ステージ4-20 罪
『グゲゲゲゲゲ!』
『グギャギャギャギャ!』
『ギギャガギャギャ!』
全身が光になった俺の前に立ちはだかる無数の妖怪。……ウザいな。
『『『ウシャァァァァ!!!』』』
「……」
その妖怪達が飛び掛かり、俺は既に通り過ぎた。刹那に数十匹の妖怪達が消滅し、今から一瞬後にライフの前へと到達した。
「……!? なんだと!? いつの間に……一体どうやって」
「……」
「フ、フフ、まあいい……隙だらけだ!
殺れ! 雑魚共!」
『『『…………』』』
「……。……? あれ?」
ライフの指示に雷竜を始めとした全てのモンスター達は反応を示さない。主人が主人だから見限られた? それなら良かったんだけどな。
「もう既に終わっている」
「……!」
その瞬間、遅れてカウントが開始。瞬時に1000の文字が表示され、全てのモンスター達がユメ達の前から消滅する。
全部倒した。後はコイツだけだ。俺は“星の光の剣”を解除した。
「クソッ……だが、まあいい。どうせこの場で君に殺されても復活出来るからね。……ところで君、雷竜の一撃を受けていたけど、ランスの姿が無いね。彼を殺して君達だけが生き残ったか。いや~カッコいい死に様だよ。我らがリーダー。こんな奴等を残して死んじゃうなんて馬鹿みたいだな! ハッハッハ!」
「……」
俺は返事をしていないが、ライフが一人でペラペラと言葉を発する。
「そうそう。言い忘れていたよ。フフ、初殺人おめでとう! これで君も私の仲間入りだ! その命をさっさと私の為に使って死んでくれゴミが!」
「……」
満面の笑みを浮かべて接し、高笑い。どうやら話終わったみたいだな。
「話は終わったか? 今更だが、懺悔する気持ちが少しでもあるか?」
「は? ある訳無いじゃん。馬鹿なの? 私はただゲームをゲームとして楽しんでいるだけ。そもそも──」
「──じゃあ終わりだな。……“停止”」
「……!? また……停止かい? フフ、だけどそんな事……」
「──ギルドメンバー専用アビリティ・“バグ・システム”作動」
「どう……ぜ……ず……ぐ……に……解……除……出来……あ……あれ……?」
空間が歪み、ライフの動きがカクカクとブレながら静止した。
本人は困惑しているようだが、そんな事はどうでもいい。
「……。この世界、一瞬とは言えちゃんと痛みの感覚があって逆に良かった。身を以て懺悔させる事が出来る。まあ、仮に反省していたとしても実行はするつもりだったけどな」
「……! ま……まさか……」
「……」
ライフが何かに気付いた瞬間、俺はライフの頭を斬り飛ばした。
首を刎ねた事はなく、刎ねられた事もない。だが、痛感がある状態で肉体から斬り離されて意識があるならかなりの激痛だろう。まだ体力は残っているのでその頭は即座に再生した。
ふむ、多分痛みを感じる時間と頭が再生するまでの時間は同じか。
「ぐ……貴様……」
「……」
「あぐァ!?」
次いで腕を斬り落とした。
ライフは悲鳴にも近い声を上げる。
「……」
「……ッ!」
再生したのを見計らい、腹部に突き刺す。そして切り裂き、脇腹を抉った。
「……」
「うぐァ!?」
肩を裂き、腕を肩ごと切り落とす。血が出ないのは汚れなくていい。
「……」
「ゴハッ……!」
上半身と下半身を分断。内臓も光の粒子になっているからグロテスクな光景を見る必要もない。細長い光が漏れてたから多分あれが大腸か小腸だろう。刻んでおこう。
「……」
「……!?」
全身を縦に切断。断面が見えないのも気持ち悪くならなくていい。
「……」
「ぁぁ……!?」
目を貫通。同時に薙ぎ、両目を切断。次は細かな部位を傷つけていこう。
「……」
「ひぃ……!」
指を切断。試しに切り離した指を更に斬ってみたが、どうやら肉体から離れても神経は通っているみたいだ。
「……」
「……!」
舌を切断。そのまま貫通。声帯を切り裂く。この世界でも舌や声帯が無いと流石に声は出せないか。
「……」
「うぐぁぁぁぁ!?」
身体に剣を突き刺し、回転。刃が貫通部分から肉を抉る。無駄に耐久力があるからまだ攻撃しなくちゃならないな。
「……」
「アガァァァァ!」
切断されても神経はある。なので指を切断し、落ちた部分を足で踏み潰して擦り付ける。吸った事はないが、喫煙者がタバコを足で踏み消すのと同じ要領だ。
「……」
「……ッ!」
試しに殴ってみた。剣士の俺じゃあまりダメージは与えられないけど、時間が掛かる分長い間痛みを与え続ける事が出来るな。
「……」
「……!」
次は顔面に膝蹴り。鼻が潰れた。鼻血は出ないか。ズボンが汚れなくていいな。
「“地形生成”」
「ガハッ……!」
地形をライフの前後から作成。グチャッという音と共に押し潰す。ハハ、カエルが潰れたみたいな音だ。内臓でも破裂したか?
