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ステージ4-16 竜帝

「……なんだよ……これ……」


 一足早く竜帝を追い掛けた俺はその光景を目の当たりにした。

 いや、これはもはや地獄としか形容出来ない。何故なら──竜帝の放った通常攻撃にて複数の山が熔解して消し飛び、俺の周りが燃える液体による火の海になっていたからだ。


「ただの通常攻撃で世界が焼かれている……これが初期ダンジョンに出てくるボスモンスターの攻撃力か……?」


 山が消し飛ぶ光景など、生まれてこの方見たことがなかった。

 当然だろう。例え核兵器をもちいようと数座の山を大量に、形も残さず消し去る事は出来ない。

 更に言うなら、目の前に広がる火の海は山に引火したものではなく、この一帯その物が燃えているのだ。

 川も森も燃え盛り、火が反映して空すら赤く染まって燃えているような光景が映し出される。

 幸い、見えている範囲に人里はなかったが、本当に人里は無かったのか。もしや既に人里も火になっているのかもしれないという懸念が脳裏をよぎる。

 そして多くの野生動物は確実に死滅した。他のプレイヤー達の安全の為に外へ出したのだが、人間以外の尊い犠牲は絶対に出てしまった確信がある。いや、まあ元々……モンスターは問答無用で殺しているな。……もしかしたら俺は悪魔だったのかもしれない。


『ガギャアアアァァァァッ!!』

「……ッ!」


 吠え、巨体が俺に向かって直進する。

 なんー速さだよ……軽く音速は超越している……!

 だからこそ、その風圧によって直撃は避けられたが、俺はその風圧で半分近くのダメージを負ってしまった。

 掠りもしない、ただの風圧で防御強化された俺がこの様。考えるまでもなく絶望的だ……。


「これは……ヤケでも起こさないと仕掛ける気力を失いそうだな……それくらいの差がある……いや、もうその気力はとっくに……」


 人は、圧倒的な力の前には戦う気力すら失う事がある。意味がない事にはやる必要が無いと脳が判断するからだ。

 そして俺は今、その状態に陥っていた。何だろうな。何となく片手が軽い。


「……なんだよ……この有り様……」

「世界が燃えている……」

「怖い……」

「……っ」


 気付いたら、他のプレイヤー達も上がってきていた。いつの間に? いや、ただ目の前の光景に呆気に取られて気付かなかっただけか。

 さて、いつの間にか俺の片手に光剣影狩が握られていないな。足元に刺さっていた。ああ、力が抜けたのか。それで片手が軽く……当たり前か。


「ライトさん……?」

「……。……ああ、ユメか。という事はソラヒメやセイヤも来ているか」

「そうだね……来ているよ。ライト」

「ああ、来たところで何の意味も無さそうだけど。破壊範囲と攻撃力は比例しないこの世界だけど……これを見せられたらね……」

「奇遇だな。俺も丁度意気消沈していたところだ」


 セイヤはこの光景を前に俺と同じ心情になっているようだ。他のプレイヤー達も同等。

 ああ、良かった。仲間が居た。これで周りがやる気に満ち溢れていたら気が滅入るもんな。


「意気消沈って……ちょっとライトどうするの!? 戦わなくちゃ!」


「ハハ、戦うってどうやって? 俺の体力を見てみろよ。残り半分。まともな戦闘じゃない。風圧に煽られただけてこの様だ。とても勝てる相手じゃない。幸い、俺達には“転移ワープ”があるし、一旦ギルドに戻ってだな」


「ライト!」


 ソラヒメが声を荒げる。耳に響くな。うるさい。


「なんだよソラヒメ。ヒステリックな女性は嫌われるぞ? いや、確か女性は他人との共感性が高いから緊急事態の時にパニックに陥りやすい傾向にあるんだったな。それで今は」


「ライト! そう言うことじゃなくて……!」

「ライトさん!」

「……ッ!?」


 次の瞬間、俺の頬が棒状の何かによって殴られた。

 俺の頭は横を向かせられ、続くように身体が捻られて荒れた岩肌に倒れ伏せる。


「痛いな……何をするんだユメ! 俺の体力は……!」


「だったらここではなく、別の場所で勝手にゲームオーバーになってください! 自分を冷静と判断して戦おうとすらしないライトさんは嫌いです!」


「……っ。今のは“だったら”に繋がる言葉じゃないだろ! 味方の俺を攻撃して敵には何もしていないユメは……」

「黙ってください! 文の前後はどうでもいい話です! ライトさん、今他のプレイヤー達を置いて帰ろうと考えていましたよね! それじゃダメです! 専用アビリティのある私達ギルドメンバーが他のプレイヤー達を守らなくてはなりません!」


「守れないからやる気を失ったんだ! さっき既に五人死んでる! この竜帝を倒す為にも、他のギルドメンバーに要請を依頼した方が良い! ここは外だ! その気になれば他のプレイヤー達も逃げられる!」


