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ステージ6-2 改装旅館

 ──“改装旅館”。


「到着っと……」

「やっぱり“転移ワープ”は利便性がありますね、ライトさん」

「そうだな。“転移ワープ”は一番重宝している専用アビリティかもしれないな。戦闘なら停止ストップだけど」


 ギルドメンバー専用アビリティの“転移ワープ”を使い、俺とユメは廃旅館だった場所に来ていた。

 というか、“改装旅館”ってなんだよ。造語みたいだな。普通に考えれば改装中の旅館という事の表れ。丁度“廃旅館”と“旅館”の中間地点にあるかのような名前だ。


「わあ、大分完成していますね。入り口付近の時点で大きく変わったという事が分かります!」


「ハハ、本当にそうだな。かなり順調に進んでいるみたいだ。一週間前とは見違えた」


 改装中の旅館を見やり、目を輝かせて興奮するユメ。可愛いな。いや、煩悩は消し去れ。

 ともかく、本当に工事? が順調という事は見て分かった。

 まだ正面からしか見ていないが、ボロボロだった玄関口には新たな木製の扉……戸が付けられており、同じくボロボロだった壁や屋根にも修復が施されていた。その周りにはまた別の壁。即ち塀が張られており、城のような景観にも思える。

 一番驚いたのは消し飛んだ筈の三階が完全に直っており、既に新品になっていた事。いや、建物に対しても新品って言うのか? まあいいか。とにかく、新しく建てられていた。


 外観だけで凄いと分かる程の修復力。まあ、全員ギルドメンバーだし持続的に残る“地形生成”の壁を使って補修したのだろうという事は良く分かった。それしか使えなくても、建設系のゲーム好きだったギルドメンバーが居れば応用し、様々な建造物を作れるかもしれない。

 基本的にRPGな世界だが、応用や機転次第で別のゲームにもなるみたいだ。確かに首謀者も魔王を倒す事をあくまでもゲームの一つとして扱っていた。スローライフを送る事や自分自身がボスになる事も推奨していたな。


「取り敢えず、俺達も手伝うか。ただ見学に来るだけというのは迷惑だからな。まあ、場を引っ掻き回す足手纏いも迷惑だけどな」


「はい。手伝う事は賛成です。それと、足手纏いにはならないと思いますよ? 外観から見ても基本的な修繕は済ましていると思いますし、私達が今までに使ってきた数からしても“地形生成”アビリティの精密な操作もそれなりに出来ます」


「ハハ、そうかな。じゃあ、それを信じて行くか」


「はい!」


 足手纏いにはならないと言ってくれるユメ。実際、“地形生成”の精密な調整は割と慣れている方。ユメが信じてくれているように、足手纏いにならないように気を付けるか。


「ん? おお、ライトか! ユメも居るな! ソラヒメとセイヤは居ない様子を見ると、二人で来たのか!」


「ラディンか。ああ、そうだな。クエストも一通り終わったし、廃旅館だった建物の様子を見ようと思ってな。そして何か手伝いが出来れば良いなって思って近寄ったんだ」


「成る程な。それは助かる! 修繕箇所はまだ残っているのだ。それに、ボスモンスターの余波というか何というか、未だに瘴気しょうきが残っていてな……。回復出来る魔法使いのような職業が足りないんだ。エビネにも何度か手伝って貰っているが、一人だけではどうにもならず……加えて瘴気に当てられた小型モンスターも凶暴化していて作業が上手く進まない。その辺はツバキにも手伝って貰っているが、同等の理由で。……ともあれ、もうすぐ完成だからこそ、人手はいくら居ても困らないのだ」


「へえ。そりゃ好都合だな。戦闘メインの俺に様々な力を使えるユメ。今回の件に適任だ」


「ふふ、そうですね。ライトさん♪」


 曰く、諸々の理由から人手が必要との事。

 そう言えば考えた事無かったな。現実世界がゲームになったなら、ボスモンスター程の強大なモンスターと戦った時に余波や余韻が残る可能性は高い。

 前の竜帝のように通常攻撃で複数の山を焼き払い、地形を変えるどころか星の表面を削る程の破壊力を有する存在も居る。

 それがレベル五桁以上存在するこの世界のうちの、たったLv500。俺の予想じゃ、レベル四桁に達してようやく山河を破壊出来るくらいの攻撃力を有する事が出来ると思っていたけど、思った以上にレベルによる恩恵が大きいな。前にも似たような事考えたな……。


