ステージ4-3 飛竜の群れ
「……。ここは……」
知らない天井。ではないな。空が見える。おそらくベンチか何かに横たわっているみたいだ。風が心地好い。何故俺はここに? 記憶を探り、思い出した。
あー……まさかあんな古い演出で意識を失うとは……我ながら幻滅するな。
見た瞬間に影響が出た事を考えるとアクション系の何かか? それともただの演出か? 少し古いという意味合いからして首謀者の趣味嗜好に合っている。
……まあ、あの光景を思い出してしまうし考えるのを止めるか。あの光景自体にはラッキーという感情もあるが、本人に色々と悪いからな。これ以上考えるのはよそう。
「あ、ライト。起きたんだ!」
「……! あ、ああソラヒメ……」
「うん、それでね。ライト」
「……?」
その様な事を考えているうちに本人、ソラヒメが話し掛けてきた。見られた事自体には特に何も思っていないのか、普通に接してくれた。
俺は一瞬戸惑ったが平静になる。さて、何か言いた気だな。取り敢えず続きを──
「今ね、超ピンチ!」
『『『グギャアアアア!!!』』』
「……。……は?」
──聞こうとした瞬間、俺の言葉には返さず空を指差した。同時に上空から飛竜の群れが襲い掛かってきていた。
……え? は!? なんで飛竜が!?
「……っ。いきなりなんだよこれ!? 飛竜!? 寝起きドッキリにしちゃ派手過ぎだ!!」
「残念ながら、本物の飛竜の群れだよ。何故かは分からないけど、いきなり“トラベル”の街に来たみたい! 本当に今さっき!」
「……っ。街中にもモンスターが現れるのか……! まあ、名前がある街自体ここと“レコード”にしか寄ってなかったけど、安地は無いのか!?」
「建物も普通に破壊されているみたいだから逃げ場はないねぇ。他の冒険者達も戦っているから私が中々起きないライトを迎えに来たって訳。私が私達の中で一番早く迎えに来れるからね!」
「そうか。分かった。取り敢えず追い払うか……!」
木刀を手に取り、踏み込んで跳躍。光剣影狩はまだ使わなくても良さそうだ。
レベルを確認したところLv30前後。大華樹よりは高く、大輪華樹よりは低いと言ったところ。飛んでいるので攻撃は当てにくいが、それなら戦える。
「オラァ!」
『グギャア!』
飛び込む俺に向けて火球を放出。俺はそれを木刀で薙ぎ払って防ぎ、そのまま頭を殴り付けて地面へと叩き落とした。
レベルが倍は離れているので遠距離系の攻撃なら相殺する事も可能。そのままカウンターに繋げられるので丁度良かった。
「スキル名は表示されていないな。ボスモンスターじゃないからか、遠距離攻撃が通常攻撃だからかは分からないけど、勝てない相手じゃない」
『ガギャア!』
『グゲア!』
次々と迫り来る飛竜型モンスター。レベル差からしても有利に立ち回る事が出来、他の冒険者が居るので数の不利にもならない。
突然攻めてきた理由は不明だが、少なくともこの街は護れるだろう。
『ギャア!』
「ひい!」
「危ない!」
無論、戦えない住人も当然護る。この世界の“NPC”は自我があるからな。見過ごす訳にはいかないさ。
住人達にも襲い掛かる飛竜を打ち倒し、そのまま狙いを定めて周囲の飛竜も薙ぎ倒す。
「……っ。強すぎる……!」
「マジかよ……Lv30の群れ……!」
「くそっ……!」
見たところ、他の冒険者達は結構苦労しているみたいだな。まあ当たり前か。この街に到達出来たとしても、レベルで言えば20前後か中盤くらい。そもそも多くのボスモンスターと戦って一気にレベルが上がっている俺達が異質なんだ。
けど、全員を護るのは大変そうだな。大々的にギルドメンバー専用アビリティを使うと不公平を述べる人が現れるかもしれない。こんな世界だから、専用アビリティも他のプレイヤーの前じゃあまり使わない方が良さそうだな。
既に不信感を覚えられているギルドに、更にヘイトが集まったら行動しにくくなる。“NPC”に話し掛ける時は便利な称号なんだけどな。取り敢えず他のプレイヤーにはしれっと手助けをする感じで良いか。
「“停止”……」
『ガギャ……?』
「……! 止まった? ……今だ!」
飛竜の動きを停止させ、俺が見えている範囲で苦戦している者達の手助けをする。
