ステージ5-12 北側のギルド
「お、雪道を抜けるぞ! そろそろ街に着く! 街に着いたら数十分でギルドだ!」
「やっとか……寒くて長くて疲れた……まあまだ数十分進むみたいだけど……」
「はい……なるべく急いだんですけど……二日は掛かってしまいましたね……」
「ラディン達が来た時は四日だっけー……道を知っているから短縮は出来たみたい……」
「それと……確かに雪道は抜けて建物も見えてきたけど、街中も相変わらずの雪道な気がするんだけど……」
「ハハ。ま、これでもあまり積もってない方だ。そもそもこの辺りは、本来の世界では雪もあまり降らなかったしな。雪道も白い見た目だけでそこまで足は取られない」
「そうですわよ。それに、強化された身体能力を誇るこの世界なら体力も問題ありませんわ」
現在、たまたま寄った廃旅館で出会ったボスモンスター魔霊幽悪を倒してから二日が過ぎており、俺達はようやく北側ギルドがあるという街に辿り着いた。
感想で言えば、遠い。そして寒い。そして何より疲れた。戦闘以外じゃあまりスタミナを消費しない、身体能力が大きく強化されたこの世界でこれ程の疲労感。元の世界での雪道ってかなり大変なんだろうな……。まあ、夜とかは“転移”で俺の家とか拠点に戻れるから何事もなく終えられた。
本当にギルドメンバー専用アビリティって便利だな。そして魔霊幽悪についての報告も既に終わらせている。やる事はちゃんと終えて到達した感じだ。
因みに廃旅館は、ある程度の掃除や片付けだけはし、水龍をマスコット兼任の見張り役として置いてきた。元々の棲みかではあったので、置いてくる事に対して特に問題は無かった。
加えて、その後はボスモンスターや強敵などとも出会わず、何人かの一般プレイヤーとすれ違いはしたが何事もなく到着出来た現在。かなり疲れたけど、二日も短縮して来れたのは結構早い方なんだろうな。
「ここに戻ってくるのも久し振りだな。……と言っても拠点はここだったし、この二日間で最低二回は帰っているのだけどな! ハッハッハ!」
「ラディン達にとっては日帰り旅行みたいな感じだったのか。……まあ、拠点に一度帰っていたって事は俺達も同じだけどな」
雪道を抜けてもなお気力があるラディン。たくましいな。北国って言うのは寒さとかから精神的に鍛えられるのか? いや、ラディンは多分その中でも特別な方なんだろうな。考えるのはやめておこう。
何はともあれ、辿り着けたのは進展だな。拠点に帰った時にある程度のアイテムも補充していたし、二日前にボスモンスターを倒したしでそれなりに順調だ。
「それで、このまま真っ直ぐギルドに向かうのか? それとも何か準備するのか?」
「うむ! このまま向かおう! 早いところ紹介したいしな!」
「オーケー……けど、改めて見ると……本当に景観が変わっているんだろうな。今時ビル群が無い場所の方が珍しいのに、ビルの残骸はあってもビルは完全に無くなっている」
「ハッハ! アップデートで大きく地形が変化したからな! 基本的に更地だが、村がある。だから“NPC”もそこそこ居て情報収集には困らぬぞ! 特に成果のある情報は手に出来ていないけどな!」
北側の様子を見やり、率直な感想を述べる。
俺達のギルドでラディン達が言っていたように、全体的な、俗に言う都会という街並みが破壊されて田舎という表現に合う景観になっていた。
周りには田畑が広がっており、透き通った川から水を引く水路も水車ある。てか、水車ってかなり珍しいものがあるんだな……。
土の道や一部に石畳の道が造られていて建物は基本的に木造建築。屋根は茅葺き屋根であり、中世日本の田舎のような光景。そんな屋根からは本来は違うが、北側に設定された季節特有の氷柱が垂れており、そこに住む“NPC”の姿もちらほら見えた。
全体的に田舎だけど、悪い場所じゃないな。寒さはあるけど空気が澄んでいる。よく聞く不便な田舎という訳ではなく、フィクションの世界に存在する心地好さそうな田舎。何かの物語が始まりそうな雰囲気が漂っていた。
「良い雰囲気だな。この世界じゃどこの場所も不便だし、純粋に景観を楽しめる」
「ハッハ! 褒めてくれるのは嬉しいな! 地元を褒められると気分が良い!」
新たな感想を述べ、それに対してラディンが楽しそうに笑う。確かに自分の地域を褒められるのは嬉しいな。人によっては違うんだろうけど。
俺達七人は浅くなった雪道を歩んで進み、俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人は興味深く辺りを見渡して進む。
