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ステージ4-2 ショッピング

「街は発展しているけど、景観自体は“レコード”とほぼ同じだな。違いと言えば街中に川が流れているくらいだ」


「そうだね。こんな川が流れていたのか。透き通った水で街中に流れている川とは思えない。現実世界にも川が綺麗な観光名所はあるけど、それとはベクトルが違う美しさだ」


「本当にね~。まるで自然の中にある川みたい。底が見えるくらい透き通った水なんて街じゃまず見ないからね」


「本当に綺麗な水ですね。これが生活用水って事でしょうか?」


「多分な。ここに下水道とかがあるのかは分からないけど、本来の世界でも13世紀には既に下水道があったらしいし、汚水処理とかはこの川と繋がっていない別の場所でしているのかもな。中世モチーフのこの街にそんな技術があるのかは分からないけど」


 この街、“トラベル”の街の第一印象は普通の街。そして街中に入ってからの印象は川が綺麗な街だ。

 まるで森の中に流れるせせらぎのようで、過されていない筈なのに一切の汚れがない。心地好い川の音が耳を癒していた。


「取り敢えず、情報収集と装備の購入か。いつまでも“普通の服”じゃ心許ないからな」


「そうですね! レベルが高いのである程度のモンスターの攻撃は耐えられますけど、今度ボスモンスターに出会ったら大変そうですし!」


「さんせーい! この世界じゃ汗も掻かないし服も汚れないみたいだけど、オシャレやショッピングとかもしてみたいからね!」


「あくまで装備。冒険の為の調達なんだけどね。まあ、僕も反対しないよ。この装備じゃ、先が思いやられるからね」


 見たところ、全体的に裕福な街ではある様子。賑わいを見せており、活気にも溢れている。そう考えれば装備の品揃えも豊富かもしれない。

 資金は少ないが、今まで倒したボスモンスター達の分もあって俺達四人の装備一式や冒険の為のアイテムを揃えられるくらいには貯まっていた。それなら早いところ揃えた方が良いだろう。


「それじゃ、装備探しとアイテム探し。どっちを先にする? 全員で行くか、二手に分かれて行動するか。もしくは三人と一人で行動。あるいは個別に分かれて各々(おのおの)で行動を起こすか」


「私的にはみんなで行動したいな。必要アイテムはともかく、装備は職業ごとに違うからねぇ。別に装備する事自体は出来るけど、装備次第で物理攻撃や物理防御。魔法攻撃に魔法防御とか素早さ。上げられるモノは色々あるから、別々に分かれて探しても合わないと思うよ?」


「……。確かにそうだな。普通の服選びならともかく、装備の場合はちゃんと全員で探さなくちゃならなそうだ」


「うーん、普通の服選びも手伝って欲しい女の子とか居ると思うよ? 気になる相手には見て欲しい事もあるからね~」


「そうなのか? まあ、俺にはそう言う人居ないし関係無いか」


「本当にそうかなぁ?」

「……っ。なんだよその目は……」


 ニヤニヤと笑うソラヒメ。なんだよ。俺への当て付けか何かか? そう言う存在が居ないのを分かってて揶揄からかっているのか?

 ソラヒメはチラリとユメの方を見やり、ユメは顔を逸らした。……ソラヒメには俺がユメに片想いしてるってのがバレているのか? そうだとしたら恥ずかしいな。


「別に~? アハハ、取り敢えず色々と準備はしよっか!」


「そうだな。これだけ広い街だし、武具屋とアイテムショップが一緒になっている場所でもないか探してみるか。その方が効率的だしな」


「通常アイテムと武器じゃ勝手が違うからあるかは分からないけど、ライトの意見に賛成かな。ゲームによっては店の中で別の店に繋がっているモノも多い」


「私もライトさんに賛成です。容量無限の入れ物があるので荷物にも困りませんし、まとめて購入出来るのは利点の方が多いですものね!」


 効率を考えて、ある程度の店が一つになっている場所を探すことになった。

 その方が利点は多い。人がその分多いと考えれば魔王軍についての情報も聞き出せるかもしれない。ともあれ、俺達四人はその様な店がないかを探しに行くのだった。



*****



「……。ここ……店っぽいな……」

「そうだねぇ~。けど、なんか既視感があるような……」

「はい。元の世界でのこの場所にあった施設から考えてみれば……確かにそうだったような気がしますね……」

「そうだね。融合した世界なら何の問題も無いけど……これは異質だ」


 少し進んだ場所に、俺達は見慣れた建物を見つけた。

 元の世界の建物はギルドを除いてほぼ壊滅したが、この様に形を成して残っているモノもあるんだなと染々思う。だが何となく、落ち着く雰囲気もあった。馴染みの無い世界だからこそ、馴染みのある施設を見る事でここが本当に一週間前まで日本だったと実感する。


