ステージ5-10 弱点
「まずは何とかしてユメ達をあの部屋からここに移さなきゃな……理性はあるみたいだから話せば動いてくれると思うけど、憂鬱なソラヒメやエビネ。無気力なツバキは動いてくれるか……いや、俺自身が運び出すか」
太陽光と懐中電灯の光によって苦しむ魔霊幽悪を見やり、何とかして状態異常のユメ達を連れ出す事を考える。
状態異常なので例え部屋の外に出ても継続する筈だが、今現在の俺自身が体感しているように多少は弱まる。
魔霊幽悪のスキルなので効果範囲は魔霊幽悪が放出している周囲だけかとも思ったが、この場に居ても影響が弱まっていることを考えれば“怨念波”は滞在スキルという事が分かった。だからこそ部屋の中なら力が持続する。
なので連れ出す事さえ出来れば良いのだが、その時間があるか……。
「……いや、考えるのはやめるか。──“停止”」
『……!?』
ギルドメンバー専用アビリティを使い、魔霊幽悪の存在を停止させる。日の光でも相変わらず焼かれているのでユメ達全員を連れ出す時間は作れた。
後は今の俺の体調で運べるかだな。
「行くか……!」
そして重い空気が立ち込める部屋の中に再び向かった。
逃げられないという印が出ている範囲は思ったよりも広い。少なくともこの廊下。“怨念波”が立ち込める部屋より少し外なら問題無く行動出来ていた。
「……っ。一気に視界が悪くなったな……薄暗いのもあるけど……治まり掛けていた頭痛と目眩が再発した……」
気分の悪さを誤魔化す為にも口数が多くなる。ユメ達との距離はそう離れていないが、
「はぁ……ラ、ライトさん……熱いです……」
「ユ、ユメ……! 本当に熱が上がっているぞ……!」
入るや否や、正面からユメが抱き付いてきた。人は自分が不安な時、意識せず、裏もなく人肌を求める節がある。おそらくそれなんだろうけど、何でセイヤやラディン、ツバキには反応を示さないんだ? 俺、何か恨まれる事したのかな……。いや、求められているなら悪い意味じゃ無いんだろうけど、俺にばかり仕掛けてくると何かしてしまったんじゃないかと勘繰ってしまう。
実際、俺が意識しないでユメを傷付けてしまっている可能性もあるからな。
「うぅ……セイヤぁ……」
「ハッハ! 元気がなくてソラ姉らしくないね! 頑張れ! 大丈夫さ!」
こっちもこっちで大変。というか、今のユメの状態にそれは禁句な気がするぞオイ。
この二人にも早いところ部屋の外に出て貰った方が良いか。いや、丁度良い。セイヤにも手伝って貰うか。俺も視界がグルグル回ってるし。
ユメが抱き付いてきたと言ったが、今の俺の覚束無い足取りじゃ、むしろユメに支えられているのかもしれない。
「セイヤ……ソラヒメを連れてこの部屋の外か建物の外に出てくれ……範囲は限られているけど……外に出るだけで大分変わる……」
「ん? ライトか。その様子、何かあるみたいだね。よし、分かった。僕に任せてくれ!」
状態異常の“混乱”が前向きな方に向かっていて良かった。いや、通常のセイヤも行動はしてくれると思うけどな。
少し語弊があったな。混乱で悪い方向に向かわなかったから、普段のセイヤより少し明るいだけで物分かりは変わらず良い。という事だ。
「ユメはどうするんだ?」
「あー……俺から離れないみたいだし、取り敢えずこのままの状態でラディン達を連れるよ。身体能力が強化されているこの世界なら一人くらい問題無い」
ユメの様子からユメは中々離れない。離れられないという事が分かった。お陰で俺も倒れないでいられるから悪くはないんだけどな。俺自身、抱き付かれるのは悪い気がしていない。……って、相変わらず色々アウトな思考しているな、俺って。
何はともあれ、ともかく今は今のままラディン達を連れ出す事にした。
そう言や、殺した女性が離れない的な怪談もあったなぁと関係の無い事が脳裏を過った。まあ、ユメは状態異常のせいでこうなっているだけだし、その怪談とは違うんだけどな。
