ステージ4-6 国王
──“トラベル・王の城”。
あれから俺達はマイさん達に案内され、国王が居るであろう城に到着した。
外観はフィクションによくある城のそれ。いくつかの塔が連なっており、中心に大きな門がある。
場所は山の上にあり、周りには街に続く川も流れている。それは敵が攻めて来た時、城に敵が入りにくいような造りにしているのだろうが、今の時代では音速を軽く超越する戦闘機などもあるのでほぼ無意味だろう。
乗り物や戦闘機が無いこの世界にも飛竜や鳥型のモンスターは居る。中世の造りの城はもはや廃れ切っているかもしれない。歩兵戦術が主流だった中世ならではの造りといった感じ事だ。
まあ、こんな世界だから魔法部隊とか遠距離部隊が城の上部も護衛しているかもしれないけどな。
「此処がそのお城よ。顔は利くから問題無いわ」
「ようこそいらっしゃいました。マイ様。リリィ様。そちらの御四人は?」
「私の知り合いみたいなものね。通って良いかしら?」
「はっ、構いません」
「……。本当に顔が利くみたいだな……」
「当然!」
ふふん。と得意気に胸を張るマイさん。既にそこそこの地位に居るかのような対応だな。ただの踊り子からこんな待遇にまで上り詰めるとは。素直に感心出来る。
俺達は案内され、すんなり城内へと入る事が出来た。
城内もよくある内装。レッドカーペットが敷かれており、鎧や絵画が飾ってある。加えて大きな窓にシャンデリア。暗い渡り廊下を歩く為の燭台があったりとお手本のようなもの。
「それで、今回はどの様な御用事でしょうか?」
「さっきの飛竜騒動についてよ。突然やって来た飛竜の群れ。ただ事じゃないみたいだから警戒を促しにね」
「成る程。それでは王様に直接お会いに?」
「そのつもりよ」
「かしこまりました」
サクサクと交渉を進めるマイさん。凄いな。本当に。完全に手慣れている。いや、手慣れているってのは語弊があるかもしれないな。適切な言葉は……思い付かない。まあいいか。
とにかく、大した苦労もなく王に会えるようだ。普通なら知り合いだとしても簡単に会える筈は無いが、この世界は半分がフィクション。なので手続きなど特に必要なく、ストーリーの進行に合わせて都合よく事が運ぶのだろう。
「それでは、此方が王室となります。ごゆるりと御過ごし下さい」
大きな扉の前に案内され、使用人は下がる。賓客にでもなった気分だ。こんなに手厚くもてなされるなんてな。王と出会うのに護衛兵が居ないのも変だが、まあそれもゲームのご都合ってところか。
その絢爛な扉は開き、王座に座る主が視界に映り込んだ。
「フム、客人か」
「……あれが……」
その者の第一印象は、厳格そうという雰囲気。
気さくな王に悪人の王。裏のある王に裸の王様。これは違うか。フィクションの世界には様々な王が居る。この王はどういったタイプの王か、それを見極める必要があるな。それ次第じゃ今回の犯人にもなりうる。
「……。お初にお目に掛かります。私、剣士のライトと申します。今回は王様に用があって参りました」
「貴方……臨機応変に対応するわね……その部分に感心するわ」
「フム、礼儀正しい少年だが、気にするでない。マイ殿の紹介なんだ。信頼出来るモノなのだろう」
この様子、どうやら気さくな方の王様らしい。領主と言い王と言い、どうやら上の立場に位置する存在は悪人ではないようだ。
まだまだ序盤の街なのでこの様な性格の者が多めに配置されているのかもしれない。まあ、全世界がゲームの時点で序盤や中盤って概念はないのかもしれないけどな。
「そうですか。それは喜ばしい事です」
「フフ、面を上げい。構わぬよ」
顔を上げ、俺達は王に向き合う。
信頼もしてくれている様子。しかしそれはマイさん達の信頼からなるもの。まだギルドメンバーという事も明かしていないし、公共機関の関連者という事が知られたらどういう反応をするか気になる。様子次第で行動に移すか。
「して、何故マイ殿達は此処へ? 考えられる事と言えば先の飛竜達の急襲か?」
「そうね。それについて警戒を促しに来たの」
「フム……成る程の……」
向こうから飛竜騒動に言及してくるとはな。これは好都合。手間が省けた。
