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ステージ6-3 怨念

 ──“改装旅館・3F・和室”。


「ユメ、ラディン……何がなんだか分からないけど……とにかく気を付けた方が良さそうだ……」


「そう……ですね……! 何かが居る……何かが存在している感じはあります……その何かは何なのか分かりませんけど……」


「確かに居るな……どうやら脳内の声や表記の不備ではないらしい……!」


 部屋に入るや否や、俺達は臨戦態勢を崩さず背中合わせで周囲を警戒する。

 一見すれば何も居ないように思えるが、確かに【モンスターが現れた】の表記はあった。ゲームになった現実世界にバグがあるのかは分からない。バグ・システムはあれど、表記ミスは不明。しかしながら、可能性を考えれば警戒しない訳にはいかないだろう。


「……。一応ステータス確認をしておくか」


 もしも何かが居るならステータスは存在する筈。何かの扱いは、あくまでもモンスターだったからだ。

 なので俺は周囲。四方に向けて画面操作を行った。


『“怨念”──Lv135』

「怨……念……?」


 俺達の正面にて表記されたモンスター。それは怨念。

 怨念ってモンスターか? レベルは135でそれなり。少なくとも今の俺達より高い。

 そうなると、何かの怨念がモンスターとして滞在しているって事になるな。そこから踏まえれば魔霊幽悪の怨念がコイツ……って感じか。

 レベルは90だった悪霊・幽魔よりも高く、Lv180だった魔霊幽悪より低い。その三体とのレベル差は45。まあ、この怨念が何なのかは大体分かったかな。


「そうなると、やっぱり光を発する何かで攻めた方が良さそうだな。魔霊幽悪よりレベルが低いし、割と簡単に終わりそうだ」


「そうですね。今の私達は万全ですし、さっさと終わらせてしまいましょう」


「果たしてそう簡単に終わるのか……?」


 今の俺達よりレベルは高いが、俺達は万全の状態。なので終わらせる事は比較的簡単だ。

 ラディンは不安そうだが、俺には絶対の自信がある。


「ハハ、終わらせるさ。一瞬でな。──伝家の宝刀・“星の光の剣スター・ライト・セイバー”!」


『……!?』


 刹那、俺の全身が光に包まれ、俺自身が光と化した。

 それによって怨念の姿がはっきりと映し出され、怯みを見せる。光に当てる事でその姿は確認出来るのか。どういう理屈かは分からないけど、それなら今の状態で仕掛けても問題無くダメージを負いそうだな。

 よし──


『……?』

「──終わったな」


 瞬間、俺は一瞬の閃光と共に怨念の横を通り過ぎた。

 対する怨念は何が起こったのか分からない様子。まあ、光の速度だから仕方無い。Lv500の竜帝ですら見抜けなくて、“AOSO”……つまり“アナザーワン・スペース・オンライン”内で出会ったLv10000の竜型モンスターですら追い付けなかった速度。魔霊幽悪よりも弱体化し、レベルも下がった怨念じゃ反応する事すら出来ないだろう。


