ステージ4-4 疑心暗鬼
「ライトさん! ご無事でしたか!」
「ライトー。無事みたいだね~」
「無事みたいで何よりだよ。ライト」
「おう、ユメ、ソラヒメ、セイヤ。もう全員集まっていたのか」
“トラベル”の街に戻るや否や、ユメ達三人が迎えてくれた。
街には変わらない活気があり、飛竜襲来による犠牲者も0。飛竜が来た理由は不明のままだが、こんな世界だ。元の世界でも山から動物が降りてくる事があったように、モンスターが人里に来る事があってもおかしくない。それにしても謎は多いけどな。
「えーと……それで、ライトさん。先程意識を失ったのって……ソラヒメさんのあの姿を見たからですよね……やっぱり男の人は好きなんですか……?」
「……っ。それは……」
再会するや否や、ユメがさっき見た光景について訊ねてくる。いや、まあ確かに事実なんだが……。そう言えば、意識を失った時からユメとは離れていたな……。
幻滅されたかも……俺。
「ユメ……男には抗えない運命があるんだ。今回は不可抗力だった。だから、今回の件には目を瞑ってくれ」
「え? あ、はい。分かりました。ふふ、おかしいですね。何でこんな事聞いちゃったのでしょう……? 私には関係無いのに……変な事訊ねてしまい、すみませんでした」
俺の言葉に笑って返すユメ。
うーん、誤魔化せた……という訳じゃ無さそうだな。けど、裏のない笑顔。目が笑っていないという事もなく、逆にユメが誤魔化しているかのような笑顔だった。
この話はあまりしない方が良さそうだな。ユメに幻滅されたくない。
「ハハ、まあいいよ。俺に問題があった訳だしな。それより、他のプレイヤーやこの街の住人が気掛かりだ。今は色々と話を窺うとしよう」
「私の裸体の価値って……“それより”で切り上げられる程度なの……? 大衆の面前に晒されたって言うのに……」
「あ、いや。それは違うぞソラヒメ。えーと……何と言うか……」
「ふふ、アハハ! なんてね! 冗談だよ冗談! 私の操作ミスでの失態だからね! 気にしなくて良いんだよ! 取り敢えずライトの意見には賛成かな!」
「何だよ……まあ取り敢えず他のプレイヤーとかに聞くか……」
「やれやれ。毎回ライトはソラ姉に乗せられているな……」
「ぐっ……否定出来ない……」
セイヤの言う事はもっとも。俺、毎回引っ掛かってるな……。ユメの次くらいにはからかわれているかもしれない。
けどまあ、この話も切り上げよう。一先ずは全員が賛成してくれたんだ。“トラベル”の街で色々と話を聞いてみるか。黒幕説もあったり他のプレイヤーにギルドの存在をどう思われているのか気になるけど、名乗るかどうかはまあいいか。
何はともあれ、俺達は他のプレイヤーが集っている場所に向かった。
*****
「一体あの飛竜は何だったんだ?」
「ただの群れモンスターにしては少し数が多かったな……」
「いや、そもそも最後のあれ……何で残っていた全てが消え去ったんだ?」
「気になるわね……」
「あーもう、謎が多過ぎるよーっ!」
集っている場所に来るや否や、至るところから先程の飛竜についての話が飛び交っていた。まあ当然か。あれ程の大群、滅多にお目に掛かる機会が無いからな。
基本的に広範囲の技を使えれば数など大差無いが、この世界では数が質を凌駕する事など当たり前。元の世界でもそうだったんだ。これは無双ゲームじゃないからな。その辺の厄介さは現実寄りという事だろう。
「それで、どこから聞いて回る? 僕達の正体……まあ、正体って程大袈裟じゃないけど、ギルドメンバーって事を明かすかどうかも悩みどころだね」
「そうだな。ギルドに不信感を抱いている者も少なくない。フィクションじゃ、正義の味方の組織かと思ったら悪の親玉が居たりってのはよくある事だからな。フィクションへの理解が深いこの国なら真っ先に疑われてもおかしくない。事実、疑われているしあまり大々的に言わない方が良いかもな」
「何も悪い事していないのに隠さなきゃいけないなんて面倒臭いなぁ~……。もっとチヤホヤされたり、流石ソラヒメ様! 的な感じで何でも肯定してくれる人いないかなぁ」
