ステージ5-4 廃旅館
「少し過剰戦力かもしれないな。俺達は四人も居てリーダーのラディンだろ?」
「俺はどちらかと言えばエビネの守護役だな。我らの中では、あくまでもほんの少しだが、エビネのレベルが一番低い。主にサポート役だから俺が守護する方面だ」
チームを分けるや否や、俺達は廃旅館の渡り廊下を四人で歩いていた。
レベル的に見ても実力的に考えても、今の俺達は少し強すぎるかもしれない布陣だ。
なんか嫌味な言い方になったな……。まあそれはさておき、ともかくバランス良く分けてこの感じなのは思うところもある。だが本人曰く、主にサポートとその守護を行うらしいので実は本当にバランスが良いパーティなのかもしれない。
レベル的に見ても、俺達の中では一番高い俺と一番低いユメ。ラディン達の中では二番目に高いラディンと一番低いエビネ。ソラヒメ達は数が少ない分、平均的なレベルの高いメンバーを割り当てている。適正パーティと言えなくもないものだった。
「フフ、お恥ずかしい。今回以外でも私は主に安全地帯からサポートに徹していましたからね……重々申し訳無いと思っているのですが、戦闘ではサポート役が一番重要だと言われて……」
「成る程。確かに理に適っていますね。それと……後ろでただ見ているだけなのが辛いのはよく分かります……私もそんな感じの事を考えた事ありますから……」
「ユメさんもでしたか。……ええ、仲間達が戦う姿を見て何も出来ないというのは辛いものがあります。気が合いそうですわね。私達。……唐突で申し訳無いのだけれど、お友達になれないでしょうか?」
「え? あ、はい! 構いませんよ。それなら……まずは互いに名前を呼び合ってみましょうか」
「えっ……いきなり難易度が高いですね……その名前というのは敬称無しで……という事ですわよね……?」
「勿論です! よろしくね♪ エビネ!」
「はい。……あ、いいえ……。……うん。よろしくお願いします……ユメ」
「アハハ。言えたね!」
「ウフフ。そうですわね♪」
「……何か友情が生まれているな……」
「ハッハ……仲良くなるのは喜ばしい事だ。ウム!」
俺とラディンが会話している途中、ユメとエビネの仲が良くなった。
確かに俺達は同じギルドメンバーとしての仲間意識はあったけど、友人という感じは無かったな。それを言えば、マイやリリィ達とも友人というよりは仲間という雰囲気だった。
ユメみたいに、積極的に友人を増やせるのは凄いと思う。本当に。
「それで、どの辺りを探索する? 一応俺達が東側。ソラヒメ達が西側の探索を行っているけど」
「まずは自動販売機を始めとしたアイテム関連が良いのではないか? 朽ち果てているが、この世界ではまだ使えるかもしれぬしな」
「それが良さそうだな。元々の目的がその為だ。開拓とかはそれらの確認を終えてから取り掛かった方が良さそうだな」
まずやるべき事はアイテムの確認。そう言えば、俺達の持っていた自動販売機の飲み物とかは竜帝戦で使い果たしていたな。
この廃旅館に入った理由で言ってもアイテムの補充が第一。後々ラディン達の言うようにここをギルドの支部にしてみるという案が出て賛成したが、本筋はアイテムの補充だ。
「けど、普通は入り口付近に自動販売機とかはあるよな。それが見当たらない……」
「本当ですね。そもそも、ここはどの辺りなのでしょうか……エントランス……玄関口では無さそうですけど……」
「部屋が複数あるけど、宿泊場所じゃなさそうだな。どちらかと言えばスタッフルーム的な部屋っぽい。まだ一階だしな。階段やエレベーターが見えるけど、少なくともエレベーターは使えなさそうだ。旅館のマップでも落ちていないか……」
そう言い、俺は辺りを見渡して旅館のマップを探す。
地図とかでもあれば良いんだが、基本的に旅館図は何かしらの物に自動転送されるからな。今の時代に紙や看板の地図なんて見つかる筈も無いか。
歩く度にギシギシと軋む音が響く。相変わらずすきま風も寒く、特に進展らしい進展もなかった。
『ウゥゥ……』
【モンスターが現れた】
