ステージ5-3 寄り道
「お? 収まったんじゃないか? 吹雪」
「そうみたいですね。外の景色はよく分かりませんけど音も止みましたし、大丈夫みたいです」
「お話と食事してたらあっという間に終わっちゃったねぇ」
「そうだね。けど、有意義な時間は過ごせた。環境がギミックという事を知れたのも大きい」
待機して数十分後、外は変わらず真っ白だが風の音が止んで吹雪が去ったのを確認した。
去ったと言ってもまたすぐに起こるらしいので、目的地にはさっさと向かった方が良いだろう。
「よし、じゃあ行くとするか。このまま話していても時間が過ぎるだけだからな。……って、俺が仕切っちゃっているけど」
「ハッハ! 構わぬ! 時間が惜しいのも事実だからな! ともかく、先に行こうぞ!」
何となく仕切ってしまったが、先に進む事に対してはラディンも賛成のようなので特に文句は出なかった。
“トラベル”の時も他のプレイヤー達を勝手に仕切っちゃったりこんな感じだったな……。案外温厚な人が多いと改めて思う。
取り敢えず“地形生成”にて造り出した建物は消し去り、雪道を今一度進み行く。
「吹雪の前兆にはモンスターが出て来ないらしいけど、この間隔の時はモンスターが出てくるのか?」
「ああ。普通に出てくるな。五分前くらいに出て来なくなるが……この世界が常にアップデートされていると考えれば吹雪の時にも普通に飛び出してくるモンスターが現れるやも知れぬ。油断は出来ないな」
「成る程……確かに色々と変化はありそうだな。少し前の情報でも役に立たなくなる可能性はあるか」
ザクザクと音を立てながら白銀の大地を踏み締めて歩き、モンスター情報を訊ねる。
どうやら今は出るみたいで、五分前くらいに出て来なくなるらしいが吹雪に適応するモンスターが生み出されたら厄介。首謀者が設定をいじれるのを前提とすれば、常に様々な変化を起こしているかもしれない。
『……』
【モンスターが現れた】
「言ってる側から出てきたか。兎型のモンスターか……」
話をしているうちにモンスターが現れたが、その見た目はまんま兎だった。強いて言えばほんの少し大きいくらい。
まあ、基本的にモンスターは元の動物が素体だからな。別に居てもおかしくない。
「か、可愛いですね……」
「見た目は可愛くてもモンスターなら仕掛けてくるのかなぁ……」
「レベルは……25。さっきまでのモンスターと比べると少し低いね」
「我らがギルドに向かうまではこのレベルが普通だったのだがな……むしろLv25前後でこのレベルでも高いくらいだった。まあそれは良しとして、兎か。兎肉などもあるが、倒すのは気が引けるが……」
「そう言えば兎型モンスターは出て来ていなかったな。犬とか猫とか兎とか。愛玩動物は倒しにくいな」
「犬科の狼は倒したでしょうに。モンスターはモンスター。見た目が良くとも、油断はしない方が良いんじゃないですか?」
「ハッ、エビネは厳しいな」
「まあ、倒さなきゃならないかもしれない相手だからな。俺はやるか」
「ふふ、ライトさんとは気が合いそうですわね」
やっぱりと言うか、見た目が見た目なのでエビネを除いて全員の気が緩んでいるか。
こんな事を話しているうちに飛び掛かってくる危険性もあるのに。
『……ギュウッ!』
ほらな?