本当にこっそりと仕掛けているので余程の観察眼を持つ者以外には気付かれない筈だ。
「俺も片付けるか!」
飛竜の群れに飛び掛かり、打ち落として討伐。“トラベル”直属の兵士達も武器を用いて戦闘を開始するが、平均レベルが10~15。厳密に言えばLv10が大半で兵士の隊長がLv15。こう言うと失礼だが、あまり強くないな。
まあ、こう言った時に共に戦ってくれる存在はプレイヤー以外大した事が無い。なので特に気にせず俺はただ飛竜を倒していく。
「どんだけ居るんだよ……飛竜……。もう三十体は倒しているぞ……」
思わず独り言で愚痴を吐いてしまう。三十体程の数を倒しても一向に数が減る気配がなく、気が滅入るのも仕方無いと自分に言い聞かせて駆け出した。
貰える経験値はかなり少ない。Lv60の俺はそう簡単に上がらないらしい。三桁レベルにも近付いてきたし、モンスターのレベルがレベルだから当然か。
このゲームのレベルアップは三桁レベルまでは基本的に均等。距離など様々な条件と理由からパーティにも割り振られる数が変わってくる。なので三桁レベルくらいまではパーティ全員が平行してレベルアップするんだ。まあそれはいいとして、強く経験値も豊富なモンスターを倒せば一気にレベルが上がるが、このレベルの飛竜相手じゃそれも難しいな。
他のプレイヤーは何人かはレベルアップしている。が、俺はあからさまに遅い。多分ユメ達もそうなんだろうな。……いや、他のプレイヤーもレベルアップが遅くないか?
「……。まあいいか。しかし持続力にも割り振ったから疲労の蓄積速度は下がってきたけど、それでもかなり疲れる事になりそうだな。それに、群れモンスターにはボスクラスのモンスターが居る事もある……大変だ」
呟き、今の状況が大変だという事に全ての言葉の役割を任せる。
考えていては気が滅入るだけ。残りモンスターの数は百体以上。殲滅する事自体は難しくないが、他のプレイヤーの経験値を横取りするみたいで少し嫌だな。
剣士だから難しいけど、範囲技とか欲しいものだ。
「フィクションの世界じゃ山を切り裂く剣技とか出てくるけど、現実に近い世界じゃ質量や純粋な範囲。諸々の理由から絶対に無理だよな……それとも半分はゲームだから何れはやれるのか?」
今のところ何撃か与えるだけで飛竜を倒す事が出来、他のプレイヤーの手助けとして時折“停止”を掛けているので犠牲は出ずに減らせている。が、やっぱり多過ぎるだろ。この数……。ユメ達は大丈夫か?
そう考え、ふとユメ達が居るかもしれない方向を見たら高い建造物にまで届く炎や粉塵が舞い上がっており、空を複数の矢が飛んでいたので問題無さそうだと分かった。
「じゃ……俺も仕掛けるか……。一気に殲滅出来る“星の光の剣”はさっきの理由から大々的に使えないとして、考える時間も攻撃にあてがうか……!」
踏み込み、跳躍。上空にて数体の飛竜を打ち倒し、近場の建造物を足場に駆け、更に続くよう飛竜を打ち落とした。
一応建物の上には落とさないようにしている。この世界の修復力はどれ程か分からないが、建物が破壊されたらその街と住人への損害が出るからだ。
「サポートもしなくちゃな。“停止”!」
『……!?』
「……? 止まった?」
飛竜に仕掛け、通り過ぎ様に他のプレイヤーが戦っている飛竜を停止。同時に多数を討ち仕留める。
“トラベル”の街には至るところから飛竜からなる光の粒子が舞い上がり、一見すれば輝かしい世界が形成されていた。
『『『ギギャア!』』』
「うわ!? 一気に来るぞ!?」
「なんだと!?」
「ひいい!」
「流石にあれは多過ぎるだろォ!?」
「もうダメかもしれないわね……」
「ダメだよ! 諦め……ちゃ……!」
自分達の損害にようやく気付いたのか、飛竜達の群れが一ヶ所にまとまり、さながら巨大な竜のような姿で襲い来る。
数はざっと数百匹。一体どこに潜んでいたのか気になるところだな。
けどまあ、この数をこの距離で倒したなら誰が倒しても他のプレイヤーにも経験値が入る。横取りするような感じじゃなくなるし逆にやりやすいかもな。
「こうなったら一気にスキルで仕留めるぞ!」
「おう! 俺達の力、見せてやる!」
「じ、上等だ!」
「やってやるよ!」
「……っ。思い知らせてあげるわ!」
「うん!」
