ステージ4-23 他のギルド
──“トラベル”。
「おお、冒険者様達が帰って来たぞ!」
「待てよ? 数が減っていないか?」
「ダンジョンを突破して先に進んだんじゃないか?」
ライフを倒し、“トラベル”の街に戻った俺達を街の人々が迎えてくれた。
信頼してくれているみたいだが、確かに飛竜の襲撃を追い払ったのだからこの様な態度にもなるか。特にソラヒメとセイヤ、リリィは二回も追い払ったしな。
「おお、帰って来られたか。マイ殿。リリィ殿。そしてギルドメンバーの方々」
「ええ、わざわざ迎えてくれてありがとう。王様。けど、少し休ませてくれないかしら」
「ああ、さぞお疲れだろう。何なら祝いのパーティでもどうだ? ボスモンスターは倒したのだろう」
「ごめんなさい。色々と疲れているの……けど、パーティは賛成ね。私達が参加するかは分からないけど、街のみんなと祝っていて頂戴……」
「うむ。心得た」
マイはこの様な対応に慣れており、俺達と共に宿屋に向かう。
確かにパーティなんかする気分じゃないな。そして歩み出した直後、辺りからざわめきが聞こえてきた。
「オ、オイ……あれ……」
「ギルドマスター様だ……!」
「ギルドマスター様と他のギルドメンバー様方が来たぞーッ!」
ギルドマスター。成る程。ようやくサイレン達が“トラベル”の街に着いたのか。予定より少し早かったな。
まだ荒廃したビル群辺りに居ると思っていたが。
俺達はそちらに視線を向けた。
「お前達。もしやサイレン殿率いるギルドのメンバーか?」
「……え? 誰だアンタ?」
向けた瞬間に話し掛けており、その者は見た事のない人物だった。
だが、確かに“ギルド”が世界に一つというのは考えにくい。管理所の数だけギルドがあり、日本支部の管理所も俺達以外にある。なので全ての管理所がギルドになったなら、他の日本支部ギルドがあってもおかしくない。
しかし、わざわざボスモンスターを倒した直後に現れる他のギルド。考える間もなく面倒な事が起こるだろうな。こう言った世界のあるあるはギルド同士の派閥争いとか人間同士のぶつかり合い。人間同士のぶつかり合いは今さっき終えたばかりだから避けて欲しいものだな。
そのギルドの人数は……ざっと七人。うん。ざっとは要らないな。男女で七人。一瞥するだけで数え切れる。割と少数だ。
「申し遅れた。俺のユーザーネームは“ラディン”。職業は“聖騎士”。元々は日本、北側の管理所に居た」
「“聖騎士”……“騎士”の上級職か。そう言えば、賢者とかソードマスターとか上級職の存在はまだ会った事が無かったな……」
名をラディン。聖騎士だから“パラディン”からパを抜いたのか。つまり“AOSO”内にて騎士を選んだ時点で聖騎士になるつもりだったみたいだ。とにかく、案外丁寧な人で良かった。
そしてラディンさん曰く、北側。おそらく北海道・東北方面のギルドから来たらしい。
俺達の居るここは、多分まだ関東。関東に一番近い福島県辺りから来ても数時間は掛かる筈。加えてこの世界の面積は倍以上。更に加えて乗り物なども馬車くらいしかないので、強化された肉体を用いても半日以上は掛かるだろう。
その距離をわざわざ来たのか。確かに“トラベル”の街は俺達ギルドよりも北側寄りに位置しているが……。ギルドに用があったならむしろ、ここから更に半日進んでギルドに行かなきゃならないので苦労が更に増えるな……。
「それで、そんなギルドマスター様が関東ギルドのしがないギルドメンバーでしかない俺に何の用ですか?」
「オイオイ、いきなり卑屈になり過ぎだろう。男なら洒落た格好に身を包み、侠気に満ちなければな。そう、俺。伊達男のようにな!」
「自分から言うのか……けど、確かに装備にしては洒落てるな……まあ、聖騎士らしいきらびやかな装備だ」
ラディンさんの見た目はかなりお洒落。“伊達男”というのはお洒落に力を入れている存在の事を指す。加えて侠気。つまり他人の為に行動を起こす者の事もだ。
自分でそう言うだけあって性格は悪くないのかもしれないが、ついさっきまで戦っていたライフの事もあるので判断するのは難しいところだな。
誰にでも裏がある可能性は存在している。
「まあいい。取り敢えず貴方達が来た理由を教えてくれないか?」
「おっと、そうだったな。と言っても理由は一つだ。ギルド同士で協力したい。この世界では自らの足で赴かなければならないからな。そのうち近畿や九州……南西側のギルドとも合流するつもりで旅をして来たという事だ」
