ステージ4-18 ライフ
「面白い力を見せてやろう……! ──神仏法力・“法印仏手”!」
「……!」
ライフに向き合った瞬間、ライフは既視感のある必殺スキルを放った。
どこからか現れた巨大な手。それによって俺達プレイヤーが薙ぎ払われ、全員がダンジョンである洞窟に叩き付けられる。ダメージは負ったが、まだ耐えている。
「あれは……!」
「驚いたか? 私も最初に見つけた時は驚いた。この世界では他のプレイヤーを殺すだけで、そのプレイヤーの職業が使えたスキルは自由に扱えるみたいだ」
「……! 最初に……?」
他プレイヤーの能力が使える。確かに光の粒子が倒した身体に吸収されるなら使えるようになるのかもしれないが、俺はライフの言葉が気に掛かった。
それに気付いたのか、ライフは胸糞悪い笑顔で言葉を続けた。
「ああ。最初は私、二人パーティでこの世界を進んでいたんだ。まあ、たった一週間くらい前だけど、それはどうでも良い。そしてある時、ちょっと強いモンスターに遭遇してね。低レベルだった仲間と私はピンチになった。互いに体力は一割未満。それで思い出したんだ。首謀者の言葉を。仲間を殺せば残機が増える。それで足手まといの仲間は特に深く考えず殺害。その後私もモンスターに倒されたが、なんと本当に復活した! それでも勝てるか分からないから逃走を試みてステータス画面を開いたんだけどね! その時なんと仲間だった“召喚師”のスキルが使えるようになっていたんだ! もう興奮したね! その夜は眠れなかったよ! 眠る必要がないけど! 自分とは関係無いプレイヤーを殺すだけでもう一回の人生とスキルが手に入るんだ! ほら、フィクションの世界でもよく倒したモンスターの力を使えるような主人公は居るだろう! 正にそれがその時の感覚! 私を中心に世界は回っている! 私がこの世界の主人公になった気分だった!!」
「……っ。最低最悪のゲス野郎だな……アンタ……!」
今回の質問に関係無い部分も長々と語っていたが、要約するとテキトーに仲間を殺した時、その仲間のスキルが手に入り、楽しくなったこのクズはプレイヤーキルを始めたとの事。
俺の言葉は聞かず、更に言葉を続ける。
「いやぁ、日本人は優しくて良いね。路頭に迷っているフリをすると助けてくれる。そして人間全部は丁寧な態度を取れば普通に接してくれて、過剰におだてて称賛すれば馬鹿みたいに喜ぶ! 後は隙を突いて残りの人生を貰えば良いだけ! “召喚師”の能力は本当に便利だ! 少し強いモンスターならレベル差関係無く捕縛出来るし、今回みたいにモンスターを使って誘導して追い込めば簡単にライフが一つ増える! ライフのライフが増えるってね! アーッハッハッハッ!」
「もういい……その汚ぇ口、閉じろ! “停止”!」
「ハッハ──ハッ!?」
自分語りをして気持ち良くなっている隙にギルドメンバー専用アビリティにて停止。その動きは完全に止まった。
同時に俺は踏み込み、光剣影狩を携えて嗾ける。
「ば、バカな……! 止めろ!」
「オラァ!」
口は動くみたいだが、その言葉を聞く必要は無い。
俺は構わず斬り掛かかった、その瞬間、
「なーんてね……。──解除」
「……!?」
──ライフがアビリティを解除して、そのまま俺の身体を拳で殴り飛ばした。
つか、ギルドメンバー専用アビリティを解除だと……!? という事は!
