ステージ3-9 レイド戦
「じゃあ早速……」
装備した“光剣影狩”を使い、俺は踏み込んで──
『ピギャッ!』
『ピギャア!』
「試し斬り相手……コイツらかよ……」
──背後から襲い掛かってきた山岳千鳥を斬り伏せた。
……っ。くそっ、第一撃はボスモンスターに使いたかった。けどまあ仕方無い……。装備したてまえ、打ち倒すにはこれを使うしかないからな。
しかし、木刀なら三撃で倒した山岳千鳥だが、どうやら“光剣影狩”なら一撃で倒せるようだ。確かな威力が上がった実感はあるし、一先ずは良しとするか。
「まあ、強さは分かった。後は仕掛けるだけだ!」
『……ッ!?』
山岳千鳥を打ち倒した瞬間に踏み込み、跳躍して今一度眉間を貫く。
今回は必殺スキルを使っていなかったが確かな手応えはあり、体力ゲージを見れば先程の“稲妻刺突”を仕掛けた時より多くのダメージを負っていた。
凄いな。レベルと体力からしてあまり減らないと思っていたが、この剣での一撃は木刀で相手に効果的な必殺スキルを使った時並みの破壊力か。
「ハッ、こりゃいいな。これなら勝てるかもしれない……!」
悪くない感触。まだ“SP”は回復し切っていないので純粋な身体能力で戦う事になりそうだが、今の調子なら何の問題も無く戦えそうだ。
「よし、やるか……!」
踏み込み、加速。今度は確実に敵意を向けた岩が足元から生えてくるが、この程度なら今の状態でも十分余裕を持って避けられる。
やる事は一つ。剥き出しの皮膚を斬りつけ、確実なダメージを与える事。まあ、基本は同じだな。
「スキルは温存しておくか……!」
瞬間的に斬りつけ、ダメージを与える。同時にもう一度仕掛け、更にダメージを与えた。
『グギャア!?』
「効いてるな。確実に」
俺が仕掛けていない時にも相手の体力ゲージは減っている。しかも最初より少し多く。皮膚が弱点という伝達は伝わったみたいで何よりだ。
けど、まだまだ体力は残っている。やっぱりこれは長期戦になるな。間違いなく。
『ガギャア!』
「……っ」
大量の岩が無数に生える。先程よりも遥かに大きな岩だが、何とか躱せた。
勢いのままじゃいけないもんだな。武器を変えたが、レベルが上がった訳じゃないからな。ただひたすら攻めても返り討ちが関の山。それがボスモンスターを相手にするという事だ。
「一撃でも食らったら致命的……それはずっと変わらない。やっぱ武器だけじゃなく、武具も“普通の服”からちゃんとした物にした方が良いな。普通は最初に決める事だ」
持ち前の速度で何とか避けられてはいるが、装備が装備なので一撃がかなり怖い。この戦いが終わったらユメ達と一緒に探してみるか。……と、死亡フラグ染みた事を考えてしまったが、その事について自分で指摘すれば大丈夫だろう。実際、“AOSO”内でのドラゴンの時も平気だったからな。
何にせよ、このワニよりはあの時のドラゴンの方がかなり怖かった。
「あのドラゴンに比べれば……Lv65。問題無い!」
俺とあの時のドラゴンのレベル差は四桁はあった。対するこのワニとは30も離れていない。考えてみたら、あの時程手強く感じないな! その時のステータスや装備は一先ず置いておくとしてな!
「そらっ!」
駆け抜けると同時に至るところを切り裂く。傍から俺を見たら仰々しい通り魔だな。いや、剣を使っているから辻斬りか。
まあ、傷付ける対象は人じゃないけどな。
『グギャガァ!』
「……! 今までと声質が変わったな……既に敵として認識しているんだろうけど、また行動が変わるかもな……」
山鰐に何らかの変化を感じた。それによって無数の岩肌が浮き出るがそれは攻撃ではないようだ。
そうなると何が……。
『グワギャア!』
「……っ。そう言うことかよ!」
瞬間、大地が大きく揺れた。
地震? 否、これは地震じゃないな。このワニ。マウンテン・クロコダイルが自分の身体を回転させたんだ。
ワニは獲物を食わえた時にデスロールという行動を取る。それは噛み付いたまま身体を回転させ、獲物を引き千切って仕留める技。見たところ今はまだ獲物を食わえている訳じゃないが、身体の掃除をする為に回転したのだろう。野生動物はよく他の物に身体を擦り付けてゴミなどを掃除する事があるからな。……って、落ち着いて分析している場合じゃないか……!