【モンスターを倒した】

『……?』

「……なんだと!?」


 その表記に反応を示したのはラディン。そう言えば、ラディンにはまだ見せていなかったな。それに、怨念もまだ姿は見えているんだ。表記が信じられないのも仕方の無い事。


『……!?』


 刹那、怨念の存在にダメージが入る。それが一気に増幅し、ヒット数が10を示して反応する間もなく怨念が消滅した。

 十回斬り付けただけで何とかなったか。やっぱり抜け殻のような存在である怨念。そこまでの強敵じゃなかったらしい。


「後は……念の為にユメ。頼んだ」

「はい! “シャイニング”!」


 物質に変換させない、照らす役割だけの光魔法をユメが放ち、周囲を目映い光が照らす。それによって靄のような存在が消え去り、薄暗さが消えて元の和室が映し出された。

 全面に張られた畳と中心に位置する大きめのテーブル。木造の柱や天井などが鮮明に見え、ザ・和室と言った感じの和室が顕在する。

 外からも光が入り込み、緑主体の色合いが視界を覆う。元々癒しの効果があるという緑。目に優しい色だな。畳や木造特有の落ち着いた匂いも鼻腔を通り抜けた。


「この感じ、完全に消え去ったって考えて良さそうだな」


「そうですね! 落ち着く部屋です♪」


「す、凄いな……君達……。いや、凄いのは分かり切っていたが、Lv135のモンスターが一瞬で消滅して全ての怨念を払ったのか……」


 俺達に感心するラディン。

 実際、Lv135は本来ならかなりレベルが高い筈。それを一瞬で倒したのだからその反応も頷ける。

 まあ、それでも完全消滅は出来なかったし、ユメのお陰で完全に倒した実感が湧いた。“星の光の剣スター・ライト・セイバー”は光速で敵を倒すので群れモンスターなどにも有効だが、あくまでも範囲は敵一体から二、三体。要するに剣の届く範囲だ。

