ステージ5-9 状態異常
『アギャギャギャギャ……!』
「……融合した……?」
悪霊と幽魔。倒した二体は光の粒子となって融合した。
確かに二体から生じた光の粒子は中心で集まっていたな。それが合わさったなら別に不思議じゃない。
「取り敢えず、何はともあれステータスは確認しておくか」
『“魔霊幽悪”──Lv180』
魔霊幽悪。レベルは180か。ただ純粋に合わさっただけみたいだな。
というか魔霊幽悪って……アナグラムで悪霊と幽魔の名前を合わせただけだな。
「……。何て読むんだ? まれいゆうあく?」
「名前のイントネーションから考えるなら、まりょうゆうあく……少し文字ってマリョウカスアかな」
「言いにくい名前だな……」
改め、“魔霊幽悪”。
幽は幽かとも読む事が出来るのでそう言う名前のようだ。ったく。読み仮名くらい振って欲しいな。そう言うところで融通が利かない首謀者だ。
魔の霊。悪の心は幽かって事は、悪意を持たず怨念だけで動いている存在って訳か。ある意味どうしようもない、戦いを避ける事が出来ない敵モンスターって訳だ。
『ウアギャァァア……』
「仕掛けてきたか……!」
【スキル“怨念槍”】
先程の合わせ技を一体で放つ魔霊幽悪。
まあ、融合したならそれも当然か。俺達はそれを避け、先程まで俺達が居た場所から窓際付近は荒廃していた。
窓際と言ってもガラスは張られていないが、ともかくそれなりの範囲を腐らせて……いや、枯らせていた。
「状態異常の付与はあるか分からないけど、レベルもレベルだからそれなりの威力はあるんだろうな」
「Lv180かぁ。確かに高いんだけど、何となくそこまで高く感じないよね~」
「はい。今まで出会った敵モンスターのレベルで最大が竜帝のLv500でしたからね。高くて強いんですけど、何となく感覚が麻痺してしまっています」
「油断は出来ない相手だけど、確かにそんな感覚があるね。何とかなりそうな雰囲気は僕にも分かる」
「ううむ……ライト達は随分と余裕があるみたいだな……」
「そうだな……確かにアイツらはLv110を越えているが……Lv180の魔霊幽悪……正直、俺達は勝てる気がしない……」
「少しレベルが上がったとしても私達はLv45前後ですものね……レベル差は倍以上……不安の方が大きいです……」
Lv180の魔霊幽悪は強敵だが、今までの相手が相手だったので俺達に恐怖心などはなかった。
これでも三頭竜よりレベルが高いんだが、竜帝の急激なインフレでその様に感じてしまっているのだろう。自分でも分かる。
ボスモンスターと出会った事の無いラディン達は不安そうな面持ちだが、俺達も最初は軽く絶望していたし気持ちは分かる。
『ウゲギャア……』
「ま、レベルが低く感じても俺達よりは高いし、どのみち油断ならない相手なんだけどな」
その瞬間、魔霊幽悪が今度は槍ではなく通常の怨念を放出して嗾けた。自分で思ってアレだが、通常の怨念って……もはやなんだよ。
怨念はの波ように広がって伝わり、一気に俺達の身体を飲み込む。……っ避けようが無いな……!
【スキル“怨念波”】
「……っ。なんだこの感覚……」
広範囲に広がった念波。それは避ける術が見つからず、俺達全員が受けてしまった。
ダメージは無いが、目眩のような感覚に陥って視界が歪む。頭も痛い。周りの大きさが狂う。壁が俺を見下ろしているような感覚になり、畳や天井が大きく広がって見えた。
まあ、明らかに何かしらの状態異常に掛かったな、コレ……。
「クソッ! “炎剣”!」
『アウアギャア……』
何かされたみたいだが、構わず仕掛ける。しかし距離感が掴めず攻撃を外してしまった。
魔霊幽悪はユラユラと動きながら漂い、俺の様子を窺う。いや、本当にユラユラと動いているのかは分からないな。ただ俺の目が回っているだけかもしれない。
「ライト……さん……何だか私……」
「ユメもか……」
俺も俺で魔霊幽悪の様子を窺っていると、ユメがフラフラと俺に寄り掛かってきた。
今のは状態異常の全体攻撃。やはりというべきか、ユメ達にも影響が及んでいるらしい。
「身体が……熱く……」
「熱く……?」
はぁはぁと吐息を漏らし、熱っぽい顔で俺を見上げるユメ。ユメの顔も少し歪んでよく見えないが、確かに体温が上がっていた。
俺にはそんな効果は出ていない。付与された状態異常が違うのか?
歪む視界で何とか目を凝らし、他のメンバーの様子も確認する。
「ライトぉ……何だか私、切なくなってきちゃった……寂しいよぉ……」
その瞬間、背後から凭れるようにソラヒメが抱き付いてくる。寂しい感覚だって……? 一体どんな状態異常だ?
