ステージ4-1 王都
『ゲゴッ!』
「来るぞ!」
「はい!」
「またあれ!?」
「……っ」
カエル型のモンスターと向き合う俺達、俺とユメとソラヒメとセイヤは苦戦していた。
と言っても勝てない相手ではない。今の隙を突けばやれるが、少々難しいところだ。
「避けろ!」
「……!」
「「……!」」
俺の声と同時に左右へ距離を置く。次の瞬間、先程まで俺達の立っていた大地が砕けて穴が空き、辺りに粉塵を舞い上げた。
「本当に厄介だね……あの舌……!」
「全くだ……!」
穴が空いたのは舌によって。
たかが舌ではない。カエルの舌は獲物を捕るのに適しており、その速度もかなりのものがある。
舌の速度は秒速4㎞。それはこのカエル型モンスターではなく、普通のカエルの場合。普通のカエルで時速14000㎞を優に超える速度を出すんだ。本来の世界のカエルより巨大で力もあるこのカエルの舌は、おそらく第一宇宙速度を超える速度で放たれている事だろう。まあ、舌の速度で時速何キロって表現があっているのかは分からないけどな。
本来は獲物を捕る為の舌なので柔らかく、粘着力があってこれ程の破壊力は生み出さないが、この世界に適応したカエル型モンスター。獲物が他のモンスターだとして、その強度から考えれば旧世界のコンクリートなど容易く粉砕する力を生み出している事だろう。
「絡め取られたら一瞬で口の中だね……」
「ああ。普通のカエルで自分の1.5倍近くの物を持ち上げられると考えたら、このカエルは倍以上の物は持ち上げられる筈。建物の中に避難しても、一軒家並みの大きさなら一瞬で捕食されるな」
つくづく野生動物の力の凄さを思い知る。人間は時速何万キロとか素じゃ出せないぞ……。
まあ、その代わりに知能が発達して最大級の攻撃なら太陽の表面温度に匹敵する熱量を誇る爆弾を作り出したり、第三宇宙速度以上の速度で宇宙を進む衛星を作り出したりしているから、野生動物とは別のベクトルで凄いんだけどな。
ともかく、それらを使うには色々と条件がある。ゲームのようなこの世界じゃ、俺達もそれなりに強化されているんだ。同じ大きさの生き物が素手で戦ったら人間は最弱ってよく言われているけど、この世界なら成長次第で最強になれる!
『……』
「舌を収納しているな。となると、次にあの舌が放たれた瞬間に攻めよう。その時は動きが一瞬止まる……!」
「そうだね……! その隙を突いて畳み掛けようか……!」
「仕方無いね。その案に乗ったよ……!」
隙が出来るのは舌を放ち、それによって動きが止まった時。その隙を見逃す訳にはいかない。
相手の様子を窺う中、ユメが一言発した。
「あの……“停止”を使えば良いんじゃないでしょうか?」
「「「……。……あ」」」
『ゲゴッ!』
その刹那、カエルが舌を第一宇宙速度以上の速度で射出。俺達はそれを躱して懐に迫り、一気に嗾けた。
「オラァ!!!」
『ガゴ……!』
【モンスターを倒した】
「よっしゃあ!!!」
「やったねライト!」
「……」
そして、倒した。俺は大袈裟に喜ぶフリをする。ソラヒメもそれに乗り、セイヤは無言だった。
「あの……」
「皆まで言うな。ユメ。分かっている。勝てたんだ。それで良いじゃないか」
「……あ、はい」
うん。取り敢えず勝てたからそれで良しとしよう。
「いや、別に忘れていた訳じゃないんだ。ただ単に抜けていたと言うか何と言うか」
「それを忘れていたって言うんですけど……勝てたので構いませんね!」
「……っ。その笑顔がなんか痛む。体力が一気に削られる時より痛い……」
優しいな。ユメは。優しいからこそ胸が締め付けられる。
ともかく、今後戦闘があるとして、ギルドメンバー専用アビリティを使う癖を付けるべきか? 首謀者にそのアビリティを使えなくさせられる可能性もあるから変な癖は付けたくないが、より安全にこの世界を攻略するにはその方が良さそうだな。
