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ステージ1-6 ログイン

「「…………!?」」


 気が付くと、俺と星川の眼前には監視用の機械ではなく雄大な大自然が広がっていた。

 吹き抜ける風に髪が煽られて揺れ、ふと上を見れば白い雲がゆっくりと大空を流れる。

 遠方に広がる山々には桜のような花弁に包まれた木があったり、どこまでも深い深緑の青葉が広がっていたり、変色した秋の紅葉が染めていたり、葉一つ無く裸の枝しか残っていない木が並んでいたりと、春夏秋冬の景色が顕現している。

 俺達の足元に広がるのは丘の上の草原。風に草がなびき、ザアザアと雨のような音質で葉の擦れる音が響き渡っていた。


「何だ……ここ……?」

「草原……? でもなんで突然……」


 困惑し、俺と星川は周りを見渡す。一見すれば美しく不可思議な光景だが、如何に美しい光景だろうと困惑の方がまさっていた。突然こんな世界に来たのだから当然と言えば当然だ。


「……! 流星さん、私達の服装……!」

「ん? ……! これは……“AOSO”の……プレイヤー衣装……!?」


 星川の言葉で服装を見ると、俺は頭に金属の輪っかのような冠を乗せており、装備品で飾られた白を基調にした衣装を纏いつつ腰に剣を携えられた剣士の格好をしていた。そして星川は三角帽子を被り、杖を持って黒ローブに身を包んだ魔女のような格好をしている。

 つまり──“AOSO”の衣装となっている事に気付いた。装備も同じ。となると此処は“AOSO”……ゲームの世界という事だ。

 しかし、ログインしていない筈なのに何故? それに、近くの水辺で確認してみたけど顔は現実世界と同じものだ。

 疑問はあるがそれはて置き、俺は改めて辺りを見渡した。


「この場所……此処が“AOSO”の中ならステージ1。“始まりの草原”か……」


 “始まりの草原”。その名が示す通り、“AOSO”に置いての一番最初のステージである。

 ここにもモンスターは居るが基本的には雑魚キャラで、レベル1のプレイヤーでも数回攻撃を仕掛けるだけで倒す事が出来る。

 攻略というものもなく、チュートリアルがメインと言った場所だ。一応ボスモンスターも配置されているが、レベルは精々3~5。この草原でプレイヤーのレベルを少し上げればソロプレイでも攻略出来る程度である。

 大抵のプレイヤーはさっさとレベルを上げ、さっさとボスモンスターを倒してさっさと別の街へと行っている。たまに此処で更にレベルを上げようと奮闘している者も居るが、効率ならば別のステージの方が良いだろう。


「ここに来た理由で、考えられる線は何者かによって強制ログインさせられた……って事か……」


 そんな場所に居る理由を考える。先程まで現実世界の管理者部屋に居たのだが、今はこの状態。普通に考えれば何者かの仕業……。しかし誰だ? どんな方法で?

 隣で思考する星川も、俺の言葉に考えていた。


「そうですね……。しかし何が目的なのでしょう……」


「実験用のモルモット……とか?」

「物騒な事言わないで下さいよ……」


「ハハ、ジョーダンだ。あくまでその可能性があるかもしれないって事だからな」


「もう……」


 俺の言葉に怯える星川。良い反応だ。確かにこれは揶揄からかい甲斐があるな。他の奴らが揶揄からかいたくなっている理由も分かる。

 何はともあれ、突然ログインしてしまった。取り敢えず周囲を探索した方が良さそうだ。情報収集と現場探索はゲームの基本だからな。


「まあ、それはさておき……取り敢えずこれは謎解きだな。“何者”が“何の為”に“俺達”を“強制ログイン”させたのか……のな」


「はい。どうやらこの状態でのログアウトも出来ないみたいですし……」


「本当だな。“ステータス”や“レベル”。“装備”はそのままだけど、一旦この世界での管理者用の部屋に向かうか」


「そうですね。幸い、アイテム欄に“管理部屋の鍵”がありました。一応管理者として扱われているみたいです」


 一先ず状況を整理する為、“AOSO”内の管理者用部屋に移動する事にした。そこならば様々な情報を管理出来ており、いざという時の為にログアウトする機能も備えられている。謎を解決させるには十分過ぎる程の設備が整っているという事だ。