「それで、その瘴気しょうきが残っているのは……って考えなくても三階のあの部屋があった辺りか」


「そうだな。魔霊幽悪の余波が思ったよりも酷くてな。その場に存在するだけで自然が枯れていた。そしてそれは大きく広がっていたんだ。外に漏らさない為にも先に三階の修繕をおこなったんだが、結果的に瘴気が三階にだけ留まる形となってしまった。後の修繕箇所は一見完成しているように見える三階だけなのだがな」


「成る程な。後は三階を終わらせたら完成か。内装も少しは残っているんだろうけど、大部分が三階って事だな」


「うむ! そう思ってくれて構わぬ!」


 どうやら残るは三階だけらしい。確かに瘴気しょうきの事についての言及が多かったので、大凡おおよその推測は出来るだろう。

 けどまあ、それが分かれば案外やり易いかもな。ゴールが定められているって訳だし。


「じゃあ、行くだけ行った方が良いかな。モンスターはともかく、瘴気を力でどうこう出来るかは分からないけど手伝いに来たんだし、やるだけやってみるか」


「そうですね。私の魔法なら何とかなるかもしれません」


「そうだな。二人には期待している。レベルも我らの中で唯一の三桁。この世界がそう言う世界である以上、レベルによる影響の差は出てくるだろうからな!」


 目的地は決まった。というより、最初から決まっていた。

 なので俺とユメは廃旅館だった建物の三階へと向かうのだった。



*****



 ──“改装旅館・三階”。 


「うっ……確かにあまり良くない気配だな……気分が悪くなる……」


「ええ……そうですね……。何というか、埃なんか無いのに埃っぽいような、排気ガスとか出ていないのに空気が悪いような……不思議な、悪い意味で不思議な感覚です……」


「うむ……並大抵の者はこの場に数分居るだけで参ってしまう。毒などのような身体的不調から精神的に作用するものまで様々な悪影響を及ぼしているようだからな」


 廃旅館だった旅館の内装を見ながら進み、俺達は三階に来ていた。

 まだ三階に上がったばかりだが、それでも分かる程に空気が悪い。本当に三階全体が瘴気しょうきに満ちているようだ。


『『『ヂュウッ!』』』

【モンスターが現れた】


「ネズミ型モンスターか……。なんか、何となくネズミ型モンスターとのエンカウント率高いな、俺」


「場所が場所ですものね。ネズミが居るというのはそこが安全である証明でもありますけど、隙間から侵入する存在……この廃旅館も例外ではないという事ですね」


「うむ、そうだな。まあ、今更この程度のモンスターは問題無い。モンスターのレベルは少し上がって50。加えて瘴気に当てられているから攻撃力は上がっているがな」


 Lv50のネズミ型モンスター。ここではあまり大きくレベルが上がっていないみたいだな。

 以前に来た時の最大レベルは魔霊幽悪を除いて幽霊型モンスターのLv46。三階なのは変わらないので、4レベルくらい上がっていても不思議ではない。……て、また4レベル上昇しているのか。

 他の場所の平均レベルである70前後に比べたら低いが、この廃旅館は毎回4レベルずつ上昇している。多分この場……というより廃墟系のダンジョン? は首謀者が不気味になるように少し手を加えているんだろうな。


 それと、この廃旅館に来てから三階に入るまで敵のモンスターとはエンカウントしていなかった。ここで初だ。

 多分、順調な廃旅館の改装によって“ダンジョン”が“施設”扱いになる事でモンスターの出現率が下がった。もしくは完全に無くなったのだろう。


「ま、ネズミ型モンスター自体は無問題か」

「そうですね」

「うむ、そうだな」

【ギルドはモンスターを倒した】


 何はともあれ、初エンカウントもさておき敵のレベルだが、低いは低い。今ではLv120以上の俺やユメ。Lv80近くのラディン。今更Lv50前後は相手にならない。

 厳密なレベルで言えば、俺がLv127。ユメがLv124。ラディンがLv78。そろそろ上がりにくくなったのもあり、ユメは積極的に戦闘をおこなっている俺に追い付きそうなくらいだ。