それと、自動販売機の飲み物を回復以外に使っても良いかもな。睡眠とかの属性攻撃を使ってくる敵にはまだ出会っていないからコーヒーは使わなくても良いとして、コーラ。炭酸全般は攻撃力強化の為に使うのも悪くない。
「ま、まあ取り敢えず、また先に進むか」
──現在、マウンテン・クロコダイルを倒してから一日が経過していた。
今の居場所は一昨日に大輪華樹を倒した場所から少し進んだ所であり、相変わらず荒廃した世界を描くかのような景色が目の前に広がっていた。
色合いは緑や青が多めなので目には優しくて落ち着くが、それでも人が居ないこの場所は少し不安になる要素もあるだろう。
「この辺のモンスターも地味にレベルが上がっているからな。Lv50以上の俺達なら一撃でも与えられたら木刀とかの初期装備でも倒せるんだろうけど、レベルという概念があるだけの世界。野生の動物が強化されているってだけでかなり厄介だ。大したダメージを受けないにしてもノックバックとかはあるからな」
「純粋に力と強度は本来の世界の倍以上。レベルってものはあくまでその分の力が上乗せされているだけだからね。生身でやり合うには厳しい相手だ。まあ、僕達も強化されているお陰で対等に渡り合えているけど」
野生動物の力というものは、思っている以上に強大なもの。
特に大きさなども強化されているのでレベルが高くても相手にするのは大変だ。そう言や、動体視力とかはどのステータスが関係しているのか気になるな。動体視力を上げられたら“止まって見えるぜ……?”──的な感じで強キャラを演じる事も出来そうだけどな。ステータスの平均値がそれなのか?
「それで、私達は何で歩きながら進んでいるの?」
「なんでって。そりゃ目的地がこの先だからな。当てはないけど」
「うーん、それじゃ遅くなっちゃうし走って行こうよ! 今の私達ならかなりの速度が出せるんじゃない?」
「……。確かにそうかもな。まだ二桁中盤のレベルしか無いけど、Lv1で自動車並み。今ならもっと出せるかもしれない」
考えてみたらそうだ。何も歩いて行く必要もない。目的地が分からないにしても、ただひたすら真っ直ぐ進むにしても、どちらにせよ当てがない道。もう少し速く移動すれば時間短縮になる。
速度次第じゃ見落とす物は増えるかもしれないが、“転移”があるので道に迷う事はない。
「じゃ、決まりだね! 私とライトはセイヤとユメちゃんに合わせるから、軽く走って行こ!」
「まあ、今の僕達の身体能力を改めて確認する事も出来るから不利益は特にないね。乗ったよ」
「そうですね。私、普段はあまり運動しないのですけど大丈夫でしょうか?」
「ハハ、この世界じゃ普段の運動不足は関係無いさ。取り敢えず行くとしよう」
そして俺達は踏み込み、軽く駆け出した。瞬間、次に気付いた時には先程までの場所が見えなくなっていた。思った以上に速いな、俺達の速度。
「なんか不思議な感覚だな。風圧は凄いけど、それがあまり苦じゃない。車から顔を出すだけで息が出来なくなるのにそれ以上の速度で動いて普通に会話も出来るなんて」
「そうですね。なんだか自分の足で走っていないみたいです」
「ああ、それは俺も思った。地面を蹴っている感触はあるけど、普通に走る分には溜まる疲労が少ないから何て言うか……自分の身体が自分じゃないみたいな感覚だ」
秒速数十メートル。百メートル近くか? となると時速三〇〇キロ以上。凄い感覚だ。まだLv60なのに新幹線並みの速度で走れるとはな。
本気なら音速出せる可能性もあるな。これ。てか、この世界でLv1000にでもなったらどれくらい強くなれるんだ俺達。
「あ、街が見えたよ!」
「……! 本当だ。この速度で走っても割と視界は良好。動体視力は素早さに比例しているのか……」