「“転移ワープ”は使えないらしい。管理者プログラムマスター専用の能力アビリティは制限されているみたいだ」


「厄介ですね……。“始まりの草原”からだと、結構時間が掛かってしまいますよ」


「ああ。けど、取り敢えず文句を言っても意味がない。早いところ行かなくちゃ、現実世界の管理者部屋に誰も居ないって事になっちまう」


 仮に管理者用のアイテムが使えなくとも、“レベル”や“ステータス”。“装備”がそのままならば大抵のモンスターは簡単に倒せる。

 管理者部屋に誰も居なくては今“AOSO”内で問題が発生しても、誰も対処出来なくなるという訳だから早く戻らなくてはならなかった。

 さっさと進む為、俺と星川は“始まりの草原”にて一歩踏み出した。



*****



『ギャアアアァァァァ!!!』


【モンスターが現れ──】


「よっと!」

『ァァ……!』


【──ライトとユメはモンスターを倒した。】


 モンスターが現れた瞬間、即座に剣を抜いて仕留める。それによって軽快なリズムの音楽が辺りに木霊こだました。

 早いところ管理者用の部屋に行かなくてはならないので俺は設定を変えており、モンスターが現れた瞬間、選択チョイスを挟まず攻撃へ移行出来るように変更していた。

 この状態で見る事が出来るのは相手のレベルや名前、種族名くらいになってしまうが、これならばすぐに戦闘バトルが始まり、すぐに倒す事が出来るので楽だ。“逃走エスケープ”で逃げても良いが、相手モンスターが弱いのなら今のやり方の方が早く済む。後は少量ながらも経験値(EXP)や金銭が貰えるので、こちらとしても都合が良い。

 それに加え、チームを組んでいる者同士ならば一人が倒せば仲間にも経験値(EXP)が入る。だから更に好都合だった。


「まあ、“始まりの草原”は簡単に攻略出来るけど、その先には二つの分かれ道があるが……どこから向かうか」


「確か……一つは“始まりの街”に続く道で安全な場所。もう一つは名前が無いんですけどプレイヤーの皆さんからは“戦士の墓場”と呼ばれている危険地帯でしたっけ。“戦士の墓場”は危険過ぎるので一定の条件を満たさなきゃ入れないみたいですが、流星さんはどちらに向かうのですか?」


 小首を傾げ、俺の方を向いて尋ねる星川。“始まりの草原”を進む時、二つの分かれ道が現れる。

 一つは“始まりの街”という、“AOSO”に置いて最初に辿り着く街。そしてもう一つは名前の無い道。しかしレベル500~2000の上級モンスターが割拠する故にゲームオーバーとなるプレイヤーが後を絶たず、プレイヤー達から“戦士の墓場”と呼ばれて恐れられている。奥に進む事にレベルが高くなり、今の段階で最奥付近に居るモンスターのレベルは5000を超える事もあるという。

 そんな、バランスの悪い二つの道が“始まりの草原”から少し進むだけで存在する。


「そうだな……俺はプレイヤーとしても結構進めているからその道に入れる。管理者用の部屋まではこの道を通った方が近道だからな。だから俺は“戦士の墓場”を進む事にするよ。パーティの一人が入れるならパーティ全員が入る事も可能だけど、星川はどうする?」