俺の肩が濡れている。どうやら泣いているみたいだ。元気なソラヒメがこんなにしおらしくなるなんて……。新鮮ではあるが、そうも言っていられない程に重要だ。
「ハッハッ。ライト。どうやらみんな大変な目に遭っているようだね」
そしてまた声が聞こえてくる。この笑い方はラディンか。どうやらラディンは平常運転みたいだな。
やっぱり聖騎士はそう言った耐性もあるのだろうとそう考え、俺は声のした方に視線を向ける。
「まあ、何とかなるかな! なんたって僕が居るんだからね!」
「……え?」
セイヤだった。
というか、なんだよそのキャラ!? ソラヒメみたいな性格になっているぞ!?
普段のセイヤからは考えられない性格。ソラヒメもそんな感じ。ユメは純粋な状態異常。いや、どんな状態異常だよ。……まあいいか。頭が痛いからあまり考えたくない。ラディン達も気になるが、まずはユメ達にそれとなく確認してみるか。
「取り敢えず……何かしらの状態異常にはなっている筈だ……。ユメ、ソラヒメ、セイヤ。確認してみよう……」
「ハッハ。オーケー。まあ、別に僕は状態異常なんかに掛かっていないと思うけどね!」
「いや、絶対掛かってる」
サムズアップして笑い掛けてくるセイヤ。もう壊れてるな。まあ、性格的にすぐに見せてくれそうだ。
後はユメとソラヒメだが……。
「良いですよ……ライトさんなら……私の隅々まで見ても……」
「見せたら……この寂しさも紛らわせるかなぁ……」
何とか見せてくれた。けど、視界が視界だから見にくいな……魔霊幽悪が仕掛けてくる前に確認しなくちゃ。
俺は頭痛や目眩に悩まされながら、何とか目視する。
『『ライト“目眩”』』
『ユメ“発情”』
『ソラヒメ“憂鬱”』
『セイヤ“混乱”』
……。うん。俺とセイヤの状態異常は他のRPGでもたまに見るものだが、ユメとソラヒメが少し特殊だな。
と言うかユメの身体が熱を持っているって……いや、考えるのは止そう。そもそも人間に発情期はないと言われているんだ。まあ、年齢次第で少しの差違はあるみたいだけど。
そしてソラヒメの状態異常は“憂鬱”か。退屈などの方面じゃない、不安が大きくなる方の憂鬱みたいだ。鬱病に近いのかもしれない。
セイヤは混乱。まあ、性格が真逆だしおかしくない。俺の目眩も今の状態から自分でもよく分かる状態異常。
それと、俺の分身も目眩か。ただの偶然か、同一人物だからか?
「魔霊幽悪の“怨念波”は毒とかとは違って……“怨念”という存在が存在だから人間の精神的に生じる状態異常が多いって訳か……能力の低下や行動に支障を来すのも多そうだ……」
「ハハ、そうみたいだね。まあ、僕の場合は気分が晴々してて混乱なんかしていないと思うんだけどね!」
「いや……紛れもなく混乱しているよ。セイヤは……俺も気分が悪いけどな……」
「俺が言いたい事はオリジナルの俺が言ってくれるか。なら、俺は少し療養に当たるか……」
「セイヤは元気で良いね……羨ましい……妬ましい……悲しい……寂しい……」
「ソラヒメ……かなりネガティブになっているな……ソラヒメには一番効果的な状態異常みたいだ……」
「わ、私が発情……そんな事……けど……ライトさんを見ていると……身体が疼きます……今すぐライトさんと……」
「ま……待て……早まるなユメ……それは状態異常からなる錯覚だ……」
寂しさのあまり人肌を求めるソラヒメが抱き付き、ユメが火照った自分の身体を抱き寄せる。セイヤはある意味一番おかしいけど一番マシだな……。そして分身の俺は黙り込み、少しでも気分をマシにするように療養に取り掛かる。ゲームシステムとしての状態異常に効果があるかは分からないけどな。
てか……少し考えたからか俺も頭痛が激しくなってきた……ユメ達の顔が見えにくい……視界は歪み続ける……。地球は自転しているが、それとは違った意味で世界が回ってる……。
「ラディン……達は……」
「う、うむ……身体が重い……節々が痛むな……まあ、気合いで何とかなりそうな状態ではあるが……」
「俺は……なんだろうな……もうどうでもいいや。戦わなくていいんじゃね?」
「天国や地獄ってあるのでしょうか……巫女である以上、自らで確かめた方が……」
「……ラディンは風邪に近い症状……ツバキは無気力……エビネはソラヒメに近い何かか……」
全員、何かしらの状態異常ではある。しかしやはり毒や睡眠とは違った精神的な力が作用する事柄が多いらしい。
となると、肉体的な問題が主な状態で精神的には安定している俺、セイヤ、ラディンで何とかしなくちゃならないが……今の俺は距離感が掴めず命中力が低下しているしな……完全な偏見だが、セイヤも矢を乱射しそうな性格でラディンも無理は出来ない身体だ……。