「……」
「…………」
頭、首、肩、腕、腹部、足と順に刻む。なんかもう面倒になってきたな。
「……。まず一機消滅か」
「……」
【GAME OVER】
これだけやってようやく一つの命が消えた。俺の頭上には+1の文字が表示される。これで二回目の殺人。俺は完全に犯罪者。凶悪犯。殺人鬼の仲間入りだ。ここが元の世界なら死刑だろう。
だが、コイツにはそれくらいして償って貰わなくちゃならない。俺は更に感情を殺した。
「も……もう許ひへ……」
「駄目だ」
「……っ……!」
バグ・システムは継続中。通常のギルドメンバー専用アビリティと違い、例え存在を一度殺しても続くらしい。
まあ、何度も蘇る存在とは戦った事がないからコイツがその実験道具なんだがな。
しかし許しを請うか。厚顔無恥なのはどちらか分からないな。罪を憎んで人を憎まずという言葉もあるが、多分コイツには適応されないだろう。
コイツは間違いなく自分の意思で罪を犯した。一回。本人が苦しみ、その一回で人を殺したならまだ救いの余地はある。だが、コイツは人殺しを楽しんでいた。そんな存在、神や仏、天使に悪魔。聖者に閻魔。誰が許しても俺は許さない。
もしその様な存在が邪魔をしに介入してくれば、俺は神仏。天魔。全てを逆に葬り去る気概だ。
「安心しろ……残機一つは残してやる……!」
「ひ、ひぃ……!」
先程のような事を繰り返す。様々な方法で痛みを与え、思い付く限りの暴行を加える。泣こうが喚こうが関係無い。徹底的に、徹底的に排除だ。傍から見たらどちらが悪人か分からないだろうな。もう既に、ランスさんを殺めた時点で俺は堕ちるとこにまで堕ちた。だから止めない。殺す。殺し続ける。罪を償わせるまで。今まで死んでいった者達の為にも。俺が全ての責任を負い、コイツを死ぬまで殺す。殺し続ける。
繰り返す事、四十二回。どうやら狙う箇所によって死にやすいところと死ににくい所があるらしい。半分くらいの時から既にライフから声は上がらない。だが、痛みは継続している筈。攻撃を開始してから、やっと四回目の死がライフに訪れた。
まだ四回か。他のプレイヤー達の数からして、後十倍以上の数殺さなきゃな。
「さて、次だ」
「も……も……ぅ……ゃ……めて……」
「駄目だ」
「…………っ」
涙を浮かべて許しを請う。ハハ、コイツは馬鹿か? 泣けば許される世界じゃないだろ。涙と鼻水で気持ち悪い顔してんな。そう言や血液以外の体液はあるのか。取り敢えず自分の残機の多さを恨めば良いさ。クズが。さて、よし、殺そう。
俺は再び心を殺し、感情を消し去り、光剣影狩を振るって作業に──
「──……っ。もう、そこまです……! ライトさん!! “停止”!」
「……!」
四十三回目の攻撃を仕掛けようとした時、俺の背後から声が掛かり、俺の身体が止まった。
「……。なんだよ。ユメ。狙いを間違えているぞ? コイツを殺さなきゃならないんだ。それに、“バグ・システム”は敵が死んでも継続する。サポートは不要だ。殺らなきゃ」
「違います……私はライトさんを狙いました……! やり過ぎです……!」
「確かにコイツは殺り過ぎたな。大丈夫だ。ユメ達が手を出す事はない。俺が全てを終わらせる」
「そう言う事ではありません!! ライトさん!! 目を覚ましてください!!」
「……!」
駆け出し、ユメが俺に抱き付いてそのまま硬い地面に押し倒す。痛いな。どうしたんだユメの奴? とち狂ったか? それとも錯乱しているのか?