「ショッピングモールだよな? ここ。いや、まあツタが絡まっていたり木造とレンガ多めになっていたり街の景観に合わさってはいるけど……形がショッピングモールのそれだ。広さもそれくらい。駅と駐車場は崩壊して街の一部になっているけど、この建物だけそのまま残ったみたいだな」


「そうですね。けど、結構賑わっているみたいですよ?」


「オブジェクトとかじゃなくて普通に商売している雰囲気だねぇ。冒険者の姿もチラホラ見えるよ」


「あの冒険者達は他のプレイヤーかな。僕達よりも先に来ている人達が居たみたいだ。まあ、この世界になってから一週間は経っているからおかしくはないね。初日に此方こちら側に来た人達は道中のそこそこレベルが高いモンスターをどう対処したのか気になるところだけど」


「確かにな。まあ、俺達のレベルに合わせてモンスターのレベルが上がっているけど……結構差が出てきているからその辺は分からないからな」


「そうですね……」


 この世界のレベルという概念についてはまだまだ知らない事が多い。歩いていると普通に出てくるモンスターだが、その時の俺達と同等だったり半分以下のレベルだったりとバラバラだ。

 もしもレベルを合わせているのなら初日に旅立った冒険者プレイヤーがこの街に来ていてもおかしくないが……果たして。


「けどまあ、今はモンスターのレベルについては考えなくても良いか。苦戦する事はあっても、負けはしていないからな。首謀者によってバランス調整されているみたいだしな」


「それもそうだね! 早くショッピングモールに行こうか! ……ん、あれ? けどこの世界に合わせた呼び方なら“ショッピングモール”は合わないよねぇ。ファンタジーみたいな呼び方ってなんだろう?」


「○○屋とかショップとかじゃないか? 呼び方はあまり関係無いし、別に好きな呼び方で良いだろう」


「こう言うのは雰囲気が大事なんだよ。ライト。何事にも気分は重要だからね!」


「そう言うもんかね」


 気分云々はさておき、取り敢えずこのままここで話していても始まらない。なので俺達はショッピングモールだったであろう店の中に入って行く。

 やはりと言うべきか、内装は外観に合わせたような造り。レンガ道が広がっており、おそらくショーウィンドーがあったであろう場所にはガラスが無く、品物だけが置かれていた。その品物も全て装備品のような物。全体的にゲームの世界に合わせられた造りだった。


「この様子じゃ、映画館にゲームコーナーは確実に消滅しているんだろうねぇ。フードコートやレストランみたいな場所や本屋に服屋。家具売り場とかは形を変えて残っていそうだけど」


「そうだろうな。けど、多くのアイテムが入手出来るって意味ならまさしく理想の場所だ。装備とアイテムを一気に揃えられるからな」


 ここはまだ入り口付近。なので更に奥の方を見てみる事にした。

 感想で言えば中世ヨーロッパ風ショッピングモール。景観は違えど内部構造がよく見るタイプのモノなのでゲームの世界という印象が他よりは薄かった。


 それから俺達は中を進み、ショッピングモールの面影を残した店を探索。ソラヒメとユメは心の底からショッピングを楽しんでおり、俺とセイヤは軽く物色。

 実は、と言うか、友人が少ない俺は当然近場のショッピングモールだとしてもあまり行った事はない。ソラヒメ辺りはよく行ってそうな雰囲気だが、俺の場合は大まかな内部構造を知っているだけで幼少期に親に連れて行かれた時以来かもしれない。……。まあそれはいいか。

 ともかく、久々のショッピングモール。販売品はかなり変わっており、現代の品物は無い。薬草や謎の瓶類など主にゲーム用のアイテムしか売っておらず、俺達以外の冒険者もそれを目当てにおり、全員が既に馴染んでいる様子だった。