それならこのままの勢いで名乗り出るか。
「それに関しては私……いや、俺から。俺はギルドに勤めるメンバーです。たまたま通り掛かった街でしたが、先程の飛竜騒動。それについてギルドとして調べる為にもマイさん達に同行しました」
「ほう? 主らはギルドの者か。ギルドには色々と世話になっておる。時折ワシからも依頼を出し、他の冒険者達がその問題を解決してくれるからの。そのメンバーが来ているのは頼もしい事じゃ」
「はっ、喜ばしい事です」
特にギルドには不信感を抱いていない様子。むしろ、あのいつ書かれているのか分からない依頼を出す事もあるらしい。
少しでも動揺の色を見せたら完全な黒だったが、どうやらこの王様は本当に無害な“NPC”のようだ。
「それで、警戒の方なんだけど、さっきの飛竜が人為的な可能性があったのよ。それで、第二波第三波の襲来を警戒する為にも城の警備をより厳重にして、他の冒険者達にも協力を要請したいの。当然、冒険者達にも疑いはあるから完全には心を開かずね」
「成る程。その推測が当たっているのなら確かにそうじゃな。逆に、怪しい冒険者を見つけ出して元凶を捕らえる事も出来るやもしれぬ。良かろう。ギルドメンバーと、何よりマイ殿の頼み。その案に乗るとしよう」
すんなりと案には乗ってくれた。余計な争いも無く楽に進めて良かった。
後は他の冒険者達が協力するかどうか。冒険者間では疑心暗鬼の空気が流れているからな。先程のように敵が急に攻めて来たのなら協力せざるを得ない筈だが、安全な状態で協力してくれるかは分からない。
何はともあれ、それから流れるように事は運び、王から街へと指示が出された。
他の冒険者。即ちプレイヤー達からすれば、今のやり取りは参加自由のイベント。興味の無い者は関わって来ない筈なのである程度は安全かもしれない。
次第に城の近くに冒険者達が集まってきており、俺達はマイさん達にも気付かれぬよう、ギルドメンバー専用アビリティの“分裂”を用いて分裂体で城周辺の見張りをする。
分裂体。つまり分身。分身の能力は下がるが、こういう時に見張りなどを任せられるのは便利だ。何かあれば脳内にその事が伝わるし、分身の位置は見た事が無い場所でも“千里眼”で確認可能。そのまま“転移”を使って移動する事も出来る。
何か異変があれば即座に反応出来るので、怪しい人物なども見逃さない。
ともあれ、イベントという形として俺達と他のプレイヤーは全員が城の前に集った。
*****
「皆の者! 聞いてくれ! 先程の飛竜騒動だが、それには人為的な犯行かもしれぬ懸念が生まれた! それについて──」
城の上から王が他のプレイヤーに話を行う。
基本的な内容は俺達が考えている事と同じ。俺達ギルドメンバーが参加している事は内密であり、大凡の概要のみを話していた。
説明は割と直ぐに終わる。王が協力して欲しいと伝えるだけだからな。その間に俺達は王の護衛をする。……と言っても大した事は無いだろう。
飛竜が攻めてきたのはあくまで街中。つまり他のプレイヤーが狙いという事だ。
何故なら城自体は被害も無く、負傷者も戦線に出た兵士達だけだった。首謀者が居るのなら狙いは他のプレイヤーという事が自ずと分かる。俺が王を疑っていたのは王が無事だったからだが、疑いが晴れた今、狙いは絞られたのだ。
「──協力して欲しい!」
「どうする?」
「イベントか。良いんじゃないか?」
「ああ、面白い。やってやろうか!」
「良し、俺達も参加しよう」
「楽しそう!」
「こんな風にイベントが起こる事もあるんだな」
少し経ち、話が終わった。特に何事もなかったな。
下方からは他のプレイヤーの声も聞こえてくるが、全員が乗り気な様子だった。まあ、この場に残った時点で今回のイベントには参加するって事だから当然と言えば当然だな。
「どうやら上手くいったみたいね。これなら次に襲撃があった時すぐにでも行動を起こせるわ」
「そうだね。流石マイ!」
「あくまで可能性の段階なのによく賛成してくれたな。これで何もなかったら赤っ恥ものだぞ。俺達」
