ステージ4-13 疑惑解消
翌日、早朝。俺達プレイヤーは再び“トラベル”の街の広場に集った。
夜の間に変わった事や誰かが犠牲になるような、サスペンス染みた事は起きずに迎えた朝。睡眠が必要無い俺達は全員が良好の様子で集まる。
もっとも、良好なのは体調だけで精神的には不調な者も少なからず居るだろうが。
色々と騒動に巻き込まれているからな。仕方無い事ではある。
「よし、じゃあ第二回、俺の無実証明潔白会議を始めるか」
「いつからそんな名前を付けたんだ……」
「ご、語呂は良いですね!」
俺がその中の中心におり、俺の言葉にセイヤが軽く突っ込む。他のプレイヤー達も苦笑を浮かべており、掴みは上々という事が窺えられた。
ユメのフォローは嬉しいな。うん。
「潔白って。誰が証明するんだ?」
「そりゃ俺だよ。昨日、俺達。俺と俺の仲間のユメ、ソラヒメ、セイヤの三人。協力者のマイさん、リリィさんの二人。ランスさん、ライフさん、キョーコさんにトウヤさんの四人。計十人で色々と情報をまとめて置いたからな!」
「よくやるよ……」
「もう犯人じゃない気がしてきたな……」
「ああ。色々と。全体的にノリが軽い」
俺の行動を前に、薄々と俺は本当に無実なんじゃないかと思い始めている人がチラホラ見えた。
まあ、実際無実だしな。免罪で疑われる筋合いは無い。俺の怪しい行動も原因ではあるが、それには蓋をしてそのまま一生置いておく。
「まずは首謀者についてだけど──」
「いきなりかよ!」
「本当に唐突だな……」
「一瞬一瞬に一生懸命だな……」
「もはや称賛出来るよ」
他のプレイヤー達の反応は置いておき、昨日まとめた。つまり昨晩話した事を説明した。
基本的に推測混じりの情報だが、何か一つでも俺の無実を証明出来るものがあるか、他のプレイヤー達にそう思わせるものがあれば上々だ。
話自体はすぐに終わる。得られた情報が少ないからこそ簡単にまとまったのである。
「──て訳だ。大半は推測だけど、他のプレイヤー達はどう思う?」
「「「…………」」」
沈黙が辺りに広がった。まあ当然だろう。
この推測が事実だとしても、俺達の中に首謀者が居るという可能性は変わらない。むしろ、その可能性の高さがより上がったのだから。
「……いや、まあ確かに信憑性はある話と推測だ。ライトさんとその仲間達。そしてライトさんの擁護派の人達がグルの可能性はあるが、同時にライトさんがそんな事をするような人には見えなかったからな」
「ああ。ライトさんとユメさんはダンジョンでの俺達を必死に護ってくれた。今の話が事実になるかもしれないのなら、プレイヤー狩りが目的の首謀者が俺達を護る必要がないからな」
「ライトさんが一人で残ったのも首謀者だからという可能性はあるが、Lv150のボスモンスターの前に、ライトさんじゃない、本当の首謀者が来ていたならあの場で俺達を狩れていた筈……それが無いからな」
「ソラヒメさんやセイヤ君も街の私達を守ってくれた。ライトさんの味方になったリリィさん、キョーコさん、トウヤさんもそう。確かに悪い人達には見えないね……」
「もしも互いを理解しているグルなら、レベルが高いライトさん達に伴ってマイさん達のレベルも50近くに到達している筈。ランスさん達も同上。ずっと前からの知り合いではないみたいだしな」
「皆……」
あ、なんだろう。少し感動した。
まさか全員が俺を首謀者の候補から外してくれるなんて……。あの時他のプレイヤー達を護って良かった……。それもあって信頼に繋がったんだな……。
「じ、じゃあライトさんは……」
「ああ。俺達はもう疑わない。何かしらの隠し事があるとしても、それが必ずしも悪い事にはならないからな」
「ライトさんだけじゃない。ユメさん。他のメンバー。全員が怪しくないと判断したよ」
自分も疑われているのだが、真っ先に俺の心配をしてくれるユメ。本当に良い娘だな。
そう言えば、旧管理所でも俺が疑われた時は俺を一番に心配してくれたっけ。優しい人が居たもんだ。
「良かったです、ライトさん!」
「わ、ユメ!?」
感極まり、ユメが思わず俺に抱き付いてくる。いや、俺的には嬉しい。ユメに抱き付かれるのはかなり嬉しい事だ。けど、こんな大衆の面前で抱き付くなんてな……。
ユメは案外、感情で行動する事がある。なので恋愛感情とかは無いんだろうが、それもあって今後思い出したら恥ずかしくなるんだろうなと染々思う。
