ステージ5-11 魔霊幽悪
『アゥアゲギャア!』
「後はもう、通常攻撃しかしてこないな……!」
状態異常は既に確認済みの様子。故に魔霊幽悪は槍を用いて嗾けた。
日の光は太陽の移動によって少しズレている。だから動けたみたいだ。
『ウァアァ……』
「……っ。部屋に移動した……!」
距離を置き、飛び退くように離れる。
やっぱりここはマズイと理解しているようだな。基本的に自分の弱点は把握しているのか。
ともかく、少なくとも今はゲームオーバーの危険性が無くなった。後はこの状態異常を何とかしたいところだ。
「ユメかラディンかエビネ……職業柄、状態異常に対するスキル持ってたりしないか?」
「そうですね……少し……調べてみます……」
「うむ……俺もこの状態じゃマズイからな……賛成だ……」
「そう……ですわね……後ろ向きな思考は自分に嫌気が差してその心境をより際立たせてしまいます……」
そう言い、三人は自身のステータスを確認した。
しかし全員、自己分析出来るだけの調子ではあるらしい。まあエビネの場合は、だからこそ自殺願望がより増す。……とも言えるか。
「どうだ?」
「うむ……俺に目ぼしいスキルは無いな……守護をメインとしているのもあるが、味方の防御力を上昇させるスキルはある」
「私は……あ、ありました。“セラピー”というスキルみたいです……」
「私は……ありましたね。“療法鈴”……名前からして体力回復というより状態異常回復の効果がありそうですわ……」
そして、思いの外簡単に見つかった。
ラディンには無かったようだが、魔法使いと巫女である二人には適応するスキルがあったらしい。
それはありがたい。もう一度あの部屋に入るに当たって、状態異常の治療は必要だ。そうしなくては勝負にすらならない。俺達がやられるという方向の意味で。
後一撃でも受けたらラディン達はゲームオーバー。デバフは無いに越した事はない。
「それでは、使いますね。“セラピー”!」
「“療法鈴”!」
その瞬間、ユメが杖を振るい、エビネが神楽鈴を鳴らした。それによって辺りに優しい光が走り、俺達全員の身体がその光に包み込まれた。
包み込まれると同時に俺達の肉体に変化が生じ、一気に身体が軽くなる。俺の歪んでいた視界が開け、頭痛が消え去った。
「おお……凄い効き目だ……即効性の治療薬があるならこんな効果なんだろうな」
「はい。私も治りました。……あと、その……ライトさん。さっきまでの私は状態異常のせいなので……気に……しないで下さいね……」
「ん? あ、ああ。大丈夫だ。分かっているから……」
ハハ。やっぱり脈なしか。遠回しにフラれたようなものだな、今の発言は……。
まあ、治って良かった。うん。今回はそれが一番だ。
「何か気分が晴れたかも! やっぱり私は元気じゃなくちゃね!」
「やれやれ。やっと戻ったよ。我ながら恥ずかしいものだ。僕の黒歴史に刻まれたかな……」
「よし、俺も治った。頭痛は無くなった。寒気も熱も完全に消え去ったぞ!」
「俺も、やる気が戻ってきたぜ。ま、体力はもう底に尽き掛けているけどな……」
「そうですわね……さっきまでの思考はアレでしたけど、本当にマズイ状態ですわ……」
「そうか。ラディン達はかなりのダメージを負っていた。まずは回復したいところだな……頼りっ切りになるけど、ユメとエビネに回復の体力スキルはあるか? もしないなら“転移”で戻った方が良い」
ソラヒメ達とラディン達も本調子に戻ったが、ラディン達三人は体力が限界に近い。スタミナではなく、命的な意味での体力が、だ。
なので俺はもう一度ユメ達に訊ねる。人に頼りっぱなしと言うのも思うところがあるけどな。……いや、ユメ達にも自分を頼って欲しいとは言われたっけ。独り善がりじゃなく、頼れる仲間は頼ろう。