「デスロールで俺達がマウンテン・クロコダイルの、横向きの状態から落下するとして……現在位置から考えると落下する高さは一五〇〇メートルの半分くらいからか。背や頭にいる俺達が落ちるのは約七五〇メートルの高さ。肉体が強化されているとは言え、この高さから落ちても大丈夫か?」
今はパニックになってもおかしくない状況だが、案外冷静みたいだな。俺。
まあ、独り言が多くなっているから少しは不安があるんだろうけどな。
「さて……どうするか」
その辺の草木にしがみついて粘るのもありだが、それをすればそのまま地面に擦り付けられて磨り潰れてしまう。それならまだ普通に落下した方がマシだ。
だけど無傷なのかどうか、気になるな。どんな高さから落ちても平気なゲームがあれば、高所から落ちたらダメージを受け、場合によっては即死するゲームもある。この世界の基盤になっている“AOSO”はどうだったっけなぁ。
「皆さん! ──制御解放・“最大念動力”!」
「……!」
次の瞬間、落下する俺。俺達ギルドメンバーの身体を目に見えぬ力が支えた。これは……超能力の必殺スキルか。って事はフレアが助けてくれたらしい。
しかし先程までフレアの居た場所とはかなり距離が離れている。一体どうやって。その疑問も束の間、俺達は安全な場所に降ろされ、目の前には地響きを鳴らしながら転がるマウンテン・クロコダイルが映り込んでいた。
*****
「はぁ……はぁ……」
「フレア……大丈夫?」
「大丈夫か、フレア?」
「大丈夫ですか……フレアさん……」
「アハハ……流石にアビリティとスキルの併用はキツかったね……」
安全な場所に運ばれた俺達は全員が同じ場所におり、そこでは体力。いや、この世界だと体力はまた別の意味になるな。持久力としての体力が尽きたフレアがへたりと座り込んでいた。どうやらギルドメンバー専用アビリティの“千里眼”と超能力必殺スキルの“最大念動力”を併用して俺達を救ってくれたみたいだ。それなら俺の居場所を特定出来た事にも合点がいく。
しかし凄いな。山全体を見渡し、そこに居る全員を傷付ける事なく助け出したんだ。この疲労も頷ける。
俺とユメとスノーがフレアの側で様子を確認し、他のギルドメンバーはフレアを心配しつつマウンテン・クロコダイルの様子を窺っていた。
「ふむ、ただの回転でこの破壊力か。まあ、山が転がったって考えれば当然の威力だな。フレアのお陰で助かった」
「他の山を巻き込んで押し潰しているね。山岳地帯の一部が平野になったよ」
「体力をある程度は削れたけど、まだまだだね……」
マウンテン・クロコダイルの様子を窺い、サイレン、セイヤ、ソラヒメの三人が今の状態を確認していた。
破壊力は複数の山を消し去る程。一挙一動でこれ程の破壊力か。フィクションの世界でしか見た事が無いぞこんな破壊痕。加えてまだまだ体力も残っている。
本来の世界ならまだしも、この世界じゃ地形への影響と攻撃による俺達へのダメージは比例しないんだろうけど、それでも気が滅入るな。
「フレアは休んでいてくれ。その様子じゃHPとしての体力も尽きてしまうかもしれないからな。疲労が募っている状態だと動きにも支障が出るかもしれない。ゲームだった“AOSO”と違って感覚は現実その物だからな」
「それが良いですよ。フレアさん。私達を運んでくれたのですから。後は私達がボスモンスターを倒します!」
「フレアは休んでて! 仇は討つから!」
『ヒュシャー!』
「仇を討たれるような記憶はないけど……それなら休ませて貰おうかな。結構疲れちゃったし」
『バウワン!』
「アハハ! エンも居るから安心だね!」
『シャッシャー!』