 因みにソラヒメはLv127。セイヤがLv125と、これまたセイヤが追い付いてきている。ソラヒメと俺は戦闘加減も含めて積極的なのでほぼ同じ間隔でレベルが上がっている状態だ。

 前に色んなモンスターを倒して俺がソラヒメから1レベだけ抜いた事もあったが、比較的簡単なクエストしか受けていない今は同じだな。

 単体でクエストを受けたりモンスターを倒す事もあるが、どういう訳かソラヒメの方が高い経験値のモンスターを倒す事もある。これはあくまでも推測だが、ソラヒメは割と“運”にも得られた経験値を割り振っているのでそうなのかもしれない。


「……っと……ここからの瘴気しょうきが一番……鋭い? いや辛い……も違くて重いでもなくて強い……かな」


「その様ですね……より一層瘴気が際立っています……」


「何人かのギルドメンバーも待機しているが……中には入れないままで立ち往生している。死んでいるという意味の立ち往生ではなく、動けないという意味の立ち往生だ」


 そのまま時折現れるモンスターを軽く倒しながら進み、一番瘴気が強い部屋の前に来た。

 何人かの腕に自信があるギルドメンバーだったり回復系のスキルを扱える者が立ち往生しているが、瘴気が強過ぎて入れないみたいだな。

 確かにそれが賢明だ。こんなところで状態異常になれば色々と問題がある。いざという時は専用アビリティで戻れるが、万が一を考えればリスクを冒す方が問題だ。


「と言うかこの部屋……魔霊幽悪が居た部屋か……。確かに倒した時何かが散っていたし、その余波が残っているみたいだな」


「あの時しっかり確認しておけば良かったですね……」


「ううむ……まあ、致し方あるまい。あの時も若干急いでいたからな……見落としがあったのもしょうがない。問題はその余波がとてつもない早さで広がった事だな」


「うん? あ、ラディンさんにライトさんとユメさん」

「お疲れ様でーす」

「手伝いですか?」


「ハハ、別に敬語じゃなくて良いんだけどな。まあ、とにかく手伝いではあるな。俺達は瘴気しょうきを払いに来たんだ」


 俺達の存在に気付き、立ち往生していた者達が挨拶を交わしてくれた。

 若輩の俺に対して敬語なのはレベルが高いからと、何とも言えない理由からだ。当然本気ではなく揶揄からかい半分での敬語という事だが、何となく歯痒いな。


「取り敢えず、お前達は離れていてくれ。ここは我らが何とかする」


「あ、ラディンさん。了解でーす」

「分かりましたー」

「お気を付けて~」


 ラディンの姿を確認し、立ち往生していた者達は軽く交わして去る。この様子を見るに、あくまでも見張り役だったという事みたいだな。

 考えてみれば、いつ瘴気しょうきが溢れてもおかしくない状況で放置すればその方が問題だ。なので多くは仕掛けず、何とかしてくれそうなメンバーが来るまで待っていたらしい。これは正しい判断だな。……っと、上から目線になっちゃったよ。調子に乗ると痛い目見るのは火を見るより明らかだし、言動や思考には気を付けるか。


「よし、じゃあ開けるか」

「はい……緊張しますね……」

「この感覚……魔霊幽悪……悪霊と幽魔に初エンカウントした時みたいだ……」


 俺達三人は臨戦態勢に入り、左右で襖の前に立つ。左側に俺とユメ。右側にラディンが様子を窺う形で覗いていた。

 そしてそのまま、俺は慎重に襖を開けた。


『…………』

【モンスターが現れた】


「え……? どこに居るんだ……!?」


 開けた先の世界は閉め切られており、薄暗い和室。流石に新たに手を加えた。厳密に言えば造り出しただけあって以前とは比べ物にならない程に綺麗だが、俺達はその部屋を覗いた瞬間に脳内に響いた声と表記された言葉が気に掛かった。

 姿は見えないが、確かに不穏な気配はある。まあ、フィクションみたいに気配だけで全てを感知する能力は持ち合わせていないんだけどな。

 何はともあれ、改装途中の廃旅館。そこにある瘴気しょうきの佇む場所にて、俺達は目に見えないモンスターと相対した。

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