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ステージ1-8 ゲームオーバー

 ──マズイ。マズイマズイマズイ。非常に、非常ォにマズイ。まさか、さっきのドラゴンが“進化モンスター”だったとはな。


 ──“進化モンスター”というのは“AOSO”に複数存在するモンスターの種類で、稀に倒した時パワーアップして再戦が起こる事があるモンスターの総称だ。

 主にボスモンスターなどに多く、倒された時点で進化するのでプレイヤーの体力はそのまま。二度目の戦いになる事があるのだ。

 大抵の者はパーティを組んでいる状態でボスモンスターに挑むので誰かが気を引き付けているうちに他のメンバーが回復して万全の体勢を立てられるが、生憎あいにく現在の俺は孤独(ソロ)

 星川が居れば魔法を使って回復出来たのだが、それは叶わない。星川の仇を討つつもりで挑んだ戦闘バトル。実際、星川を離脱させたドラゴンは倒したが、それが再戦になるとは予想外だ。


 オイオイ、ゲームバランスを考えてくれよ運営。……あ、運営それって俺もだった。


 深い絶望にさいなまれ、ゆっくりと振り返ってモンスターの様子を確認する。心では弱体化している可能性を深く祈るが、“進化モンスター”の大半は体力が減る代わりにステータスが高かったり、中には体力もステータスも両方高かったりするのでその願いは届かない可能性の方があるだろう。

 そんな事を考えつつ、俺はパワーアップしたであろうモンスターに視線を向ける。


「…………」


「……。……え?」


 ──白髪の女の子が立っていました。


 何だアレ? 見たところ、普通の少女。いや、結構可愛いから美少女って言うべきか。

 アルビノの肌に白い髪。整った無表情の顔にある大きな赤い瞳が静かに俺を見つめている。第一印象は大人しそうな美少女と言った感じか。細身で体躯は9~11歳くらい。どこからどう見ても幼い子供という感覚だ。

 まあ、高校生の俺も傍から見れば子供だけどな。


 しかし、ドラゴンが子供になるとは。俺はロリコンじゃないから美少女という印象以外は特に何も思わないが、幼くも端正な顔付きで佇んでいる子供は不思議な感覚だった。


「オーイ?」

「……」

「……コミュニケーションは取れるか?」

「…………」

「無理みたいだな……」

「………………」


 試しに話し掛けてみるが、人の形をしているというだけで話そうとはしない。一応敵モンスターなので警戒はしているが、敵意が無いようにも見える。


(そういや、コイツのレベルと体力はどんなもんなんだ?)


 ふと気になり、少女の方に視線を向ける。仮にも敵モンスターなら、ステータスなどは見れずとも名・レベル・種族くらいは見えるからだ。今設定を変えれば細かなステータスも見れるが、まずは名前やレベル、種族の確認が最優先である。

 そう思う、俺の視界に映った少女の情報は──


《名前:???》

《LV:ERROR》

《種族:UNKNOWN》


「何だ……これ?」


 思わず声に出してしまう。俺の視界に映ったものは何の情報も無いモンスター。全てが不明。その点だけならば極稀に現れる不正なウイルスモンスターと被っているが、この少女はバグを持っている雰囲気は無い。となると、確かに“AOSO”内に存在している正常なモンスターという事だろう。


(攻撃してくる雰囲気は無いな……今のうちに相手のステータスも確認してみるか……)


 そう思い、少女に向き合ったまま高速で操作する。メニューを開き、手際よく設定を変更。選択機能チョイスモード起動オンにして細かな操作を挟むように設定し終え、早速相手を調べてみる。


「“選択チョイス”。“確認チェック”。ステータスオープン」


 相手に敵意は見えないが全てが分からないので恐ろしい。故に、さっさと状態を確認した。

 相手のステータスを一部見るこの機能。これで相手はどれ程の力を秘めているのかが明らかになる。


《ERROR》

《UNKNOWN》

《MISS》

《NO》

《???》


 ──筈だったのだが、やはりと言うべきか相手のステータスは何一つ分からなかった。いや、確かに全てのステータスを見れる訳では無い。だが、これ程までに分からない事なんてウイルスモンスターですら今まで無かったぞ……。

 てか、こんなに失敗用の言葉が使われているのか? 基本的に“ERROR”だけかと思っていたし、それ以外に見た事はあまりなかった。まあ、あまりって事は多少は見た事があるって意味になるが、気にした事が無かったな。


 さて、それはさておき。

 結局のところ、何も分からなかった。敵意は感じないので“逃走エスケープ”を選択して逃げようと思ったが、気付いた時には逃げられないように前後左右に見えない壁が創られていた。


 成る程、ボス仕様って訳だ。となるとこの少女は、“戦士の墓場”に置いてのボスモンスターという事になる。今までで目撃情報が無かったのは、最近アップデートで追加されたモンスターか、元々出現率が極端に低かったのかのいずれかという事だろう。


