ステージ4-5 協力者
「マイ! 何処行ってたの!? 私一人で寂しかったよ~!」
「はいはい。ちょっとコミュニティの輪を広げにね」
「コミュニティ? あ、誰か居る……」
案内された場所に向かった瞬間、マイさんに向けて抱き付く女性が居た。
マイさんは手慣れた様子で女性の頭を撫で、周りの様子を窺って聞き耳を立てている者が居ないか確認した後、そのまま俺達に手を向けて紹介した。
「こちら、ギルドメンバーのライト君とその仲間達よ。……そう言えば他のメンバーの名前を聞いていなかったわね」
「男が二人……! ちょっとマイ! ライトって名前まで知ってて……それにギルドメンバーって……!」
俺達の事を話そうとしたマイさんだが、その仲間と思わしき人が俺達。主に俺とセイヤを警戒していた。
見たところ女性二人だけのパーティ。確かに男を警戒するのは分かるかもしれないな。
「マイさんがもう話してくれたけど、一応名乗るか……俺の名前はライト。ギルドに勤めている剣士だ」
「僕の名前はセイヤ。同じくギルドに勤める弓使いだよ」
「やっほー! 私ソラヒメ! ギルドの格闘家だよー!」
「えーと、ユメと申します。ギルドで魔法使いやってます」
警戒はすぐに解けないだろう。しかし、取り敢えず何も知らないという恐怖心を和らげる為にも自己紹介をした。
ギルドメンバーの証も見せたので嘘は言っていないという事は教えられた事だろう。
「……っ。そう真っ直ぐに自己紹介されても……けど、本当にギルドメンバーみたいだね……何でこの人達を?」
「そうね。協力関係を結ぶ為よ。ほら、ギルドには色々と裏話が出回っている反面、その実力は保証されているじゃない? 私達は二人だけのパーティだけど、だからこそ他者の実力は必要でしょう?」
「別に私だけで良いじゃん……二人でここまでやって来れたんだし……」
不貞腐れるマイさんの仲間。
確かに二人だけのパーティでこの世界の一週間を生き延びたと考えれば相応の実力は持ち合わせているのだろう。
他のプレイヤーは分からないが、この辺りの平均レベルは20を超える。周りのレベルがプレイヤー達のレベルに合わせられている事を前提とした場合、この二人もLv20以上はあるのだろう。
「もう、リリィ。ここはまだ序盤も序盤よ? ここまでやれたとしても、まだまだ先は長いのよ? 今までも、さっきの飛竜退治の時も何人かの手助けをして貰った訳だし。……まあ、中には一人で全部やっちゃう人も居るかもしれないけど、私達は自分の実力を弁えなくちゃ」
「弁えてるもん! 弁えた上での反論だよ! と言うかマイ! 私の名前をさりげなく明かさないで!」
「それじゃあ自分で自己紹介しなさいよ? 私の見立てなら、多分信頼出来る人達だわ」
「むぅ……」
もう一人の女性、リリィさん。
黒髪のショートヘアにシンプルな目。しかし目の色は赤と青のオッドアイという珍しいものだった。
今の時代はソラヒメやセイヤのように黒や茶以外の目を持つ者も少なくないが、オッドアイの人は初めて出会ったな。
しかしながら、どうやら俺達の協力はあまり……というより全く望んでいない様子。
ギルドに裏話が出回っているって言っていたし、信頼出来ないんだろうなという事は分からなくもない。
「……。一応私も名乗っておくよ。マイの紹介だからね。私はリリィ。職業は魔術師でマイのパーティメンバーだよ」
「あ、名乗ってくれるのか。えーと、よろしく」
意外にも自己紹介はしてくれた。マイさんが催促してくれたので渋々のようだが、取り敢えず名乗ってくれたなら良いだろう。
って、つい手を差し伸べたけど、このリリィさんの様子じゃ握手とかをする気は無いよな、多分。
「マイの紹介だから……特別に私の肌に触れさせてあげる」
「あ、握手もしてくれるのか。別に男嫌いの潔癖症とかじゃないんだな」
「失礼だね。私はマイに悪い虫を近付けさせたくないだけ。アナタ達が本当に信頼出来る人達なら協力してあげない事もないよ」
「成る程。私情もあるにはあるけど、信頼に値すると判断したら協力もする。ただ感情に全てを任せている訳じゃないのか」
「自分の性格は自分が一番理解しているからね。それを抑えるのは難しいけど、この世界では命に関わる事柄。私情だけを優先する事はしないよ」
案外話は分かる人らしい。この手の者は私情を優先する傾向がある認識だが、それは偏見だったみたいだな。
まあ、リリィさんが話が分かるだけで他の似た性格の者は違うかもしれないけど。
「ハハ、じゃあリリィさんに認めて貰えるよう精進するか。特に俺とセイヤは嫌われているみたいだしな」
「ふふ、そうだね。僕達の存在。ギルドメンバーという事以外は不明な男性陣。警戒するのも致し方無い事だ。精々これ以上嫌われないように気を付けようかな」
「ライトはともかく、セイヤは表情をあまり全面に出さないからね~。ここはお姉ちゃんの私が頑張らなくちゃ!」
「アハハ……私達も警戒対象に入っていると思いますけど……」
「明るい人達ね……というか眼鏡の君と元気な貴女は姉弟だったの……」
「明るさなら私も負けないもん!」
何はともあれ、話はまとまった……のか? まあそれはいいとしよう。
一先ず話に入るか。勝手に進ませるなと言われそうだが、ここは俺が先に話すべきだな。
「──それで、早速本題に入りたいところだけど、今回の飛竜襲来。どう思う? 言い出しっぺの俺の意見を言うなら、おかしな点がいくつか見られた。皆の意見を聞きたい」