そして俺はラディン達の居る場所に向かう。
「ラディン。苦しいだろうけど、みんなを運び出すのを手伝ってくれないか?」
「ああ……構わぬ……ライトもその様子じゃあまり大きくは動けなさそうだからな……」
「察しの通りだ」
「ライト……さぁん……」
物分かりが良いのは助かる。まあ、確かに俺も相変わらず視界が滅茶苦茶だからな。ユメが居なけりゃもう倒れていた。
肝心のツバキとエビネは無気力だが、だからこそ運びやすさもある。動きはしないし、暴れもしないからな。
「なんだよ……」
「なんでしょうか……」
「お前達を少しはマシな場所に運ぶんだよ。この様子じゃ戦えないからな」
「そう言うことだ……俺達も気分が悪いからな……」
ダメージも相まり、弱り切っているラディンはツバキを抱え、比較的マシな俺はエビネを運ぶ。女性に対して言うのも失礼だが、体重的に考えてもユメとエビネの重さなら然して問題無い。
取り敢えず、早いところ場所を移すか。
「ここまで来れば少しはマシになった筈だ……」
「うん……少しはマシになったかな……何であんなに寂しくなったんだろう……」
「僕のあのテンションは……っ。けど、まだ頭が少しクラクラするね……何故か分からないけど気分が良くなっている……良く錯覚している……本当に……分からない程にね……」
「本当に少しだけ治まったという感じですね……まだ少し身体が疼きます……羞恥心は薄れているというか……恥ずかしく……無いんですよね……」
「ううむ……今は風邪の治り掛けみたいな様子だ……ほんの少し頭に違和感はあるが、ある程度の思考は出来る……」
「俺も、何とも言えない気分だ。何かやる気は出ないが、そのやる気さえ出せれば動けるというか……」
「私も……何故か死についての事が脳裏を廻っていますわ……私が死んだら悲しんでくれる人が居るのか……死後の世界はどうなっているのか……死ぬ直前の私はどうなっているのか……後ろ向きな事柄ですけど、気になって仕方がありません……」
全員、俺を含めての状態は、少しはマシになった。だが、まだその程度。気の持ちよう次第じゃすぐに逆戻りし兼ねない程度の違いだ。
どちらにしても万全には程遠い。見れば魔霊幽悪への“停止”は既に解き放たれているが、日の光の影響でまだ動かずに居た。
まあ、部屋に入った時間は数分程。大したダメージは無いが、動きが止まっているだけまだ良い状況だろう。
「魔霊幽悪……ライトさん……これは一体……」
「ああ、実はコイツの弱点が分かってな……属性付与の攻撃かと思っていたけど、それらが発していた“光”に弱かったんだ」
「光……今の私には眩し過ぎるかな……」
「そう言うことじゃないだろう。ソラ姉。そう言う言い回しとかは状態異常前と変わらないんだけどね」
「セイヤ殿の言葉も心なしか弾んでいるな……やはりまだ混乱中か……」
「そう言うラディンは変わらず体調不良だな……どうでもいいけど」
「貴方こそ……ツバキさん。そうだ。一層の事この世から……っていけませんわ。私も……」
全員本調子ではないが、弱点は伝わった。後はこの厄介な状態異常を何とかしたいところだが……。
「当たって砕けろ……ダメ元で仕掛けてみるしかないか……!」
「うん……そうだね。少しでも身体を動かせば憂鬱な気持ちが晴れるかも……」
「私も……健全な方の意味で身体を動かして気分を紛らわせます……」
「僕は逆にダメかもしれないね。混乱というのは、元々敵や味方の区別が付かなくなる事。動いたらライト達に危害を加えてしまうかもしれない! って、また少しテンションが上がってしまったよ」
「ともかく、病は気からとも言う。状態異常になってからライト以外の我らは攻撃をしていないからな……」
「そうだな……面倒な気持ちが強いが、そうも言ってられねえ……。言ってたら死ぬからな……」
「別に死んでも構わないと思ってしまいますが……おっと……また後ろ向きな考えに……これって本当に状態異常なんでしょうか」