「はい。えーとですね……あ、ありましたよ。“ヒール”。文字通り回復スキルです」
「私もありますわ。“療法鈴”は多分、今回レベルが上がった事で身に付けたスキルですけど、元々回復スキルの“癒しの音色”を使えます。それと、回復の必殺スキルである“治癒ノ神”もありますわ」
「良いな。流石の二人だ。それにしても“治癒ノ神”か……巫女だけあって、口寄せで神を降ろせるのか……」
「フフ、神様と言ってもゲーム内のデータの神。機械仕掛けの神とは違いますけど、本物の神様ではありませんわね。そもそも、本当に神様という存在が居るのかも分かりませんし」
「ハハハ……巫女なのに神は完全に信じていないのか。まあ、俺もどちらかと言えば神は信じていないけどな」
「まあ、見たことありませんしそう言うものですよ。ともかく、早速回復しますね。“癒しの音色”」
「私もやります。“ヒール”!」
その瞬間、ラディン達のみならず俺達の体力も回復した。
二人が回復スキルを使ったから効果範囲も広がったのか。これはありがたいな。状態異常が治ったと言っても、敵はLv180のボスモンスター。体力があるに越した事はない。
「よし、じゃあまた仕掛けるか。みんな、くれぐれも無理はしないでくれよ」
「ふふ、ライトさんがそう言いますか。一番心配なのはライトさんですよ?」
「そうだね! ライトには本当に困ったよ!」
「ソラ姉が言えた事でもないけどね」
「まあ、何はともあれ、我らは足手纏いにならぬようやるか」
「そうだな」
「ええ、勿論ですわ」
状態異常も体力も回復はした。それは万全の態勢になったと言える。準備を終えた俺達は再びボスモンスター、魔霊幽悪の居る部屋に向けて入って行くのだった。
*****
『アァァウァアゲギャア……!』
「初手状態異常か……!」
「今度は遅れを取らぬ! “聖なる守護”!」
【スキル“怨念波”】
俺達が部屋に入った瞬間、魔霊幽悪が再び状態異常付与スキルを放出した。
俺達が状態異常を解除したって分かっているのか? しかしラディンが今までとは少し違う守護スキルを使い、怨念の波を防ぐ。
本当に守護スキルの数が豊富だな。純粋な攻撃を防ぐ“聖なる壁”。状態異常を防ぐ“聖なる守護”。それらを最大級に仕上げた必殺スキルである“神の守護”。敵に回したら厄介だが、味方ならかなり頼もしいな。
「状態異常さえ防げれば……レベル差はあってもこっちのものだ!」
『アゲギャア!』
光剣影狩を用いて仕掛け、魔霊幽悪は槍でそれを受け止める。敵の動き自体は単調。なので簡単に動きを見抜く事は出来ていた。
だからこそ状態異常を多く扱って自分の戦いやすい環境を形成しているのだろう。
「っと、そうだった。光を放出する何かで仕掛けないと意味無いんだったな」
『アギャゲァ!』
「けど、敵の動きは簡単に見切れるね! “炎拳”!」
『……ッ!』
再び槍を振り回して仕掛けるのが、その横からソラヒメが殴り付けて霊体の筈の身体を吹き飛ばした。
殴り飛ばされた魔霊幽悪はフワフワと揺れながらも壁に激突し、即座に起き上がって逃げるように天井へと離れる。
体力は少し削れたな。既にユメとソラヒメも“夢望杖”と“空裂爪”を装備している。だからこそ、その少しはそれなりという意味を踏まえた少しだ。俺の攻撃を食らわせてもこれくらいだったし、別におかしくないな。
「“シャイニングボール”!」
『……ァア……!』
少し離れた天井にはユメが仕掛ける。光球が直撃して目映い光と衝撃を醸し出し、魔霊幽悪は怯みを見せて落下した。
「透かさず狙う。“火炎矢”!」
『ギェアェェェ……』
