ステージ4-22 永遠の命
『ウガァ!』
「……っ。この状態でも使えるのな……!」
俺達に向け、ライフが炎を放出する。
おそらくこれは他のプレイヤー達の職業からなるスキル。
竜などのように炎を吐き付ける事が出来なくとも、いやむしろ、既に取り込んだ力が使えるので攻撃パターンは竜帝よりも圧倒的に多い事だろう。
……待てよ? 他のプレイヤー達を殺して取り込み、残機が増えたライフは他のプレイヤー達の力も使える。それならそのライフを四回殺した俺はどうなんだ?
『ゼッタイニ……』
そんな事を考えている間も攻撃は止まない。腕を薙ぎ払い、所構わず周りを破壊して崩壊させた。
ライフは腹の立つ存在だが、慎重に粘り強く事を進める側面がある。今の様子から、理性も何も存在せずただひたすら暴れまわっているだけのようだ。
取り敢えず、今一度ストップを掛けるか。
『コロォス!』
「定型文みたいに同じ事しか言わないな……何十年も前のゲームでも、もう少し戦闘中の会話バリエーションはあると思うぞ?」
ストップを掛けるにも、ライフの攻撃に巻き込まれたら元も子もない。
なのでその辺りの立ち回りも上手く行わなければならなそうだ。
俺達が反応出来る初動も、決して遅い訳ではない。直前に何とか見極められるだけで、一瞬でも反応が遅れたらまともに食らってしまうだろう。
「“停止”!」
「「「“停止”!」」」
そして、体躯は精々数メートルだが、動きを数秒止めるのにもそれなりの力が必要。厳密に言えば俺達四人がギルドメンバー専用アビリティを用いてようやく数秒止められる。
つまるところ、戦闘を有利に進める為にもこれを繰り返す必要があるが、俺達が耐えられるか難しいところだった。
後何時間かで他のギルドメンバーが来るので、それまで耐えられるかどうかが勝負の決め所だ。
その鍵になるのは、ギルドメンバー専用アビリティ。そして、俺が得られたかもしれない、ライフの使っていた何かのスキル。
「ユメ達は仕掛けていてくれ! 俺は一度スキルを調べてみる! 倒したプレイヤーの力が得られるなら、俺はライフの何かを覚えているかもしれないからな!」
「はい! 分かりました!」
「まっかせてー!」
「何かヒントを掴めれば良いね」
「“停止”以外の拘束系の何かが欲しいところね……」
「難しい問題だね」
“停止”で止められている数秒を使い、俺は即座に現在の使用可能スキルを確認する。
“星の光の剣”を使ったので“SP”はまだ回復していないが、一度死んだ事でリセットされたのか、“SP”の回復速度自体は元に戻っていた。これなら何か有用なスキルを見つけた時、即座に使えるかもしれない。
「……」
一先ずステータス画面を開いて確認。“ステータスオープン”と言っても良いが、そんな事を言う暇があれば早いところ有用スキルを見つけたいところだ。
スキルを新たに使えるようになった順で並べ替え、一気に見る。“火剣”。違うな。“風刃”。お、竜帝も使っていた遠距離スキル。けど、多分威力は竜帝以下だろうしこれも今は必要無さそうだ。火属性と風属性のスキル自体は悪くないんだけどな。
一先ず流し見をするようにズラッと並んだスキルを更に一斉確認。
『“雷剣”。“土剣”。“水剣”。“草剣”。
“氷雪剣”。“岩石剣”。“重剣”。“毒剣”。
“竜剣”。“天空剣”。“連続射撃”。“巨大弾”。
“遠槍”。“飛拳”。“癒しの詩”。“攻撃の詩”。
“捕縛”。“召喚”。“法印仏手”。“窃盗”』
これも違う。あれもそれも違う……。流石に三桁レベル……Lv112になったらスキルの数もかなり増えているな。そして本当に通常の剣士が身に付けないようなスキルもある……。つまり、やっぱりそう言うことか……。何となく嫌なスキルの覚え方だな。
それと、剣士としてのスキルに属性付与が多いのはユメとリリィの影響か。
獣使い。つまりライフの本来の職業スキルの“捕縛”は使えそうだが、まだまだダメージが足りない。
それ程のスキルがあれば多様性も有用性あるが、今はあまり役に立たず、そもそも本来の職業とは違うので上手く使えないな。
『ウガァ!』
「ライトさん!」
「ああ、分かった!」
ライフが“停止”から逃れてまず一巡目の確認時間は終了。
成果はあったが、今の状況的観点から思案すれば成果無し。……言葉をカッコよく考えてみたが、うん、やめよう。要するに今の状況を打開する為の調査の結果、何の成果も得られなかった。