「なら、私も行きます。ゆっくりしている暇などありませんからね。管理者が誰も居ない現在、一刻を争いますから!」


「そうか、分かった。敵は俺が倒すから、星川はゲームオーバーにならないよう気を付けてくれ」


「はい!」


 力強く頷いて返す星川。危険ではあるが近道となっている“戦士の墓場”。行かない手は無いだろう。星川の言う通り、事態は一刻を争うからだ。

 俺と星川は覚悟を決め、危険ステージ“戦士の墓場”へと入った。



*****



『『『ギャアアアァァァァッ!!』』』


「……! いきなりか! 星川、下がれ! 星川のレベルじゃ即死だ!」

「は、はい!!」


【モンスターが現れた】


 入った瞬間、俺と星川に向けて飛び掛かる三匹のモンスターユニット。見た目はドラゴンのようで、首が長く背中に翼が生えている。それぞれが炎、雷、風を纏っていた。その事から、火龍、雷龍、風龍と呼ばれるものの類いだろう。

 ここのステージでは敵が不意討ち──“SA”をしてくるなど茶飯事。ゆっくりと選択している暇など無く戦闘が始まってしまうのだ。


 ──“戦闘開始バトルスタート”。


「さーて、始めるか……!」


『ボギャアァ━━━━ッ!!』

『ゴロギャア━━━━ッ!!』

『ヒュギャア━━━━ッ!!』


 吠える三龍に向けて一歩踏み出し、刹那に加速して距離を詰める。同時に腰から抜いた剣を振るい、一瞬にして三龍を数回刻んだ。それによって三龍の体力ゲージが減り、攻撃されたと理解した三龍の注意ヘイトは星川ではなく俺に向けられる。同時に各々(おのおの)が炎、雷、風を吐き出して仕掛けてきた。

 このままじゃ星川を巻き込んでしまいそうだ。危険なステージだから消費“SP”の高い必殺技は使わずに温存するとして、取り敢えず倒すか。


「来やがれ、三龍(三流)風情がッ!!」


 三龍と三流を掛け、俺はモンスターに剣を向ける。三龍の吐いたブレスは剣によって切り捨てられ、背後の木々を粉砕した。その木の跡地からチラリと何か光る物が見える。


「あれは……! ……星川! さっき三龍が放った攻撃で木から何か落ちた! それはこのステージで手に入る“アイテム”だ! 後で必要になるかもしれないから取っておけ!」


 それがアイテムと判断した俺は三龍を相手取りつつ、物陰に隠れさせている星川へ指示を出した。


「え? は、はい!」


 慌ててそこへ向かう星川。レベルの低い星川だからこそ、何かしらのアイテムは必要だ。

 それが持っているだけでダメージを受けるとかのような物でなければ、決して無駄にはならないからである。


『ゴロギャァァァッ!!』

「行かせるか!」


 移動した星川に向けていかづちを放とうとする雷龍。だが俺の剣によってそれは防がれ、稲光を瞬かせて消え去る。

 相手よりもレベルが高く、そのレベルにかなりの差があれば相手の技に自分の攻撃をぶつける事で消し去る事も出来る。それを実行し、星川を守ったのだ。


「お前達の相手は俺だろ!」


 地を蹴って跳躍し、三龍の首に剣を斬り付ける。“伝家の宝刀”を使わずともレベルが高いからそれなりの速度は出せるからな。

 ダメージを受ければ、基本的にモンスターは攻撃者の方に注意ヘイトを向ける。AIによっちゃレベルの低い方を優先的に狙うモンスターも居るが、コイツらはそのタイプじゃないからな。このゲームの管理者プログラムマスターとして、それなりの知識は頭に入れている。

 取り敢えず俺が積極的に攻め続ければ星川は狙われない筈だ。


『ボギャア!』

『ヒュガァ!』

『ゴロギャ!』


 各々が猛々しく吠え、俺に向けて炎、風、雷を放つ三龍。俺は剣の刀身を使ってそれらをガードし、切り伏せて消滅させる。それと同時に踏み込み、跳躍して三龍を切り刻む。

 素の状態でもレベルとステータスが高い俺からすればこの三龍は恐るるに足らない相手だ。精々ステージ500前後のボスモンスタークラスしか無いからな。レベルも三桁くらい。楽勝だ。