兎型モンスターが飛び掛かり、俺達は背後に軽く跳躍して距離を置く。
兎の攻撃は外れ、俺達は体勢を立て直した。
「早速襲って来たか。本来は臆病で、野うさぎは滅多に人には近付かないけど、やっぱりモンスターとしての思考ルーチンをしているようだな」
「と言うか、兎って鳴くんですね……」
「みたいだな。……ま、声帯とかが無いらしいから厳密に言えば鳴いてる訳じゃないんだろうけど、取り敢えず音は出すようだ」
兎の豆知識はさておき、兎型モンスター。数は一羽だが、ガサゴソと辺りから音がする。
そう言えば、この辺りには木々もあるんだな。まあ、身を隠すには隠れ蓑が必要。自然が多い場所に群れが成されるのは当然か。
「それと、倒さざるを得ないって感じだな」
「はい。モンスターが現れたの文字が出てきた時点でもう覚悟は決めていましたよ……」
「やっぱりやらなきゃ駄目かぁ」
「まあ、このままじゃ通れないからね」
「“逃走”も出来なくもないが、経験値は欲しいところだな……」
「切実だな。けど、同感だ。ライト達に比べて俺達のレベルはまだまだ低い……!」
「仕方の無い事ですね……!」
数は軽く二桁以上。だから群れモンスターだった狼に比べてもレベルが低いのか。
俺達はユメを始めとして大半が乗り気じゃなかったが、やるしかないので打ち倒して先に進む。
その後数分で全てを倒し終え、また再び雪道を進むのだった。
*****
「はぁ……結構歩いたね……ここまで何回吹雪に当たったんだろう……」
「六回だな……確実に二時間以上は吹雪で足止め食らった……一回の足止めで15~45分くらいだったからな」
「つまり同じく二時間以上歩き続けたという事ですか……ライトさんの言うように一回の足止めが15~45分くらいだとすれば……それが六回来たとして単純計算で大体三、四時間は仮拠点で過ごして、同じくらいの時間は歩いていますね……」
「合計すればもう六時間以上は過ごしているね。早朝に出たけど、もう昼時だ」
雪道を歩き続けて数時間後。俺達はそれなりに疲弊していた。
雪道なので足場は悪い。そして変わらず寒さが襲い来る。吹雪になりやすい空模様という事もあり、視界も相変わらず良いとは言えないものだった。
「結構進んだのもあって雪に覆われた建物もチラホラ見えてきたな……ラディン。この辺りは何があったんだ?」
「この辺りか……確か宿があったな。元の世界風に言えば旅館。観光地だったからな」
「へえ。そうなるとこの世界になると同時に変化とかしたのか?」
「いや、特に変化はしていないな。君達のギルドに向かう時も通った道だが、建物の中はもぬけの殻。“NPC”すら居なかった。まあ、もしかしたら他のプレイヤーが拠点にしていたりモンスターの巣になっている可能性もあるが、一度通った時は人の気配が無かったな。モンスター達もここは巣にしていなかった」
「……成る程な。それなら何か残っているかもしれないし、寄り道でもしてみるか? 旅館なら自動販売機があるかもしれない。食料もな。ここから先に進むに当たって、アイテムの補充はしておきたい」
「良いかもしれぬな。“転移”。使えばそれらがある場所にも一瞬で到達出来るが、他のプレイヤー達がここを通る可能性を考えたらある程度整備するのも悪くないかもしれぬ。急ぎたいところでもあるが、そこまで急ぐ程の用はない。それなら他のプレイヤー達が来る可能性を優先したいな」
ラディン曰くここには旅館があったらしく、俺はそれとなく探索を提案した。
アイテムの補充は重要。一度戻るのも良いが、それだけの為に戻るのも少し思うところがある。まあ、それは個人的な感想だけどな。
そしてラディンもラディンで、ここを通るプレイヤーの為にある程度整えておきたいとの事。確かにここもゲームエリアの一つ。今ではないが、他のプレイヤー達が来る可能性は高いだろう。その者達の為に休息スペースを作るのも悪くないな。
「ユメ達はどうする?」
「私は構いませんよ。雪景色ばかりで少し視界が眩んでいたので他の景色を見たいところです」
「私もオーケー! 雪に覆われた廃旅館……何だかワクワクするね!」
「僕も構わないよ。同じ色の景色だけ見てると精神的に参るからね。それに、何かがあるかもしれない」
「ライト達は全員賛成か。お前達はどうする?」
「ああ、構わない。廃旅館を他のプレイヤー達に向けて探索するのはその者達の為になるからな!」
「私も構いませんわ。新しい発見が起こるかもしれませんし」
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ。そしてラディン、ツバキ、エビネ。全員が廃旅館に行く事には賛成の意見だった。
この世界は半分がゲームの世界なので何かがあるかもしれないという事。そして純粋な好奇心や景色を変えたい、他のプレイヤーの為など意見は様々だが、異論は出なかった。
同じ道を進み続けるのも結構精神的に来るので一先ず俺達は探索に向かうのだった。
*****
「近付くと雰囲気あるな……本当に廃墟みたいだ……」
「少し不気味ですね……」
俺達はその旅館へと近付き、その全体像を確認する。
見た目は和風。屋根には雪が積もって白く染まっているが、瓦が欠けていたり壁が剥がれていたり窓が割れていたりと全体的にボロボロだった。
色んな意味で雰囲気があるな……。冬場じゃなくて夏場に来ていたら肝試しが捗りそうだ。