ユメ達の方も少しのダメージは与えたみたいだが、変わらず効果は薄いようだ。
『コロォス!』
「殺意の塊だな……まるでさっきまでの俺みたいだ」
「ライトさんとは違いますよ。ライトさんの場合は心を痛めていました。ライフはただ、やり場のない逆恨みを糧に暴走しているだけです!」
「ハハ、そう言って貰えると嬉しいよ」
巨腕を用いて大地を割り、岩盤を浮き上がらせて砂塵を巻き上げる。
そのまま更に暴れまわり、森を巨腕の一振りで薙ぎ払った。
……成る程な。多少の思考は出来るらしい。ただひたすら暴れまわっているだけのライフだが、絶え間無く動き続ける事で俺達の狙いを定めにくくしている。
「“地形生成”!」
『……!』
なので一旦、“地形生成”にて砕けぬ壁を周りに生み出し、一瞬だけ動きを停止させた。
動き回るせいで止められないなら、一瞬だけでも止めれば良い。実に単純明快な考えだろう。
「「「「“停止”!」」」」
『……!』
今一度停止。
ユメ達は即座に攻撃へと移り、俺はスキルを確認。
まだまだ数はある。剣士スキルに格闘家スキル。魔法に魔術など様々。全部俺以外のプレイヤーのスキルだけどな……。他にも錬金術師や銃使いのスキルに狙撃手のスキル。“鉄の傀儡”。“集中砲火”。“煙幕”。“炎弾”。それと──“神の進撃”に“天空槍”。
最後の二つはランスさんのスキル……最後にやられたからか。位置は一番下だった。いや、接点が無い錬金術師のスキルも似たような場所にあるし偶然か。
本来新たなスキルを覚えるのは楽しくて嬉しい事だ。けど……今回ばかりはそんな気になれない。今回のパーティメンバー、その者達が存在した唯一の証が俺達の記憶か俺が覚えた……あの者達が覚えていたスキルだけなんてな……。
いいや、落ち込むのは後だ。ユメ達も頑張っているんだ。俺もやれる事をやらなくちゃな。この“煙幕”と“鉄の傀儡”。は使い道がありそうだ。
『ウゴォ!』
「ライトさん!」
「ああ、分かっているさ!」
停止状態が解除され、ライフが前方に拳を放出。それによって空気が拉げて飛び、俺達の背後を粉砕させた。
風圧で岩盤を砕くか……。まあ、範囲だけなら余波で山を崩壊させた竜帝よりも狭いけどな。
「それで、どうだった!? ライト!」
「ああ、一瞬だけ隙は作れそうだ。そして今度は、完全にその動きを止める! みんなも手伝ってくれ!」
「了解! 分かったよ!」
「はい! 分かりました!」
「分かった。上手く行くといいね!」
「分かったわ!」
「ま、仕方無いね。分かったよ」
策は思い付いた。全員に及ぶリスクは多いが、その辺りを上手くまとめたいところだな。
「まず俺がステータスを開く。レベルアップボーナスを“MP”に割り振って使用スキルを調整する!」
「その間に私達が気を引く……!」
『ゼッタイニィィィ……!』
作戦を実行。
今回の作戦には俺の残り“SP”が必要不可欠。なので今回得られたポイントを一気に割り振る。
それに賛同し、俺達の中で一番素早いソラヒメがライフの注意を逸らしに眼前まで迫った。
ライフはソラヒメに意識を向けて拳を打ち付け、それをソラヒメは躱して駆け登る。同時に顔を殴り付けて吹き飛ばし、地形生成にて地面の鎚を造り出して更に遠方へと殴り飛ばした。
「次に俺から意識を逸らしてくれ。遠距離攻撃と注意を引く躍りで……!」
「はい!」
「オーケー!」
「分かったわ!」
「了解ー」
俺へライフの意識が向かっては意味がない。なのでユメ、セイヤ、マイ、リリィの四人が遠方へ吹き飛ばされたライフにちょっかいを出す。
「刺激を与えるなら……“サンダー”!」
「“雷矢”!」
「電気の伝導率を上げるよ。“凍結”!」
「そして私が──“挑発の舞”!」
ユメとセイヤが雷属性で刺激。リリィが一瞬でも凍らせて持続させ、俺とは逆方向にてマイが注意を引く。
これで盤面は整った。
「─“煙幕”!」
『……?』
そして煙幕を張り、俺の姿を完全に消し去る。
その間にもユメ、ソラヒメ、セイヤ、マイ、リリィの五人が全方位から仕掛けており、ライフの狙いも定まらない様子。後は総仕上げだ。
「──禁断錬成・“鉄の傀儡”」
『……グゴォ!』
錬金術師の必殺スキルを使い、ゴーレムを形成。やっぱり本物には遠く及ばない出来だが、少しでも長くライフの動きを止めてくれればこのアビリティが完全に発動する。