「……そして当然のようにここにもモンスターは現れる……予想通りだな」
「そうですね……!」
「良いですわ。掛かって来なさい……!」
「行きは旅館に寄っていなかったからか、初めて見るモンスターだな……!」
歩いている時、新たなモンスターが姿を現す。
その見た目は人型だが、はっきりは見えず半透明な姿をしている。姿を現したのにはっきり見えないとはこれ如何に。やっぱり幽霊とかその類いのモンスターか。
半透明な人なんて生まれてこの方見たことが無いな。半透明な生き物は存在するし、進化を少し間違えれば半透明な人間も生まれたのか? まあいいや。
こう言ったモノは普通は怖い筈だが、元の世界では幽霊などの存在に対して対抗手段が無いのが恐れられる原因。その他にも話が通じるのか分からなかったり、存在自体が分からなかったり幼い頃より怖い存在と刷り込まれたからなど理由は色々あるが、この世界の幽霊はこの類いのモノが大の苦手な人以外は恐れる事もないだろう。
要するに未知が怖いので、正体も何もかも分かっている幽霊型モンスターは恐るるに足らない存在だ。
「レベルは……38。結構高いな。この廃旅館は平均Lv40前後って考えるのが良さそうだな」
「けどモンスター自体は一匹……うーん、一体? えーと……一人……だけみたいですね。確かに幽霊は群れを成すとか聞いた事ありませんけど」
「レベルは私と同じくらいですね……やれなくはないですけど」
「だが、見るからに物理攻撃は効かなそうな存在であるな。聖騎士である俺は攻撃手段があるが……君達はどうだ?」
「ん? ああ、多分大丈夫だ。スキルは色々使えるからどれかは有効的かもしれない」
「私も平気です。魔法は魔力を現象に変化させているので、同じく現象の一つである幽霊にも有効的だと思いますから」
Lv38の幽霊型モンスター。一見すれば如何なる攻撃も通じなさそうだが、ゲーム上の敵である限り何らかの手段はある筈。今時詰み要素を入れるゲームの方が少ないからな。
多分、有効無効の違いはあったとしてもどんな職業でも攻撃を通す方法はあるだろう。
『……』
「無言で来るか……!」
ユラユラと揺れ、そのまま直進して来る。
動きは鈍いので避けるのには問題無いが、幽霊だけあって怨念などのような概念に近い攻撃をしてくるだろう。
基本的に状態異常を得意としているのでなるべく早く倒したいな。
「まずは通常武器が通じるかだ……!」
踏み込み、腐った床を粉砕して加速。そのまま幽霊に打撃を仕掛けた。が、当然のようにすり抜けて勢い余り近くの柱を粉砕する。
まあ、予想の範囲内だな。
「次は私です! “ファイア”!」
『ギャアアアァァァァ……』
次に仕掛けたのはユメ。その職業なら誰でも使える初期魔法の炎を放ち、それを受けた幽霊は掠れた悲鳴のような声を上げて消滅した。
成る程な。魔法は全て有効か。
【ギルドはモンスターを倒した】
「一撃か……我らが手を出す必要も無かったな……」
「残念。私の見せ場でしたのに……」
攻撃が有効ならそのレベル差からしても一撃なのは明白。ユメが居れば問題無く進めるな。
ラディンとエビネは少し残念そうだったが、まあ被害が無くて良かった。そしてモンスターを倒した際の表記は“ギルド”か。
他のギルドでもチームを組んでいれば自然とこの表記になるみたいだな。
「炎魔法は有効だったみたいだな。俺の通常攻撃は通じなかったし、俺はスキルの“炎剣”とかで攻めた方が良さそうだ」
「そうみたいですね。思ったよりも簡単な相手で良かったです。イマイチ実感が無いのですけど、【モンスターを倒した】の出たなら本当に倒せたようですね」
「ああ、そうみたいだ。ハハ、頼りにしているぞ。ユメ!」
「はい!」
周りは暗いが、場は比較的和やか。余裕が出てきたという事と不安要素だったここのモンスターも大した相手じゃない事が分かったので余裕が表れているみたいだ。俺にもな。
「しかし、物理の通常攻撃は無効……基本的に物理攻撃を中心にするソラヒメ達が心配だな。ユメかエビネを向こうのパーティに向けた方が良かったか?」
