ステージ6-1 北側
──“北側”。
「行ったよライトー!」
「壁際に追い込んだ!」
「ああ、任せろ! ──“停止”!」
『……!?』
「今です! ──“スリープ”!」
『……! ……──』
ウサギ型モンスターである“スノーラビット”をユメが眠らせ、俺達はクエストを達成させる。題名は“スノーラビットの捕獲”。
それはその名の通りスノーラビットを捕獲すれば良いクエスト。その用途は食肉、毛皮の採集。
ウサギ型と言っても二、三メートル程の巨体と厳つい顔付きで見た目は普通にモンスター。しかし肉や毛皮はこの世界の雪国で重宝されるらしい。レベルも高くLv70。それなりに危険なクエストではあった。
そして現在、俺達が北側のギルドに来てから一週間と数日が経過していた。この世界がゲームの世界と融合してからはもう三週間だ。
そろそろ一ヶ月か。何体かのボスモンスターは倒したけど、あまり目立った功績はないな。
「これで今回のクエストも完了……ついでに東北地方制覇。マッピングは終わったな」
「思ったより早かったね~。やっぱり身体能力が強化されていて、もう新幹線並みの速さで動けるし二倍の大きさになっている一つの地方もマッピングだけなら簡単に出来るみたい」
「モンスターのレベルも然程上がっておりませんしね! この辺りの平均でLv70前後。それなりですけど、一週間前の私達でも攻略出来る程度です」
「けどまあ、順調にインフレはしているね。やっぱり僕達のレベルに合わせてモンスター達が強化されているのか」
「ハハ、まあそれはこの世界になってから一週間ちょいで分かっていた事だな。けど、周りにもプレイヤーやギルドメンバー仲間が居るし、急に三桁レベルが頻出したり急激なインフレは起こらないみたいだ」
俺達がクエストを受けていた理由、それは現在の東北地方のマッピングを行いつつ、資金集めや“NPC”からの信頼集め。その他諸々を得る為である。
マップはあるので、その場所を見ればより詳しく記される。ついでに“転移”の範囲も広がる。前述したようにクエスト成功による利点もあり、一石二鳥どこの話ではない利益を得られるのでクエストを行いながらマッピングをしていたのだ。
それによって俺達のレベルも一週間前に比べて10くらい上がったし、成果は上々だな。
そしてモンスターのレベルが俺達に合わせて上昇しているという事に関しても、もう大分前に確信に至っている。
北側ではまだ魔霊幽悪以外のボスモンスターに出会っていないが、得られた自己成果の総合評価はかなり高いだろう。
「まあ、俺達はインフレにも対応出来ている。竜帝とかを経て元々のレベルが高かったって言うのもあるんだろうけど、平均Lv70前後のモンスターが相手でも問題無いからな。それに、敵のレベルが高くてもギルドメンバーの特権のお陰である程度は戦えているからな」
「ふふ、そうですね。当初はかなり絶望感を覚えましたけど、竜帝との戦闘は精神的な力を鍛える方面でも上手く作用したみたいです」
「そうだねぇ……前に戦ったボスモンスターの魔霊幽悪も状態異常以外は問題無かったし、私達って思ったより強くなっているのかも!」
「まあ、苦労もそれなりにするけど、強くなっているというのは本当にそうかもしれないね。レベルが証明みたいなものだし、僕達以外の人達のボスモンスターとのエンカウント率も低い……レベルだけなら全世界でも見て良い線行っているんじゃないかな?」
レベルが高くなり、クエストも順調に成功しているので俺達にはある程度の自信が付いてきていた。というより、一週間程前のライフとの騒動。それをようやく乗り越えられたのかもしれない。
あの時ゲームオーバーになってしまったプレイヤー達や元凶だったライフ本人の十字架も背負っているが、少しは気分が晴れたかもな。
「さて、取り敢えず北側のギルドに戻るか。東北地方は、全ての場所はともかく、都市だった場所や拠点になりそうな場所のマッピングは終えている。まあ、あくまでも元六県に踏み込んだってだけだけど、それはさておき。次は北海道方面に進んで南西に向かったサイレン達と情報共有をするか」