「ヒュー。お熱いね。ライトとユメちゃん!」
「……! あ、す、すみません。ライトさん! 急に抱き付いてしまって……」
「ハハ、良いさ。気にするな」
抱き付かれて俺も嬉しかったしな! ……とは言わない。引かれる可能性があるからな。
ともかく、全員の信頼を得る事は出来た。いや、まあ信頼というよりは疑いが晴れただけ。なのでこれからちゃんと信頼を得るべきだろう。
まずはギルドメンバーという事を上手く隠すか、そのまま話すかだな。ギルドへの不振と俺への意識は全くの別物だからな。なるべく事を荒立てさせたくないところだ。
「本当に良い事です。ライトさんが信用されて。後は皆さんがギルドメンバーという事を知られないように──」
「「「…………!」」」
「あ、ライフさん……」
「──……! あ……」
そしてそれは、ライフさんの口から明かされてしまった。
実は昨日、あの後ランスさん、ライフさん、キョーコさんにトウヤさんには俺達がギルドメンバーという事も明かしていたのだ。
その時はランスさん達がすんなり受け入れてくれたが……まさか用心深そうなライフさんが漏らしてしまうなんて……。いや、まあ、人は安堵すると内密な事を思わず吐露してしまう事もある。むしろ、“内密”という部分に引っ張られ、その事ばかりを考えてしまっていたのだろう。今回ばかりは仕方無い。正直に話すか。
「……。す、すまない。皆。隠すつもりではいたけど、騙すつもりは無かった……疑いを晴らしてくれたてまえ、隠していた事も罪になる……実は俺……ギルドメンバーなんだ……」
「「「…………」」」
「ライトさんだけじゃありません! 私もギルドメンバーです!」
「ごめんね。実は私も……」
「僕もだ。隠していて悪かった」
「「「…………っ」」」
俺に合わせ、ユメ、ソラヒメ、セイヤの三人も名乗る。
他の三人が疑われないように俺だけ名乗ったんだが……何で正直に話しちゃうんだ……。咎めを受けるのは俺だけで良いのに……。
他のプレイヤー達は無言のまま。多少の反応はあれど、黙り込んで数秒後。スッと息を吐くように言葉を続けた。
「──なんだ。秘密ってそんな事だったのかよ」
「焦っちゃったぁ」
「ハハ、その程度今更どうという事はない!」
「……!」
他のプレイヤー達もすんなり受け入れてくれた。
いや、何故だ? ギルドには色々と怪しい噂も広がっている筈。そう簡単に受け入れるなんて……。
そんな事を考える俺の表情から思考が分かったのか、他のプレイヤー達は言葉を返してくれた。
「言っただろ? 俺達はアンタの性格から怪しくないと判断したんだ。確かにギルドは怪しいと思う気持ちもあるが、アンタ達は別だ」
「そうそう。人柄が気に入ったのにちょっとした隠し事で訝しんだりしないよ!」
「俺達がギルドを怪しんでいるからこそ言い出せなかった、謂わば気遣いだろうからな!」
曰く、確かにギルド自体には懸念を抱いているが、俺達の性格によって今回の判断を下した。だから気にしていないとの事。
良い人達だな。組織と個人を同一視していない。……まあ、ギルドメンバーの俺からすれば他のギルドメンバーも怪しくはないと思っているが、プレイヤー目線なら疑われるのも已む無し。俺達ギルドは初日に何も出来なかったからな……。
その様子を見やり、ライフさんが一つ提案を申し出た。
「あ、それならギルドに連絡してギルドメンバー共々首謀者を倒すというのはどうですか? ギルドが怪しいと思われているのなら、その疑いも晴らして置くのは良さそうです。それに、もし噂が本当ならアナタ達はギルドに従わない筈。名目上従っているとしても、その事は教えてくれるでしょう。しかしそれがない。ギルドは信頼出来るからアナタ達も普通に過ごしていると思ったのですが……」
「ハハ、鋭いな。ライフさん。そうだな。俺はギルドマスターを始めとして、全員が善意で動いていると確信しているよ」
そう、俺はギルドを信用している。噂が出回っていたとしても、噂とは違う形のギルドを見ているからだ。
噂による疑いを晴らす為にもギルドに協力を要請するのは確かに良い案かもしれないな。
「それなら──」
「──いや、今回は俺達だけでやる。ギルドはギルドで今回の首謀者とは違う、この世界にした元凶の首謀者について調べているんだ。残念ながら情報は集まっていないけど、もしもの可能性がある。皆の邪魔はしたくない」