 どっちにしろ、ほぼ確実に強敵という訳だ。見た目だけならドラゴンの時よりもかよわそうなんだけどな。ゲームの世界で見た目は二の次だろう。

 後、これは私事だが見た目が幼い少女である無抵抗の相手に仕掛けるというのも気が引ける。それが普通のモンスターならば問題無いのだが、人形ひとがたとなるとな。


 ……いや、形はあまり関係無いか。これはゲーム内に敵対モンスターと無害なユニットが居るからこそ生じる問題かもしれない。言ってしまえばほぼ感情論だ。

 モンスターの中にも店を構えて商売を行っている者も居る。人間でも、プレイヤー同士で戦う事があれば“人形ひとがたCPU”が戦闘を仕掛ける事もあるゲームの世界(この世界)。形だけが問題なのでは無く、敵意剥き出しの人やモンスターは相手にしやすいのだが、先程のドラゴンが変化した筈のこの少女が無抵抗なのが問題だった。


「おおーい」

「…………」

「君ってボスモンスター?」

「…………」

「種族は?」

「…………」

「戦う意思はあるか?」

「…………」


 返事がない。もしかしてもう既に屍になっているのか? って、な訳無いか。既に死んでいるならそもそもバトル空間が形成される訳無いし、アンデッド系のモンスターならそう表示される筈だからな。


(うーん。まあ、一応剣だけは構えておくか。相手が急に動き出して仕掛けてくる可能性があるからな)


 そう思い、下ろしていた二つの剣を再び構える。相手の素性は分からないが、敵モンスターである以上何かをしてくるかもしれない。俺は銀色に輝く刃を少女に向け、警戒を高める。

 そして俺は、まずアイテムを使って回復した方が良いかなと思った──


「…………」

「……!?」


 ──次の瞬間、俺の目の前に少女が移動した。その動きは見えず、気付いたら目の前に立っていたという感覚だった。

 成る程な。相手の武器。もしくは戦意に反応して仕掛けてくるタイプのモンスターだったって訳だ。だから何もしていなかった俺には向かわなかったのだろう。


「そういう事かッ!」


 それなら分かりやすい。確実に敵であるという事は理解した。それでも見た目は少女であるこの子を斬らなくちゃならないってのは色々と思うところはあるが、これはあくまでゲーム。同情などしている暇は無い。

 一歩踏み出し、二つの剣に力を込める。狙いは目の前に居る少女。悪いとは思うが、無情にならなければゲームをクリアする事は出来ない。今、二つの剣尖が少女の首元へ──


「……ッ!?」

「…………」


 ──瞬間、いつの間にか差し出されていた少女の片手。そのてのひらから得体の知れない白い光が放たれた。そして気付いた時、俺は何やら浮遊感を覚えていた。


「まさ……か……!」


 俺から見て下に離れて行く少女。そう。俺は今、天を舞っていたのだ。少し空を移動した後、そのまま地に落ちてうつぶせのような状態で少女を見る。そんな俺の体力ゲージは空になっており、頭上には“GAME OVER”の文字が表示されていた。

 それに伴い、俺の身体が光の粒子となって消え去る。


 まさか、全く見えなかった。俺はレベルが四桁後半並みはある。ステータスもそれ相応の筈だ。そんな俺が反応すら出来ないなんて……。


 身体が動かない。“GAME OVER”になったのだ。当然だろう。先程星川が消えた時に感じた嫌な予感。それはこの事だったと今理解した。星川では無く、俺が消滅するのだ。懸念も何も残らず、残る暇すらなく俺は消滅する。消え去る時に生じる痛みも気にならず、残ったものは疑問だけ。


 ──この少女は何者だ?


 誰かに問いたいが、誰も答えない。今から俺はこの世界から消えるが、これはログアウトするのかそれとも……。

 静かだ。今までも何度か“GAME OVER”になった事もあるが、こんなに静かだったのか疑問が生まれる。


「…………」


 俺を見下ろす白髪アルビノの少女。その顔は無表情だったが、何処か嬉しそうな、寂しそうな顔だった。

 最期にそれを見届け、俺は“アナザーワン・スペース・オンライン”の世界から完全に消え去った。



 ──LOG OUT──





*****



「……!」


 ──ガタン。と悪い体勢で寝ている時に筋肉の痙攣で起こるジャーキングによって俺は目覚めた。


「……」


 辺りを見渡すと、そこは現実世界の管理者用の部屋だった。

 多数のモニターに映し出される“AOSO”内の様子は依然として問題は無い。一番気になる“戦士の墓場”の様子を見てみるが、多くは無いが数人のプレイヤーがおり、謎のドラゴンや少女は居なかった。


「何だったんだ……あれ。……夢? いや、確かに現実だった。仮想世界だが現実だ……」


 思わず声に出して思案する。それ程までに不可解な点の多いものだった。

 今あるワードは“強制ログイン”、“強制ログアウト”、“謎のドラゴン”、“謎のアルビノ少女”。他にも探せば多く思い付くかもしれないが、大まかなものはそれらくらいだ。


(そういや、星川はどこだ?)