フレアはここで一時離脱。と言ってもこの距離ならあそこでマウンテン・クロコダイルを倒したとしても“EXP”は貰えるだろう。俺達全員を救ってくれたんだ。次は俺達がやる番だな。
「まあ、身体の上からは離されたけど、逆に考えれば皮膚が見えている部分に攻撃しやすくなったとも取れる。主に足が狙い目になるんだろうけどな。それでも確かなダメージは与えられる筈だ」
「そうだな。取り敢えず、ずっと様子を見ている訳にもいかないか。ギルドのリーダーとして先陣は俺が切る」
それだけ告げ、サイレンが踏み込んでマウンテン・クロコダイルの元へと向かった。
確かに見ているだけじゃ始まらないな。俺も向かうか。
「んじゃ、サイレンに続くか!」
「はい!」
「オーケー!」
「了解」
第二陣を切ったのは俺達、ソラヒメのチーム。
まあ、何陣とかそう言うのは無いんだけどな。今の状態は、言わば多人数戦闘。一人じゃ勝つのが難しい相手を多人数で攻略する戦闘だ。
一人減って十九人。山を十九人で破壊出来るかはさておき、全部の部隊が一つのチームだ。
「よーし! 私も行くよ!」
「行きますか……!」
「俺達も続くぞ!」
「よっしゃー!」
「やってやんよ!」
俺達に続くようスノーが駆け出し、他のギルドメンバーもそれに合わせて進む。
良い雰囲気だ。たった十九人。されど十九人。全員が専用アビリティを使える存在。一般的なプレイヤーよりは優位に立てるだろう。
「「「“転移”!」」」
その瞬間、ワープして山鰐の足元に移動した。
また身体の上に移動しても良いのだが、デスロールで地面に擦られたらという危険が伴う。今度はフレアが居ないので先程よりも危ない。足元に居ても影響は出てくるが、身体の上に居るより初動が分かりやすいのでリスクも減るという事だ。
「食らいやがれ! ──最後の力・“剛剣”!」
迫るや否や、サイレンが戦士の必殺スキルを放ち、マウンテン・クロコダイルの指を切断した。
指は指でも、山並みのサイズはあるマウンテン・クロコダイルの指。それだけで平均的なビルよりも巨大。それを一撃で切断したのだからサイレンの実力も相応のようだ。
「やるね。じゃ、私も! ──ハンティングスキル・“高速狩猟”!」
次いでスノーが狩人の必殺スキルを発動。
自身の肉体を瞬間的に軽量化。同時に加速させ、目にも止まらぬ速度で山鰐の足を短刀で切り刻む。
スノーのこのスキルだが、俺の“星の光の剣”に近いところがある。特殊スキルではないにせよ、その時の意思で手法を変えるのが今のスキル。
時には罠を張り、時には獲物を捕縛する。そして今のように高速化させた身体で連続攻撃を仕掛けるなど、狩人の特徴を最大限に利用したスキルだ。
“星の光の剣”と違って自分が使える能力を全て上昇させるので使い勝手はかなり良さそうだな。
『グギャアアアアア!!!』
「……っ。うるさーい!」
指を切断され、肉体が多く傷つけられる。流石のマウンテン・クロコダイルもこれには反応を示したか。
「相手が相手だし、使える力はさっさと使わなきゃね!」
「そうですね……!」
「ライトも既に装備しているし、出し惜しみはしない方が良いね」
【ソラヒメは“空裂爪”を装備した】
【ユメは“夢望杖”を装備した】
【セイヤは“音弓”を装備した】
「ハハ、全員本領発揮か。試し相手はマウンテン・クロコダイルだな」
「お前達、新しい武器を入手していたのか。こりゃ頼りになるな!」
“レコード”の街で入手した武器を装備するユメ達三人。武器の攻撃力は俺の剣と同等のモノと考えても良さそうだな。
ここからが正念場。一気に畳み掛けて終わらせるか。
俺達ギルドメンバーとボスモンスターであるマウンテン・クロコダイルの戦闘。それは終局に向かうのだった。




