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ステージ5-1 雪原

 ──“国境・雪原”。


「まだどちらかと言えば関東寄りなのに……もうこんなに雪が降り積もっているのか……」


「ああ。この雪道の影響もあって思ったよりも遅く着いたからな……寒さもちゃんと感じるのが嫌な仕様だ……」


 北側に向かう事になってからの翌日、ギルドに再び集ってギルドを出た後にラディンの案内によって進んだ俺達は、辺り一面が白く染まる雪原に来ていた。

 あるものは眼前に広がる白銀の世界。氷漬けになった樹、樹氷。冷たい空気が呼吸のたびに入り込み、確かな寒さも感じられた。

 雪道を踏み締め、ザクザクと小気味良い音を鳴らしながら先に進む。

 上にも表記されているのを見る限り、この場所は一年中雪原のままなんだろうな。世界にはそう言う国もあるが、厳しい環境だ。


「うぅ……寒い……冬服を探して着込んだけど、それでも寒さに痛め付けられているな……」


「そうですね……ゲームなのに“防寒S”的な耐性付与効果は無いのでしょうか……」


「それは無いみたいだけど、防御力は“普通の服”より上だね……ほら、+3だよ……」


「微々たる差だね……+1から+3……二つ上がっただけマシか……」


 一応防寒具を身に付けているが、それでもほんの少し露出した肌に当たる雪と冷気が辛い。

 吹雪という訳ではないが、純粋に気温が低く視界が白く染まる光景だけでかなり厳しいものがある。つまり雪で眩しくて目も痛い。


「今更だが、武器以外は初期装備でこのレベルまで上げたのか……ゲームオーバーがそのまま死に直結するこの世界で縛りプレイとは命知らずだな……」


「ハ、ハハ……まあ、色々あって装備は揃えられなかったからな」

「ライトが欲情しちゃってね~」

「よ、欲情……」

「オイ、ソラヒメ……この状況で茶化すのは止めてくれ……いや、本当に……」


 あながち間違いではないが、それを暴露されるとかなり恥ずかしい。男なら本能だが、本能が恥ずかしい。

 考えてみたらおかしな話だ。本能が犯罪になったり羞恥になったり。いや、まあだからこそ好意を抱く相手に対して奥手になるというか何というか。とにかく、恥ずかしいな。うん。


「アハハ~。ゴメンね、ライト。ユメちゃんも、大丈夫だから安心して♪」


「全く……それとユメは関係無いだろ……。なあ? ユメ」


「……! あ、はい! そ、そうですね! ライトさんが誰に欲情しても関係ありません!」


「……っ。何か……今までで一番のダメージを負った気分だ……」


「だ、大丈夫ですか!?」


 ユメの言葉に俺の胸が締め付けられる感情になった。別に心臓や肺をわずらっている訳ではないが、何となく悲しい。

 実質バッサリ切り捨てられたみたいな感じだもんな。


「ハッハ……元気はあるみたいで何よりだ。この世界で凍死する事があるのかは分からないが、雪道は危険だからな。視界が悪くとも車などが通らないのはせめてもの救いだ」


「大丈夫なのか? この人ら。確かにレベルは高くてかなり強そうだが……」


「フフ、頼りにはなりそうではありませんか? この状況でもあの元気があるようですもの」


 俺達のやり取りを見、流石のラディンも少し引いていた。俺は何も悪くない筈だ。

 と言うか、ラディン以外の二人の声、初めて聞いたな。


「そう言や、アナタ達の名前は? 俺はユーザーネーム・ライト。職業は見ての通り剣士だ」


「おっと、そうだったな。すっかり忘れていた。俺はユーザーネーム・ツバキ。職業は剣士……いや、“侍”だ。よろしく!」


「私はユーザーネーム・エビネです。職業は“巫女”。私の出身地で言えば所謂いわゆるイタコと言ったところですね。人見知りする性格なので勝手ながらしばし様子を窺っておりました」


 ラディン以外の二人、名をツバキとエビネ。両方とも花から名付けているな。椿はともかく、エビネは九州方面にあるもの。日常ではあまり聞かないし、エビネは花について詳しいのかもしれないな。

 まあ、今の時代は未知を知る術も色々ある。何となく付けた名前って可能性もあるな。うん。

 とにもかくにも、ギルドメンバーだけあって心強い味方だ。職業は侍と巫女。守護メインの聖騎士パラディンと戦闘向けの侍。そしてサポート役の巫女とバランスの良いパーティだった。