「──ギルドメンバー専用アビリティ・“バグ・システム”!」
『……! …………!?』
“バグ・システム”。
これは先程も使った、どんな存在だろうと完全に動きを止める、古参のギルドメンバーにしか使えないアビリティ。
その代わり完全拘束まで時間が掛かり、人間態だったライフがしばらく話せたように発動してから少しの間は動ける。
その少しでも今のライフにとっては俺達を壊滅させるには十分過ぎる時間。加えて効果の影響が出るのは“停止”の停止時間よりも長く、先程ライフの動きを止めていた時にも使うに使えなかった。
それが今、アイアンゴーレムによって妨害され、比較的安全に止められるのだ。
『ウ……ガァ……!』
『……』
その瞬間、アイアンゴーレムが破壊された。
やっぱりこれくらいが関の山か。後一秒もないが、果たして完全に発動するか……。
「「“停止”!」」
「“地形生成”!」
『……!?』
「……!」
そんなライフに向けてソラヒメとセイヤがストップを掛け、ユメが生成した地形で上から押し潰して動きを防いだ。それによってライフの動きが止まり、辺りに地響きを引き起こす。
流石の三人だ。今の状況で何が重要かをよく理解している。お陰でアビリティは完了した。
『……っ。……!!』
「これで……完全拘束……完了か……!」
カクカクとライフの身体がブレ、その動きは完全に停止した。
ステータスにまでバグが進行しており、動き出す気配はない。
何はともあれ、暴走したライフの完全拘束は達成した。後はただ、何事も起きずに他のギルドメンバーが到着するのを待つだけ……。
『…………』
──いや、もう終わらせた方が良いのかもしれない。
*****
「それで、拘束したライフ……どうする?」
「単純に考えるなら、完全に倒した方が良さそうだね。もう既に償い切れない程の罪を犯しているし、仮に元の姿に戻っても改心はしないだろうからね……」
「……。はい。人間だった存在を殺める事には抵抗がありますけど、先程まではライトさんだけが手を汚していました……今度は私が手を汚します……ライトさんだけに業を背負わせる訳にはいきませんから……!」
「僕も賛成だね。復讐は悪という風習がある。それには僕も概ね同意だけど、今回の件は僕達が大きく関与している。“復讐”じゃなくて、“責任”があるんだ。心苦しいけど、やるしかないよ」
「みんな……コイツに殺されたんだものね……」
「許せない……!」
『…………』
暴走したライフを完全に拘束した俺達は他のギルドメンバーを待たず、これからの処置について話し合っていた。
如何なる理由があろうと人を殺めて良い理由にはならない。──“罪を憎んで人を憎まず”。“ただの自己満足の為に殺しをするのはいけない事だ”。“ここでコイツを殺しても死んでいった者達は喜ばない”。“人を呪わば穴二つ”。
この国では、いや、この世界ではあらゆる理由から人殺しは禁忌とされている。だが、いざという時はそれを遂行しなくてはならない時もある。
処置を考える話し合いだが、もう既に俺達は自分達が罪を背負う事でそれを遂行させるつもりだった。
もし仮に“正義のヒーロー”や“純粋な心優しき人物”。“正義感の強い者”がこの場に居た場合は止めろと声を張って止める事だろう。実際、それが正しい事だ。
だが、既に理性は無く、殺戮の事しか頭に浮かべていない今のライフの存在からして、この場で仕留めなければより大きな犠牲が伴う。
ヒーローや主人公が居るフィクション作品でも、怪人やモンスターは慈悲無く殺される。その怪人やモンスターと同種になってしまった今のライフを救う手立ては、この方法しかない。死こそ救いと謳うどこぞの神も居るが、正に今の状況がそれだった。
もう、全員の腹は決まっている。
「──……。それじゃあ、トドメだ。元の世界だったら、こんな事にはならなかったんだろうな。……ゆっくり休んでくれ。……ライフさん」
『……!』
──その日、“トラベル”の街近隣のダンジョン“竜の洞窟”付近にて何十。何百回もの苦痛に満ちた咆哮が響き渡った。
それによって“永遠の命”は消え去り、代わりに俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、マイ、リリィ。計六人のライフとスキルが複数増えるのだった。