「成る程な。確かにアンタらの連絡先は知らない。ギルドとしての連絡先も、備え付けられた情報機器ですらこの世界じゃ動かなかったからな。データを登録出来れば他のギルドとも繋がれるんだろうけど」
曰く、ギルド同士で協力したいとの事。
確かに全てが変化してしまったこの世界では情報データを改めて入力しなければギルド同士ですら通信が行えない。
だからといってわざわざやって来るとはな。根性据わっているよ。
「ギルドマスターならギルドを放っておく訳にもいかない筈……よく来れたな」
「ああ、同じギルドでのメンバー同士でなら通信も出来るからな。何かあれば“転移”ですぐに戻れる」
「成る程な。その辺は俺達と大体同じか。やっぱり各ギルドはせめて自分達だけでも通信を行えるように準備しているのか」
「そう言う事だ」
やはりギルドの存在というものは大体同じらしい。
斯く言う俺達も自分達同士でなら情報共有端末から通信を行う事を可能にしており、何かあれば即座に駆け付けられるようにしている。
今回のように他のギルドメンバー達がまだ行った事のない街やダンジョンでの行動以外なら迅速に行える事だろう。
「何やらギルド様方は重要な話をしているみたいだな」
「その様だな。我々は離れておくか」
「そうだな。王が祝宴のパーティを開くらしいし、そちらに寄るか」
「ああ……」
俺達の話は他の住民達にとっては検討が付かないモノ。なので物珍しさも兼ねて俺達の近くに居た人々は城の方へと向かっていった。
まあ、かえって好都合だな。話はスムーズに進む。
感情を持ち始めたと言ってもまだ“NPC”は“NPC”。なので“AI”が状況を判断し、関係無い事であると学習して行動パターンが変わったのだろう。
「それじゃあ話を続けたいところだけど、マイ達はどうする? これはギルド間の問題。一般プレイヤーのマイ達には関係無い事だけど……」
「……。……そうね。それじゃ此処で別れましょうか。アナタ達、多分ラディンさん達の目的からしても拠点のギルドに戻るわよね? 私達もやる事は無いし、せっかくレベルが上がったのだから次の街へと向かって今回の、全世界の問題を改めて攻略するわ」
「そうだね。今回の戦いで多数の犠牲者が出たもん。私達の力、もっと他の人達の役に立てたい……」
「あら、リリィが自分からそう言うなんて珍しいわね。フフ、ライト君達と出会って変わったのかしら?」
「うるさいなぁ……私だってマイより大切には思っていないだけで、一応人助けもするよ……」
「フフ、それは良い事だわ」
マイとリリィの二人は先に進むらしい。今回の戦闘でレベルが80以上に上がったのもあり、人々の為に役立ちたいようだ。
それなら引き留める理由は無い。俺達も俺達で攻略を目指している。他のプレイヤー達より少しだけ使える能力は多いが、だからこそそれを役立てたい。マイ達と気持ちは同じだ。
「そうか。分かったよ。マイ達とはここでお別れだ。少し名残惜しいけど、頑張ってくれ」
「ええ、私も少し寂しいわね。けど、一人でも首謀者に近付かなくちゃ世界の問題は解決しないものね。……またいつか、機会があったら会いたいわね。ライト君達と」
「私は別に……けど、取り敢えず挨拶くらいはしてあげる……さよなら」
これにて俺とマイ、リリィの会話が終わり、二人は一度城に向かった。
気分的にも盛り上がるようなパーティには向いていないのだろうが、改めて世界の情報を王達から聞くつもりなのだろう。おそらく参加はしないようだ。
しかしその行動力には俺も素直に感嘆する。
「さて、アンタ達が何でこの街に居る俺達の事を知っていたのかは分からないけど、ギルドに……要するに用があるんだろ? 丁度そのサイレン達がこの街に向かってきているんだ。ギルドに向かえば途中で会えるんじゃないか? 俺達が案内するよ」
「なにっ? それは誠か!? それは良い。是非案内してくれ!」
「何か古文入ったな……まあいいか。俺達も色々とサイレン達には報告があるし、一時的にとは言え他のギルドの仲間が増えるのは頼もしい」
「よし、交渉成立だな。ではすぐに向かおう」
「ああ」
話は簡単にまとまった。
てっきりギルド同士の派閥争いとかに巻き込まれるのかと思っていたが、どうやらその心配も無いようだ。話が分かる人達。話していたのは厳密に言えば一人なので、話が分かる人で良かった。が正しいか。