『グオオオォォォォッ!!』

「……っと、早速モンスターか」


【モンスターが現れた】


 会話の途中でもモンスターはお構い無いなしに現れる。

 コイツは……熊型のモンスターか。確かに雪原らしいと言えばらしいな。どちらかと言えば山の方が出てきそうな感じもあるが、そして冬眠してそうであるが、取り敢えず氷雪地帯に生息してそうな動物は基本的に居るって考えるのが妥当か。


『グガァ!』

「動きはそこそこだな」


 鋭利な爪を持つ腕を振るい、空気を切り裂き大地の雪を巻き上げる。

 ステータスは確認していないが、Lv35という事は分かった。まずまずだが、簡単に倒せる相手だな。


「寒いし少し動きたいな……」

『……!』


 寒いので身体は動かしたい。なので木刀を使ったのだが、もう倒してしまった。

 やっぱり三桁レベルあると一撃で倒せるのか。


「凄いな……! Lv35のモンスターが初期装備で一撃か……」


「まあ、レベル的なアレがアレだからな。70以上の差だし、当然と言えば当然だ。と言うか、アンタ達もレベル的に言えばLv35のモンスターなら簡単に倒せるだろ?」


「いや……倒せても一撃では無理だからな。心強い限りだ」


 ラディン達のレベルは、ラディンがLv41でツバキがLv43。エビネがLv39。

 やっぱり積極的に戦闘を行いそうなツバキの方がレベルは高いのか。四日前以前からはパーティを組んでいたのか分からないけどな。

 ボスモンスターなどと出会った事があるのかも分からないが、たった一週間少しだけでここまでレベルを上げたのは中々の実力者だろう。

 四日間ずっと旅をしていたらしいので自然とレベルが上がったのかもしれないな。


「ここのモンスターは俺達が来る前はLv25程だったんだがな……まだ熊型モンスター一体だけだったが、Lv35前後のモンスターとは一回も出会わなかったのだがな……」


「成る程……やっぱり自然とレベルが上がっているのか。ここまで進み始めて二、三時間くらいは掛かっているけど、基本的にギルドから出発して二、三時間だとLv20前後程のモンスターしか居ない筈だが、Lv35前後のモンスターが普通になっているのかもしれないな」


「そうなのか? 俺達の運が良かっただけで普通にLv35近くが出る可能性もあるとか?」


「いや、俺達も何度か遠征? しているけど、これ程のレベルのモンスターはあまり見掛けなかった。見掛けたと言えば、ボスモンスターの近くに居た山岳千鳥というモンスターとか、ライフが操っていたモンスターくらいしかいなかったな」


「ふむ……説得力あるな……本当にモンスターのレベルが上がっているのか……」


 世界的にモンスターのレベルが上がっている。何度か考えた推測で理由は定かではないが、どうやらその推測は正しかったようだ。

 その様な会話をしながらも常に足は動かしている。距離があるのは始めから分かっているからな。ただひたすら進まなきゃならないものだ。


『『『グルルルルル……』』』

【モンスターが現れた】


「また新たなモンスターですライトさん……! 狼型のモンスター……!」


「……! レベルは32……レベル自体はさっきの熊より低いが、数が多いな……パッと見だけで10匹近くは居る……確か狼は基本的に5~9匹で群れを成すらしいが、生態そのままみたいだな……!」


「そしてまたLv30以上……やっぱりこれくらいのレベルが当たり前になっているんだね」


「まあ、僕達も七人居るからね。例えレベルが近かったとしても勝てない事はないね」


 熊型モンスターの次は狼型のモンスター。確かに狼は群れを成す生態だが、狼型のモンスターは常に群れを成して攻めて来るのかもしれないな。

 取り敢えず、俺達の身体を温める為にも倒すか。


「──良し、と。やっぱり俺達のレベルなら基本的に一撃で倒せるな。モンスターの相手自体はあまり苦労しなさそうだ」


「君達のお陰でモンスターは本当に問題無さそうだな。しかし、それ以上の問題がこの道だな。体感はそのまま。強化された肉体でも暑さ寒さには弱いか」


「こんな状態だと、逆にモンスターが多く出てくる事を望んでしまうな。経験値を貰えて身体を動かせるのは良いものだ」


「一応歩き続けているので身体は動かしているのですけどねぇ。そもそも、果たしてこの世界でも身体を動かせば温かくなるのでしょうか?」


 そして狼型のモンスターを倒した俺達は足を止めずに歩み出す。

 ラディンの言うように雪が積もっているこの道は結構厄介だな。普通の地面を歩くより労力を要する。そしてエビネの浮かべた疑問だが、基本的な感覚が同じなので身体を動かし続ければ温まるかもしれない。