「成る程……。この世界にした元凶の首謀者ですか……。確かに目的も分からない今回の首謀者よりもそちらを優先すべきと言えますね……」
「ああ。それが今の俺が……俺達が出来る事だ……!」
グッと拳に力を入れる。否、力が自然と入った。
俺の意気込みに他のプレイヤー達。そしてユメ達。マイさん達。ランスさん達が頷いて返した。元よりギルドに力を借りるつもりは無いのだろう。
「それで提案があるんだけど、良いか?」
「「「……?」」」
「「……?」」
「「「「……?」」」」
それを踏まえて、俺は一つの提案を申し出す。
ユメ達を含めた全員は小首を傾げ、俺は辺りを見渡して言葉を続けた。
「今回、もう一度ダンジョンに向かおうと思う。そして、今度は全員でダンジョンを攻略したい」
「「「……!」」」
「全員で……?」
「確かに効率は……」
「けど……」
「ああ、昨日……」
その言葉に辺りへざわめきが走る。当然だろう。昨日は安全確保の為に半数を残した。しかし今回は全員で行こうと言ったのだから。
さて、俺は俺で推測混じりの持論を説明するか。
「昨日、この街であった事は知っている。ソラヒメ達から聞いたからな。それで、そのモンスター達の行動について疑問なんだ」
「「「…………?」」」
それから俺は、昨日話した事を改めて説明した。
首謀者はプレイヤーの中に居る。そしてモンスターは“トラベル”の出入口を塞ぐように留まっていた事。
その事から割り出される答えは、
「つまり、当然だけど、首謀者はなるべく隠密に行動したい筈なんだ。だからこそ、バレるリスクを避ける為に昨日待機組にもモンスターを放った。攻略組と待機組の両方に首謀者が居るかもしれないと思わせる為にな。そして狙いはプレイヤーキル。通称“PK”。多分残機を増やしたいんだろうな。だからこそ、俺達全員でダンジョンに向かい、それに首謀者が乗ってくれば逆に迎撃出来るという事だ。この中に首謀者が居るなら、乗らざるを得ない。結果としてその正体を明かす事になる」
「成る程……」
「だが……」
「いや……」
「だからこそ……」
俺の持論混じりの推測。他のプレイヤー達は今一度ざわめく。
首謀者を見つける事は出来るが、危険な賭けではある。そう簡単には乗ってくれないか……?
「成る程。出入口を塞いだという事は全員で来られるのを恐れたという事ですからね。つまり一人を好む存在。確かにそれなら全員で向かう事は正しいです。私は乗りましょう」
俺の持論に対し、いち早くライフさんが賛同してくれた。
その言葉に触発されたのか、他のプレイヤー達も各々が言葉を発した。
「……。ハッ、良いじゃねえか……俺も乗ってやるよ!」
「ああ! 危険なんて始めから承知の上だ! だからこそイベントの為に残ったんだからな!」
「ハイリスクハイリターン。利点は多い。良かろう。この後に英雄となる“吟遊詩人”の私も──」
「良いね。本格的なイベントになってきたよ! 私も参加する!」
全員賛成。
本来なら有り得ない事だが、ここに居る全員は元よりイベントを受ける為に残った者達。断る理由はないのだろう。
「私も勿論行くよ。聞いた話じゃボスモンスターは強敵みたいだけど、この人数ならやれるからね!」
「はい! 私達ギルドメンバー。この四人で全ての悪い噂を払えるか分かりませんけど、参加して危険なプレイヤーを捕らえます!」
「そうだね。意図的に人を苦しめるような迷惑プレイヤーは本来の“AOSO”でもBAN対象。僕達が参加しない訳にはいかない」
「当然、私達も参加するわ。ね、リリィ?」
「当たり前だよ! 今回はマイと一緒だし、やる気が溢れてきた!」
「本来は実力不足から迷惑になると思ってこの様なイベントには参加しなかったが、巻き込まれた立場だからな。俺達も当然参加する」
「ええ。それと前述したように、私は既に参加していますよ」
「ちょっと怖いけど、何とかなるかな! 私も行くよ!」
「この流れ、断れないな。けどまあ、ここは参加して“盗賊”らしく美味しい所を持って行くか!」
結果的に、“トラベル”に残ったプレイヤー達。参加者多数。不参加0名。全員が賛同し、今回のイベント。“迷惑プレイヤーの追放”に参加する事となった。
俺達プレイヤー一同は、ダンジョン・“竜の洞窟”を攻略し、今回の騒動を引き起こした首謀者を捕らえる為、今度は全員で乗り込むのだった。