落下した魔霊幽悪にはセイヤが炎の矢を放って強襲。魔霊幽悪の身体が炎上して悶え苦しみ、和室の周囲に火が灯る。それによって更なる光が生まれ、より一層ダメージを与えた。
「“聖なる槍”!」
「“火炎刀”!」
「“浄化鈴”!」
『ウゲェギァアア……』
その間にラディン、ツバキ、エビネの三人が同時にスキルを放つ。
光の槍が実体の無い身体を貫き、炎がその身体を燃やす。神楽鈴によって響いた音が更に震わせ、魔霊幽悪は怯んだ。
レベル的に見てもラディン達一人一人は低い。なので三人同時に仕掛ける事で威力を増強させたのだろう。
半分がゲームであるこの世界に置いてスキルの掛け技があるのかは分からないが、半分が元の世界である以上、何らかの効果は出てくるかもしれない。
ともあれ、体力にはまだまだ余裕がある。俺達も光剣影狩などの武器で仕掛けているので、このままスキルを放っていけば勝てるだろう。後は霊体特有の回復スキルなどを使ってこない事を祈るか。
「ダメージはまずまず……やっぱり通常スキルじゃなくて、必殺スキルで攻めた方が良いかもな……!」
「賛成! そうしなくちゃいつまでも倒せないからね!」
「はい! それに、また状態異常に掛かってしまったら元も子もありません!」
「右に同じ。一気に攻めようか……!」
「うむ、我らも当然参加だ!」
「あたぼーよ!」
「ええ、そうした方が良いですね……!」
通常スキルは使っているが、それでもチマチマ進めている事に変わりはない。故に、削り切れるかは分からないが必殺スキルをフル活用して嗾ける事にした。
『アウギャゲギャアアア……!』
【スキル“怨念旋風槍”】
「敵も本気……やられっぱなしって訳にはいかないか……!」
俺達に向け、魔霊幽悪がスキル。おそらく必殺スキルを放出。
竜巻のような怨念と高い貫通力を誇る三又の槍が周りの畳を剥がし、日差しを影で包みながら先程広がった火も掻き消して正面から迫り来る。
「さて、どうするの? ライト!」
「どうしますか?」
「当然、正面突破だ……!」
「まあ、そうなるよね」
「異議なし!」
「右に同じ!」
「同じく……!」
レベル差があればスキルは相殺出来る。今回は敵の方がレベルも高いが、こちらは七人で一気に迎撃する。それなら互角に持ち込めるかもしれない。
だからこそ、俺達は構えた。
「──伝家の宝刀・“天空剣”!」
「──究極魔法・“轟炎乱火”!」
「──奥の手・“炎雷拳”!」
「──リーサルウェポン・“聖なる矢”!」
「──聖騎士道・“聖神の進軍”!」
「──伝家の宝刀・“雷神刀”!」
「──神憑き・“光ノ神”!」
一気に放つ、必殺スキル。それらの中には今回が初お披露目のモノもちらほら。ソラヒメ達も新たなスキルを覚え、今までそれを使う機会が無かったようだ。
そしてツバキのは必殺スキル自体が初めて見たな。
偶然か否か、北側ギルドのラディン達は神に関する必殺スキルを多く持っているらしい。神社が多い県はサイレン達の向かった南西側だが、確かに北側。東北側にも神話は多いな。まあ、今回はただの偶然だろう。
俺達の放った必殺スキルと魔霊幽悪の放ったスキルが正面衝突を起こす。
俺の放った“天空剣”によって天の光が差し込み、ユメの放った“轟炎乱火”が目映い光を放出しながら辺りを焼き尽くす。ソラヒメの“炎雷拳”がそれを更に上乗せし、セイヤの“聖なる矢”が光の線を描きながら加速。ラディンの“聖神の進軍”が更に覆い、ツバキの“雷神刀”とエビネの“光ノ神”が斬り込むように融合した。
光と闇が鬩ぎ合い、中心で渦巻いてこの部屋のみならずこの階層全てを吹き飛ばす。その衝撃は凄まじく、俺達は全員がその部屋から外へと弾き飛ばされた。
「……っと、ユメ!」