 なので今回の怨念のような広範囲型ボスモンスターはユメの力が必要不可欠だった。


「それで、後は三階の完全な修繕か。俺達も手伝うよ」


「はい。何をすれば良いですか?」


「そうだな……基本的な修繕は終わってて、残るが三階だけだから……うむ、まあ“地形生成”を利用しての修繕だな」


 やるべき事は特に決まっていない様子だが、始めから決まっているのは廃旅館の修繕。

 確かに三階の建物自体は形成されていたが、臭いものに蓋をしただけの状態だったので多くは終わっていなかった。怨念が消え去った今、仕上げに取り掛かる事が出来るだろう。

 現れたモンスター怨念を倒した俺達は他のギルドメンバーも集め、最終仕上げに取り掛かるのだった。



*****



「“地形生成”!」


 ──それから一時間後、俺達は三階の修繕を終わらせた。

 元々形自体は造られていた。前述したように残るは仕上げだけ。範囲三階全域。その修繕なので時間は掛かったが、作業自体は簡単に終わっていた。


「よし、これでオーケーだな! ライト達が来てくれて助かった!」


「そうだな。ありがとう。ライトさん、ユメさん」

「助かったぜ!」


「ハハ。大した事はしていないよ。残党みたいな存在に勝っただけだからな」


「はい。皆さんこそお疲れ様でした! 三階もそれなりの広さを誇っているのに、一時間程度で終わるとは恐れ入りました!」


 後から来た俺とユメだが、他のギルドメンバーから感謝される。なんか慣れないな。少し照れ臭い。

 とにもかくにも事は済んだ。後は一階の露天風呂に居る水龍の様子でも見て帰るか。ソラヒメとセイヤは……まあ問題無いだろうけどな。


「それで……水龍にも挨拶しておきたいんだけど……今は居るのか?」


「うん? ああ、居るぞ。相変わらず……と言ってもライト達はあまり水龍を見ていないな。取り敢えず露天風呂でくつろいでいるな」


「そっか。んじゃユメも一緒に露天風呂に行くか?」


「え!? あ……はい。そ、そう言うことですよね!? い、行きます!」


「ん? ああ……! ……た、確かに今の言い方じゃ語弊があるな……ユメの言うように一緒って言うのは水龍の様子を見にって事だ!」


 過程……というより言葉足らずだったな。ユメの理解力が高くて助かったが、色々と誤解を招く言い方だった。

 下手したらセクハラ扱いだ。こんな世界じゃ警察署も裁判所も動いていないが、幼少期から叩き込まれた人としてのルールもあるので何となく気になるところだな。


「フッ、我らは行く必要も無さそうだな。ライト達だけで行くと良い。まあ、露天風呂の方にも何人か居るがな」


「え? あ、ああ。それじゃ行くかユメ!」

「そ、そうですね。行きましょうか、ライトさん!」


 なんかぎこちなくなったが、取り敢えず行く事は決まった。

 今の流れそのままで行ったら気まずくなりそうだが、他のギルドメンバーも何人かは居るらしいのでそうはならないだろう。

 俺とユメは露天風呂へと向かった。



 ──“露天風呂”。


『ビュギャアアアァァァァ♪』

「……っと、いきなり飛び付いてくるか……」

「ふふ、ライトさんに懐いていますね♪ 可愛い」


 露天風呂に着くや否や、水龍が抱き付いてきた。というより締め付けてきた。じゃれているだけなのは分かるが、少し苦しいな……。

 懐いている動物が肉食動物だった場合、じゃれつかれて死亡する事故なども起きるが、まさしくこんな感じなんだろうな。

 強化された肉体を有してこの締め付け具合。この世界の身体じゃなかったら危なかった。いや、この世界でもレベルが低かったら危なかったかもしれない。


「と言うか、地味に強くなっているのかもな」


『ビュギュ?』


 何となくそう思い、俺は水龍のステータスを確認する。


『水龍──“Lv70”』

「あ、やっぱり」


 思った通り水龍のレベルは上がっていた。

 最初に会った時がLv65だったので、あれから5レベル上昇しているという事。一週間で5レベル……まあ、餌になるモンスターのレベルも上がっているし、食事のたびに経験値が入っているんだろうなと思う。

 いや、一階にモンスターは出てこないよな……餌になる程度のモンスターは出てくるのかな。どれくらいの量食事するのかは分からないけどな。結構大きいし、相応の量を食す必要がありそうだ。

 色々疑問はあるが、ともかく、水龍も成長しているという事か。


「急にどこかに行ったと思ったら……ライトさん達に会いに行ったのか」

「ラディンさんの話を聞いたら親みたいなものだしね~」

「成る程ね~」

「と言うか、二人っきりでデートですか? 良いッスね」


「デ、デート!?」

「そ、その様な事ではありませんよ!」


 水龍と戯れていると、水龍の世話をしつつ露天風呂の整備を行っていたギルドメンバー四人が話し掛けてきた。

 男女が二人ずつ。そのうちの一人が思わぬ事を口走ったが、ユメは即答でそれを否定する。悲しいな。けどまあ、その気持ちも分からなくはない。確かに付き合ってもいないのに勘違いされたら困るだろう。と、俺は自分にそう言い聞かせる。


「ハハ……そうだ。そんな事じゃない……」


「……。成る程ねぇ」

「お互いに……か」

「この世界にこんな純粋ピュアな人種が居るのか……しかも二人……」

「ここは互いに互いを理解するまで黙認しておくか」


「……一体なんの話だよ……」

「さあ……」


 態度が変わり、何故か俺達は見守られる。一体全体何事だよ……。

 ともかく、場は収まった。深くは考えないでおこう。


「それじゃ、水龍。またな。お前はここのギルド支部の守護神みたいなものだ。俺達はまだまだ旅を続けるから滅多に会えないけど、ここの守衛は任せた!」


『ビュギャア!』

「ふふ、『分かった!』とでも言っているのですかね♪」

「ハハ、そうかもな!」


 ギルド支部の、というよりギルドの人員は手薄。この世界の攻略に何人か駆り出されているので当然だ。

 だからこそ、他の地域のギルドメンバーは知らない者が多いギルド支部の存在。それを守る為にも待機組と守衛組が必要である。

 水龍ならレベルも申し分無い。力も上々。もしも仮にピンチに陥ったなら、“獣使い(ビーストテイマー)”や“召喚師サモナー”としての性質も宿す俺には分かる。

 今回、他のギルドメンバーも何人かは滞在するのだろうが、主力としての守衛は水龍に任せる事にした。水龍自身もそれを理解し、他のギルドメンバーと共に護ってくれるようだ。……また考えが分かったな。従えたモンスターの思考は分かるようになるのか。


「それじゃ、一旦このギルド支部の内装を詳しく見ておくとするか。ユメ、付き合ってくれるか?」


「え……あ、はい! 構いません! 手伝いますよ!」


「ああ、ありがとう。ユメ」


 今も少し言葉に語弊があったかもしれないが、大きくは反応しない。その事についてはユメも理解してくれているだろうから、深くは掘り下げたくないのだ。

 何はともあれ、俺とユメは露天風呂を離れ、改めて完成したギルド支部内を探索するのだった。

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