 しかし、こんなに冒険者が居るならここ、“トラベル”の街は部外者が自由に行き来できるみたいだ。


「冒険者の姿が多いな。王政の街だとしても、観光客は受け入れているのか」


「王政の街だからじゃないかな。国民が落とす金銭だけじゃ国を経営するのは難しい。いや、それは王政じゃなくてもだ。それに、街の外にはモンスターが蔓延はびこるこの世界。強い冒険者は街の外のモンスターも倒してくれるし、金銭もその分持ち合わせているから断る理由はないだろうね」


「確かにそうだな。本来の世界とは勝手が違うにしても、国の経営ってのは俺達が知らないくらい大変そうだ。……うん? ……お、あれ何か武器とか装備品売っているような店じゃないか?」


 そんな事を話しているうちに、俺達は目的の一つである装備屋に到達した。

 既にアイテムの補充は済ませており、本来のショッピングモールに無い品物だとしても女性陣は買い物を普通に楽しんでいた。

 そしてこの装備屋は元衣類専門店。鎧などを売っているが、飾り付けなどは元の形から流用しているようだ。マネキンが装備をまとっているのは何かシュールだったが、それはまあいいか。


「それで、何か良い装備は見つけたか?」

「特に無いね。性能はやっぱり初期の街って感じかな。有り合わせで揃えるのは良さそうだけど……」


「わー、ユメちゃんほら。これ可愛くない? 魔力が少し増えるよ!」

「本当だ! 可愛い! けど、性能は低いみたいですね。魔力に加算されるだけで防御性能は普通の服並みです」

「まあ、仕方無いね~。場所が場所だもん。ここは見た目重視で選ぼうかな!」

「はい!」


「……。女性陣は普通に楽しんでいるな」

「まあ、買い物が好きな女性は多いからね。ソラ姉やユメも例外は無いって事だ」

「かもな」


 純粋に装備の性能だけで思案する俺達男性陣と見た目を重視する女性陣。根本的な生物としての違いを感じるな。

 まあ、本人達が楽しんでいるなら何も言う事はない。俺達は俺達なりに探すとするか。


「見て見て二人とも! “ビキニアーマー”!」


「……がはっ!?」

「……。ソラ姉。実の弟として言わせて貰うけど、実の姉が大衆の前でその姿を晒しているのには思うところがあるよ……」


 いつの間にか試着しており、“ビキニアーマー”をまとったソラヒメがポーズを決めていた。

 俺は思わず唾液でせ、セイヤは複雑な表情で淡々と指摘する。

 見た目で言えばかなり似合っている。露出も多く、ソラヒメの身体が身体なので周りに居る男性達の視線を一つに集めていたが、弟としてのセイヤは恥ずかしさなど様々な感情が混雑としているらしい。


「そ、ソラヒメさん……みんなに見られています……!」


「もう、つれないなぁ。この店に売っているって事は実践で使えるって事なのに」


「そう言う問題じゃないだろ……」


 ソラヒメは不貞腐れ、文句を言いながらステータス画面を開く。

 そうか。着替えとかはステータス画面から出来るんだ。いくらソラヒメだからって大衆の面前で衣服を脱いで裸体を晒すという事はしないんだろう。


「えーと……この世界になってから装備は変えてないし……どうやるんだっけ?」


 そう言いながら開いた画面を操作。

 確かにこの世界になってから俺達は一週間もずっと普通の服しか装備していなかった。操作に慣れるという意味でも装備の購入は必要かもしれないな。


「あ、これかな?」


 そしてソラヒメは装備を外すの項目を押した。


「……あ」


「「「……!?」」」


 それと同時に俺達全員の視界が消え去る。考えるまでもない、“ビキニアーマー”をそのまま外したソラヒメ。そう、そのまま外してしまったのだ。

 その生まれたままの身体は店内に晒され、直視していた男性陣がセイヤを除いて全員鼻血を噴き出しながら天を仰ぐ。無論、俺も。その身体付きには一部の女性陣も紅潮していた。

 てか、本当にこんな鼻血が出るのか……昔のフィクション作品でよくあった演出だな。まあ、実際は六割が水で出来ている人間はそこからほんの数パーセントの水を失うだけで脱水症状になる。現実じゃ有り得ない現象だ。意識が遠退いたのはそれが原因だろう。ゲームのシステムとしては小ネタ的な感じで組み込まれたのかもしれない。そうなるとこの様な安全地帯限定の遊び機能で、実践には使えないのだろう。それも、下心のある者にしか通用しない機能かもしれない。

 そんな、関係無い事を考えながら俺は視界が消え去った。

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