「そうだね。多分考えている事は同じだと思うよ。レベルの割に貰える経験値の少なさからして、人為的な何かが絡んでいるかもしれないかな。通常モンスターの中にも経験値が少ない存在は居るけど、何百体も倒してあの程度……必ず裏があるね」
「そうなるとこの街を狙った理由が気になるところだね。何が目的で狙い、何が目的で襲ったのか。狙いも襲撃も大まかな意味合いは同じだけど、ただ狙うのと襲撃するのは違うから分けて言ったよ。狙うだけならこっそりと窃盗でもすれば良いんだからね。大々的に攻めて来た理由は大事かな」
「そうですね。飛竜達の群れに紛れて首謀者……今回の、世界的な融合騒動の元凶とはまた違う、何かが目的の首謀者が動いている可能性もありますよ。人為的なら他のプレイヤーか魔王軍の企みか。大きく分けて二つありますね。当然、全ての元凶の方の首謀者が仕掛けた可能性もありますけど」
今回の飛竜騒動。やはりというべきか、セイヤもソラヒメもユメも、考えている事は同じらしい。
この騒動の犯人は野生のモンスターではなく人為的な何かによるもの。もしくは魔王軍関連の何か。大きな目的が何なのか、それを一番に考えるのが妥当だろう。
「な、何なの……彼ら……自分達の世界に入ってるわね……しかも鋭い指摘を……」
「……。信頼出来るかどうかは分からないけど、ギルドメンバーらしく頭は回るみたいだね」
「ん? ああ、すまない。職業柄、こう言った事件にはよく遭遇するからな。要点だけは早いうちにまとめる癖があるんだ」
「そう。別に構わないわよ。言われてみれば結構不思議な事だもの。この場に居るだけで情報が入ってきそう」
「そう言ってくれると助かる」
当然、マイさんとリリィさんが犯人である可能性も捨てていない。
と言うか、自覚がある俺達以外は“トラベル”の街に居た全員が怪しい。無論、兵士や国王も含めてだ。おそらく犯人ではない他の者達も俺達が怪しいという候補に入っている事だろう。それが当然だ。
ますます疑心暗鬼になっているな。今の会話は俺達とマイさん達以外に聞かれていないけど、不穏な空気が流れているように感じる。
「それで……犯人が居るとしたら何が目的かだな。普通に考えれば金銭。食材。人材。この世界で役に立つ事柄を踏まえてこれくらいか。後は王と接触を図って権力を手に入れるという線だ。まだ王には会っていないけど、そのうち王からも話を聞きたいな」
「それなら行ってみたら良いじゃない。私達も協力するわ。私達は二、三日前から此処を拠点に動いているけど、その間にある程度のコミュニティは広げたわ。今じゃ王様ともコネクションがあるわよ?」
「王と……!? それは凄いな。一体どうやって……差し支えなければ教えてくれないか?」
この街の王とも繋がりがあるというマイさん。それは本当に凄い事だ。たったの二、三日で最高権力者とコネクションを築くなんてな。
確かにこの世界がゲームの世界なら“NPC”はある程度プレイヤーの言いなりに動くが、データではない自分の意思を持ち始めている“NPC”。現実世界の他人と違ってプレイヤーとは親しくなりやすいように設定はしてあるのだろうが、それでも信頼を得るのは難しい事の筈だ。公共機関のような俺達ギルドメンバーならともかく、一般プレイヤーでそれは高難易度だろう。
「ええ、別に良いわよ。私達にしか出来ない芸当だから本当に差し支えは無いからね。……簡単に言えば、誘惑したのよ。私の職業らしく、魅了の踊りでね」
「それと、私の魔術かな。別に身体を売った訳じゃないよ。見せ物があれば近寄り易くなるってだけ」
「成る程……」
すんなり教えてくれた。マイさんはともかく、リリィさんも教えてくれるなんてな。一応形だけでも協力はしてくれるみたいだ。
成る程な。踊り子としての踊りや魔術師としての魔術。それを見せ物として近付き、そのままコミュニティを広げたか。
「それじゃあ行ってみるか。仮に今回の事件が人為的なものなら、第二波が来る可能性もあるからな」
「そうね。早いところ王様に話を聞いて犯人じゃないと分かれば次に備えて協力を要請しましょうか。本当は第二波とか来ない方が良いのだけれど、その場合は要らぬ警備をさせてしまう事になるわね……」
「そうだな。けど、全面的な協力は要らない。俺達ギルドも魔王軍の動向や怪しい事柄については調べているからな。これは秘密……って程じゃないにせよ、ギルド内で思案されている」
「そう。魔王軍……確かにあのモニターの怪しい人。今回の飛竜とは違う世界の元凶としての首謀者なら魔王軍に接触している可能性はあるわね……」
「ああ。俺達ギルドの考えもそれだ」
「分かったわ。一先ずアナタ達が噂の方のギルドメンバーじゃないという事は理解したわ。早速王様のお城に行きましょうか?」
ギルドのあらぬ噂。それによって警戒はされているが、少なくとも俺達は信頼してくれたらしい。まだ信頼って程でもないか。
とにもかくにも、踊り子のマイさんと魔術師のリリィさんの協力は得られそうだ。
たまたま寄った街、冒険者達の集う“トラベル”。そこで起きた飛竜騒動を解決する為にも、俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤのギルドメンバーは協力してくれる二人と共に行動を起こすのだった。