「現実はフィクションより生きにくいって事ですね。けど、疑いは首謀者を見つけ出せば晴れる筈です。確実な証拠さえあればギルドへの不信感も払えるのですけどね……」
一理あるな。いや、ほぼ確実にそうだろう。
元を辿れば、首謀者がこんな世界にしたからこそギルドに疑いの目が向けられている。この様な芸当、ギルドならやり兼ねないという考えもありそうだ。
しかしそれも首謀者の存在が重要。首謀者が敵であり、ギルド。少なくともギルドの日本支部はプレイヤー達の味方って事を広めたいな。首謀者の存在が分かればそれも可能になる可能性は高まる。
「じゃあ取り敢えず、ギルドという事は隠して、今回の件を気に掛けている人が居たらその人と協力して調査するか」
「それが良さそうですね。今回の騒動に巻き込まれた人達はこの街のプレイヤー全員ですし、協力者は居そうです」
「賛成ー! 数の割に貰えた経験値も少ないし、変なところが多いからね!」
「協力者を得るという案には賛成かな。まあ、他人の命が自分の命になるこの世界。本当に親しい者としか心を開いていない人も多いだろうし、難しいところもあるね」
「その辺も上手く回れば良いんだけどな。取り敢えず全員賛成か」
セイヤの言う事はもっとも。だからこそ人が集まるこの場所でも親しき者達同士のパーティしかなく、ソロプレイヤーは背後を取られぬように角で警戒している。
おそらくソロプレイヤーには情報の共有者が居ないので他のプレイヤーの言葉に聞き耳を立てて自分なりの情報を集めているのだろう。
そうなると、俺達がギルドメンバーという会話を聞いている者も居るかもしれない。しかし他者とは情報共有をしないソロプレイヤー。俺はそれを知ったところで特に行動は起こさないと考えている。
「ねえ、アナタ達……ギルドの関係者って本当かしら?」
「……」
否、俺の予想は高確率で外れる。
モンスターの生態や能力は割と当たるが、人間観察に関してはかなり苦手な分野だ。まさかいきなり接触してくる人が居るなんてな。
見た目は美人。黒の長髪でややつり目。印象では厳しそうな人と言う感じだ。身体付きは女性のそれで、身体のラインがはっきりと分かる程の服装。露出も多く、色々とマズイ。
取り敢えず言葉を返すか。
「……。ああ。ちょっと世界の調査をしていてな。たまたまこの街に寄ったら今回の騒動に巻き込まれたんだ。俺は剣士。ユーザーネームはライト……貴女は?」
「私はマイ。ユーザーネームマイよ。本名は……言えないわね。自動的にユーザーネームになっちゃう。まあ、本名もマイではあるんだけど。職業は踊り子。貴方……他の三人は知らないけど、貴方はさっき彼処に居たわよね?」
と、指を差すのは先程まで。というより、飛竜達を迎え撃っていた時に俺が居た他のプレイヤーも集まっていた場所。
それを聞き、先程の場所で目立っていた人達を思い出した。
「ああ、貴女……マイさんは全プレイヤーにバフを掛けていた踊り子の……凄いスキルだった。髪型変えたんだ」
「フフ、覚えていてくれて嬉しいわ。それと、髪型は戦闘の時にまとめているの。……それにしても、貴方、やるじゃない。あんな数の飛竜を相手にして」
「ハハ、そうでもないよ。それに、倒した数なら貴女達がスキルを用いて半数を倒したんだからな。俺が倒したのは漏れ出た……」
「いいえ、違うわ。──残りの半数を一人で倒しちゃうなんて凄いって事よ」
「……!?」
まさか……そんな馬鹿な……あれを見ていたのか!? 光の速度だぞ!? それを目視して!?
「……。一体、どうやって?」
「その様子……やっぱりそうみたいね。……そうね。説明したいけど、此処には聞き耳を立てて情報を集めている人達も多い……向こうに行きましょ? 貴方だけでも良いけど、仲間達も連れて行く?」
息の掛かる程の距離まで近付き、マイさんは俺の耳元で囁くように話す。露出の多い肌に俺の腕が触れ、滅茶苦茶緊張する。二重の意味で。
まあそれはともかく、貴方だけでも良いけど。か。何か色々と怪しいな。何を企んでいるんだ?