 ふと思い出し、先にあのドラゴンにやられてしまった星川の姿を探す。いや、忘れていたという訳では無いが、おかしな事が色々あり過ぎて蚊帳の外になってしまっていた。

 とまあそれはさておき、後でも考えられる謎の少女よりも今一番優先すべきは星川の事だ。俺みたいになっているなら、この部屋のどこかに居てもおかしくないが……。


「流星さん! 大丈夫でしたか!?」

「星川……! 良かった、無事だったんだな!」

「はい! 流星さんも御無事なようで何よりです!」


 いつの間にか目の前に星川が居た。見落とした? いや、何か違う気もするが……取り敢えず星川の無事は確認出来たので良しとしよう。


「結局、俺も負けちまった。一体何だったんだ……あの強制ログインは……」


「さあ……。けど、先程見た映像と何か関係がありそうですね……」


「ああ、そうかもしれないな。あの映像を見たのは俺と星川だけ。そんな俺達が何故か強制ログインしたんだからな」


 先程見た映像、“アナザーワン・スペース・オンライン”のCM。

 それは今日の昼間にこのゲームに現れたチーターやウイルスを送り込んだ首謀者の事を調べている時に見たもの。

 おそらく、ほぼ100%の確率で関係しているだろう。


「けどまあ、分からない事の方が圧倒的に多い。明日、改めて他のメンバーに聞いてみるか」


「はい、それが良いですね」


 俺と星川だけではどうにもならない。なので、後日他の管理者仲間達と話し合いをするという事でこの話は終わりを迎えた。

 元々高校生程の俺達では何も出来ないからだ。プログラムやコンピューターをいじる技術にけているという訳でも無い平凡な高校生の俺達。常人と違う事と言えば少しだけゲームが上手いという事。それもプロゲーマーやガチ勢に比べれば劣ってしまう。なので深く追求する問題では無いのだ。


「おー、流星と夢。夜勤組みの御出座しだ。子供はさっさと帰んな~」


 纏まったところで気の抜けるような声と共に姿を見せたのは、夜勤組みの者達。やっと来たのか。随分と遅かったな。

 そのままふと時計を見れば、今の時刻は──《PM6:05》。


「「……え?」」


 その時刻を見、俺と星川は素っ頓狂な声が重なって漏れる。

 いや、嘘だろ? 確かに俺達は“AOSO”に強制ログインさせられ、数時間はゲームの中を彷徨さまよった。少なく見積もっても九時くらいになっていても良さそうだ。しかし、現在は五分しか経っていない。俺が“AOSO”から現実に戻り、星川と話していた程度の時間だ。


「星川……。これ……」

「はい……。けど、何故?」


 互いの顔をマジマジと見やり、もう一度時間を確認する。《PM6:06》。あれから一分が経過した。けど、強制ログインしていた時間など無くなっている事に変化は無い。


「オーイ、どしたー? まさか、二人っきりの密室で何かあったのかー?」


「あ、ある訳無いだろ!?」

「あ、ありませんよ!?」


 星川とハモる俺。やって来た夜勤組みの者達はニヤニヤと笑いながら揶揄からかう。


「必死になるところがまた怪しい……」

「しかもハモるなんてな?」

「くーっ、性春だねえ……」

「オイ、何かニュアンスに違和感があるぞ?」


 やっぱ中学生か、コイツら。昼間組みだけじゃなく、夜勤組みの奴らも揶揄からかいの精神を忘れていない。

 まあ良いか。この明るさのお陰でモヤモヤした何かを忘れられそうだ。詳しい事は明日教えよう。


「じゃあ、俺達は先に上がらせて貰うぞ。精々しっかりと管理者の仕事を全うしな」


「ハッハ、生意気なガキだ」


「年齢そんな変わらねえだろ……。二、三年早く生まれただけでガキ扱いすんなよ」


「ハハ、ごもっとも。だが、未成年は夜間外泊禁止だろ。さっさと帰る事に越した事は無いぜ」


「まあ、そうではあるが……」


 確かに未成年が一晩中彷徨(うろつ)いていたら警察のお世話になり兼ねない。取り敢えず自分で帰るって言ったし、この場は大人しく帰るとするか。


「お前達はまだ学生なんだから、夜道には気を付けろよ~」


「おー、余計なお世話だ。ありがとなー」


 最後に挨拶を交わし、管理者用の部屋。そしてその部屋のある建物を後にした。

 建物の外に出ると、夜風が吹き抜けると共に上弦の月が俺と星川を照らす。今宵は快晴の夜空。一週間と数日後は満月だ。とまあ、柄にも無い事を思う。


「では流星さん、また明日」

「おう、気を付けろよ星川」


 夜勤組みに挨拶を交わしたように、星川にも挨拶をする。そのまま俺達も別れ、互いの帰路に着く。自宅から此処までは徒歩で数十分程なのでさっさと家に帰れるだろう。


(それにしても、首謀者は誰なんだろうな……あの“AOSO”のPVを作った奴が本当に犯人なら……)


 少し考えても何も分からない。本当にPVを作った奴が犯人なら少し探れば見つかるかもしれない。しかし、あのPV自体が何年も前のものなのでその者がどこに住んでいるかも分からない。あの少女と同じく、首謀者についても不明だ。

 そんな疑問を頭に残しながら、俺は帰路に着くのだった。

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