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ステージ4-21 人間モンスター

『ゼッタイニ……ゼッタイニィィィ……!』

人間プレイヤーが……モンスターに……」

「今は……ステータス確認を……」


 モンスターと化したライフを前に、そのステータスを確認。

 まだ本格的に動いていないので、もし本当にモンスターになったのならこの画面に表示される筈だ。


『──“エターナル・ライフ”──Lv???』


 ──表示されてしまった。

 エターナル・ライフ。直訳で永遠の命。永遠を望んだ男の成れの果て……とでも言ったところか。……と言うか、何だよこのレベル表記……バグっているのか? さっきの“バグ・システム”の影響か?

 その理由は分からないが、明らかにヤバい存在という事は火を見るよりも明らかだろう。


『ウガァ!』

「……っと。暴走状態的な奴か?」


「見た目が変化する生物か……人間を始めとして現実世界にも色々と居るけど、ライフの場合は理由が分からないね。細胞その物が変化している」


 見れば、辛うじて人間の形は保っているが角や牙が生え、全身の筋肉が肥大化していた。

 角のタイプは骨格の一種なのか、サイなどのように毛が固まった物なのかは不明。牙は普通に歯。主に犬歯が発達したものだろう。サメなどの性質があればノコギリのような存在に近いかもしれない。

 筋肉の変化は、ステータスへの割り振りで見た目が変化した場合、こうなるのかもしれないなと言った感じ。この世界でステータスに割り振っても見た目は変わらないが、半分がゲームのようなものではなく、現実に準じた成長を見せればステータスに割り振るたびに見た目が気持ち悪くなる事だろう。

 大きさは三メートルから四メートル程。世界最長の人間でも三メートルに到達していないので、現代の人類の成長速度は遥かに超越していると見て良さそうだ。


「素体は人間。様々な動物の特徴を身に付けたって感じか? まあ、動物の力その物って訳じゃないから厳密に言えば違うんだけどな。それに、動物の力自体はこの世界の人間なら素の身体能力で越えられる。見た目がバグった……が一番適正な言葉か」


「その様だね。自我はあるみたいだけど、その自我全てが君への怨みで侵食されているようだ。見た目の変化方法が謎だね。急激な肉体変化。質量保存の法則を乱している」


「まあ、他者を殺した事で得られた残機。体内に取り込んだ光の粒子がストレスで刺激されて肥大化した……って考えればそれは解決出来そうだけど、結構ストレスを受けていて、ライフの命で後四回コンティニュー出来る俺が変化しなかったのは謎だな……単純に考えれば取り込んだ数……いや、量か」


「それが正しいかもしれないね。けどまあ、モンスターを倒した事で体内に光の粒子が取り込まれる僕達が何ともないのは変なところだけど、ステータスに割り振るって形で体内に取り込んだ光の粒子を消費しているなら合点はいくかな。そうなると“ステータス”の能力値が何処に保存されているのか気になるね」


 ライフの変化。俺達プレイヤー全員の“ステータス”の能力値。プレイヤーやモンスターから出てくる光の粒子。その行方。

 まだまだこの世界で分からない事は多い。今のライフのような存在の場合は、今後この様な存在とも出会う事も無いだろう。むしろ出会いたくない。

 ともかく、今やれる事は一つしかなさそうだ。


「取り敢えず、難しい事は後にしてまずはコイツを止めるか……! ……手伝ってくれ。ユメ、ソラヒメ、セイヤ。マイさんにリリィさん……!」


「……! はい! 勿論です! ライトさん!」

「まっかせてー!」

「ふふ、オーケー。分かったよ」


「フフ、任せなさい。後、そろそろ“マイ”で良いわよ? 歳もそんなに離れていないもの」


「私も、特別に“リリィ”だけで良いよ。マイがそう言うからね」


 俺とユメとソラヒメとセイヤ。マイさんにリリィさん。もとい、マイとリリィ。

 今のライフを止める事が出来るのかは分からないが、このメンバーならやれそうな気がしてきた。……原因は大半が過剰にストレスを与えてしまった俺なんだけどな……。怒りで我を忘れていた俺の末路が今のライフの姿とも言える。