「何すんだよ。目なら覚めてる。眠る必要が無い世界だ。邪魔しないでくれ。折角俺が殺そうとしているんだ。ユメ達の手は煩わせないさ」
「違います! ライトさん! もう、死んでいますよ! ライトさんが……!」
「俺が? うーん、感覚はある。実体もある。思考も回る。確かに少し視界が狭く見えるな。それと肌寒い。あ、あと一回は確かに死んだな。けど、今はまだ死んでなんか──」
「そう言うことではありません! 心が死んでいるんです!」
「心? 何を言っているんだ。心という器官は存在しなくてだな、全て脳が決めているんだ。心という感情を脳が定め、それを人は思いやりとか感情とか勝手に名付けた。要するに脳が正常なら……」
「貴方って人は……今日だけで何回曇っているんですかお馬鹿!!」
「……ッ!」
殴られた。痛い。竜帝の時と言い、案外武闘派だな、ユメって。
「豆腐メンタルですか! ライトさん!」
「……っ。うるさい! 俺はユメ達に俺と同類になって欲しくないんだ! 手を汚すのは俺だけでいい! 今回の件は全て解決する! 俺が──」
「──“一人だけで”ですか!?」
「……っ」
言葉を遮られた。というより、続きを言われた。
「ああ……そうだ。こんな奴でも俺は四回殺した。たかが一高校生だった俺がな。もういいんだ。一度殺めたら戻る事は出来ない。命はそんなに軽くない。ゲームじゃない、今は現実だ! だから、俺は……!」
「いつまでソロプレイしているんですかライトさん!!」
「……!」
また殴られた。意外と暴力的だな。俺の体力ゲージには……まだまだ余裕があるな。一回生き返ったし。それに魔法使いの物理攻撃はあまり効かない。職業上な。
そんな、関係無い思考が脳裏を過る。
「管理所の時も一人で首謀者を倒そうとしていましたよね!? それが原因で無実の貴方が疑われました! そして、今回に至ってはライフの犯した分まで、全ての罪をライトさん一人で背負おうとしています! 私達は仲間です! だから……責任は私達にもあります……! ライトさんだけが全てを背負わないでください……!」
「……!」
「私は……前向きなライトさんの方が好きでした……!」
頬に冷たい感触。雨は降っていない。
ああ、そうか。俺はまた罪を一つ犯してしまったらしい……俺の一方的な片想いとは言え、好きな人を泣かせた。
今のユメが言った“好き”というのは多分方便。友達として、先輩としてという事だろう。けど、俺はユメに好意を抱いている。
いや、まだ罪はあるな……仲間を信用していなかった。“AOSO”じゃずっとソロプレイだったからな。それに独り暮らしだ。その弊害か……俺が一人で明るく振る舞っていただけで心を完全に開いていなかったのか……。
……。悪い事をしたな。ある意味、ライフの所業より罪深い。
「──……。悪かったよ」
「……!」
謝罪を告げ、ユメの頭を撫でる。これってセクハラにならないよな?
確かに一人で色々と背負い込んでいたのは事実だ。認めざるを得ない。ユメのみならず、ソラヒメ、セイヤ、マイさんにリリィさん。そして今は亡きランスさん達や他のプレイヤー達。思えば、竜帝の時から皆に迷惑を掛けていた。
今更許して貰おうとは思わないが、せめてもの償いはするか。
ユメは目を擦り、俺の身体から退ける。俺は立ち上がり、改めてライフに構えた。
「──“バグ・システム”解除」
「……!」
ライフの身体が動き、力無く膝を着く。流石に追い詰め過ぎたか。そんなライフは顔を上げ、心底憎むような面持ちで俺を睨み付けていた。
「よくも……私を苦しめたな……ゴミ共が……私はただ純粋に、首謀者が言ったようにこのゲームを楽しんでいただけなのに……楽しむ事を悪と見なし、集団で一人を攻撃する卑怯者共が……絶対に……ゼッタイニユルサナイ……!」
「……。何か、様子が変だな。ただの怒りじゃなく、肉体的な意味で……」
「はい……これは一体……」
ライフが憤るのは理解出来る。許しを請うても無視し、構わず仕掛けていたんだからな。逆恨みじゃない。俺がライフに実害を出したのは事実だ。
しかしそれにしてもおかしい。違和感しかない。何で言葉が片言に……?
【モンスターが現れた】
【モンスターが進化しました。次いで、エクストラバトルに移行します】
「……なんだと……?」
「ライトさん……これって……」
聞こえてきた天の声に俺達は耳を疑った。だが、疑われる筋合いは無いと言いた気な程によく聞こえた。
まさか……“プレイヤー”が“モンスター”に進化したのか……!?
『ゼッタイニィィィ……コロォス!!!』
「……!」
「……っ」
「あらら……なんか、凄い事になりそう……」
「そうみたいだね。僕も同意見だ……」
「まさか……そんな事があるのかしら……」
「そのまさかが現実に起こっちゃっているもんね……」
その異常な様子にソラヒメ、セイヤ、マイさん、リリィさんの四人も反応を示す。
こんな事、本来の“AOSO”では存在しなかった。確かに種族的な意味なら人間以外にも魔族やエルフなど選べるが、この世界でこんな事が……。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ。マイさんとリリィさん。俺達プレイヤー、残った六人による戦闘は、人間がモンスターと化す事で継続してしまった。




