ステージ4-24 次のステージ
──“ギルド”。
「お帰りなさいませ。サイレン様。ソラヒメ様方。そしていらっしゃいませ、お客様。ラディン様御一行とお見受けします」
ギルドに戻るや否や、受付のパール・アマリリスさんが出迎えてくれた。
どうやらラディン達の事も認知しているらしく、おそらく全ギルドのギルドマスターくらいは全てデータにインプットされているんだろうなという事が窺えられる。
「この人がサイレン達のギルドの受付か。外国人を雇ったのか?」
「いいや、いつの間にか増えていた。何の記憶にもない」
「やはりそうか……我らのギルドも知らない受付が増えている。“NPC”が自動追加されたみたいだ」
「成る程。他のギルドもこのギルドと同じ感じなのか」
受付を見やり、ラディンが質問をする。
自分のギルドと他のギルドを比較する。おかしな点が無いかなど、一つの変化だけで色々と推察出来るのは確か。
明るい性格だが結構真面目みたいだ。
「ギミックも同じ感じか?」
「ああ。我らのギルドも木造建築。一部が和風……それとこれは別件だが、どうやら首謀者には北側がイメージ的に田舎と思われているらしい。都市の変化もこの辺りのような荒廃した都市を覆う森林ではなく、木々は少なく農村の広がる一昔前の田舎と言った感じだった。“NPC”の数はそれなりに居たから何かしらの情報を掴めるかと思ったが、特に無かったな」
「つまりこの世界は首謀者の独断と偏見で形成されているのか。その辺のイメージで言えば寒いというものもあるが、どうだった?」
「察しの通りだ。雪の降り頻る氷ステージになっている。本来太平洋側はあまり雪が降らないが、俺達の地域は全てが雪まみれだった」
「それを知らない首謀者はその地域出身では無さそうだな。まあ、北国は寒いという思考を持っただけの可能性もあるが、とにかく首謀者に対するヒントになりそうな情報は全てまとめておくか」
ギルド内を進みつつ、今のこの辺り。元関東以外の国内状況について話す。
どうやら日本全国は区切りが付けられているらしく、ラディン達の出身地は雪のステージとなっているらしい。
ステージと言ってもシームレスフィールドなのは変わらないが、とにかく四季という表現を全国で四つに分けているって考えるのが妥当か。この辺りは気温などから考えて春か夏。初夏が近いな。ラディン達の出身地は冬。そうなると秋は……なんとなく、イメージで言えば大阪、京都がある近畿辺りな気がするな。
「しかしそれを聞くと、本格的にこの国は大きく変わったんだなって思うな。一つの地域がまるでステージみたいだ」
「ああ、我らもそう思っている。地球全体がゲームと化した大きな世界……攻略するのも一筋縄じゃいかなそうだ」
「まあ、実際俺達も結構苦戦しているからな。だから今回もギルドに居るサイレン達に救助を要請したんだ」
「そうだったな。それについても詳しく聞くとするか。ライト達の戦果とラディン達の話……俺達も聞きたいことは色々ある」
詳しい話はギルドメンバー専用の部屋にて行う。俺達は既にその扉の前に来ており、専用部屋へと入った。
*****
「さて、早速話を聞きたいが……ライトとラディン。どちらからにする?」
「俺は後で構わぬぞ。ライト達を最初に見た時少し思い詰めた様子だったからな。そう言った時は早めに吐露し、少しでも意識を紛らわせるのが良い」
「……ハハ、観察眼もあるんだな」
俺達の様子か。どうやらラディンにはそれなりの観察力もあるらしい。いや、見て分かる程に俺達が落ち込んでいたのかもしれないな。
ともかく、お見通しではあった訳か。
「じゃあ、話すとするよ。単刀直入に言えばボスモンスターと“PKプレイヤー”に出会った……って感じだな」
「ボスモンスター……! また会ったのか……」
「プレイヤーキルだと……!? この世界では他者の命が自分の命になる……つまり殺戮主義者の下劣な者が居たという事か……! 許せぬ……!」
反応は概ね予想通り。サイレンは何度もボスモンスターに会っている俺への言及。ラディンは本人の性格通り、プレイヤーキル、通称“PK”への言及。
色々と思うところがあるというのはその様子から分かった。
「順を追って説明するよ。ボスモンスターは倒したけど、あまり良い話にはならない……」
「そうか、分かった。相応の覚悟は決めて話を聞くとしよう」
「ふむ……確かに訳アリのようだ。俺も静聴するか」
そして俺は今回の出来事について詳しく説明した。
ボスモンスター。三頭竜から始まって竜帝と変化したこと。そのレベル。首謀者のライフについて。