とにかく仕掛けてみるしかないが、考えてみればこの状態異常は本当の意味で異常だ。
毒や睡眠などではない事は大体分かっていたが、精神的作用の状態異常。まず“AOSO”じゃお目に掛かれない。基本的に精神の問題は本当に自分の意思でしか解決出来ないから当然だ。それをゲームシステムに組み込むなんて不可能だろう。
「まあ、あの首謀者は何をしてきてもおかしくないからな……一先ず……今はやるしかない……!」
俺は光剣影狩を握り締め、魔霊幽悪に向けて斬り掛かる。
まだ完全に距離感を掴めている訳ではないが、さっきよりはマシ。この距離なら外さずに仕掛けられる筈だ。
「“炎剣”!」
『ウァアゲギャア……』
弱点が光なのは分かったが、光属性のスキルは多分使えない。それこそ魔法使いや聖騎士の専売特許だ。
だからこそ俺は俺のやれる事を仕掛ける。炎剣は何とか外さずに直撃し、魔霊幽悪は悲鳴にも近い声を上げた。
これでようやく、魔霊幽悪になってから初めて二回目の攻撃を加える事が出来た。
敵の二回目の攻撃でスキルの“怨念波”を使われて俺達が状態異常に掛かってしまったからな。さっき吹き飛ばされて建物の外に放り出された時以来の攻撃だ。
「このまま一気に続いてくれ!」
「うん……! “雷拳”……!」
「は、はい……“シャイニングボール”……!」
「ああ! “光の矢”! っとまたテンションが……」
「“聖なる槍”……!」
「“雷刀”……!」
「“天の光”……!」
『ァウァゲアァァ……』
ユメ達も少し弱っているが、構わず通常スキルを用いて仕掛けた。
それは全てが自分達が放てる範囲での光関係のスキル。それらを受けた魔霊幽悪は苦しみ、その体力が少し減る。……少しか。少なくとも俺は“光剣影狩”を。セイヤは“音弓”を装備している。
ユメとソラヒメは装備する暇が無かったので初期装備の武器だが、それでも的確に弱点は突いた筈。やはりというべきか、状態異常に伴って攻撃力も低下しているらしい。
それは物理攻撃と魔法攻撃のどちらもが、だ。
『ウァゲギャ!』
「……また……!」
その瞬間、光によって身動きを取れなかった魔霊幽悪が槍を大きく振り回して薙いだ。
今度はそれを避ける事が出来たが、避けた先でフラついて体勢が崩れる。
特定の部屋から出ただけじゃ状態異常は消えないし、当然と言えば当然だ。だが、辛うじてだが攻撃を何とか避けられているだけで上々だろう。それ程までに今の状態は厳しいからな。
「戦い方は分かった……弱点も分かった……後は何とかして状態異常を治療……もしくは更に落ち着かせる事が必要だな……」
「そう……ですね……。こんな身体じゃ、まともに戦えませんから……」
「同じく……憂鬱だなぁ……もう少しだけ気分が晴れたら良いのに……」
「僕もたまに敵味方の区別が付きにくくなる……ただハイテンションになるだけなら良いんだけどね……一瞬でもそう言った事が起きると大変だ……!」
「俺ももう少し守護に力を入れたいな……我らは後一撃でも受けたらゲームオーバーになってしまう……」
「それは避けたいな……さっきまでなら死んでも良いって感じだったが……今は違う……」
「私もですわ……けど、どこかでゲームオーバーになっても構わない……なりたいという欲求が生じてしまいますわね……もう少し落ち着けたいです……」
七人全員が魔霊幽悪と戦えるようにはなった。だがまだまだ不調であり、勝てるかどうかは分からない。
レベル的に見れば竜帝より遥かにマシなのだが、特有の搦手は少し苦手だな……。けど、やるしかないか……!
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人とラディン、ツバキ、エビネの三人。計七人。
状態異常である俺達とボスモンスターである魔霊幽悪の戦闘は、状態異常が思ったよりもキツく、長期化するのだった。