何はともあれ、“トラベル”の街に戻った俺達は、早速街出て北側方面のギルドメンバー達と共に行動を起こすのだった。
*****
「貴方がラディンさんか。俺はギルドマスターのサイレンだ。よろしく!」
「ああ、知っているみたいだがラディンだ。よろしく頼む!」
“トラベル”の街を出てから数十分後。日の光が山に隠れた夕暮れの、自然に覆われた荒廃都市にて俺達はサイレン達と再会した。
急な呼び出しだったのでこの場にはサイレンを含めてギルド待機組の者達くらいしか居ない様子だった。
「……。と言うか、ラディンさんを知っているのか。サイレン」
「ん? ああ、ラディンさんは“AOSO”の世界プレイヤーランキングで第十二位の実力を誇っていたんだ。ある程度やり込んでいれば知れる筈だ」
「世界プレイヤーランキング? そんなものあったのかよ……イベントとかはたまに開かれていたけど、ある程度どころか結構やり込んでいる俺は知らなかったぞ……」
「ま、ランキングっても非公式だからな。公式ではランク付けされていない。主にネットでのランキングだから、基本的に“AOSO”をやっていたライトだからこそ知らなかったんだろうな」
ネットの非公式ランキングだとしても、世界の七割がプレイしている中の第十二位。二桁台だが、何億人の中の十二なのでかなりの強者という事は分かった。
「と言っても、ライト。お前も結構有名だぞ? あまりイベントには参加していなかっただろうから正体は不明扱いだが、ライトと思しき存在が七位に入っていた」
「七位? いや、確かに俺はあまりイベント事には関わっていなかったけど……ソロプレイだったし……とにかく、それって本当に俺なのか?」
「ああ。ほら、ランキング関連はメモする癖があってな。七位に正体不明。光の剣士。光の勇者。光速の戦士。色々と異名がある」
「本当だ……てか、元の世界で保存されたデータは残っているのか……融合した世界で全てのデータも上書きされたと思っていたけど……」
「ま、アナログだからな。今時紙に描いて保存するのは俺くらい。だから非公式上位二十人の記録は残ってる。そのうち役に立つ時が来るかもしれないからな。こんな世界だからこそ、上位者の記録は残しておきたい」
「へえ……」
確かに今ではデータ表記になっているが、よく見れば手書きの癖が少し見える。現実世界と“AOSO”の世界が融合した時に紙はデータ化して残ったって言ったところか。
……。しかしながら、もしかしたら俺が“星の光の剣”を使えるヒントになるかもしれないな……。
上位プレイヤーの記録。それは非公式だとしても首謀者は見ている筈。上位の何人かにだけ、少しは“AOSO”内のデータを引き継がせた可能性がある。それなら何の為に? という疑問も出るが、あくまでも推測なのでよく分からない。
しかしだからこそ、この世界ではラディンさんが聖騎士なのかもしれないな。
上級職になるには一定のレベルと経験が必要。“AOSO”内なら何日かレベルを上げる事でジョブチェンジ出来るが、この世界ではそう上手くもいかない筈。その様に考えればラディンさんは始めから聖騎士だったという可能性が出てくる。
そこに俺の推測が嵌まれば、元凶の首謀者は何かを狙って上位プレイヤーの一部能力がそのまま反映されるように設定した可能性がある。まあ、推測も推測。推測の推測。本人に直接会わなきゃ分からないけどな。
「取り敢えず、歓迎する。ラディン。俺もサイレンと読んでくれて構わない。他の者達もサイレンで良い」
「そうか。では改めてよろしく頼む。サイレン! 他のメンバーも俺の事はラディンで構わぬぞ!」
「ああ! 一先ず、また半日掛けてギルドに戻るとするか!」
「そうだな。ハッハッハ! この世界の疲労はモンスター討伐以外であまり生じないのが良いな!」
「ハッハッハ! そうだな!」
「何か打ち解けてるし……」
サイレンとラディンさん。もとい、ラディン。
二人は性格上気が合うらしく、早速打ち解けていた。まあ、疑心暗鬼状態や不仲よりは良いんだけどな。
何はともあれ、ライフを倒した後の行動。それは北側方面から来たギルドマスター、ラディンの登場によって多分、良い方向に変化するのだった。
まあ、俺の気分も少しは晴れたしな……。