何はともあれ、入ると決めた手前、怖じ気付く訳にはいかない。そして俺達はその旅館の中へと入った。
──“雪原地帯・廃旅館”。
「……。成る程。ここもちゃんとステージの一つ……背景やオブジェクトとかじゃないみたいだな」
「その様ですね。上に文字が……“廃”旅館とはっきり記されているという事は、もう二度と修復されない旅館という事でしょうか……」
「私達も何となく廃旅館って呼んでいたけど、本当に廃墟になった設定の旅館だったんだね」
「わざわざ“廃旅館”って表記されるという事は、それ系統のモンスターが出てくるという事かな」
「ふむ、それ系統か……アンデッド系のモンスターが出てきそうだな」
「アンデッドか。幽霊から妖怪に色々タイプはあるが、基本的に不死身だから厄介だな」
「もしそうなるのなら巫女である私の活躍が期待出来そうですわね。そもそものモンスターが出てくるかは分かりませんけど」
その旅館は外観通り廃旅館だった。上の文字でそれを示しているので説得力はあるな、うん。
内装もThe・廃旅館と言った感じ。廃旅館コンテストがあれば良い線いく事だろう。そんなもの存在していないけどな。
床は剥がれており、穴もいくつか空いている。障子もあるみたいだが、当然ボロボロ。全体的にそんな感じなので中に入っても寒さはほんの少し和らいだくらいで外とあまり変わらなかった。
むしろ、すきま風でより寒い感覚もある。中がかなり暗いので行動するなら外の方が良さそうだな。
「取り敢えず、行くだけ行くか。アイテム補充とモンスターの確認。今後のプレイヤー達にとっての拠点に出来たら上々だな」
「そうですね。けど、本当に寄り道しても良かったんですか? ラディンさん。なるべく急ぎたいのですよね?」
「ハッハ! 構わないと言っただろう! なるべく急ぎたいのはギルド同士が協力する事でより世界を効率良く攻略したいからだからな! その為にはギルド以外の拠点も欲しいところ。この廃旅館は悪くなさそうだ!」
「ハハ、確かにそうかもな。俺達も自宅とギルドだけが拠点だし、北側への道としての拠点をここにするのも悪くない」
「確かに……北側のギルドも一つの拠点にはなるのでしょうけど、その道中への拠点があれば色々と利便性はありますね」
ラディン達は、急いではいるがそこまでではないらしい。
実際、ギルドが攻め込まれたなどではなく、純粋に協力したいからラディン達が俺達のギルドに向かった。拠点を作るのも攻略の一つか。ギルド日本支部の更なる支部拠点でも作られれば他のプレイヤー達の為にもなる。
ここを拠点にするのはただ探索するより利点が多い事だろう。
「じゃあ、何人かに別れて進むか。俺達は七人だから、一人ずつで進むか三人と四人で進むか。もしくは二人ずつと三人で進むかだな」
「レベルは均等に分けた方が良さそうですね。私達四人を分けてのチーム分けが良さそうです」
「確かに良さそうだな。我らよりも遥かに強い君達がチーム分けして協力してくれれば心強い。我らも一人と二人に分かれるとしよう」
探索するに当たって、チーム分けは必須。何が起こるか分からないので二人以上は居た方が良いかもしれない。が、俺達は誰か一人でも居れば良い筈。
それならラディン達三人のうち、俺達の一人とラディン達の一人を一つずつのチームに分け、残りの俺達の中の一人が別々に行動するというのも良さそうだな。
要するに二人だけのチームを三つ作るという事。そして残った誰か一人が個人で探索という分け方だ。それなら四分割で探索が出来る。
それなら俺は一人で行動して一人で探索した方が……。
「ライトさん? 何が考えているんですか?」
「……!」
思考の途中、ユメが話し掛けてきた。マズイな。気付かれたか?
ユメはテレパシーでも使えるんじゃないかってくらいに思考を読んでくる事がある。それとなく一人になろうとしていたのがバレたかもしれない。
「ああいや、別に……何でもない」
「そうですか? 目、逸らしてますけど」
「あ、ああ。えーと、悪い。また俺一人で行こうかって考えていた……効率良くなるからな」
駄目だな。ユメの目は誤魔化せない。と言うか、俺って結構表情に出やすいんだな。それが原因で気付かれたみたいだ。
「またですか……今回はどんなモンスターが居るかも分からないので、あまり疎らにならない方が良いと思いますよ? それに、アンデッド系のモンスターが居たらライトさんの火属性スキルしか通じませんし……」
「ああ、そうだな。確かに今回は分が悪いか。それと、悪かった」
「素直に話してくれたので、今回は許してあげます」
「ハハ、感謝するよ」
今回は正直に話したので見逃してくれたようだ。
しかし、確かにこの先は未知の領域。廃旅館もそこそこの広さがあるんだろうけど、果たして二つのチームだけで良いのか? まあ、今はユメに従っておくか。
「それじゃ、どんな風に分ける? チームのバランスは重要だ」
「攻撃メインとサポートメインで分かれた方が良さそうだね。じゃあバランスを考えて……」
その後、俺達はバランス良くチーム分けを行った。
守衛と攻撃。遠距離などのサポート。諸々を考慮した結果、チームは近接戦の俺。遠・中距離のユメ。守護のラディンにサポートのエビネの四人チーム。
そして近接戦のソラヒメと遠・中距離のセイヤ。スピードのツバキの三人チーム。この二チームで寄り道の行動を起こすのだった。