『ラァ!』

「……! 舌か……!」


 次の瞬間、三、四メートル程の高さから超高速で舌が放たれた。

 速度で言えば第三宇宙速度程。前に戦ったカエル型モンスターの舌の速度を遥かに凌駕している。加えてカエル型モンスターと違い、獲物を捕らえる為の柔らかさなどはなく殺意に特化した硬度。鋼鉄よりも遥かに強靭な舌だろう。

 俺達は何とかかわし、先程まで俺達が居た場所は大きく抉れて数メートル程のクレーターが形成されていた。


「全身が凶器って感じみたいだな。舌であの破壊力だ……」


「ここもギルドメンバー専用アビリティを活用して隙を突くか」


「賛成!」

「はい!」


 迂闊うかつに近付くのは危険極まりない。それは小学生でも分かる事。むしろよくゲームをするからこそレベル差や強さによる戦闘の不利有利はあまりゲームをしない大人より分かるだろう。

 何はともあれ、俺達は専用アビリティがある。それをフル活用して上手く立ち回らなければならないな。


「「「「──“停止ストップ”!」」」」


『ゼッタイ……ニィィィ……!』


 なので早速それを使った。

 ターン制の対戦ゲームなら相手の動きを止めて自分の動きを滑らかにするのはよくある戦法。この世界はターン制ではないが、敵が一人……いや、一体なら十分に効果を発揮するだろう。


「ライフの残機は……残せるか……」

『グウゥゥゥッ……』


 止めた瞬間に俺が駆け出し、そのままライフの身体を切り裂く。

 体力ゲージは見えない。本格的にバグっているようだ。やっぱり“バグ・システム”はやり過ぎたか。


「それ以前に、元の姿に戻れるかだね!」


 上からソラヒメが拳を打ち付け、ライフの身体を大地に陥没させて粉塵を巻き上げた。

 相変わらずの力だな。ソラヒメ達のレベルも三桁になっているだろうし、破壊力がより増した感じがある。


「──“ファイアボール”! 体力ゲージが見えないのは色々と厄介ですね……。どの辺りで攻撃をやめれば良いのか……」


 その粉塵に向けて火球を放つユメ。

 火球の炎は粉塵に引火し、そのまま粉塵爆発を引き起こして更なる砂塵を舞い上げた。

 竜帝による炎もまだ残っており、辺りには見渡す限りの炎の世界が続いていた。


「死んでしまっても自業自得だ。彼はそれ程までの罪を犯した。寝覚めは悪いけどね」


 砂塵に向けて矢を放ち、砂塵に風穴が空いて掻き消える。その矢はライフに直撃し、おそらくまた新たなダメージを与えられた事だろう。


「もはや同情してしまうわね。本当に彼の望んだ姿なのかしら? ──“魔攻の舞”」


「マイは優しいね。やった事はかなり悪どい。口も悪くて性格も悪い。私は同情なんか出来ないよ。こんな姿になって暴走していてもね! “アイスボール”!」


 マイが通常スキルの対象一人にのみ与えられる舞いを躍り、力が強化されたリリィが氷球を放つ。

 氷球は直撃して破裂、そこからライフの身体の一部を凍結させた。


『ウガァ!』


 それらの攻撃を一通り受けたライフは“停止ストップ”から解放され、自身の体温を上昇させたのか凍結部分を蒸発させた。

 となると生物学上は恒温動物か。まあ、体温は種によって異なるって言われているし、仮で俺達と同じ存在という事にするか。

 体温上昇の方法はシバリングみたいなやり方と考えるのが一番それっぽいかな。筋肉を高速可動出来るみたいだ。


「体温調整は自由自在。そして素早い攻撃。威力はまだ食らっていないから分からないけど、“相応”って考えるのが妥当か」


「ダメージを受けているのかも分からない。吠えているだけで反応もしない。生物ではあるんだろうけど、効いているのか分からないのは厄介だね」


「ああ、基本的にスーパーアーマーみたいだし、本当に何も分からないな。相手が倒れるまでやるしかないって事か」


「その様ですね。完全に倒すか、運良く気絶状態に持ち込めるかのどちらかでしょうか……」


「性根が腐っていてもプレイヤー。何とか生かして置きたいところだけど、難しいかもしれないねぇ。生かしたところで反省はしなさそうだけど」


「もう既に死刑になるような事をしでかしているものね。フィクションの世界では化け物になった人間というものはよく出てくるけど、実際出会ったらどう対処するのが正しいのかしら……」


