ステージ5-2 天候ギミック
「はぁ……進みが早くなったのは良いけど……それはそれとして逆に辛いところもあるな……」
「ふぅ……。ああ、そうだね。……まあ、時速数十キロから百数キロで走ればその分風の抵抗も受ける訳だし……僕達の体感温度が下がるのもおかしくはないよ……」
「アハハ~駄目だなぁ二人とも……。これくらいで疲れるなんてぇ……フゥ……」
「ソラヒメさんも……言えませんよ……私もですけど……」
「相変わらず慣れないな……急ぐに越した事は無いが……疲労というより寒さがキツイ……!」
「雪国出身でも、極端な寒さがある場所じゃなければ少しだけ慣れているってだけで、人間なのは変わらないからな……」
「そう……ですね……。ただただ厳しい環境です……」
雪原地帯にて少し速度を上げながら進んでいた俺達は、思った以上のダメージを受けて弱っていた。
そのダメージというのは寒さ。たかが冷気、されど冷気。とにかく寒い。寒過ぎる。雪国出身の三人がダウンしているだけで言うことはないだろう。呼吸の度に白い息が吐かれるのは当然として、吸うのも割とキツイ。
「息をするのも辛いな……走る場所を間違えたら鼻水や唾液が内部で凍って窒息する可能性もある……何なら目の水分も凍って失明の危険性も……」
「流石に危惧し過ぎだと思いますけど……風も出てきましたしね……雪も変わらず降り続けていますし、更に厳しい環境になりそうです……」
「強化された身体能力なら衣類の重さもあまり感じないし、もっと着込んでくれば良かったなぁ……」
「季節が季節だったから冬服は出していなかったからね……正直、雪原を舐めていたよ……」
寒さに対して言及しつつも、俺達は歩みを止めない。目的地はまだまだ先だからだ。……まあ、止めたら寒さがより際立つってのもあるけどな。
取り敢えず歩き続けたら寒さも多少。主に少だが、誤魔化せるので目的地に向かう為にも歩き続ける。
「モンスターの姿も見えなくなってきたな……と言うか、本当にここに街があったのか? それっぽい建物の名残とかは見えないけど……」
「ああ、一応な。だが、この辺りは元々自然が多くて建物も数軒くらいしかなかった。だからアップデートの際に全部無くなったのだろうな。地味に斜面であろう? 今は雪原だが、山にも近い場所だったのだ」
「確かに少し斜めになっているな……だから余計に足が疲れるのか……」
この辺りに建物は少ないが、元々そう言う場所だったとの事。地形からしても別に不思議な事ではなかった。
けど、気付かないくらいの斜面の道は厄介だな。この世界なら大丈夫だろうけど、本来の世界だったら知らぬ間に疲労が蓄積して後々厄介な事になる。確か、こう言うのはある意味普通の山道を歩くよりも疲労が溜まるらしいからな。
通常の山道を歩く時は視覚で確認する事によって脳が判断を下し、長期に向けた体力を温存する歩き方になるが、今回の場合は確認する事が出来ず、普段と変わらぬ歩き方で進んでしまう。結果的により多くの体力を消費する事になるという訳だ。
つくづく身体能力が強化された世界で良かった。まあ、元の世界じゃこんな事もあまり……全くしなかったんだろうけどな。
「一先ずは休憩でも出来る場所を探したいな。風を凌げる場所が必要だ」
「……? その言い方、何かが起こりそうな言い方だな」
「ああ。多分もうすぐ吹雪になる。雪国出身の勘とかじゃなく、モンスターの出現率が下がり、風が強まって雪の勢いが増してきたら吹雪になるギミックがあるんだ」
「ギミック……天候もゲームの一つ……という訳か」
何やら別の意味で急ぐラディン曰く、吹雪になるとの事。
それは雪国で生活していたので天候の変化が読めるなどのようなファンタジー的なものではなく、ステージギミックのようなシステムとして“吹雪”があるらしい。
現実の吹雪ですらそれなりの威力があるんだ。この世界での吹雪はどれ程のものか考えたくないな。
「俗に言うビバークをする必要があるな。我らは待機するか。君達はどうする? 一旦“転移”で帰るという手もあるが……」
「いや、ステージギミックなら数分で終わる筈。俺達も一時的に待機するよ」