「それでも今以上の犠牲を出してしまうのは確実です! 複数の山を焼き払って消し飛ばしてしまう程の広範囲技! 運に極振りしている人以外は死んでしまいます!」


「戦果に犠牲は付き物だ! 人類誕生から数万年、長い歴史で見ても死者が出なかった戦争なんて数える程しかない! ユメは竜帝の攻撃を受けていないからそう言えるだけで……!」

「今から食らうかもしれません! 私は逃げないで戦いますからね! 最悪、ゲームオーバーになる可能性もあります! むしろその可能性の方が高いでしょう! だけどやるしかないんです!」


「……ッ。ユメ!」


 それだけ告げ、もう一度俺の身体を夢望杖で殴り飛ばして竜帝に向かう。

 現在の竜帝は空を飛び回っているだけ。おそらく様子を見ているのだろう。意気消沈している者がほとんどの今、次の瞬間にこのパーティが全滅してもおかしくない。


「アハハ~。やっぱりユメちゃんは強いねぇ。けど、ライトは帰った方が良いよ。ライトの意見には賛成かな。協力者は多い方が良い。多分今のライトなら死んじゃうし、私とユメちゃんは皆を守るから安心して。その代わり、早くギルドに報告して私達を助けてね♪」


「……!」


 ユメに続き、ソラヒメも踏み込んで駆け出す。何故かその背中が大きく見えた。


「……。どうやら、帰宅を許されたのはライトだけみたいだね。じゃあ、僕もソラ姉や皆を守るよ。遠距離が得意な弓使い(アーチャー)の僕なら見極めれば攻撃を全てかわせるかもしれないからね」


「セイヤ……」


 そしてまた一人、俺の前から仲間が消え去った。遠距離なら竜帝に近付かないでくれよ……。

 負けず嫌いな者に限って無駄な足掻きを見せ、撃沈覚悟で特攻する。そして無駄死にするのが関の山だ。


「効率は悪い。生存率は低い。勝てる可能性も……」


 ここで特攻して一矢だけ報い、全滅するのは目に見えている。だが、皆竜帝に向かって進んでいた。


「さて、怖がりのライト君を守るためにも戦わなくちゃならないわね。行くわよ? リリィ!」

「そうだね、マイ。……あの人、今までの行いから少し。ほんの少し。本当にちょっぴりだけは気に入ってきていたんだけどなぁ……残念」


「俺達もやるぞ!」

「ああ! 勝手に不信感を抱いて疑っていたギルドメンバー達に示しが付かない!」

「と言うか、みずから向かっている陣営に女性が多い! ここで引いたらオトコじゃねえ!」

「玉砕覚悟で特攻だ!」

「やってやるよ!」


 それは他のプレイヤー達も含めて。

 特攻。自殺行為。無駄死に。無謀。自爆。自滅。……全滅。

 俺達の行く末に適応しそうな考えられるワードの数はまだまだある。突っ込んで消滅。それを遂行するのは賢い行いじゃない。


 ──俺は多分、どうやらそちら側の人間だったみたいだ。


「……っ。やってやるよ……!」


 見れば“SP”は回復していた。成る程な。俺はそんなに長い時間落ち込んでいたのか。

 ギルドには報告する。報告するだけなら情報共有端末だけで十分だ。

 もう、やるしかない!


「だったら皆、守ってやるよ! 俺が! ───伝家の宝刀・“星の光の剣スター・ライト・セイバー”……!」


 全身を光に包み、俺自身を光に変化させて加速する。刹那に竜帝の元へと到達し、一瞬にして一〇〇回斬り付けた。

 レベル差は400以上。だが、“星の光の剣スター・ライト・セイバー”は俺自身の能力を百倍以上に引き上げる。

 時速300㎞前後が今の素の最速で、光の速度は時速10億㎞以上。なので速度だけなら百万倍以上だが、取り敢えずややこしいので百倍以上という事で良いだろう。

 今の俺はレベル四桁中盤並みの実力はある。それなら一撃で倒せそうでもあるが、そう上手くいかないようだ。

 しかし関係無い。今は目の前の竜帝に集中するだけだ。


「オラァ!」

『……』


 竜帝は俺に気付いていない。否、気付ける筈がない。

 “AOSO”で見たLv10000のドラゴンでも追い付けなかったのだ。Lv500程度の竜。現実世界の感覚そのままで実力を目の当たりにしたからこそ怖じ気付いたが、一気に押し切れば勝てない事はない!

 今の瞬間にも一〇〇回斬り付けた。けど、まだだ……まだまだ足りない……!