しかし、わざわざ仲間を連れて行くかどうかを訊ねるなんてな。あの口振り、俺に委ねる事で仲間を連れて来させようって魂胆か? それなら俺一人で行った方が良さそうだな。何かを企んでいるにしても、ユメ達を危険に巻き込む訳にはいかない。
「じゃあ、俺一人で……」
「行きます!」
「ユメ!?」
一人で行こうとした時、ユメが俺とマイさんの間に割って入り、俺の前に立ち塞がるようにマイさんへと向き合った。
「何だか怪しいですし、ライトさんに何かするつもりなら私が……!」
「……。フフ、そう。良いわよ。アナタ達も?」
「まあ、当たり前だよね~。怪しい場所にエッチな格好の女性とライトの二人きりにする訳にはいかないよ。ライトの純情を弄ばないでよね♪」
「僕も概ね同意だけど、エッチな格好という部分は必要かな? 普通に色々と危なそうだからで良いだろうさ」
「エッチな……! い、言っておくけど、この衣装は踊り子だから仕方無く着ているんだからね! 本当は恥ずかしいんだから……!」
「……あれ? なんか案外怪しくないかもしれませんね……」
「アハハ……これは楽しいかも!」
「ソラ姉は一体何を考えて楽しいと……いや、やっぱり止めておこう」
「判断基準……いや、確かに一気に狡猾には見えなくなったけど……」
格好を指摘され、赤面して話すマイさん。若干怪しさは消えた。けどまあ、これが作戦の可能性もあるから油断はしないでおこう。
それと、ソラヒメに目を付けられたみたいだな。楽しいって言うのは弄り甲斐があるという事。うん、まあ、マイさんには頑張って貰おう。
それから俺達は怪しい? 女性、マイさんに着いて行き、人気の少ない場所に来た。
*****
「それで、何で俺が半数の飛竜を倒したって分かったんだ? 別に知られて何が困るって訳でもないけど、あまり公にはしたくないからな」
「そんな凄い事が出来るなら別に明かしても良さそうなのに。やっぱりギルドが何かをやったから貴方がその力を使えるという事かしら?」
「質問しているのは俺だ。それに、ギルドが知っている事で今回の首謀者について理解している事は少ない。それに関してはアンタが話してくれたら少しは教えてやるよ」
「交渉成立ね。私達一般プレイヤーも首謀者については色々と探っているもの。少しでも分かれば良いわ」
人通りは少ない場所。というか人は俺達とマイさんしか居ない。仲間が隠れて奇襲を仕掛けてくる事も懸念していたが、どうやらそう言う訳でも無いらしいので普通に話している。
まあ、一応警戒はして俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人でマイさんを囲んではいるけどな。傍から見たら俺達が悪人かもしれないな。
「それで、貴方が何かをしたって事の理由だけど、言うなればただの推測ね。他のプレイヤーは気付かなかったみたいだけど、飛竜が落ちる前に一瞬何かが光ったような感覚を覚えたの。それで次の瞬間……いえ、刹那かしら? 倒された刹那に表示された【モンスターを倒した】の文字。声が脳内に直接届いたんじゃなくて、表示されたという事は誰かが倒して全員に経験値が割り振られたという事。それで、誰かが何かをしたのか探してみたら、さっきまで目立っていたライト。貴方が居なくなっていた。だから貴方が何かをしたって分かったの」
「成る程な」
スキルかどうかは分かっていないようだが、行動から色々と推測して俺に接触したという事か。
確かに“星の光の剣”は質量を持った光になって相手を切り伏せるスキル。本来なら見えない光も、光の速度になる前に気付かれたら一瞬とは言え違和感を覚えられる。
直前まで飛竜を倒していた姿は見られているだろうし、まあ、完全に俺の不注意だな。
「さて、次よ。貴方は何をしたの? それについて教えて頂戴」
「ああ。あれは俺だけが使える特殊スキルだ。専用スキルとも言えるな。“星の光の剣”。効力で言えば身体能力強化。光の速度になって一瞬で相手を何百回も斬り付ける。使える理由は不明。何故かこの世界になった時点で使えていた。くらいかな」
「結構詳しく教えてくれるのね。好きよ、そう言う素直なの。けど、それを使える理由自体は分からない……嘘の可能性もあるけど、今回はそれが本当って思ってあげましょうか」
これにて話は終わる。プレイヤー同士で疑心暗鬼になるのはあまり喜ばしくない事だな。
本来はプレイヤー同士も和気藹々と行うゲーム。機能としてならプレイヤー同士の戦いもあるが、基本的には楽しくプレイしたいんだけどな。
「しかし、あの飛竜を倒したのが俺なんじゃないかって疑いながら、よくまあ接触してきたな。俺達は望んでいないけど、人から命を奪おうとする者も居る筈。この場でやられる危険もあっただろうに」
「そうね。確かに他者に殺されてライフになる可能性もあった。けど、アナタ達がギルドメンバーって分かったから大丈夫って思ったの。それに、結構他のパーティに話し掛けているからね。さっきのメンバーもそう。けど、今のところは無事よ」
「さっきのメンバー……ああ、近くに居た。となるとアンタの本来のパーティは居るのか?」
「まあね。気になるなら紹介するわ。ギルドメンバーとコミュニティが繋がれば私達としても利点があるからね」
「そうか。まあ、何かを企んでいる様子はあったけど、裏は無さそうだ。ギルドとして他のプレイヤーに力を貸す事は当然だし、ついでに紹介して貰おうか」
「ええ、じゃ、さっきの場所に戻りましょうか」
そう言われ、人気の無い場所に来てから数分で離れる。踊り子のマイ。他のプレイヤーと協力する事で出来る幅が広がる。サポート向きの職業だし、悪くないな。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人はマイさんの案内の元、仲間とやらが居る場所に向かうのだった。




