ステージ4-11 一日の終盤
──“トラベル”。
「あ、ライト達! 戻ってきたよ!」
「そうみたいだね。皆も無事みたいだ」
「マイ! 無事で良かった!」
“トラベル”の街に戻り、ソラヒメ、セイヤ、そしてリリィさんが迎えてくれた。
まあ、リリィさんの眼中にあるのはマイさんくらいみたいだけどな。
それより気になる事はあるな。
「ああ、ソラヒメ達も無事で何よりだ。……だって……この有り様……何があった?」
「ああ、これね……」
──街が半壊していたからだ。
建物は砕け、煉瓦の歩廊にも穴が空いている。瓦礫の山が重なり、街路樹も粉々になっていた。
ソラヒメ達の様子からして多分犠牲者は出ていないんだろうが、しかし一体何があったのか。
ソラヒメは周りを一瞥して言葉を続けてくれた。
「何がも何も、見ての通りだね。ライト達が向かってから数分後、また沢山の竜が攻めてきてねぇ。まあ、私達なら問題無く倒したんだけど。街はボロボロになっちゃった」
「やっぱりそうか。その時の為に待機組を残していたけど、功を奏したみたいだな」
「そうだね。そっちは?」
「ボスモンスターを確認した。それと、今回の件を仕組んだと思われる竜使いの首謀者をな」
「……! やっぱり……って言うべきかな。それが目的だったからね。本当に居たんだ」
「ああ。けどまあ、目撃したのは俺だけ。全員に信じて貰えるかどうかは分からないな」
「あ~……」
そう、目撃者は俺だけ。だからこそ色々と懸念がある。
ボスモンスター自体は全員が確認したが、首謀者には俺しか会っていない。疑われそうだな。……てか、“AOSO”内やダンジョン内。存在は違うけど首謀者とのエンカウント率高いな。俺。
「ちょっと待てよ……お前達が行った後で竜が攻めてきた……だったらお前達の中に首謀者が居るんじゃねえのか!?」
「ああ? んだとテメェ、俺達を疑ってんのか!? 俺達だって危険な目に遭ってんだぞ!?」
「ねえ! いきなり争うのはやめなよ。全員無事だったんだからそれでいいじゃない!」
「いや、確かにおかしいぞ……そんな危険な目に遭った俺達は、誰も首謀者と会っていない……一人を残してな……!」
「……! ま、まさか……!」
そして、この流れだと矛先がどこに向かうのかは明白。今回ばかりは俺の予想が当たるかもしれないな。
「何か色々と秘密を残しているアンタ……アンタが一番怪しい……。その仲間のお前らもな!」
「そう言えば……確かにライトさんは一人だけで残ろうとした……逃がそうとはしてくれたが、自分が首謀者なら確実な安全は保証出来る……!」
「ま、疑いの目は俺達に向けられるよな。悪いな。ユメ、ソラヒメ、セイヤ。俺がでしゃばったばかりに疑いの目を向けられて」
「アハハ~。ま、大方予想はしていたよ。ライトが自分しか目撃していないって言った時からねぇ」
「私も何かこう言う状況に慣れちゃいましたね。“レコード”の時のように救えなくて攻められるのは仕方無い事であっても辛いですけど、ただ疑われるだけならまだ気が楽です」
「まあ、こんな世界だからね。おかしな行動を取る存在が疑われるのは至極全うだ。寧ろ、不自然な行動を取っても問答無用で信じられたり、疑われなかったらその存在の感覚がおかしいよ」
矛先は俺だが、ユメ、ソラヒメ、セイヤの三人は特に何とも思っていない様子だった。
首謀者ではないが、俺達が隠し事をしているのも事実。まあそれはギルドメンバーの事だが、ともあれ、かなり分が悪い状況なのだけは確定だろう。
「……。ライト君達は問題無いと思うわ。私が保証してあげる」
「「「…………!」」」
「えっ? マイ!?」
「マイさん」
「マイさん……」
そして、思わぬ方向から救いの手が差し伸ばされた。
リリィさんはその事に困惑している様子だが、それは当たり前だろう。この場で俺達を擁護するという事は自分にも疑いの目が向けられるという事。最悪の場合、この場の全員を敵に回し兼ねない発言だった。
「何の根拠があって……!」
「根拠も何も。事実だもの。言うなれば事実が根拠かな。信じられる理由を述べよというなら、それに対する根拠は無いわね。ただ問題無いから問題無いって考えているだけ。何か問題でも?」
「……い、いや……」
ハハ、凄いな。マイさん。指摘に対する色んな矛盾点を圧力だけで押し殺した。