「一気にけしかける……!」

『……』


 考えるのは止める。後はただひたすら押し切るだけ。

 通り過ぎて光剣影狩を薙ぎ、強靭な鱗を切り裂く。一瞬、一寸、刹那、その間隔で一〇〇。二〇〇と更に更に斬り仕掛ける。

 今現在で仕掛けた回数は五〇〇。この世界になってからの最高回数。だが、今の俺なら更に仕掛けられる。根拠は無いが、自信はある。


「……ッラァ!」

『……』


 空気を踏みつけて空中移動。光の軌跡を描き、更に頭へ一〇〇発。胴体へ二〇〇発。全身に一九九発。あと一発で今までの倍になる。


「食らいやがれ……!」

『……!』


 その一発のみに竜帝は反応を示した。光の効力が切れた俺は落下し、ダンジョンの岩肌に叩き付けられて粉塵を巻き上げる。落下地点は向かった皆の前だ。


「……!? ライトさん!?」

「ライト! 大丈夫!?」

「ふふ、使ったんだね。ライト」


「一体……いえ、成る程。アナタのスキルね」

「さっきまであそこに居たのに……いつの間に……これが君の専用スキル……」


「一体何が……」

「俺達が駆け出した瞬間に落ちてきた?」

「時間でも止めたのか?」

「いや、超加速かも……」

「俺達が反応出来なかったのは事実だな……」


 落下によるダメージは少しある。やはり高過ぎる場所から落ちたら傷を負うらしい。

 ユメを始めとして他のプレイヤー達の反応は様々。まあ、傍から見たら瞬間移動並みに唐突な出現(落下)だったからな。分からなくもない。

 ユメ達とマイさん達は俺が“星の光の剣スター・ライト・セイバー”を使った事を分かっていたみたいだが、他のプレイヤー達には教えていない。なので驚きも大きかったのだろう。


『……!』


 そして次の瞬間、竜帝へのヒット数がカウントされる。

 一気にダメージが増え、ワンヒットから一気に九九九ヒットまでカウントされ、そのまま遅れて残り一つがカウント。それを終えた瞬間に一〇〇〇という数字が映し出される。刹那に竜帝の体力が一気に減り、その身体がダンジョン近くの森へと落下した。


「残り体力……0……!」


 誰かがステータスを見やり、竜帝の体力を告げた。

 “星の光の剣スター・ライト・セイバー”。効力は敵の攻撃の無効化。全ての防御、能力変化、守護術の貫通。通常攻撃全てが必殺スキル並みの破壊力で放たれる光の速度による連撃。それらを受け、流石の竜帝も倒れたようだ。

 しかし歓声の声は上がらない。あまりにも呆気な過ぎるのもあるのだろうが、まだ少し違和感があるのだ。

 そしてその違和感の正体は、次の瞬間に明らかになった。


『ギャアアアァァァァッ!』

【スキル“復活召喚”】


 ──竜帝に付与していたスキル、“復活召喚”。

 それは“召喚師サモナー”が使えるスキルであり、“AOSO”内では自分の体力と引き換えに召喚したモンスターを一度だけ復活させるものだった。

 召喚したモンスターの体力に合わせて自身の消費体力が増え、レベルの高いモンスターを復活させれば相応のダメージを負うという仕様。

 Lv500の竜帝の復活。おそらくライフは自分の体力を全て消費し、それを二回程使って竜帝にあらかじめ施していたようだ。


「残機を5増やした時点で二つの命を消費して仕掛けていたってところか……」


「そうなると、残り体力はライフの体力二回分という事になるわね……!」


「ああ。……それと、目が覚めたよ。ゴメン。そしてありがとう。ユメ、ソラヒメ、セイヤ、マイさん、リリィさん。お陰で竜帝をここまで追い詰める事が出来た」


「……っ。急にそんな事言われても困るわよ! ……け、けどまあ、その感謝は受け取ってあげる! 感謝しなさい!」


「ふん。私は本当の本当にほんのちょっぴり。極僅かに認めていただけだからね」


「……。いえ、私も怒鳴ってしまってすみませんでした……」


「良いんだよ。ユメちゃん。それに、今のライトならそう簡単に死ななくなったかな。頭に血が上った状態と優柔不断で戦うのが一番駄目だからねぇ」


「けどまあ、それもさっきのスキルで解決したみたいだね。思ったよりも早い復活だよ。ライト」


 自然と口から謝罪の言葉が漏れていた。

 いや、漏れて良かった。本音を話せたからな。だけどまだ竜帝は倒れていない。残り体力は先程に比べたら圧倒的に少なくなっているが、Lv500の今の俺達が戦うには強すぎるモンスターという事実は変わっていないからな。


「皆! やる気を無くして悪かった! 残り体力ライフ二人分! やれるか!?」


「当然です! ライトさん!」

「もち!」

「ああ。やれるね」


「当然よ。今更。分かり切った事!」

「当たり前だね!」


「よっしゃあ! ライトさんの復活だ!」

「何かしたんだろうけど、よく分かんねえからまあいいか!」

「ああ! 加速系の何かならライトさんが落ち込んでいた体感はほんの数秒だ!」

「俄然やる気が出てきたァッ!」


 俺の声に全員が反応してくれる。馬鹿だったな。俺。こんなに頼りになる人達が仲間に居ながら、私情を優先して諦めていたんだから。

 レベル差なんて、この世界なら乗り越えられる。

 俺達と竜帝の戦闘。それは竜帝の残り体力が僅かになる事で継続するのだった。

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