「ライトさん!」
「大丈夫ー? セイヤー?」
「ああ、何とかね……」
「“聖なる壁”! 大丈夫かお前達!?」
「ああ、助かったぜラディンさん」
「ええ。助かりましたわ……」
吹き飛ばされた衝撃はかなりのもの。俺はユメの手を掴んで落下を防ぎ、ソラヒメはセイヤを掴んで抑える。ラディンが背後に壁を張り、ツバキとエビネも助かった。
確か、こんな風に落下する人を片腕で引き上げるには相当な力が必要なんだっけか。この世界じゃなきゃ俺諸とも落下していたな。危ない危ない。
『ァアァァ……』
「まだ倒れないか……けど残り体力、あと僅か……階層その物が吹き飛んだから日差しに晒されていて辛そうだな」
あの衝撃により、廃旅館の三階が全て消し飛んだ。故に魔霊幽悪は全身が日差しに焼かれ、藻掻くように苦しむ。
日差しでこんなに弱るなんて吸血鬼みたいだな。いや、最低限の光が耐えられても、懐中電灯クラスの光で怯むんだから吸血鬼以下か。
存在からして怨念の具現化した姿。
人はアレルギーの人以外、日の光を浴びると気分が良くなるって言うし、使ってきたスキルからしても精神的な負の部分がモンスターになったのが魔霊幽悪という事か。
(どちらにせよ、日の光だけで体力が削れている。一気にトドメを刺すか……)
そう思い、ユメを引き上げた俺は剣を構える。が、苦しむ魔霊幽悪を前に一時的にその剣は降ろした。
「この場合、どうしたら良いんだろうな。日差しが浴びれないから悲しい存在になったって言うなら日光で消滅するのを待った方が良いんだろうけど、元々そう言うモンスターみたいだし一思いにトドメを刺すのが礼儀か……」
「えーと……やっぱりトドメを刺して上げた方が良いのではないでしょうか? ボスモンスターと言えど、ジワジワと嬲るように倒すのは可哀想です……」
「……。確かにそうだな。この世界になってから一週間ちょい。悲しい過去とかも無いだろうし、トドメを刺すのが救いか」
ユメの返答に言葉を返し、改めて光剣影狩を握って向かう。必要以上は近付かない。最期に足掻く可能性も0じゃないからだ。そして今回は捕縛もしない。ボスモンスターを従えれば強いんだろうけど、何となくコイツを連れると呪われそうだからな。
この場で力を込め、俺は構えた。
「──伝家の宝刀・“天空剣”!」
『……! ──……』
そして、先程放った必殺スキルをもう一度使用。“天空剣”は室内より屋外で使った方が威力が高まるスキル。文字通り天。即ち空の力を借りているからな。
今回は太陽光の力を主軸としたが、雲に風。雨や雪。天空に関係する事柄は宿せる。
その一撃によって魔霊幽悪は怨念を撒き散らしながら光の粒子となって消滅。俺達の脳内に声が響き、それが文字として映し出された。
【ギルドはモンスターを倒した】
【ライトはレベルが上がった】
【ユメはレベルが上がった】
【ソラヒメはレベルが上がった】
【セイヤはレベルが上がった】
【ラディンはレベルが上がった】
【ツバキはレベルが上がった】
【エビネはレベルが上がった】
モンスター討伐の表記とレベルアップの表記。魔霊幽悪とのレベル差は70以上だったが、俺達は精々3~5レベしか上がらなかった。それと、流石に三桁台に入ったら元々レベルが高い俺やソラヒメの上がり幅が少ないな。
ラディン達は30レベル以上の上昇。二桁レベルの三人だからこそ上がり幅も大きいらしい。ついでに俺達もラディン達も色々とスキルを獲得したみたいだな。
何はともあれ、状態異常を扱うボスモンスターとの戦闘。それは俺達ギルドメンバーが勝利する事で終わりを迎えた。
後はこの廃旅館についての画策を行いつつ、ラディン達の拠点である北側ギルドに向かうだけだ。