「そうですね。最後に情報を共有したのは一週間程前にボスモンスター討伐の報告をした時以来でしょうか? 定期的に帰ってはいますけどサイレンさん達とは会いませんし、情報共有をする機会も久し振りな感じがします」
「そうだねぇ。みんな元気かなぁ」
「まあ、元気だろうね。昨日も僕達のギルドには戻ったし、サイレン達と出会わなかっただけで順調という事は分かった」
今現在、俺達の拠点は活動領域を広げる為にも北側のギルドにしているが、当然自分達のギルドにも定期的に帰っている。そうしなくちゃ報告も出来ないからな。
南西に向かったサイレン達とは滅多に出会わないが、ゲームオーバーになったという報告も無いし順調なんだろうなという事は理解出来た。
ともかく、今は北側ギルドに報告だな。俺達はギルドメンバー専用アビリティの“転移”を使い、一瞬のうちに北側のギルドへと帰った。
*****
──“北側のギルド”。
「お帰りなさいませ。ソラヒメ様。ライト様。ユメ様にセイヤ様。クエスト達成、お疲れ様です。報酬金は振り込んでおきました」
「おお、お疲れさーん。フローライトさん」
「お疲れ様です。フローライトさん」
「お疲れー。フローライト!」
「ああ、お疲れ。フローライト」
北側のギルドに戻るや否や、フヨウ=フローライトさんが出迎えてくれた。
“NPC”とは言え、美人な受付が出迎えてくれるというのは心が洗われる。俺達のギルドに居るアマリリスさんも美人だけどな。受付嬢って言うのは案外精神的な支柱なのかもしれない。
「ソラヒメ一行、クエスト達成しましたーっと」
「ハッ、相変わらず簡単にクエストを塾しては気が抜ける言い方で帰って来るな……まあいいか。お疲れ」
「ん? ツバキだけか。ラディンやエビネ達は?」
「互いに別動隊で行動中だ。俺達のギルドの中じゃ、俺、ラディン、エビネの三人がボスモンスター討伐の経験値もあって一番レベルが高くなったからな。二人はソロで行動する事もよくあるんだ。……ま、俺もだけどな」
「成る程な。けど、確かに近場なら俺達もソロで行動する事がある。いざという時もすぐに帰って来れるしな。オーケー、分かったよ」
ギルドメンバー専用部屋に入り、迎えてくれたのはツバキ。
他のメンバーも言葉は返してくれたが、真っ先に話し掛けてくれたのがツバキだったのでそのまま会話に移行した。どうやらラディン達は留守にしているらしい。
まあ、今じゃレベル三桁に迫るラディン、ツバキ、エビネの三人。元々北側ギルドでの地位もあり、自由行動が割とあるのだろう。
「ただいま帰りました。あら、ライトさん達もお帰りみたいですわね。お帰りなさい」
「ああ、ただいま。エビネ……って、エビネは今戻って来たし、おかえりを言う立場が逆な気もするな……」
「フフ、そうでしたか? 何はともあれ、お疲れ様ですわ」
「ああ、こちらこそ」
ツバキと話しているとエビネも帰って来た。見たところ簡単なクエストを終えたのだろうという事が分かる。
現在、この街のプレイヤー達も含め、俺達ギルドメンバーが積極的にクエストを受けているので近辺の安全は割と確保されてきていた。強いモンスターなども積極的に倒す事であまり戦いたくないプレイヤー達に安全な地を提供すると言うのが今の方針だ。無駄に命を落とす必要は無いからな。
「そう言えば、ラディンはどこに行っているんだ? 別々で行動していたみたいだけど?」
「ラディンさんなら廃旅館の整備の手伝いですわね。水龍が居るのであの辺のモンスターに派遣メンバーがやられる事はありませんが、なるべく早く冒険途中の他プレイヤー達に安全な地を提供したいらしく、自ら赴いて手伝っておりますわ」
「成る程な。確かに本来のゲームでも近くに街が無くて体力やステータスが悪い時に回復ポイントを見つけると安心出来る。ダンジョンを抜けた先の回復ポイントも然り。あの辺りには街も無いし、早いところ完成すると良いな」
「フフ、本当にそうですわね。もう戦争を行う国もほぼなく、平和的だった世界に突如として訪れた危機。せめて安全地帯はいくつか確立させておきたいところですわ」
