備えて即座に行動出来るようにそうしたのかもしれない。そして隠し部屋は無かった。当たり前か。
「お、ライト達か。ここに戻って来たという事は……ギルド支部の探索が終わったんだな?」
「そんなところだ。ここを見て回ったら拠点に戻るつもりだけど……ラディン達は……最終確認的な事をしているみたいだな」
「ああ。何人かは残るが、俺はギルドマスターとして北側とここをしばらく行き来するつもりだ。ハッハ。これでは簡単なクエストも受けにくくなるな! その辺はライト達に任せたぞ!」
「ハハ。ギルドマスターは苦労するな。ああ。その辺は任せてくれ。俺とユメだけじゃなくてソラヒメやセイヤ。ツバキにエビネも居る。まずボスモンスタークラス以外なら余裕を持って対処出来る筈だ」
「うむ! 頼もしいな!」
ギルドメンバー専用部屋に居たのはラディン達。そんなラディンだが、ギルドマスターというだけあってしばらくの間はこの支部と北側ギルドを往復する事になるらしい。
ただ往復するのではなく情報収集や報告。設備の調整。その他にも必要事項を色々と確認しなくちゃならないようだ。本当に大変なんだな、ギルドマスターって。
「それじゃ、俺達は一度帰るか。本格的に始動したらプレイヤー達も寄ってくるだろうし、北側ギルドの方もある程度整えておいた方が良いだろうからな」
「はい。それではラディンさん。他の皆さん。また!」
「おう、またな。ライト! ユメ!」
「それでは! ライトさん! ユメさん!」
「オーッス。二人とも、また~」
そこから“転移”を使い、俺達は北側のギルドに戻るのだった。
*****
──“北側のギルド”。
「あ、戻ってきたみたい」
「その様だね」
「あれ? ソラヒメとセイヤ。待っていてくれたのか。別に構わないけど、何やかんや二時間半くらいは離れていたと思うんだけどな」
「そうですね。二人で姉弟水入らずの観光をしていたのではなかったのですか?」
北側ギルドの専用部屋に戻るや否や、ソラヒメとセイヤの二人が出迎えてくれた。
それ自体は俺もユメも嬉しいが、俺達が抜けていた二時間半で観光などを済ませたのか気になるところだ。
「まあ、そんなところだねぇ。二人には何か進展あったの~?」
「進展か……ああ、ギルド支部は完成したな。それと、水龍のレベルも上がっていた」
「加えて、ラディンさんがしばらく忙しくなりそうなので北側のクエストはあまり受けられなくなるそうですよ」
「あ、進展ってそっちかぁ……まあ、二人の関係はまだまだだから仕方無いかなぁ」
「何がだよ……」
まだまだ、か。それが何を示すのかは分からないが、推測するなら実力的な意味だろう。
まあ、確かに俺達はまだまだだな。レベルは三桁に到達したけど、まだまだ三桁も序盤。百二十数程。おそらくソラヒメはそれを指摘したのだろう。
「ソラヒメの意見も一理あるな。俺達はまだまだ。ソラヒメが指摘した関係性……確かに時折、独り善がりで行動する癖は抜けていないかもな……」
「私も……最近はレベルが上がったのもあってソロクエストを受ける機会も増えましたからね……。ソラヒメさんの言うように、私やライトさん。皆さんと良い関係。より深い信頼を築きたいものです」
「あ、そう言う解釈しちゃうんだ……大事と言えば大事だから良いケド……もうちょっとほら……」
「「……?」」
「ソラ姉。こう言うのは無理矢理はダメだよ。確かに気付かないのはモヤモヤするけど、今はまだ早いという事さ」
「ま、仕方無いね~」
さっきから二人は訳の分からない事を話しているな。“関係性”から他に彷彿とさせるワード……。……! もしかして、俺がユメに気がある事を知ってて、二人は応援してくれているのか?
それはありがたいが、片想いの俺がアプローチを仕掛けても断られるのは火を見るより明らかな事。二人の気遣いは良いけど、ユメからしたら良い迷惑なんじゃないか? ユメにも好きな人が居るのかな……居るんだろうな……。やっぱり背が高くてイケメンで優しいという完璧な存在くらいじゃなけりゃ振り向いて貰えなそうだ。……まあいいか。考えるのは止そう。ゲーム好きで一般プレイヤーより少し強いだけの俺じゃ、上手くはいかないさ。
「とにかく、ギルド支部の完成は終わったし、後で北側ギルドのみんなも行ってみると良いかもな。既に一回行った事がなければ最短で二日掛かるけど、結構良い建物になっているぞ」
「はい! 高級旅館みたいでしたよ!」
「へえ。それは良さそうだね。じゃ、今度は私達が行こうか! セイヤ!」
「今から? まあ別に構わないけど……他のメンバーは?」
「折角だから俺も行くか。色々確認しておきたいからな」
「私は……今回もパスしますわ。大勢で行くと迷惑が掛かりそうですし、頃合いを見たら行きますわ」
「俺達は到着するまで二日掛かるからな……追々考えるとする」
「同じく。今度主力の誰かが戻ってきたら一緒に行くか」
「そうだな。たまには帰ってくるし」
結果、ギルド支部に行くのはソラヒメ、セイヤ、ツバキの三人だけになった。
他のギルドメンバーはまだ行った事がないので二日掛けて行くとしても主力のような存在と行くつもりらしい。
確かにたまには北側ギルドに戻ってきているらしいからな。ま、急いでいるみたいだから俺達はまだ話した事は無いけど。
何はともあれ、行くメンバーは決まり、三人はステータス画面を操作する。
「それじゃ、行ってくるね~」
「多分ライト達よりは早く戻れると思うよ。もう既に修繕を含めたある程度の作業が終わっているらしいからね」
「んじゃなー」
「ああ。一応モンスターが出てくる事もあるから気を付けてくれ」
「お気を付けて!」
「行ってらっしゃい」
「また数時間後な~」
「俺達も早いところ見てみたい気持ちもあるな」
「ま、今はまだやるべき事をやるか」
「そうだな!」
俺達三人と他のギルドメンバーが三人を見送り、ソラヒメ、セイヤ、ツバキの三人は“転移”を用いて目の前から消え去った。
さて、ここに残った主力は俺とユメとエビネか。まあ、特に問題は起こらなそうだな。レベル的に見ても。
ギルド支部の探索を終えた俺とユメ。その入れ替わりの形でソラヒメ達とは一時的に離れるのだった。