「まさかテメェギルドメンバーを……!」
「馬ァ鹿! んな訳ねえだろ! 単純に考えて下さいよ。私は既にトウヤさんの盗賊スキルも使えるんですよ? アナタ達のスキル……いや、専用アビリティも能力の一つ。奪えば一回は解除出来ます。もっとも、その一回もまたすぐに取り戻せるのですけどね」
「そう言うことかよ……!」
盗賊の必殺スキル。“窃盗”。それを使えば相手の能力を奪い、一度だけ自分で使う事が出来る。
加えて、もう一度使えばもう一度スキルを奪える。類似的に俺達ギルドメンバーのアビリティも再現出来るという訳だ。
「チッ、猿真似だけは上手いんだな。召喚師に盗賊。自分の力では戦わずに他人の能力だけを使うか」
「強い能力を使うのは当然ですよ。“AOSO”……アナザーワン・スペース・オンラインのみならず、他のゲームでもそうでしょう? どんなに多くのスキルがあっても、よく使われるのは効率的で強いもの。最後まで初期スキルを使う者など縛りプレイヤーかただの馬鹿ですよ」
「ハッ、ロマンを知らないみたいだな。最後のボスに初期スキルで挑むあの感覚、中々良いものだ!」
「それが馬鹿なんですよ!」
加速し、剣を振るって嗾ける。
ライフは小太刀で応戦し、弾かれるように距離を置く。同時にどこからか銃を取り出した。
「私の召喚したモンスターが倒したプレイヤーも私の糧。プレゼントをあげよう!」
「……っ。さっき竜帝にやられた銃使いの……!」
刹那に乱射。狙いは特に定めず、俺と他のプレイヤー達も巻き込むように銃を撃ちまくる。
俺はその全てを避けているが、他のプレイヤー達が心配だな。
「銃の乱射は死亡フラグだ!」
「大丈夫ですよ。基本的に巻き込めますからね」
距離を摘め、剣を薙ぐ。ライフは逆に距離を置いて一定の距離を保ちながら銃を撃ち続けた。
「今度は“ガン待ち”戦法かよ……!」
「フフ、効率的でしょう?」
「だけどそれ、多人数戦じゃあまり通じないよね?」
「……!」
その瞬間、いつの間にかライフの背後に回り込んでいたソラヒメが後頭部を勢いよく殴り付けて吹き飛ばした。
ライフは地面を転がり、ソラヒメに視線を向ける。
「アナタ……!」
「「“ファイア”!」」
「……ッ!」
何かを言おうとしていたが、それはユメとリリィさんによって阻まれる。
まあどうでもいい。アイツの口からは気分が悪くなる暴言しか出てこないからな。丁寧な言動もそのフリをしていただけだし、一生塞いでおけば良いだろう。
「クソッ……!」
「上も、安全じゃないんだよね。ガン待ち戦法は僕にも出来るよ」
「……!」
堪らず上へと避難したライフに向け、セイヤが矢で射抜く。
傍から見たらマナー違反の集団リンチだが、今回の極端な一人狙いは全てのヘイトがライフに向かっているというのがある。要するに自業自得だ。
「ぐっ……卑怯な……人は自分が正しいと思ったら一人に対しての集団暴行も厭わないという事ですか……!」
「それは今までのテメェの行いを省みてから言えよ!」
「……!」
戯れ言を言っているが、気にせずライフを切り捨てる。
確かにゲームじゃ一人のプレイヤーに対しての集団攻撃はマナー違反。だが、コイツに限っては正当手段になると思う。
今まで、この世界になってからのたった一週間ちょいのうちに多くの人を騙し、その命を奪って我が物にした。そしてそれを悪びれる様子もなく、自分が原因で狙われているのに被害者面。うん、ほんの少しの要点をまとめただけで分かるな。コイツに救いの余地はない。
「トドメだ……!」
「ぐわぁぁぁ!」
剣を突き刺し、ライフは声をあげる。だが、その態度がどこかわざとらしい。
まあ当然か。残機がまだまだ残っているんだからな。
「……なんてね」
「……っ。成る程。残機以前の問題だったか……!」
突き刺した剣を片手で握り、引き寄せて俺の顔に拳が叩き込まれた。
どうやら“PK”でもそれなりの経験値が得られたらしく、Lv110を超えた俺達の攻撃でも耐えられるくらいはあるらしい。
一番面倒なタイプだな。ムカつくのに簡単には倒せない。倒せたとしても即座に復活する。一応残機1は残してやるつもりだが、予想以上にダルくなりそうだ。
「フフ、痛いな。だが、この痛みが新たな力と命に繋がるなら喜んで受け入れましょう」
「刺されて手も切れて笑ってやがる……確かに痛みは一瞬だけだが……現実と同じ苦痛だぞ……うん、正直気持ち悪いなアンタ」
「もう少しオブラートに包んでくれないかな。人の心を持つ人間なんだ。傷付く」
「その言動からして傷付くような心は持ち合わせていないように見えるけどな。それに、人を殺して何も思わないなんて人間の心を持ってないだろ」
「フフ、この世界はゲームですからね。データの集合体である存在を殺したところで何とも思わないでしょう? ゲームのモンスターを殺して心が痛む人が居ますか? 居たらただの馬鹿ですね」
「お前が殺したのは本物の、生きていたプレイヤーだろ……!」