『アギャギャギャギャ!』
「……ッ。次は……槍か……!」
「あっ……んっ……」
「……っ。痛いよぉ……あ、けど私の存在が実感出来るかも……」
「ハッハ! 流石はLv180! やるじゃないか!」
「うぐっ……」
「チッ、痛ーな……」
「……ッ。このまま攻撃を受け続ければあの世の証明が出来るかも知れませんね……」
次いで魔霊幽悪は槍を薙いで俺達八人を薙ぎ払った。
まあ、いつまでも待ってくれる程優しくはないって訳か……。俺達にもそれなりのダメージが入ったが、ラディン達はマズイな……状態異常の影響もあって感じる痛みが少なくなっているのが幸いか……。
今の一撃で俺達三人は半分近くのダメージを負い、分身の俺とラディン達は大きく削られた。むしろ、Lv180の攻撃を受けて耐えられただけマシか。やっぱり純粋な攻撃力はそこまで高くないらしい。
『アギギャア!』
「……っまた来る……避けられない……!」
「くっ……! “聖なる壁”……!」
身体の自由が利かず、連撃を躱せない。しかしラディンが不調の身体で咄嗟に壁を生み出したお陰で止める事は出来た。だが状態からか即座に壊れてしまい、更なる連撃が襲う。
くそっ……こんなに近くなのに狙いが定まらない……専用アビリティですらな……。少しでも敵を止める事さえ出来れば良いんだが……。
『ガギャゲァ!』
魔霊幽悪は構わず仕掛ける。さっきまでの長時間待機は何だったんだ……! 幽魔成分が多くなってから積極的に仕掛けるようになったな……!
「……チィッ、ここで分身体はお役御免になってやるよ……!」
「……! ライト……! ……の分身!」
そんな魔霊幽悪に向け、俺の分身が立ちはだかって消滅する。
お陰でラディン達は護られたが、人数が一人減って七人になった。
『ゲギャァ!』
「来る事は……分かってたさ……!」
間髪入れず今一度仕掛けてくる。俺は何とか光剣影狩で防ぐが弾き飛ばされ、壁に激突して穴を空ける。そのまま瓦屋根の上に飛び出してしまった。
俺は屋根の瓦を剥がして転がりながら停止する。
「ハァハァ……くそっ……! いや、少しマシになった……“怨念波”の範囲から抜けたからか……!」
まだ視界は歪むが、先程よりは良好になる。という事は、状態異常の状態で……何か変な言い回しだな。ともかく、そんな状態で密閉された空間に居る事によってより悪化するようだ。
それなら、早いところ魔霊幽悪を討つか……!
「──伝家の宝刀・“雷剣”!」
“星の光の剣”はまだ使えないが、一番のピンチであるユメ達から引き離す為にも俺は必殺スキルを用いて建物内の魔霊幽悪に突撃した。
“雷剣”は通常スキルだが、必殺スキルとして扱う事で威力が上昇する。簡単に言えば消費“SP”を少し多く使用するという事。“AOSO”内では叫ぶ事によって威力をほんの少し上昇させていたが、使い方ではこう言う事も出来るのだ。
『ゲギャァ!?』
「……っ。やっぱりこの中は空気が悪いな……物理的に……!」
突撃と同時に放った雷の剣。閃光が発せられて霆を迸らせ、魔霊幽悪を部屋の外へと追い出した。
これでやっと一回目の攻撃を与えられたが、俺は次に視界に映った敵の状態に疑問を抱いた。
『ァア……ゲキャア……アァア……!?』
「……。苦しんでいる……? 一体何が……」
部屋の外へと放り出された魔霊幽悪の想像以上の怯み。特に目ぼしいものはないが、日の向きが変わったのか日差しが射し込んでいた。
「……。いや、まさかな……。けど、物は試しか……?」
可能性は試す。故に俺は容量無限の空間から懐中電灯を取り出し、その光を射出した。その瞬間、
「──グゲギャアアアッッッ!!?」
「何言ー絶叫だよ……!」
想像以上に効いた。そしてそれらを踏まえ、今までのスキルによる幽霊型モンスターのダメージ効果を思い出す。それが一つの結論に至った。
「まさか……本当に有効なのは“炎”でも“雷”でもなく──“光”か!」
幽霊型モンスターの弱点。“光”。
盲点だった。本来の幽霊は光の加減で存在が変わるとよく言われている。心霊写真とかな。それらを踏まえれば、簡単に分かる事ではあった。
「だったら……光属性で仕掛けるのが有効的か……!」
『ァァア……ゲギャ……ァア……』
弱点は分かった。そしてあの部屋に居なければ少しはマシに動ける。ユメ達も後で廊下か瓦屋根の方に避難させれば、魔霊幽悪にも勝てるかもしれない。
俺達八人とボスモンスターである魔霊幽悪との戦闘。それは分身の俺が消え去り、俺達が七人となって弱点を理解する事で進展するのだった。