 ツバキが言っていたようにモンスターの出現も望んでしまうなこれ。


「ギルドメンバー専用アビリティの“転移ワープ”があるから野営は避けられるけど、そこまでの道のりは辛いな……何なら、ラディン達は先にギルドに戻っても良いんじゃないか?」


「ハッハ……そんな訳にはいかぬさ。今では北側全体が氷雪ステージ。君達のレベルなら全速力で走れば数時間で到着出来るだろう。しかしそれには道を知らなければならない。マップのような物も持ってはいるのだろうが、雪に覆われた白銀の世界。マップだけでは大凡おおよその位置しか分からぬさ」


「ま、一理あるな。マップはあくまでも目安。本物の雪原を進むに当たって重要なのは土地勘。方角。雪も降ってきたし、数時間で行けるとしても全域がこの様子なら吹雪に直面する恐れもある。道案内は重要だな」


 ラディンの言うことは尤も。

 その気になれば“地形生成”などで方角を確認する事も出来るかもしれないが、辺り一面が白銀の世界なので逆に混乱する可能性もある。

 確かな位置が分かっている者は必要だろう。


「と言うか、アンタらはたった一回通っただけで全部の道を記憶したのか? それっぽい言い方だったけど」


「ある程度はな。今は止まぬ雪が降り続け、溶けぬ雪道が連なる場所だが、本来は普通の街だった。つまるところ、目印になりそうな建物はいくつか記録しているのだ。こんな世界だから無くなっている可能性も前提として、地形や建物。山河。色々と記録は残してある」


「成る程。そりゃ万全だな。確かに雪の恐ろしさを知っている出身地の人達が何の対策も施していない訳はないか。山も多いから登山経験があればそれをそのまま生かす事も可能だ。対策は練られているって訳だな」


「まだまだ万全には程遠いがな。だが、ギルドメンバー専用アビリティは探索をするに当たって重宝出来る。遭難する可能性は限りなく0になるからな!」


「ハハ。確かにその辺りはギルドメンバーの特権だな。他のプレイヤー達が困らないように、危険が少ない俺達が開拓して道を切り開いて行かなきゃ他のプレイヤー達に申し訳ない。だから探索するんだ」


「そうだな。特にこの辺りは開拓も進んでいない。ある程度の目印をより大きく造る事が出来ればまだマシになるんだがな。そう考えれば、山道でも人の手が加わった道があった旧世界はかなり安全な場所だった」


 ラディン達は対策をしかとおこなっている。今回他のギルドに協力を要請する為に進んだのは、開拓して他のプレイヤー達の安全を確保する為でもあるようだ。

 色々考えて行動しているんだな。攻略組だからと言って、攻略の事しか考えていなかった俺も見習うとしよう。道が造られるだけで人々は安全に進めるんだ。

 まあ、やっぱり中心的に行うのはボスモンスターの打倒や魔王軍、首謀者の調査なんだけどな。


「さて、ここからは真っ直ぐな道が続く。君達にとっては遅いかもしれないが、時間短縮の為に少し走るから我らに合わせてくれ」


「ああ、別に良いよ。のんびり歩き続けたら到着が遅くなるもんな」

「はい、私も賛成します!」

「右に同じー!」

「それが良さそうだね」


 少し時間を短縮させる。ある程度の道が分かっているので走れる場面では走りながら進むらしい。

 確かにその方が効率的だな。俺達からも反対の意見は出ず、少し走り出した。

 雪で足が取られるのもあって、安全の為にもLv40前後のラディン達の速度は時速70~120㎞程。Lv60前後だった時の俺達が軽く走って時速300㎞前後と考えれば、この足場の中なら妥当と言えば妥当って感じの速度だな。

 何はともあれ、目的地である北側のギルドに向かう為、俺達は少し速度を上げて進むのだった。

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