俺達がギルドメンバーという事を知っているマイさんには確かな根拠がある。しかしそれをなるべく秘密にしているので、それについて指摘されたら説明が難しい。だからこそ圧力で返答したって感じか。
圧力で押し切るのは現実だと苦手なタイプだけど、味方なら心強い。いや、今はこの世界が現実か。
「マイがそう言うなら私もこっち側に付こうかな。マイが居れば別に誰が首謀者でも関係無いしね」
「俺も此方に付こう。ライト君達は信頼に値する存在という事がこの旅で分かったからな。彼の行動はとても誘い出す演技には見えなかった」
「それなら私も此方に付きましょうか。元よりランスさんのパーティメンバー。リーダーの信頼は私達の信頼です」
「そうだね。ソラヒメにセイヤ君。良い人だったからね。敵対する理由は今のところ無いかな。あ、私はキョーコ。職業は“僧侶”だよ。よろしくライト君達」
「俺も此方側かな。ランスが乗るならそれに合わせるさ。ライト達には名乗っていなかったな。俺はトウヤ。職業は“盗賊”だ」
マイさんの言葉に合わせ、リリィさんにランスさんとライフさん。そしてその二人のパーティメンバーであるキョーコさんとトウヤさんが擁護してくれた。
職業は僧侶と盗賊。名前の響きはセイヤと同じように本名をそのまま流用しているようだ。
本名を晒すとオンラインゲームでは色々と問題があるかもしれないが、その辺の問題は管理所だった時から特に出ていないので気にする必要は無いだろう。
何はともあれ、マイさん達とランスさん達が俺達の擁護をしてくれている。嬉しい事だ。マイさん達はギルドメンバーという事を知っているが、ランスさん達は知らない筈。なのに味方をしてくれるのは有り難いものだな、本当に。
「……っ。確かにライトさんとユメさんは頼もしい。だが、やはり疑問だ。あの時は俺達も興奮していたから気付かなかったが、改めて考えてみたらLv50ものボスモンスターを相手に渡り合っていたのがおかしい」
「確かに……一撃でLv50の体力を半分も減らすなんて。攻撃も相殺していた……」
「気になるな。首謀者かどうかは捨て置き、強さの秘密は知っておきたい」
「うん……。ライト君にはボスモンスターの時に飲み物を分けて貰ったり悪い印象は無いけど……強さは気になる……」
流石にこの状況でユメ様とは言わないか。
まあ、それはいいとして。全員が一先ず俺が今回の件の首謀者ではないと仮定し、実力を知りたがっていた。
確かに分からなくもないな。この世界になって一週間。どんなに通常モンスターを倒しても、この世界でのレベルの上がり幅じゃたった一週間でLv50を圧倒出来る程の強さは得られないからだ。
俺達のルートは少し特殊。ボスモンスターが多く現れていた。なのでレベルも相応のモノだが、他のプレイヤーからしたら違和感の塊だろう。
「それは確かに気になるわね。特殊スキルは兎も角、レベルが気になるわ」
「確かにね。ギルドは置いておくとして、貴方達少し強過ぎる感じ。此処に残って群れモンスターを迎撃したソラヒメさん達も一撃でLv30以上のモンスターを倒していたもん」
「確かにそれは俺も気になるな。差し支えが無ければ知りたい所だが……」
「確かにそうですね。彼の強さは気になります」
「確かにソラヒメとセイヤ君はかなり強かったからねぇ」
「確かにな。パーティ全員があれ程の強さを誇る理由は気になる」
マイさん、リリィさん、ランスさんにライフさん。キョーコさんとトウヤさん。全員の第一声が“確かに”なのは捨て置き、擁護派の全員も俺達の実力を知りたがっている様子。
まあ、流石に本格的な戦闘を行って強さを隠し通せる訳も無かったか。
けど、それに関しては特に問題も無いな。
「まあ、それくらいなら構わないさ。けど、協力者として俺も気になる。マイさんの事もよく見せてくれ」
「それくらいなら良いわ。貴方を見るんですもの。私も相応のモノを見せてあげる。それが礼儀ですものね」
「交渉成立だな」
「フフ。お互いに見せ合いましょうか」
「ライトさん……。何かその言い方気になります……」
「マイ……傍から見たら勘違いするような言い方はやめよう……?」
交渉は成立。ユメとリリィさんの指摘通り言い方を少し間違えた感はあるが、本人が気にしていないので置いておくとしよう。
俺も深く考えず言っちゃったからな。指摘されると恥ずかしい。
「じゃあ見るぞ」
「あら、私が最初に見せるの?」
「ん? ああ、そうだな。さっきの言い方からしてもここは俺から見せるか」