それだけではない。ライフを倒す為に、多くの犠牲を払ったこと。そのライフは確実に倒し……否、殺して俺達の命が増えた事。その全てを包み隠さずラディン達を含めて全員に話した。
「──って事だ。ハハ、皮肉なものだな。俺達も殺戮主義者の下劣な存在になった訳だ」
「……! 待て、俺はそんなつもりで言ったのではない! そもそも、君達は嬉々として倒した訳ではなかろう! 話を聞く限り苦悩の果てにやむを得ず……選択肢がそれしかなかったと……!」
「あ、いや、悪い。ラディン。俺の今の言い方は皮肉染みていた。ラディンの意見には俺も同意だからな。少し後ろ向きになっていた」
俺はラディンの言葉を使って俺達の存在を表すが、悪い事をしたな。善意に対しての皮肉はもはやただの暴言だ。少なくともラディンは百パーセントの善意で先程のライフについて言及していた。
しかしながら、如何なる理由であれ俺が殺人を犯したのは事実。俺に合わせてくれたユメ達はともかく、自ら進んで人を殺した俺はもうまともな死に方は出来ないかもしれない。いや、出来ないだろう。神や仏は信じない方だが、自分の中の存在。脳による思考を神や仏に例えるなら常識という世の中のルールを破ったんだ。常識というものも人が勝手に生み出した存在だが、それを幼少期から世界で推奨されて法律が正しいと思い込まされているので罪悪感はある。
善意に欠けている存在、それこそライフのような存在ならただのモンスターを倒しただけと割り切れるのだろうが、見た目が変化したと言っても元が人間なので俺はそう簡単には割り切れなかった。
「すまなかった。お前達メンバーに迷惑を掛けて……こんな事になるならもっと早く到着出来るように予め探索を進めておくんだった……!」
「サイレン達は悪くないさ。ボスモンスターが現れた時、すぐにサイレン達を呼んで待機していれば良かったんだ。言うなれば俺の傲慢が生んだ失敗……取り返しが付かない……な」
誰も俺を攻めず、逆に謝罪する。
サイレン達には何の罪もないのに本当に悪い事をしたな……俺だけが全ての罪を背負えば良いのに、気を使わせてしまった。
「……。ライトさん。また自分一人だけが責任を負おうとか考えていません?」
「……!? そ、そんな事……」
「考えているんですね」
「あ、えーと……はい……」
ユメにその事を指摘されてしまった。
俺の考えている事が分かるのか? いくらなんでも鋭過ぎる……魔法使いにも思考を読む魔法とかあるのか?
「ライトさん! ……私達も、一緒に罪と責任は背負っています。ここに居ないマイさんとリリィさんも同じく。……いい加減、私達を信用してください……」
「し、信用はしている……。いや、確かに信用しているけど、今回は素直に謝ろう。ごめん……」
「全く……」
ソロプレイの癖は抜けない。いや、根本的な俺の性格の問題かもな。
生活事情からして基本的に一人で事を済ませるから一人で何かをする癖が付いているのかもしれない。
「アハハ~。なんか暗くなっちゃったけど、取り敢えず誰も悪くないよ。私達も同罪だからね!」
「明るくそれを言うんだね。ソラ姉。けどまあ、無理をしているのは分かるよ」
「……っ。そ、そんな事無いよセイヤ! けど、ライトが全てを背負う必要は無いからね!」
「ハハ、助かるよ。ソラヒメ」
ソラヒメとセイヤはいつのもの調子だが、無理をしているのは俺にも分かる。……ユメ達から見た俺もそんな感じだったという事か。
一先ずの話はある程度まとまった。
「事は済んだか。……しかし、ボスモンスターのLv50からLv150。そしてLv500という高過ぎるレベルも気になるが、一番の問題はプレイヤーがモンスターになる事だな……ライト達の推測では力の過剰摂取……少し違うが、そんなところか?」
「ああ。サイレンも理解しているように純粋な力とは違う。プレイヤー達から出てくる光の粒子……形容はしがたいな。それとストレスを与えて肉体に何らかの影響が及んだ……って考えている」
「あの光の粒子……あれが本当に不明だな。詳しい事はよく分からなくて、試してみようにも他者の命が対価だから試せない……八方塞がりだな」
「そうだな。今後、ライフのような者が現れるかは分からないけど、同じような思考を持つ者は出てくるかもしれない。望みたくないけど、その時詳しく知れるかもしれないな……」
「他者の命が自分の命に……元の世界でも食事などはそんな感じだったが、それとは根本的に違う今の世界……どちらにせよ難しいな……」
今回の報告はまだ情報が少ない事もある。竜帝のレベルについてもある程度の言及はあったが、やはり大部分はライフの変化について。
しかしながら、分からない事の方が多かったのでボスモンスターとプレイヤーの変化についての話はこれにて終了した。