家に田畑。川に草木。見所は色々ある。今は失われた古き良き景観だ。都会から離れてこう言った光景を目にするのも良いかもな。
そして横目に映ったのは長い階段と鳥居。
「へえ。こんなに長い階段とか本当にあるのか……鳥居があるって事は神社か? いや、まあ神の通り道は寺にもあるにはあるけど」
「ああ、そうだな。ここは神社だ。大晦日とか初詣の時にお参りに行った事もあるぞ! あと、近場に寺もある!」
「成る程な。こんな世界だと神社には本当に神が居そうだな。寺には仏が居そうだ。モンスターか“NPC”としてのな。……それにしても、大晦日と初詣か。お盆や彼岸に死者の魂を迎えた後でハロウィンにも死者の魂を祭って、クリスマスに隣人って言う名の赤の他人の誕生日を祝ったり、その後に大晦日や初詣……考えてみれば不思議な国だな、この国は」
「ハッハッハ! 多様性があって良いではないか! 臨機応変に対応しているという事だからな! ある種の環境適応能力みたいなものだ!」
ギルドに向かう途中、目に映る物に対して指摘しつつ雑談を行う。
雑談をする程度の余裕は出てきたな。確かにさっきまでの雪道と違って割と歩きやすい。むしろさっきまでが歩きにく過ぎたというべきか。
それはともかく、歩いているだけなら割と楽しい。元の世界じゃ旅行とかはあまり好きじゃない方だったが、この世界なら消耗する体力も少ないので動くという行為が楽しいな。いや、綺麗な光景は好きだし、俺は旅行が好きじゃないというより、疲れる事や人混みに巻き込まれる事が好きじゃなかった訳か。元の世界での行いに対して新たな発見もある。
「お、そろそろ見えてくるぞ。彼処が我らの拠点としているギルドだ!」
「……! あそこか……! なんか、この光景にミスマッチな場所だな……」
そんな事を話しているうちに目的地である北側のギルド。高層建造物が目に映った。
なるべく景観に合わせようという首謀者の気概は見えるが、この街並みにあんな高い建物は似合わないな。せめて和風の城って感じなら合っていたんだろうけど、基本的には俺達のギルドと同じって言っていたし内装もそんな感じなのだろう。一部に組み込まれた和風の景観というのはどんなのなんだろうな。確かに一部は和風みたいだ。チラリと雪が積もっていない枯山水の庭園も見えた。
個人的な意見だが和風のイメージだと北側というより南西ギルドにありそうだが、案外至るところに和風建造物はあるのかもしれないな。
何はともあれ、俺達七人は北側のギルドに到着するのだった。
*****
──“北側のギルド”。
「成る程……表記からして北側のギルドか……日本国内だけじゃなく、世界各国がこの世界なんだろうし日本支部・北側のギルドって言うのが正式名称なんだろうな」
「アハハ……位置指定は割と長い表記もされている筈ですけど、ギルドは分かりやすいように短縮名なのでしょうか」
「ハハ、そうかもしれないな」
上に映った文字に指摘しつつ、俺達はギルド内へと入る。
北側か。日本より北側に位置するギルドの人がこれを見たらどんな反応するのか気になるな。まあ、今の世界じゃ海外旅行も簡単には出来ないんだろうけど。
「内装は……本当に俺達のギルドに近いな。いや、世界に存在するギルドは全部内装が近いのかもしれないな」
「そうだろうな。本当に一部が少し違うだけだ。首謀者は自称エンターテイメントの快楽主義者。だからこそ全てを同じにはしないのだろう」
内装は木造が主軸であり、全体的に和風なこの街にはあまり似つかわしくない景観。全体的に俺達のギルドと似ているが、首謀者が首謀者なのでその理由も分かる。
だが、ラディン達が言っていたように一部が和風。畳張りのスペースもあり、ギルド内にも関わらず庭園のような白い庭石が敷き詰められており、松の盆栽。鹿威しやどこから流れているのか分からない小さな滝などがあった。
「お帰りなさいませ。ラディン様。そちらはソラヒメ様方のパーティですね」
「おう、ただいま。フローライト」
「あ、そう言えば俺達はソラヒメのパーティか」
「そう言えば……すっかり忘れていました」
「そう言えばそうだったね~」
「ソラ姉が自分から懇願したのに忘れちゃうんだね……」
周りの様子を窺いながら受付に着くと、フローライトと呼ばれた女性NPCなが挨拶を交わした。そして俺達はソラヒメがリーダーという事を思い出す。
「ソラヒメ様方。御初に御目に掛かります。私はフヨウ=フローライト。ここで受付を行っております」
「あ、どうも。知っているようですけど、ソラヒメと言います」