どうやらライフは余裕があれば敬語になるタイプらしい。いや、他のパーティに紛れるうちにその様な癖が付いたって感じか。
しかし本当に一言多いな、コイツ。
「アナタだって、今私を殺そうとしていますよね?」
「否定はしないが、アンタと一緒にするな……!」
踏み込み、剣を薙いで切り伏せる。
確かに俺も今、人を殺そうとしている。言い訳はしない。出来る訳がない。事実だ。どんな悪人だろうと、俺がその存在を殺めれば俺も罪人になる。命を奪う対価というのはそういうモノだ。だからこそ、人を殺した殺人犯になるのは俺だけでいい。
「俺はただムカつくという私情で、悪魔にでもなんにでも魂を売ってやるよ!」
「たかがゲームシステムでしかない残機一つで大袈裟な……! 暑苦しいのは嫌いだ! 感覚も痛みも全て現実と同じだが、今はこの世界が現実! 私はただゲームのシステムを心から楽しんでいるだけだ!」
「ただ楽しむならアンタが殺した人達への暴言を吐いてんじゃねえよ!!」
ライフも剣を取り出して応戦。その様子からして、殺した存在の職業。その者が持っていた武器も同時に我が物に出来るらしい。
二つの剣による剣戟が繰り広げられ、ライフが跳躍して武器を持ち替え。上から乱射する。
「だから、遠距離は集団戦に向かないよ!」
「黙れ! そんな事分かっている! 痛みは受け入れるが、苦痛は嫌に決まっているだろうからな!」
そこに向けて跳躍したソラヒメが回し蹴りを放ち、ライフはガードして距離を置く。そのまま力を込め、一気に放出した。
「“召喚”!」
『『『グギャア!』』』
モンスターを。
まだあんなに隠し持っていたのか。それを使って優しい人達を騙し、取り入れた。本当に胸糞悪い存在だ。
「この力は今は私の力だ! この世の存在全ては私に利用される為だけにある! それはこの世界にした首謀者も同じ! 利用されるだけの邪魔な存在は抵抗するな! 全て私の糧になれ!!」
「いきなり突拍子もなく滅茶苦茶な理論を吐いてんじゃねえよ!」
「黙れ! この世の存在は全て私の物だァアハハハハハッ!! ──禁断錬成・“鉄の傀儡”!!」
「今度は“錬金術師”の……俺達の中に居なかった存在の力……この一週間で殺した人の力か……!」
『ウオオオォォォォッ!!』
「「「……ッ!」」」
無数のモンスターに加えて巨大なゴーレムを形成。同時に俺達を薙ぎ払い、また多くの存在を消滅させた。
クソッ、俺とユメ達の体力も一気に削られた……! アイツ、多分魔力と“SP”を中心的に割り振っているな……。だから基本的に遠距離からの攻撃を行っている。必殺スキルも使い放題って事か……!
「ハハハハハ!!! また新たな力を手に入れた! 命も! 力も! スキルも! 存在も! 全て私の手中だ!」
「テンション上がってんな……後から恥ずかしくなるやつだそれ」
「大丈夫だ。私が新たな黒歴史を作り出したとしても、私を知る者が居なくなれば問題無い。今から死に行く存在に絶望感と敗北感を与え、私は勝利に酔いしれて勝つ。最高じゃあないか!」
「頭痛が痛いみたいな言い回しだな……」
とは言ったものの、確かにかなりの強敵。俺達が全員で何度か仕掛けているが、竜帝と共に倒した最初以降一度も倒していない。
動きもあまり早くないし、耐久面にもそれなりに割り振っているみたいだな。本当に攻撃を捨てて、というより他者に任せた嫌がらせに特化した割り振りみたいだ。
「さて、ではそろそろトドメを──」
「──騎士道・“天空槍”!!」
「……!」
「……!」
ライフが俺達のトドメを刺す為に動き出した時、下方のダンジョンから一本の槍が生え、ライフの腕を吹き飛ばした。
腕は即座に再生するがその槍に困惑の表情を浮かべ、ライフは一旦距離を置いた。
「くそっ……仕留め損ねたか……すまない。キョーコ、トウヤ……仇を討てなかった……!」
「え!? ラ、ランスさん!?」
「……おやおや。まだ生きていたのですかアナタ。確か他の者達と同じく光の粒子になって消えた筈……」
それを仕掛けた者、ライフに倒された筈のランスさん。
確かにその現場は見ていないが、ライフ本人の言葉からして確実に消滅したのだろう。残機を増やした? ランスさんの性格から考えにくい。一旦どうやって……?
「ランスさん……アナタ……」
「言いたい事は分かっている。ライト君。しかし、今はコイツを倒すのが先だ……!」
「……っ。それもそうだな。この戦いが終わったら後でゆっくり話を聞くよ……」
「フフ、ちゃっかり死亡フラグを立ててしまっているよ。けどまあ、今俺が指摘したからそれは折られた。問題無いさ」
「……ハハ、頼もしいな……!」
聞きたい事は色々あるが、確かにライフをどうにかするのが先。だったらそれを遂行するだけだ。
俺達とライフの戦闘。ゲームオーバーになったと思っていたランスさんが加わり、戦況がまた変化するのだった。