「そうみたいだね。……それにしても街か。本来の世界にあった街ならギルド付近とかの一部を除いて荒廃している筈……そうなると“NPC”の街かな?」
「かもな。それに、見たところ“レコード”の街より発展している。“レコード”もかなり発展していたけど、あそこに見える街は別格だ」
「お城のような物も見えますね……王都でしょうか?」
「県境が国境になる世界だからな。王都という可能性も十分に有り得る。フィクションの世界じゃ王政国家も多いからな。暴君だったり仁君だったり主に二種類の王が居るけど、あの街の王はどちらか……」
「どちらにしても、行ってみなくちゃ分からないって事だね!」
ソラヒメの言葉に俺達全員が頷いて返す。
王政国家はフィクションあるある。その王が暴君で問題を起こしたり仁君で問題を起こされたり役割自体は様々だが、あそこに行けばボス関連の何かか魔王関連の何かが掴めるかもしれない。それなら行かない理由は無いだろう。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人は時速三〇〇キロ以上で走り抜けてそのまま街に向かうのだった。
*****
──“トラベル”。
それから俺達は物の数秒でそこに到達し、停止。そのまま上に映った文字を横に街の景観を眺める。
これまたよくあるような街。レンガを基盤とした日本らしくないモノ。歩廊に顕在する並木道。噴水が遠方にチラッと見え、周りに建ち並ぶ建物もレンガを基本としている。空気は悪くなく、現実の中世ヨーロッパのような汚物も捨てられていない。
そう言や、この世界には国境とかはあるけど国に入る為の手続きは必要無いんだな。基本的に勝手にやって来ても良いのか? まあ、冒険者が行き来するから自由なのかもしれないけど。
「街の様子は普通だな。特に問題とかが起こっている様子もない」
「ああ。至って平和な街だね。“トラベル”か……時間旅行とかでよく使われる言葉だけど、直訳すると旅。最初に訪れる街に付けられそうな名前だ」
「けど最初の街は違った。ギルドからのスタートだとしても一番近場の“街”が“レコード”。そう考えれば、一番最初に到着する“王国”が“トラベル”という事か?」
「かもね。他のゲームにも本編とはあまり関係無い街が最初に来たり、最初に寄った街が後半に関わってくるモノがある。レトロゲーム好きと思われる首謀者が生み出した世界ならその可能性も有り得るよ」
「それなら“レコード”の街にも注意を払っておかなくちゃならないな。俺達ギルドが知る中で唯一魔王軍との繋がりがあった街だ。歴史を記録しているという意味も踏まえて何かあるかもしれない」
「そうだね。ギルドとしての役割を果たそうか」
“トラベル”の街は普通という印象。景観などは現代日本にそれを目的とした場所以外に存在しなさそうだが、この世界では一般的な街と考えて良さそうだ。
発展しているのでここで備品などを購入しても良いかもしれない。俺達は余所者ではあるが、ギルドメンバーなので兵士達に怪しまれる事もなく行動出来そうだな。本筋は魔王軍について何か得られる情報が無いかどうかだ。当然、“レコード”の街も気に掛けてはいる。
「それじゃ、ここを見て回ろうよ! 久々の街だからね!」
「ソラ姉はただ楽しみたいだけだろ……まあ、街を見て回るのには賛成だけど」
「ああ。情報収集にしても装備、アイテム集めにしても探索しなきゃ始まらないからな」
「そうですね! 久し振りの街、ワクワクします!」
街についたらやる事は一つ。簡単に言えば観光だな。ついでに装備やアイテムなど色々集める為の観光。
この世界になってから一週間。俺達はNPC達が生活する観測二つ目の街“トラベル”にて探索を開始するのだった。