「えーと、その仲間のライトです」
「あ、ユメです!」
「セイヤです」
フヨウ=フローライトさんに自己紹介され、知られているのだが何となく名乗ってしまった。
名前からしてフヨウは花。フローライトは宝石。俺達のギルドに居るパール=アマリリスさんと言い、基本的に花と宝石の名を持つ女性が受付を行っているみたいだな。
フローライトさんは桃色のショートヘアで目の色が青紫。そう言や、アマリリスさんは髪も目も白かったから気付かなかったけど、目の色は宝石。髪の色は花を表しているみたいだな。
まあ、フヨウもフローライトも色んな色があるけど、そのうちのピンクのフヨウ。青紫色のフローライトが選ばれたらしい。理由は分からない。
「ハッハッハ。挨拶も済んだみたいだし、俺達はギルドメンバーの部屋に向かう。この者達は客だからな」
「はい、かしこまりました。それではお通り下さい」
フローライトさんに言われ、俺達四人はラディン達三人の後に続く。周りの様子を見れば少しばかり目立っている様子だった。
まあ、ギルドマスターのラディンに他所のギルドメンバーである俺達が居るんだ。一般プレイヤーからすれば物珍しい光景だろう。元々それなりの実力者でなければ遠征に出る事も出来ない。高確率でゲームオーバーになるからだ。
他県。国内が更に細かく分けられているこの世界の言い方なら他国。他国からの客は稀少な存在だ。
それから内装をある程度眺めながら進み、俺達は北側のギルドメンバー専用部屋に入った。
*****
「お前らー! 今帰ったぞォ! 久し振りだな!」
「ウーッス、ラディンさん。昨日振り」
「ラディンさんはどうでもいいとして、君達が例の協力してくれるギルドメンバーか。俺達が北側のギルドメンバーだ。と言っても、ラディンさん、ツバキ、エビネ以外の主力の四人は今はいないけどな。ともかく、協力感謝する。それと、これから俺達をよろしく頼む」
「え? あ、はい。よろしく……」
挨拶をしたラディンは一名以外に無視され、ギルドメンバーの一人が俺の前にやって来た。
俺は手を取り、そのまま言葉を返す。
成る程。俺達のギルドに来たメンバー七人は北側ギルドの主力だったのか。
「……えーと、と言うかラディンは良いのか?」
「ラディンさんはいつもあの調子だからな。昨日一昨日と戻ってきた時も久し振りって言ってワープしてきたよ」
「あー……何となく分かるな」
「ハハ。その様子じゃ、ギルドからここまでの道のりでラディンさんの性格は分かり切っている感じだな」
割と気さくなギルドメンバー。ま、特に怪しむ必要もないか。ラディンからして明るいし、普通にこう言う性格なのだろう。
何はともあれ、後は具体的に話を聞くか。
「それで、ラディン。協力って言っても、俺達は何をすれば良いんだ?」
「ああ、そうだな。まあ、やる事は基本的に変わらない。クエストの受注か、ボスモンスターの討伐。そして活動領域の拡大だ。まだまだやる事は多いからな。特に後者、活動領域を広げる事が一番の目的だ。そのついでにボスモンスターなどとも会う事もあるだろうからな。それと、北側のギルドメンバー達にもやって貰いたい事がある。まあ、ある程度は昨日、一昨日に話した通り。ここに来るまでの途中にあった廃旅館の整備だ」
俺の質問に答えるラディン。
成る程な。確かにやる事は基本的に変わらない。北側の更に向こう側、北海道からロシア方面に活動領域を広げる事が出来れば行動も起こしやすくなる。
そして北側のギルドメンバー達もギルドメンバー達で、二日前にボスモンスターと相対した廃旅館の整備を任されたらしい。ギルドの支部があればこれまた活動がグッと楽になり、一般プレイヤーも安全が増える。何も異論は無いだろう。
「よし、分かった。じゃあ俺達は暫く北側で活動すれば良いんだな。氷雪ステージについても色々調べられるし、海外での活動も出来るようになるかもしれない」
「私も問題無いよ~! 楽しそう!」
「私も大丈夫です。お手伝いなら任せてください!」
「僕からも異議はないね。むしろ、異議があったらその異議に異議を申したいものだ」
今後の活動方針は決まった。それによって暫く北側で過ごす事になるのだろうが、専用アビリティの“転移”があるので方角の有無はあってないようなものだろう。
ゲームになってしまってから早二週間近くが経過した。この世界ではまだまだ分からない事が多い。だが俺達は、少しずつでも前へと進めている。
今後の活動をより良くし、この世界の攻略を遂行する為の冒険はまだ続くのだった。