「はい。その場で凌げるのなら待機した方が良いですものね」
「賛成ー。それに、完全には慣れてはいないけど、暖かい場所からまたここに戻ってくるとより一層辛く感じそうだしねぇ~。比較的慣れている状態で過ごせた方が良いかな」
「そうだね。この寒さで体温が少し下がったんだろうけど、ほんの少しだけは慣れている。寧ろ、一旦戻ってまたやって来て、一気に体温が奪われた方が危険だ」
ビバーク。それは帰れなくなった時に行うキャンプのようなもの。キャンプとの違いと言えばテントなどが無い事で、自然を利用して風などを避ける事を示す。
当然デメリットもあるが、ステージギミックの吹雪なら堪えられない事もない。なので俺達四人は賛同した。
「そうか。なら拓けた場所を探そう。この世界での生態系も現実世界に準じているならこの辺りにモンスターの巣があるかもしれぬが、棲み家を侵略するみたいで気が引ける。“地形生成”を使えばある程度の場所さえあれば問題無いからな」
「そうだな。“地形生成”も“転移”並みに便利なアビリティだ。すぐに消えないように調整して一時的な拠点にするか」
本来のビバークなら相応の場所が必要だが、俺達ギルドメンバーには専用アビリティの“地形生成”があるので必要な洞窟をどうするかなどの心配は無い。戦闘以外の専用アビリティは長時間持つらしく、戦闘と戦闘外での効果は違うようだが、割とある設定ではあるな。戦闘以外だと別の効果を発揮するスキルやアビリティは。
元々ギルドメンバー専用アビリティ自体がそんな感じなので今のように首謀者が設定しているのだろう。
要するに、この場所には建物も少ないので拓けた場所があれば安全地帯は即座に確保出来るという事だ。
「それと、強度を上げれて微調整すれば斜面とかでも耐えられるけど、どうする?」
「いや、それでは平衡感覚がおかしくなる。これからもモンスターとの戦闘があると考えれば平坦な方が良いだろう」
確かに感覚は重要。ほんの少し斜めになっているだけで酔いにも近い感覚になりうる。
なのでなるべく平坦な道が良さげである。
「んじゃ、この辺りにするか」
「ああ、それが良さそうだな」
そして、俺達はその場に地形を生成させた。
真っ直ぐに地面を生やし、無理矢理平坦な地形が生み出される。斜面の部分も埋め、これで完全に平坦な地形だろう。
後は組み合わせて建物のようにする。強度はお墨付き。山を複数溶かす炎に攻撃されても耐えられる程だ。
「一先ずはこれでオーケー……どれくらいで晴れるんだ?」
「うむ、大体数十分くらいだな。それと、一回起こるとその後もそれくらいの間隔で吹雪が吹き荒れる。行動をパターン化するなら数十分止まって数十分進んで、数十分止まって進んでの繰り返しだな」
「成る程……持続的な吹雪じゃなくて間隔のある吹雪か。その辺は元の世界の天候とは違うみたいだな」
「そうだな。しかしそれにも波がある。この四日間進んでそれが分かった。天候は間隔のあるステージギミックのようなものだが、本来の天候と同じように持続的な事もあった。天候の吹雪の時はモンスターが普通に現れ、ギミックの吹雪の時はモンスターの数が減る。分かった違いと言えばこれくらいだな」
「へえ。けど、それも有益な情報だ。雪ステージはよく分からなかったからな」
天候とギミック。天候がギミック。
ゲームになった世界なので“天候”が様々な影響を及ぼすのも可能性にはあった。それが現実になっただけだ。
何はともあれ、そろそろ吹雪が起きるだろう。俺達は一旦仮拠点で吹雪が起こるのを待つのだった。
*****
──そして、その吹雪が起きた。
ゴウゴウと騒がしい風が吹き荒れ、“地形生成”によって生み出された建物を殴り付ける。
ふと外を見れば視界は消え去っており、辺り一面がただただ白かった。白と言っても紙や壁の白とは違う。粉塵や砂塵のような埃に近い見た目の小さな白の集合体が猛スピードで吹き抜けていた。
「外はかなり寒そうですね……隙間が無いか不安です……」
「今のところは大丈夫みたいだから問題無さそうだな。しかし、良いのか? ユメ。炎魔法なんか使ってくれて」
「はい。今の私のレベルなら初期魔法くらいはあまり魔力を消費せずに使えるので全く問題ありません!」