「それが今だもんね。だけど、大丈夫だよ。マイ。マイだけは私が死んでも守る……!」


 全員の覚悟は既に決まっている。

 例えライフを完全に消滅。即ち殺害する事になっても責任は全員が負うつもりだ。

 本当は俺一人だけが十字架を背負えば良いんだが、ユメに怒られてしまったからな。そして泣かせてしまった。

 だからもう俺は、ユメの言葉に従うよ。それは決して下僕とか奴隷とかそう言ったものではない。何て言うんだろうな。まともな教師の言うことはちゃんと聞く生徒みたいな。そんな感じか。多分。


『ゼッタイニ……』

「来るぞ……!」

「「「……!」」」

「「……!」」


 次の瞬間、ライフが巨腕を振るって俺達を薙ぎ払った。

 しかし初動は見切れる。その後すぐに追い付けない程の速度となるが、初動でかわし切れれば何とかダメージを受けずに済んでいた。


「“停止ストップ”!」

「「「“停止ストップ”!」」」


 そしたまた即座に相手の動きを止める。

 ギルドメンバー専用アビリティを使えば攻撃も含めて全てを止める事が出来る。相手からしたらハメ技よりも厄介なとんだクソゲーだが、俺達だって必死なんだ。


「まずは弱点を探すか……!」

「弱点かぁ……頭、首、胸、金的……どこだろう?」

「ソ、ソラヒメさん……! 女性がそんな事……」

「んー、何かなぁ? ユメちゃん?」

「えーと……その……き……金……」

「ソラ姉。真面目に……」

「アハハ~。ごめんごめん。何かみんな固くなっちゃってるからねぇ。あ、金的とかそう言う意味じゃなくて──」

「ソラ姉、指摘しなければそれでいいから少し静かに……!」

「うん。今のは流石にごめんなさい……」


「な、なんて低俗な会話なのかしら……」

「無視だよ。無視。無視安定。けど、アイツの弱点は見つけたいところだね……」


 要らぬ会話は捨て置き、弱点を見つけ出せば一気に戦況が楽になるのは分かる。

 なのでその辺を上手くやっていくとするか。


「剣なら……首か!」

『……!』


 踏み込んで跳躍。首筋。血が出ないこの世界で意味があるのか分からないが、頸動脈を狙って俺は仕掛けた。

 その一撃は上々。ダメージはどれくらいか分からないけどな。


「なら私は……呼吸器官を! “炎牢”!」

『……!』


 次いでユメがライフの頭に炎の球体の牢屋を生み出して被せた。

 炎は酸素を燃やして更に巨大化する。顔にそんな炎がまとわり付けば、生き物なら呼吸は難しいだろう。


「じゃあ私は……あそこ!」

『……ッ!』


 その瞬間にソラヒメが股下に潜り込み、そのまま勢いよく蹴り上げた。それによってライフの身体が少し浮く。

 どこを狙ったかは言わない。だが、なんとなく俺は眉間に皺を寄せた。


「じゃあ僕は……胸……心臓か鳩尾みぞおちだね……!」


 続いてセイヤが矢をまとめて放ち、ライフの心臓。鳩尾。胸全体を射抜く。見てるだけで痛そうだな……。


「私は……本当にサポートしか出来ないわね……それも、“SP”が中々回復しない今は一人だけが精一杯よ……“魔攻の舞”!」


「大丈夫! マイは十分やってくれているよ! それが私達のいつものやり方でしょ! “氷槍”!」


 マイが魔法攻撃を上昇させ、リリィが氷魔術によって生み出した槍でライフの全身を貫く。

 そう言や、魔術師でもステータスじゃ“魔法攻撃”に依存しているのか。

 確かに魔法使いと魔術師の大きな違いは杖のような触媒しょくばいになる道具を使うか使わないかの小さなもの。大きな違いなのにそれが小さいんだ。それ程までに二つの職業は似ている。

 ステータス上、“魔法攻撃”が主軸でもなんらおかしくはない……か。


『ウゴォォォ!!!』

「……っ。また凄い絶叫だな……!」


 “停止ストップ”が解け、再びライフは動き出す。

 吠えたという事はある程度は食らったという事。まあ、それも微々たるものなんだろうけどな。ダメージは分からないが、一応の手応えはある。この調子でやれば、いつかは勝てるかもしれない。

 俺達とマイ達。二つのパーティが織り成すライフとの戦闘は、より激化して続く。

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