どうやらラディンは整備メンバー達と共に廃旅館の整備を行っているらしい。随分と積極的に行動するギルドマスターだな。まあ、サイレンもそんな感じか。
公共施設みたいなギルド。リアルに寄せるなら街の治安維持とかモンスターの討伐とか国からの要請に対する行動とか……後はまあ、完全な偏見だが、上層部に送られてくる報告書や書類の山の処理とかで忙しいんだろうけど、この世界のギルドは他のプレイヤーとあまり変わらないからな。自由に行動は出来るんだろう。
「けど、ギルド支部か。北側だけの問題じゃないし、行って確認しておこうかな。ユメ達はどうする?」
「私も興味あります。一週間でどれ程変化したのか、考えるだけで楽しみですから! 行きます!」
支部予定地の確認。ギルド全体の問題なので俺は行ってみる事にした。だが、特に危険は無さそうなので俺は一人で行くつもりだった。
しかしソロプレイをし過ぎると怒られるので一応ユメ達に確認し、一先ずユメは行く気満々だった。ハハ、相変わらず可愛いな。……と、キザな人っぽい事を考えてしまった。まあいいか。
そして残りの二人。ソラヒメとセイヤは少し考えて言葉を発した。
「うーん、ライトとユメちゃんか……ふふ、良ぉし。この方が面白いかもね。……うん、私は今回はパスにするよ。たまには観光でもしよっかなぁ。姉弟水入らずでさ。ね、セイヤ!」
「殆ど強制じゃないか。まあ、僕も気になるところではあるね。今回はソラ姉の案に乗るよ」
どうやら二人は行かないみたいらしい。ソラヒメが何かを企んでいる様子だが、廃旅館に行ったとして、帰って来たら何かしらのドッキリでも仕掛けてくるのか? 一応警戒はしておこう。
「そうか、二人は行かないのか。ユメ。俺と二人だけで行動する事になるけど良いか?」
「え!? ライトさんと二人……あ、はい! 構いません!」
「オーケー。じゃあ行こうか。まあ、厳密に言えばラディン達他のギルドメンバーも居るし、二人っきりって訳じゃないんだけどな」
「そ、そうですよね!」
……っと、わざわざ“二人”って部分を強調するんじゃなかったな……。引かれたかもしれない。いや、今更か。何か俺に対する態度によそよそしさが見られるし、心の中で距離を置かれている可能性もある。あまり変な発言は止すか。
何はともあれ、ツバキやエビネも行かないみたいだし、少なくとも今居るメンバーの中で確認に向かうのは俺とユメだけか。……他のメンバーも居るって分かってるけど、意識したら緊張してきたな……。
「じゃあ、二人で一緒に行くか。旅館に!」
「はい、ライトさん!」
あれ? 今の発言もマズかったかも。
「あ、ユ、ユメ。一緒に行くって言うのはその……デ、デートとかじゃなくて、あくまでも確認だからな。変な意味は無いんだ。気分を悪くしないでくれ……」
「え? あ……はい……。そうですね。あくまでも確認ですよね……」
ユメは肩を落とし、少し機嫌悪くなってしまった。
これは……今のフォローが逆に悪い方向に向かったかもしれないな……。俺がユメに気があるって思われる可能性もあるよな、あの言い方だと。いや、それ自体は問題無いんだが、また引かれたかも……何とかして嫌われないようにしたいが、俺にとってユメは高嶺の花。嫌われたらその時は仕方無いって諦められるんだけどな。
「もう! 二人とも! 行くなら早く行っちゃいなよ! それと、今のは色々分かっていないライトが悪い! ユメちゃんも大丈夫だよ!」
「え? あ、はい! ソラヒメさん! それと……その……頑張ります……!」
「ん? あ、ああ。分かった。ソラヒメ。ユメにも変な事言っちゃって悪かった!」
「はい。大丈夫ですよ。ライトさん。私、気にしませんから!」
「そうか。それなら良いんだ。俺も頑張るか!」
何はともあれ、互いに少し気まずくなった俺達だが、ソラヒメの加入によって普段の調子に戻る。姉御肌とはまた違うが、こう言う時にソラヒメの存在には救われている。セイヤはやれやれと首を振っていた。悪かったな。
そして俺達は“転移”を使い、建設途中のギルド支部予定地、廃旅館に向かうのだった。