「大丈夫ですよ。いえ、本当に事が起こったら大丈夫じゃないんですけど、おかしな点が多過ぎるので必ず行動を起こしてくる筈です……!」
「ああ。それに、どこに犯人が居たとしてもプレイヤーが狙いならこんなにプレイヤーが集まっている機会を逃す手は無い。必ず仕掛けてくるさ」
「うーん……」
「どうした、ソラヒメ?」
「あら、何か考え事かしら?」
今回の話し合いを経て、首謀者の行動を改めて考える。そんな事をしているうちにソラヒメが悩む様子で腕を組んでいた。
何があったんだ? ソラヒメは何を考えているか分からない。それが良い方向に転ぶ事があれば、ただ単に揶揄う為だけの思考という事もある。さて、今回はどちらか。
「なーんか、皆に距離があるよね?」
「「……?」」
距離? まあ確かに俺達は俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤとだけ話しており、マイさんとリリィさんは二人だけで話している。距離があるのは間違いない。
「まあ、仕方ないさ。出会ったのは今日。危険は無いって分かるけど、どうにも話し掛け辛いというか」
「そうね。接触したのは私からだけど、一日で完全に親しくなるのは難しいものよ。人間ですもの」
「もう! そう言う態度がいけないの! お互いに距離を置いちゃダメ! 協力するなら仲良くしなくちゃ!」
「「……!」」
次の瞬間、ソラヒメは俺とマイさんの身体を抱き寄せ、物理的に距離を縮めた。って、これマズくないか? そう思ったのも束の間、俺とマイさんは思いっきり肉体が近付いた。
「ぐはっ!」
「うっ……!」
──そしてそのまま激突し、互いの身体に弾かれて倒れた。一瞬柔らかな感覚があったが、次の瞬間に訪れた痛みで全て消える。
「イテテ……」
「全くもう……」
「あ、ごめんなさい! 二人とも大丈夫!?」
「ああ。まあ、気にするなソラヒメ」
「ええ。悪気があって行動した訳じゃ無いみたいだからね」
今一度俺達に抱き付き、ソラヒメは謝罪する。俺は日常茶飯事なので気にせず、マイさんも特に怒っている様子は無いが、それとは別の問題がある事だけは分かった。
「ちょっと貴女! マイに何するの!」
まあ、察しの通りリリィさん。
唯一の仲間という事だけあってマイさんをかなり好いている。なので悪気がなくとも傷付ける存在は許せないのだろう。
「こら、リリィ。私は大丈夫だから」
「だって……」
「そうだよマイちゃん。悪いのは誰がどう見ても私だから!」
「貴女まで反応しちゃうの?」
確かに悪いのはソラヒメ。しかしまあ、マイさんは結構温厚な人みたいだな。
リリィさんはこれから心を開いてくれたら多分全力で仲間を護るタイプの人みたいだからこれからの好感度上げが必要だな。“NPC”じゃなくて普通のプレイヤーだけど。
「やれやれ……ソラ姉。協力関係の今、仲良くして欲しいのは分かる。けど、そう簡単にいかないんだ。全員が全員ソラ姉みたいに誰とでも一瞬で打ち解ける性格じゃないからね。自分達のペースを大事にしてこそ……」
「うぅ……ごめんなさい……」
「フフ、もうお姉ちゃんに弟君。どっちが上か分からないわね……これじゃ」
「反省は確かにしているみたいだから……和を乱すのも悪いし私ももう何も言わないでおくよ。後、色々と可哀想……」
「ハ、ハハハ……確かにソラヒメとセイヤは立場が逆に見えるな。まあ、ほんの数分早くソラヒメが生まれただけらしいから別におかしくはないんだけどな」
「あら? あの二人は双子だったのね。性別も関係しているんだろうけど、瓜二つレベルで似ているとかじゃないみたい」
「あ、本当だ。結構違っているね。二人とも」
ちょっとした小競り合いになり掛けたが、ソラヒメに反省の色が見えているのと、本人が良かれと思って実行した事が分かっているのもあり、事態は収束した。
それに、さっきよりは俺達にもまとまりが出てきている。裏があるなら今のソラヒメのような行動も取らない筈だし、ちょっとは距離が縮まったのかもしれない。
何はともあれ、“トラベル”の城。そこにて俺達は王の協力を得、他のプレイヤー達も協力してくれる事になった。