 次いで空中で方向を転換し、三龍のうち一匹の顔に乗る。そして剣を横に薙いで他の二匹の首をね、残るは炎龍のみとなった。


『ボギャアアアァァァッ!!!』

「あと一匹……」


 炎龍の顔を蹴り、天高く舞い上がる。炎龍は口に炎を溜めており、いつでもそれを放てる体勢となっていた。が、俺にとっては何ら問題無い。そのまま重力に伴って落下し、炎龍を縦に切り裂いた。


「一丁上がりっと……」

『…………!』


 炎を吐こうと口を開いたままの炎龍は、縦に割れて倒れ込む。それと同時に軽快なBGMが流れ、【ライトとユメはモンスターを倒した】の表記が頭上に現れる。

 次の瞬間は勝利BGMとは違う音楽が流れ、【ユメはレベルが上がった】の表記が現れた。ここのモンスターは手強い分、相応の経験値(EXP)が貰える。なのでまだレベルの低い星川は簡単にレベルが数段階上がるのだ。


「流石流星さん! お見事です!」


「ハハ、褒めても何も出ないぞ? てか、アイテムは取ったのか?」


「あ、はい!」


 そう言って手に持ったアイテムを見せる星川。そのアイテムは葉っぱの様な形をしており、鮮やかな翠色すいしょくの植物だった。


「お、これは“万能草”だな。“万能薬”の材料になる草だ。草のままだと効力は落ちるけど、多種多様の状態異常に効く当たりのアイテムだな」


「へえ……。あ、私魔法使いなので“調合”出来ますから“万能薬”に変える事も可能ですよ」


「そりゃあ良い。四桁や五桁台のステージになるとアイテムもかなり必要になるからな。拾ったアイテムを変換させられる“スキル”はこのゲームでかなり貴重なものだ」


 ──“スキル”。

 先程“AOSO”を荒らしていた首謀者との戦闘や首謀者に雇われたチーターと戦った時に使った“分裂ディビジョン”や“転移ワープ”など、俺のような管理者のみが使える管理者プログラムマスター専用能力(アビリティ)とは違った力だ。

 それはその種族や職業に就く者が自分の力を上げる事で身に付く力で、そのプレイスタイルや本人の性格によって様々な技術スキルが多岐に渡って身に付くもの。


 誰でも使えるようになる“透明化トランスペアレント”や“探索サーチ”みたいな例外もあるが、例えば星川のような魔法使いならば魔法のみならず薬などのような道具アイテムの調合や分解を自在に行えるようになったり、俺のような剣士なら二刀流を使えるようになったり魔法剣を使えるようになる。

 そしてこれは少し特殊だが、俺の“必殺技”になってる光の剣技などがある。それが種族、職業によって無数に存在するというのは、正に多種多様、千変万化のシステムだ。


「あ、レベルが上がりましたよ流星さん。それに色々覚えました!」


 リズミカルな効果音と共に“レベルアップ”の文字が記され、様々なスキルを覚えた星川がニコやかに笑い掛けて来る。その笑顔に思わず俺も釣られて笑い、星川に向けて言葉を発する。


「お、良かったじゃないか。魔法使いは戦闘からサポートまで色々と出来る職業だからな。これからこの道を進むに当たって必ず星川の力が必要になる」


「ありがとうございます! これで私も少し役に立てそうですね!」


 俺の言葉に返し、明るく笑う星川。見てるこっちが元気になれそうな笑顔に飲まれてしまいそうだ。「美人と居るのは気持ちが軽くなるな!」とナンパ的な事を言いそうになってしまったがその言葉は飲み込み、先の長い道中に集中する。

 何故か唐突にログインしてしまい、ログアウトが出来ない今、早いところ管理者用の部屋に行かなきゃならないからな。

 今起こっている問題を解決すべく、俺と星川の二人は“戦士の墓場”を先に進むのだった。

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