「あ、それは私も思いました。ラディンさんの守護は、いつもは私に必要ですけど今回はライトさん達が居るので大丈夫みたいですからね……」
「オイオイ。だが、俺も同意だな。三桁レベルのギルドメンバー。一人だけでこの雪原を攻略出来るような存在だ。やはりこのパーティはバランスが悪かったか……」
「うーん、けれど、ソラヒメさん達なら大丈夫だと思います。セイヤさんも色々なスキルを使えますし、ソラヒメさんも同等。昨日今日会ったばかりのツバキさんは分かりませんけど、和風の幽霊には侍も有効かもしれません」
「確かにな。ここはソラヒメ達を信じるとするか。いざという時はギルドメンバー専用アビリティもあるしな」
バランス良く分けたつもりのパーティだが、割と偏っているようにも思えた。しかしユメの言うようにソラヒメ達は大丈夫と信じるのが仲間としてのあり方だろう。
何はともあれ、俺達はそんな廃旅館を更に奥へと進むのだった。
*****
『『『ヂュウ!』』』
「ひっ……ネズミ……!」
「動物型モンスターも居たか……!」
「ふむ、確かに小型の動物モンスターなら気配は感じにくいか」
「それだと虫型モンスターとかも居そうですわね……幽霊よりそちらの方が不気味です」
廃旅館の探索の道中、当然他のモンスターも姿を現す。
一応建物の中だから冬眠している筈の動物型モンスターや虫型モンスターも出てきそうだな。それに、この道中は群れモンスターと多く相対しそうだ。まあいいか。
ネズミ型モンスターの群れをさっさと倒した俺達は更に奥へと進む。
『『『…………!』』』
「……またモンスターか……この黒光りは見覚えあるな……」
「うむ。我らの地域には少ないが、おそらくこれらはゴ……」
「──究極魔法・“圧縮火球”!!」
「──神憑き・“火炎ノ神”!!」
「「……!?」」
また新たな群れモンスターが現れたが、刹那にユメとエビネが必殺スキルを用いて旅館の一角ごと焼き払い完全消滅させた。オイオイ……。
辺りは炎に包まれて大部分が焼けたけど、ここ、崩落しないよな……?
「ユ、ユメ……さん?」
「ふふ、何ですか? ライトさん?」
「いや、何でもない……」
「エ、エビネ……殿?」
「フフフ、何で御座いましょう……ラディンさん?」
「いや、気のせいだ……」
何も言えない。いや、言う必要はないな。倒せたならそれで良いだろう。
そこから更に進み、部屋も探索。布団やテーブルの名残はあるがアイテムは特に見つからない。
その他にも園庭、食堂、ゲームコーナーなど色々探してみたが、特に成果は得られなかった。
「あ、ライト達ー! ライト達もここに来たんだー!」
「ん? ああ、ソラヒメ達か。無事みたいで良かった。見たところ、ソラヒメ達も特に成果を得られなかったみたいだな」
「そうだねぇ。まだ上階は探していないけど、ここで一階の探索は終わりかなぁ」
「俺達もだ。ここの後に上階を探してみる」
先に進み、ゲームコーナーだったと思しき場所を抜けた先に到達したのは露天風呂。そこにはソラヒメ達も来ていた。思ったよりも早い再会だな。
ここを探せば一先ず一階は全て探索完了する。それはソラヒメ達も同じみたいだ。なので俺達は深く考えず、そのまま露天風呂の中へと入って行く。
『ビュギャアアアァァァァッ!!!』
「……! コイツは……!」
【モンスターが現れた】
その瞬間、今までの道中には居なかった竜。いや、ワイバーンのようなタイプではない細長い龍のモンスターが咆哮を上げて威嚇してきた。
ボスモンスター? いや、分からないな。だが、ただの雑魚モンスターじゃない事は確かだ。
「大物が相手だな。やるか……!」
「はい!」
「了解ー!」
「オーケー」
「我らもやるぞ!」
「よっしゃあ!」
「かしこまりました……!」
龍は基本的に強敵。それは殆どのゲームでそうだ。
まあ、序盤の龍とかは例外みたいなものだけど、取り敢えずわざわざ廃旅館の一階の最奥で待ち構えている龍。ボスモンスターではないにせよ、それなりの強敵という事は見て分かる。
北側ギルドに行くまでの寄り道。廃旅館。そこで俺達は露天風呂の龍モンスターと邂逅した。