地形生成によって生み出された建物の中、俺達はユメの炎魔法による熱で暖を取っていた。
魔力は消費するが、本人曰く問題無いらしいので俺達はそれに甘える。
時間は基本的に数十分。長くて一時間程。それなりの時間が掛かるので暖を取れるなら取って置きたいところだ。
身体を寒さに慣れている状態を少しは継続したいので完全防備ではないが、篝火一つでもあるのと無いのとでは大きく変わる。気分は悪くなかった。それに、本来の雪原や雪山で焚き火をする時と違ってこの場所なら雪崩の心配もない。寒さを除けば比較的安全だな。
「いや~しかし助かる。考えてみたら、今の我らは火属性を操れる者は誰も居なかったからな! 魔法使いなどは南西方面に向かった者達が役割を担っていたのだった!」
「全く……。リーダーがこの様じゃ先が思いやられるな……相変わらず。ユメさんが居てくれて良かった」
「同じく忘れていた私達が指摘出来る事では無いと思いますけど……結果的に助かったので良しとしましょうか。本当に有り難う御座います。ユメさん」
「い、いえ。私も寒かったので……それに、役に立てたならそれだけで嬉しいですから!」
「おお、なんて優しい人なんだ……! 感動した!」
「大袈裟だな……けどまあ、本当に助かる。ありがとう」
三人だけだが、賑やかな人達だ。
けど、案外行き当たりばったりで進んでいるみたいだな。北側のギルドメンバー達は……ツバキとエビネの言葉から苦労が窺えられる。
真面目で人は良いが、抜けている部分もあるんだな。ラディン。
「ま、何はともあれここに居れば安全みたいだな。地形プログラムその物を生成した建物だから当たり前だけど。……今日は早朝から歩きっぱなしだったし、一時的な休息って考えれば良いか」
「そうだね。睡眠が必要無い世界だから早朝という概念も有って無いようなものだけど、歩きっぱなしだったのは事実。休めるうちに休んでおこうか」
「そうだねぇ。何だか……眠く……なって……きちゃった……」
「寝たら死んじゃいますよソラヒメさん!?」
「アハハ~ジョーダンジョーダン! 睡眠は必要無いから眠くもならないしねぇ。けど、この世界でも凍死とかはあるのかな?」
「さあな。けど、現実に準じたゲームの世界。状態異常で氷漬けとかはありそうだな。それでゲームオーバーになるかどうかは分からないけど」
「だよねぇ~」
軽い雑談をしつつ、吹雪が過ぎ去るのを待機する。
ソラヒメはいつもみたいに軽いノリでユメを揶揄っているが、実際のところこの世界での凍死や焼死、窒息死などの死に方がどうなるのかは気になるな。
それらが存在するなら状態異常は即座に治した方が良さそうだ。毒とかと違って分かりやすく表記されないからな。気付いたら死んでいたとかありそうだ。
それに値しそうなのは氷漬けに石化。その他の動きが止まり呼吸も止まりそうな状態異常。この辺も調べたいが、万が一があるから難しそうだな。
「ま、状態異常についてはまだ深く考えなくていいか。要するにゲームオーバーにならなければ良いんだからな。──さて、何もする事は無いし、一旦食事でも摂ろうか。睡眠が必要無くても食事は必要な世界だからな」
「賛成ー! お腹ペコペコ~」
「良いですね。実際の雪山でも食事……要するにエネルギーの補給はかなり重要みたいですし!」
「そうだね。食事は必ず摂らなきゃならないけど、雪山とかじゃそれがより際立つ」
「食事か。それなら我らも食事にするか。色々と持って来ては居るからな!」
「そうですね。皆さんと摂る食事は楽しいものです。あ、地元で採れたリンゴもありますよ」
「リンゴはさておき、食べ物が無かったら無かったで北側のギルドに“転移”で戻って取ってくれば良いからな。全員では行けないからすぐに戻る必要はあるが、食べ物には困らなそうだ」
数十分間の時間。そんなに暇があるなら出来る事も色々とある。
この世界ならスキルの確認や食事。雑談による情報交換など、深く考えずパッと思い付くものだけで様々。休息も兼ねているし、この時間を有意義な休憩時間にするか。
天候のギミックである吹雪の中、俺達は仮拠点の中で吹雪が過ぎ去るのを待つのだった。