「さて、次は俺達だな。と言ってもやる事は決まっている。このギルドと我らのギルド。互いに協力して世界を攻略しようという提案だ」
俺の報告が終わり、次いでラディンが目的を話した。
俺達にも言ったようにラディン達の目的はギルド同士が協定を結び、このふざけた世界の攻略。目的は一貫している。
「しかし、よく俺達に協力を要請出来るな。この世界では寝首を掻く存在が居る可能性は0じゃないのに」
「ハッハッハ。我らが自ら望んでいる事だからな。大丈夫だ。寧ろ君達も俺を怪しまなくて良いのか? 話を聞く限り、ライフという表面上はまともな存在が欺いていたらしいからな。こんな感じで接して来たら怪しさしかないだろ?」
「自分でそう言う者は多分大丈夫だ。考えてみれば、俺達が聞いたライフの言葉の“仲間”を“自分”に置き換えればライフの性格がよく分かる。ライフが大切にしていたのは仲間じゃなくて自分だけだったってな。少なくともアンタからは、悪意は感じない」
「……。ふふ、嬉しい事を言ってくれる。それは方便ではなく、本心として受け取っておこう」
「ああ、本心だ。そう思ってくれて構わない」
ラディン達は信用に値する。俺達はそう考えていた。
ラディン以外の六人は特に話さないのでまだ性格などは分からないが、少なくともラディンは信用出来るだろう。
「さて、ここからが本題だ。このギルドの者達は今回、俺達と共に行動して欲しい。これから俺達の一部は南西にも向かう。何人かは俺達と共に俺達の北側にあるギルドに寄って、残りの者達でここから向こう側のギルドに協力の要請の交渉に行って欲しいのだ」
「成る程。大人数で日本列島は渡らず、分けて行くのか。確かに狭い狭い言われている日本も、実際はかなりの広さを誇っている。世界の国土ランキングだと世界各国の半数よりは上だったか。山地が多いから土地は確かに少ないかもしれないけど、だからこそこの世界では様々なモンスターが現れる筈。倍の大きさになった巨大列島を行くには手分けする必要がある……って感じか」
「ああ。旅路はかなり長くなる。俺達はギルドを四日前に出たんだ。それでこの辺りに来たのは今日のついさっき……全速力ならもう少し早かったかもしれないが、ともかく長かった。それで、完全に信用はしていないのだろうが、まだ君達は見ていない場所だ。道案内はするが今回もそれくらいの時間を掛けて行く事になるが……どうだろうか……」
頭を下げて頼み込む。ギルドマスターが簡単に頭を下げるのか。実は結構謙虚みたいだな。
そんなラディン達がギルドを発ったのは四日前との事。俺達が魔王軍幹部のスパイダー・エンペラーと戦っていた辺りか、マウンテン・クロコダイルと戦っていた頃か……。まあいいか。
ともかく確かにかなり長い道のりみたいだ。常に全速力じゃ走れないというのもあるが、ラディン達が掛かった時間が四日。長丁場になりそうだな。
加えてこれから道も知らぬ南西方面に向かう者達も居る。考えるまでもなく長い時間が掛かる事だろう。
「分かった。それじゃあ、俺と一部が南西方面に向かう。えーと……ライト達がラディン達に着いて行って報告してくれるか?」
「ああ。オーケーだ。雪ステージと化した北側……まあ厳密に言えば北じゃないけど、興味がある」
無論、俺達の答えは決まっていた。
サイレンを始めとしたメンバーが南側、南西方面。俺達が北側、東北方面に向かう事となる。
例え長時間掛かろうと何か掴めるかもしれない。協力者が増えるのも喜ばしい事。なので断る理由は無いだろう。
「良いのか……?」
「ああ。まあ、元々日本全国は巡るつもりだったからな。どちらの方向から向かうのかの違いくらいだ。自分の足で進まなくちゃ首謀者の手懸かりは永遠に掴めないさ」
「そう言う事だ。ライト達が行けば安心。俺達も向かうから安心。つまり、日本全国安泰という事だな」
「おお……協力、感謝する!」
感涙し、頭をもう一度下げるラディン。てか、泣く程かよ……。まあいいか。
何はともあれ、次の俺達の目的地は日本の雪国地帯に決定した。この世界では季節や環境がどうなるのかも知っておきたいからな。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人とラディン。そしてもう二人が北側に向かう事になり、サイレン達が南側に向かう事になった。正しくは東北と南西だが、それは置いておく。今はもう夜更け。明日の早朝か、今すぐ向かうか。まあそれは後で考えよう。
“トラベル”の街での騒動が解決し、一人の存在を大きな犠牲を出して倒した俺達は、この世界を攻略する為に、新たなステージへと踏み込むのだった。