周りのプレイヤー達が一ヶ所にまとまり、力を込めてスキルの準備をする。
確かにあれなら一気に仕留められるかもしれない。スキルを使えば並大抵の相手は大きく削れるからな。それなら俺は後手に回り、あの中から漏れたモンスターを仕留めていくか。
「──伝家の宝刀・“大砲剣”!」
「──リーサルウェポン・“巨弾丸”!」
「──極限槍術・“遠槍”!」
「──奥の手・“飛拳”!」
「──最終舞踏・“全攻の舞”!」
「──最大魔術・“膨張火球”!」
そして一気に必殺スキルが放たれた。
俺と同じ、俺より勇ましい顔付きの剣士に銃使い、槍使い。格闘家にツインテールの踊り子とショートヘアの魔術師。その他にも様々な職業のプレイヤーがおり、踊り子の女性が全員に強化スキルを掛け、その他の者達が強化された遠距離スキルを放出する。
成る程な。たまたま居合わせただけのメンバーにしてはかなりまとまっている。全員が本来の“AOSO”をプレイしていたんだろうな。群れモンスターを叩くには最善手だ。
それにしても“大砲剣”か。剣士の遠距離技は貴重だから何れは遠距離の何かを覚えたいな。
『『『…………!』』』
他のプレイヤー達によって放たれた必殺スキルに多くの飛竜が巻き込まれ、一気にその数を減らした。
半数は減った事だろう。漏れ出た飛竜は俺のような遠距離技を持たない職業の者達が相手する。分断は上手く出来ている。このままなら後一回先程のスキル全解放を行えば勝てるが、
「あと半分だ! 出来るか!?」
「俺は問題無い!」
「俺もだ!」
「同じく!」
「ゴメン、私無理かも……流石に全員へのバフを掛けたから“SP”の底が尽きちゃって……」
「……っ。攻撃力上昇のバフありきであの威力だったから大変かも……」
どうやらそれは難しそうな雰囲気だった。
そう、先程のスキルは踊り子のツインテールの女性によって威力が底上げされたスキル。つまり、そのような強化が無ければLv30もの飛竜を倒すのは至難の技なのである。
しかし飛竜の進行は止まらない。半数が減ったので集合体の大きさも半分になっているが、それでもかなり厳しいようだ。
本来の強化スキルは持続的なモノだけど、必殺スキルと合わせたら一回で効果が消えるらしいな。
仕方無い。俺がやるか。この世界を打開する鍵になりそうな特殊スキルは同じギルドメンバー以外にはあまり見せたくないが、人命が第一。文字通り一瞬で終わらせて気付かれる間もなく仕留めるか。
「──伝家の宝刀・“星の光の剣”……!」
呟くように言い放ち、自身の能力を向上。刹那に瞬き、移動。同時に飛竜の群れを切り伏せた。
「来るぞ……!」
「「「……っ」」」
「来るなら来なさい……!」
「来ちゃうの……?」
『ギャアアア!』
『ギュアアア!』
『グゴォォォ!』
光の速度は誰にも見えない。故に、俺が飛竜の群れに突っ込んだ事を他のプレイヤーには気付かれず、飛竜達すら切られた事に気付けない。
俺は誰にも見えない位置に降り立ち、木刀を納めた。
【モンスターを倒した】
「……。は?」
「え……」
「ん?」
「あれ?」
「今のは……」
「勝ったの……?」
『『『…………』』』
まだ飛竜達は動いている。にも関わらず出てきた文字。他のプレイヤー達は呆気に取られ、飛竜達は声すら出さず光の粒子となって消え去った。
現実世界がゲームだからか、光の速度で全てを終わらせると若干のラグが生じるみたいだな。今までは特に無かったけど、あれ程の数を一気に消滅させたんだから当然かもな。
それによってその場に居た全プレイヤーのレベルが上がる。……けど、上がり幅が少ない気もするな。多くても3レベくらいしか上がってない。俺は今のレベルからしても分かるけど、他のプレイヤーでそれくらいって……。
「……。まあ、今は考えないでおくか。ソラヒメは会ったけど、ユメとセイヤはどこだろうな」
今現在、俺は近場の森に一人。まあ、飛竜達を切り伏せた時にそのまま勢い余って数百メートル離れた場所に着地したってだけなんだけどな。
俺が気を失ってからソラヒメとは会った。後はさっきそれっぽい余波を見た二人だな。
ともかく、突如として現れた飛竜の群れを全て討伐した俺達プレイヤー。そこから距離が離れた俺は今一度“トラベル”の街に戻るのだった。