「そうね。……って、本当に勘違いするような言い方になってるわね……少し恥ずかしいわ」
「ああ、そうだな……」
うん。流石に違和感があるな。互いに見せ合う事ではあるが、一旦自重しよう。
と言うかさっさと見せてしまおう。俺はステータス画面を開いてそれをマイさん達に見せた。
「……ライト。職業“剣士”。Lv……62……!?」
「ええ!? まさか……この世界でそんなにレベルが……!?」
「これは……予想以上だな。だが、それならLv50のボスモンスターを軽くいなしていたのにも納得がいく……!」
「おやおや……かなりのレベルですね……本当にどうやって此処まで……」
「凄いね。ソラヒメの仲間って。ライト君だっけ。強いじゃん!」
「ヤベーな。レベルが上がりにくい世界なのに……」
「一体どんなレベリングを……」
「物理攻撃や他のステータスもレベル相当の強さだ……能力値が1000を超えているのもあるぞ……」
「どんな修羅場を潜ってきたんだ……」
「チートを使った? 可能性は無さそうだな……」
反応はまあ予想通り。レベルと能力に対する驚愕が殆どだった。
しかしながら全員の疑問点はそのレベリング方法。知っての通りこの世界では、本来はレベルが上がりにくい。
ボスモンスターを倒している俺達は高くなっているが、通常プレイじゃまず最初のボスモンスターにも勝てるかどうか分からない事だろう。
まあ、それについて説明もしておくか。
「まあ、そのレベリング方法は方法って言える事でもないな。ただちょっとボスモンスターとのエンカウント率が高かっただけだ。その時に倒してレベルが上がっていった……って感じかな」
「ボスモンスターとの……いえ、それにしても……高いわ。こんなにレベルを上げる程のボスモンスターなんてかなり強かったんじゃ……」
「ハハ、確かにそうだな。けど、マイさんも知っているようにスキルを駆使してな。それで何とか倒したって事だ」
「スキルを……。成る程ね。それで……」
“スキル”という言葉だけでマイさんは特殊スキルの事を言っていると理解してくれた様子。リリィさんも同じ感じだろう。
他のプレイヤーは通常スキルと必殺スキルを上手いこと使って……とでも思っているんだろうな。それはそれで好都合だ。
「まあ、そう言う事だ。俺が首謀者かどうかの前に、強さの秘密はボスモンスターとのエンカウント率とスキルの差……ってところかな」
「「「…………」」」
俺を疑っていた人達が黙認する。レベルを見て怖じ気付いたか。別に文句を言われたからって倒そうとはしないんだけどな。子供が何となく大人を怖がるのと同じ理由かな。
「じゃ、次はマイさんも見せてくれ」
「ええ、良いわよ。けど、本当に驚いたわ……」
そう言いながらマイさんがステータスを操作し、その画面を映し出した。
──マイ・職業“踊り子”・Lv35。
竜の洞窟で少しはレベルが上がったみたいだが、やはりLv30前後。他のプレイヤー達も同じ感じかな。能力値もレベル相応って言ったところか。
まあ、“トラベル”の街に残った待機組が倒したモンスターの群れは首謀者が放ったモンスターって考えたらあまり経験値は貰えなさそうだし、そろそろソラヒメのレベルは抜いたかもしれない。
「取り敢えず、もう日も暮れているわね。他のメンバーは明日改めて確認させて貰うわ。今日は色々あったし、無事な建物にでも泊まろうかしら」
「そうだな。皆もそれで良いか? あと、念には念を押しておく。特に何もしないから休む時はゆっくり休んでいてくれ」
「うんうん! オーケー! 早いところ休もっか!」
「はい。私も疲れちゃいました」
「そうだね。今日は久し振りに寝るとしようかな」
「マイ! 帰ろっか!」
「俺達も休むか。まだライト君達は警戒されているけど、さっきよりは些かマシになった気もする」
「フム、そうですね。これなら心配は要らなそうです」
「そうだね。はー、疲れた~」
「ああ。結構肉体を使ったからな」
「「「お、おお~……」」」
気の抜けた返事をする他のプレイヤー達。ソラヒメ達とマイさん達、ランスさん達は特に変わりない様子。
何はともあれ、休むという選択には全員が賛成のようだ。首謀者の存在もあるので当然夜警をする者達は多いのだろうが、今日の騒動もあったので大半は休むかもな。
そして、今日一日が夕日と共に終わりを告げるのだった。




